41: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 21:59:42.06 ID:mVZBQuHy0
里志「ホータロー!」
後ろから、里志が声を掛けてくる。
奉太郎「里志か」
今は帰り道、時刻は恐らく17時くらいだろう。
里志「いやあ、お見事だったよ」
奉太郎「そんな事は無い。 ただ、集まった物を繋げただけだ」
里志「そうは言ってもね、あれだけの物から結論を導き出すって事は中々容易じゃないと思うなー」
すると里志は、暗い声に反して空を見上げながら言った。
里志「……ホータローも、随分と変わったよね」
俺が? 変わった?
奉太郎「何を見て、お前が変わったと言うのかわからんが」
奉太郎「俺は変わってない」
里志「ふうん」
簡単に説明すると、今日もまた、あいつ……千反田の気になりますをなんとか終わらせた所である。
里志が言っているのは、恐らくその事だろう。
『 奉太郎「古典部の日常」 目次 』引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1346934630/
42: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:00:30.02 ID:mVZBQuHy0
里志「断る事だって、できただろう?」
里志「今日の件もそうだけど、今までの事件もね」
奉太郎「それはだな、あいつの事を拒否したらもっと厄介な事になるだろ」
里志「あはは、確かに、間違いない」
里志「でもね、ホータロー」
里志「その厄介な事も、拒否することはできるんじゃないかな?」
奉太郎「お前は何を見て言っているんだ……」
里志「全部、だよ」
里志「僕から見たらね、千反田さんのそれも、今までホータローが拒否してきた人達も、同じに見えるんだよ」
里志「ホータロー、君は自分では気付いていないのかもしれないね」
里志はそう言うと、何か含みのある笑い方をした。
奉太郎「自分の事は、よく分かってるつもりだがな」
里志「……そうかい」
里志「じゃあ、話はここで終わりだね」
43: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:01:15.56 ID:mVZBQuHy0
ああ、もうこんな所まで歩いていたのか。
里志の話は半分程度しか聞いていなかった気がするが、どうやら案外耳に入っていたらしい。
里志「じゃあね、ホータロー。 また明日」
奉太郎「……じゃあな」
~奉太郎家~
俺は湯船に入り、気持ちを整理した。
里志に今日言われた事について、何故か心が落ち着かない。
奉太郎(俺が変わった、ね)
奉太郎(何を見てるんだか……)
確かに、確かにだ。
高校に入ってから、動く事は多くなったのかもしれない。
それくらいは俺にだって分かる。
いや、高校に入ってからではない。
千反田と、出会ってからだ。
あいつの「気になります」は、何故か有無を言わせず俺を動かす。
それは、今まであいつのようなタイプが居なかっただけで、俺はそのせいで動かされているのだろう。
仮に、里志や伊原の頼み等が来たら……俺はどうするのだろうか。
俺にも人情という物はある。
だがひと言断れば、あいつらは引いていく。
里志は恐らく「そうかい、じゃあ他の人に聞いてみるよ」と。
伊原は恐らく「折木に頼んだのが間違いだった」と。
44: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:02:53.20 ID:mVZBQuHy0
それが千反田なら?
あいつの「気になります」も、人の秘密やプライベートの事になると、さすがに聞いてはこない。
しかし、最終的に俺は頼みごとを引き受けるだろう。
その原因は、あいつがひと言断っても引かないから。 である。
奉太郎(やはり俺は、変わっていない)
結論は出た、風呂場を出よう。
リビングへ行き、テレビを付ける。
目ぼしい番組がやっておらず、若干テンションが下がる。
あ、テンションは元々低かった。
する事もないので、自室に向かった。
本でも読もうかと思ったが、ベッドに入りぼーっとしていたら、眠気が襲ってくる。
奉太郎(今日は、寝るか)
明日は土曜日、ゆっくりと本を読もう。
こうしてまた、高校生活の一日は消えてゆく。
45: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:03:45.65 ID:mVZBQuHy0
供恵「奉太郎、そろそろ起きなさいよー」
姉貴によって、起こされた。
奉太郎(今は……10時か、大分寝ていたな)
俺はまだ目覚めていない体を引き起こし、リビングへ向かう。
寝癖が大分酷いが、今日は外には出ない、何があっても。
それにしても騒がしい、テレビでも付いているのだろうか。
リビングと廊下を遮るドアに手を掛け、開ける。
里志「おはよう、ホータロー」
える「おはようございます。 折木さん」
摩耶花「あんたいつまで寝てるのよ」
大分寝ぼけているようだ。
俺はその幻影達に、少し頭を下げると台所へ向かった。
すると、玄関の方から声があがる。
供恵「あー、言い忘れてたけど、友達きてるから」
そうかそうか。
言葉の意味を飲み込み、状況を理解した。
後ろを振り向き、確認する。
変わらずそこには、里志・伊原・千反田。
46: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:04:50.23 ID:mVZBQuHy0
奉太郎「さ、最初に言え! バカ姉貴!!」
それと同時に、玄関から出る音がした。
摩耶花「朝から大変ねえ、あんたも」
誰のせいだ、誰の。
里志「それより、ホータロー」
里志「寝癖、直した方がいいんじゃないかな」
ああ、確かにそうだな、ごもっとも。
そして、気のせいかもしれないが、千反田が少しソワソワしながら言った。
える「折木さんの寝癖……少し、気になるかもしれません」
勘弁してくれ。
むすっとした顔を3人に向けると、洗面所へ向かった。
寝癖をしっかりと直し、3人に問う。
奉太郎「それで、なんで俺の家にいるんだ」
里志「えっと、ホータロー、覚えてないの?」
覚えてない、という事は……何か約束していたのだろうか。
摩耶花「3日前に4人で決めたでしょ、ほんとに覚えてないの? アンタ」
3日前……3日前。
4人で話したってことは、放課後だろう。
場所は古典部部室で間違いは無さそうだ。
なんか、思い出してきたぞ……
47: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:05:51.87 ID:mVZBQuHy0
~3日前~
俺はその日、なんとなくで古典部へと向かった。
部室に入ると、既に俺以外は集まっていた。
何やら3人で盛り上がっているが……ま、いつもの事か。
奉太郎(よいしょ)
いつもの席に着き、小説を開く。
所々で俺に話しかけている気がするが、適当に相槌を打って流していた。
あ、ダメだ。
ここまでしか覚えていない。
~折木家~
奉太郎「なんだっけ?」
溜息が二つ。
里志「覚えてないのかい……」
摩耶花「やっぱり、折木は折木ね」
里志「仕方ない、千反田さん、奉太郎に教えてやってくれないかな」
なんで千反田が。
里志「一字一句、千反田さんなら覚えているでしょ?」
そこまでする必要もないだろう。
える「はい! 分かりました」
える「では、少し演技も入りますが……やらせて頂きます」
そう言うと、一つ咳払いをすると千反田は口を開いた。
48: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:07:03.46 ID:mVZBQuHy0
える「やはり、何か目的が欲しいですね」
里志(える)「うーん、確かにそうだね」
里志(える)「千反田さんの言葉を借りると、目的無き日々は生産的じゃないよ」
摩耶花(える)「まあ、確かにそうだけど……」
える「何かしましょう!」
おお、これは中々に演技力があるぞ。
里志(える)「何か……と言っても、何をしようか」
摩耶花(える)「話し合う必要がありそうね、こいつも入れて」
こいつ……というのは恐らく俺の事だろう。
える「折木さん! 何かしましょう!」
奉太郎(える)「……そうだな」
ああ、空返事していたのか、俺は。
える「折木さんもオッケーらしいです、では一度、どこかに集まって話し合いをしませんか?」
摩耶花(える)「どこに集まろうか?」
里志(える)「ホータローの家でいいんじゃない?」
こいつ、俺が空返事しているのを分かってて言いやがったな。
える「折木さん! 折木さんの家で話し合いをしたいのですが……いいですか?」
奉太郎(える)「……そうだな」
える「大丈夫らしいです!」
49: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:07:48.34 ID:mVZBQuHy0
奉太郎「ちょっと待て」
摩耶花「なによ」
奉太郎「俺はここまで無愛想じゃないだろう」
里志「ちょっとホータローが何を言ってるのかわからないよ」
摩耶花「いつもあんたこんな感じだけど……」
大分酷い言われようだな。
奉太郎「千反田、もっと俺は愛想がいいだろ」
える「えっと……いつも折木さんはこうですよ」
そうなのか、少しは愛想良くするか。
える「では、続けますね」
里志(える)「そうか、それは良かった!」
里志(える)「じゃあ今度の土曜日、でいいかな?」
える「折木さん、今度の土曜日でいいですか?」
奉太郎(える)「……そうだな」
える「決まりです!」
後半はどうやら、千反田も分かっててやってはいないか?
える「といった感じでした、思い出しましたか?」
50: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:08:53.88 ID:mVZBQuHy0
奉太郎「いや全く」
里志は苦笑いをし、言った。
里志「まあ、ホータローがちゃんと聞いていなかったのがいけないかな」
里志「流れは分かっただろう? じゃあ何をするか決めようか」
流れは分かったが……納得できん。
しかし、異論を唱えた所で聞いてはもらえないのは明白だった。
える「そうですね、まずは意見交換から始めましょうか」
奉太郎「今のままでいいと思います」
摩耶花「折木、少し黙っててくれない?」
視線が痛い、仮にもここは俺の家だぞ。
里志「千反田さんは、何か意見あるのかな?」
える「そうですね……やはり古典部らしく」
そこで一呼吸置くと、千反田はもっともな意見を述べる。
える「図書館に行きましょう!」
里志「いい意見だね、確かに古典部らしい」
摩耶花「うん、私もいいと思う」
ダメだ、これだけはなんとか回避せねば。
奉太郎「ちょっといいか」
伊原からの視線が痛い、まだ意見も言っていないのに。
奉太郎「千反田が言っているのは、当面の目的という事だろう」
える「はい、そうですね」
奉太郎「これから毎日図書館に行くのか? そこで本を読むだけか?」
える「そう言われますと……確かに少し、違いますね」
51: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:10:08.59 ID:mVZBQuHy0
おし、通った。
伊原は尚も何か言いたそうに見てくるが、反論する言葉が出てこないのだろう、口を噤んでいた。
里志「ホータローの言う事にも一理あるね、確かにそれじゃあただの読書好きの集まりだ」
そのあとの「読書研究会って名前に変えないかい?」というのは無視する。
摩耶花「じゃあ、折木は他に目的あるの?」
これには困った。
奉太郎「と言われてもな……ううむ」
里志「あ、こういうのはどうかな」
里志「一人一つの古典にまつわる事を考え、まとめ、月1で発表するっていうのは」
中々にいい意見だ。
だが、月1? 冗談じゃない、頻度が多すぎる。
奉太郎「ちょっといいか」
……伊原の視線がやはり痛い。
奉太郎「最初の内はいいかもしれない、だがその内、発表の内容が同じ内容になってくるぞ」
奉太郎「同じ奴が考える事だしな」
伊原は又しても何か言いたそうだが、反論は出てこない、なんかデジャヴ。
里志「そう言われると、困ったね」
里志「僕じゃあ結論を出せそうにないや、それに」
里志「データベースは 摩耶花「ちょっといいかな?」
あ、里志がちょっとムスッとしている。
52: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:11:28.10 ID:mVZBQuHy0
摩耶花「こういうのはどうかな、月1でも月2でもいいんだけど」
摩耶花「文集を1冊作るっていうのは」
なるほど、4人で一つを作れば内容は変化していく、確かにこれなら同じような内容にはならないかもしれない。
だけど、やはり却下。
奉太郎「確かに、それなら問題ないな」
摩耶花「じゃあ!」
奉太郎「だが、文集にするほどネタがあるか? 第一に、誰が読むんだ? それ」
摩耶花「……確かに、そうだけど」
おし、やったぞ、全部却下できた。
摩耶花「じゃあさ、折木は何か意見あるの? さっきから反論してばっかじゃない」
里志「それは僕にも気になるとこだね」
える「私も少し、折木さんの意見に興味があります」
ここまでは、予想通り。
問題はこれから。
奉太郎「こういうのはどうだろう」
奉太郎「今までのままで行く」
伊原が今にも殴りかかってきそうな顔をする。
奉太郎「だが」
奉太郎「何か古典に関係しそうな事……それがあったら、皆で話し合う」
奉太郎「そうすればネタも尽きる事はないし、同じ内容になることもないだろ」
53: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:12:15.72 ID:mVZBQuHy0
通るか? 通るか?
俺の今年一番の強い願いはこれになりそうだ。
そんな願いが通ったのか、3人が口を開いた。
里志「ホータローが言うと、説得力に欠けるけど……言ってる事は正しいね」
える「私は、それでいいと思います。 いい意見です」
摩耶花「なんか納得できないけど……言い返す言葉も出てこないし、それでいい、かな」
ガッツポーズ、心の中で。
奉太郎「おし、それじゃあ今日は解散しようか」
これで、俺の休日は守られる。
里志「いや、そうはいかないんだよ」
まだのようだ。
里志「千反田さんが、何か気になる事があるみたいなんだよね」
千反田がソワソワしていたのは、それが原因か。
える「そうなんです! 私、気になる事があるんです!」
さいで。
える「折木さんにお話しようかと思っていて、聞いてくれますか?」
俺が断る前に、千反田は続けた。
える「私、いつも22時頃には寝ているのですが」
奉太郎(早いな)
54: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:13:45.14 ID:mVZBQuHy0
える「起きるのはいつも、6時頃なんです」
える「今日は8時に学校の前に集合でした、折木さんのお家に皆で行くことになっていたので」
える「ですが私、少し寝坊してしまったんです、お恥ずかしながら」
える「何故、寝坊したのか……気になります!」
奉太郎(知りません)
奉太郎「と言われてもだな、誰しも寝坊くらいはするだろう」
里志「ホータロー、寝坊したのは千反田さんだよ?」
里志「僕やホータローが寝坊するのならまだ分かるけど……千反田さんが予定のある日に寝坊するって事は」
里志「少し、考えづらいかな」
確かに、あの千反田が寝坊というのはちょっと引っかかる。
奉太郎「だが情報が少なすぎる、考える事もできんぞ、これは」
今ある情報といえば
・千反田が寝坊した
・普段は22時に寝て、6時に起きている
・予定がある日に寝坊するのは、千反田なら普通あり得ない
この3つだけ。
奉太郎「何か他にないのか?」
える「他に、ですか……」
える「そういえば、お休みの日はいつも目覚まし時計で起きているんです、今日も勿論そうです」
える「確かに目覚ましで起きたはずなんです、ですが、居間の時計を見たら既に約束の時間が近かったんです」
奉太郎(目覚ましで起きている、か)
55: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:14:35.31 ID:mVZBQuHy0
奉太郎「その目覚ましが狂っていたんじゃないか?」
える「それはありえません。 いつも21時のテレビ番組に合わせて直しているんです」
テレビに合わせている、となればまず狂っていないだろう。
奉太郎「その時計が壊れていた、というのは?」
える「それもあり得ません、先月に買ったばかりなんです」
思ったより、厄介な事になってきた。
奉太郎「目覚ましで起きたのは確かなんだな?」
える「ええ、それは間違いありません」
奉太郎「という事は、やはり目覚ましがずれていたのは間違いなさそうだな」
える「えっ、なんでそうなるんですか」
奉太郎「千反田は寝坊したんだろう? それで遅刻したと」
える「私、遅刻していませんよ?」
ん? なんだか話が噛み合っていない。
奉太郎「お前は寝坊して、遅刻したんじゃないのか?」
える「ええ、確かに寝坊はしました、ですが集合時間には間に合いました」
さいですか。
56: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:16:35.47 ID:mVZBQuHy0
俺は少し頭が痛くなるのを感じ、続けた。
奉太郎「じゃあ、寝坊して遅刻しそうになった。 これでいいか」
える「はい、そうですね」
奉太郎「……続けるぞ、少し考えれば分かる」
奉太郎「遅刻しそうになったってことは、正しかったのは居間の時計だ」
奉太郎「目覚ましが正しかったら、遅刻しそうにはならないだろう」
える「あ、なるほどです!」
こいつは、頭がいいのか悪いのか、時々分からなくなる。
一般的にはいい方だろうけど。
奉太郎(少し、考えるか)
……21時に合わせている時計
……22時に寝て、6時に起きる千反田
……ずれていた目覚ましと、居間の時計
なるほど、簡単な事だ。
里志「ホータロー、何か分かったね」
奉太郎「まあな」
える「なんですか? 教えてください!」
摩耶花「全然わからないんだけど……なんで?」
一呼吸置き、まとめた考えに間違いは無いか確認し、口を開く。
奉太郎(これで、大丈夫だ)
57: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:17:36.61 ID:mVZBQuHy0
奉太郎「まず」
奉太郎「千反田はいつも目覚ましを21時に合わせて寝ている」
奉太郎「次に、その目覚ましで起きている」
奉太郎「そして何故、今日は遅刻したか」
える「私、遅刻していませんよ」
……どっちでもいい。
奉太郎「遅刻しそうになったか」
と言い直すと、千反田は少し満足気だ。
奉太郎「考えられるのは目覚ましの故障、または時間を間違えて設定した。 これのどちらかだ」
奉太郎「故障は考えから外そう、これを考えたらキリが無い」
摩耶花「でも、時間を間違えて設定したってありえるの?」
摩耶花「テレビが間違えているとは思えないんだけど」
奉太郎「確かにその通り、テレビはまず、正確に放送をしている」
摩耶花「だったら……」
奉太郎「だが、例外もある」
える「例外……ですか?」
奉太郎「里志、この時期にテレビ番組をずらす例外といったらなんだ?」
58: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:19:11.68 ID:mVZBQuHy0
里志「ううん……ああ、そうか!」
里志「プロ野球、だね」
奉太郎「そう、俺は野球に詳しくないからしらんが、何回か影響でテレビ放送を繰り下げているのは見ている」
奉太郎「つまりこういう事だ」
える(奉太郎)「あー今日も動いたなぁ、寝よう寝よう」
える(奉太郎)「あ、目覚まし時計を設定しないと、めんどうだな」
える(奉太郎)「テレビ、テレビっと」
える(奉太郎)「丁度21時の番組がやっている。 よし、ぴったし」
える(奉太郎)「さてと、今日は寝よう、おやすみなさい」
奉太郎「で翌朝起きたら寝坊していた、ってとこだろう」
何か、空気が冷たい。
里志「ホータローは、演劇とかをやらない方がいいかもね」
摩耶花「……同意」
える「……私って、そんな無愛想ですか?」
奉太郎「……」
少し、恥ずかしいじゃないか。
59: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:20:48.80 ID:mVZBQuHy0
える「で、でも」
える「なるほどです!」
える「今度から違う番組も、チェックしないとダメですね……」
むしろ居間の時計に合わせればいいと思うのだが、習慣というものがあるのだろう。
奉太郎「でも、なんでいつもは起きている時間に自然に起きなかったってのが分からないけどな」
奉太郎「体内時計というのもあるだろう」
える「実は、昨日は少し寝るのが遅くなってしまったんです」
夜更かしか、そういうタイプには見えなかったが。
里志「なるほどね、それで自然に起きる時間も来なかったっていう訳だ」
奉太郎「それなら納得だな、なんか気になる物でも見つけたのか?」
える「気になる、と言えばそうかもしれないですけど」
折角終わりそうになったのに、また始まるのか?
今日はもう疲れたぞ、一日一回という制限でも付けておこうか。
える「少し、折木さんの家に行くのが楽しみで……寝れなかったんです」
さいで。
第三話
おわり
60: ◆Oe72InN3/k 2012/09/06(木) 22:21:47.85 ID:mVZBQuHy0
以上で三話終わりです。
また明日、第四話投下致します。
支援ありがとうございました。
62: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) 2012/09/06(木) 23:03:47.01 ID:WtD/03eio
面白い乙
63: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/07(金) 10:52:33.33 ID:f5r05yq9o
こっち来たのか、乙
vipと比べたら反応少なくなるだろうけど、見てる人は絶対居るから頑張ってくれ
64: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 14:53:59.84 ID:XtZsmQRP0
乙、ありがとうございます。
一週間に1回程、1回で2話+の間隔で投下予定です。
今年中には完結できるかと思います。
本日は第四話+4.5話を投下します
時刻は20時頃の予定です
67: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:16:15.25 ID:YerrbZjh0
日曜日の夜は、どうにも憂鬱になる。
奉太郎(折角の休みがあいつらのせいで一日潰れてしまった)
奉太郎(そしてもう日曜日も終わり……か)
明日からまた1週間、学校に行き、古典部の仲間と会う。
最近では、意外と馴染んでいると思う。
薔薇色に俺もなっているのだろうか。
だけど、だ。
省エネは維持しているし、頼みなんて物は滅多に聞かない(あくまで千反田を除いて、あいつのは断ると余計に面倒なことになる)
ああ、少し安心する。
俺は……まだ灰色だ。
少しの安心感が得られた。
何故? 慣れた環境の方がいいだろう、誰だって。
そんな事を考えている間にも、時はどんどんと進む。
そして気付けば月曜日、1週間が始まった。
今日も、【灰色】の高校生活は浪費されていく。
68: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:18:02.21 ID:YerrbZjh0
~学校~
今日は登校中里志に会わなかった、委員会か何かがあるのだろう。
奉太郎(ご苦労なこった)
昇降口に入り、下駄箱で靴を履き替える。
階段を上り、教室まで向かった。
途中、何やら話し声が聞こえてきた。
一つは見知った者の声、もう一つは……分からない。
恐らく女子だろう。
恐らくというのも、女声の男子も少なからず居るからである。
える「そう……すね、今……、って……ます!」
途切れ途切れで千反田の声が聞こえた。
盗み聞きをする趣味もないので、そのまま教室へと向かう。
千反田が話している相手は、どうやら漫研の部員であった。
69: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:19:04.57 ID:YerrbZjh0
奉太郎(そういえば、伊原は漫研をやめていたんだったな)
奉太郎(何か、嫌な事でもあったのだろうか)
奉太郎(まあ、どうでもいいか)
一瞬見た顔は、どうにも俺とは相性が悪そうだ。
俗に言う派手な女子、といった所だろう。
髪を金髪に染めていて、スカートはやけに短い。
そいつと千反田が話していたのは少々意外ではあった。
しかし、俺も人の交友関係にまで口を出すつもりなんてない。
千反田が誰と話そうとあいつの勝手だし、何よりめんどうだ。
少々気にはなったが、そのまま通り過ぎた。
教室に入り、いつもの席に着く。
いつも通り、いつもの風景。
やがて担任が入ってき、退屈な授業が始まる。
70: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:20:23.52 ID:YerrbZjh0
数学、英語、歴史。
俺は、これといって成績が優秀って訳でもない。
なので授業は一応必死に聞いている。
人間必死になっていれば、時間はすぐに終わる物だ。
あっという間に昼になり、弁当を広げた。
姉貴が作ってくれる弁当は、いつも購買で済ませている俺にとってはありがたい。
突然、教室の後ろのドアが勢いよく開き、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
里志「ホータロー! ちょっといいかい」
俺は無言で弁当を指す。
これを食ってからにしろ、と。
苦笑いしつつ、里志はそのまま教室に入ってくると俺の目の前の席に腰掛けた。
里志「つれないねぇ、ホータロー」
奉太郎「やらなくてもいいことはやらない」
里志「はは、久しぶりに聞いた気がするよ」
奉太郎「それで、用件はなんだ?」
里志「今日、帰りにゲームセンターでも行こうかなって思っててね」
里志「ホータローも一緒にどうだい?」
ゲーセンか、悪くはないな。
奉太郎「別にいいが、委員会の仕事とかはないのか?」
里志「総務委員会は無いんだけど、図書委員会の方をちょっと手伝わないといけなくてね」
71: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:21:37.24 ID:YerrbZjh0
図書委員? なんでまた。
伊原の関係か、それくらいしか思いつかない。
奉太郎「伊原になんか言われたのか、ご苦労様」
里志「ご名答! さすがだよ」
さすがという程の事でもないだろうに……
里志「摩耶花は少し描きたい物があるみたいでね、僕はそれで利用されてる訳だ」
奉太郎「なるほどな、って」
奉太郎「あいつは漫研やめたんじゃなかったか?」
里志「ホータローでもそれくらいは知ってるか、なんでも個人的に描きたい物があるみたいだよ」
奉太郎「個人的、ねえ」
どうせ、同人誌かなんかの物だろう。
奉太郎「それで、図書委員の仕事はすぐに終わるのか?」
里志「うん、まあね」
奉太郎「そうか、なら俺は部室で待ってる」
里志「了解、多分摩耶花も居ると思うから、気をつけてね」
72: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:22:45.10 ID:YerrbZjh0
気をつける、か。
伊原が聞いたら、ただでは済みそうにない台詞だな。
奉太郎「ああ、用心しておく。 じゃあ放課後にまた」
里志「いやいや、僕が言ってるのはね、ホータロー」
里志「君が摩耶花に手を出さないでねって事なんだよ」
こいつはまた、くだらん事を。
奉太郎「本気で俺が伊原に手を出すと思っているのか?」
里志「まさか、ジョークだよ」
里志「灰色のホータローが、そんな事をする訳ないじゃないか」
里志「それに、摩耶花の可愛さはホータローには絶対分からないしね」
さいで。
里志「じゃ、また後で」
そう言うと、里志は自分の教室へと戻っていった。
俺は小説を開くと、ゆっくりと文字を頭に入れる。
物語がいい所に差し掛かった時、チャイムが鳴り響いた。
やがて教師が入って来て、授業が始まる。
途中で何回か、夢の世界に旅立ちそうになったが、なんとか乗り切る。
そして気付けば既に放課後。
終わってみればなんて事は無い、短い時間だった。
73: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:24:19.59 ID:YerrbZjh0
奉太郎(部室に行くか)
ぼーっとする頭をなんとか働かせ、部室に向かう。
奉太郎(着いたら、少し寝よう)
土曜日のアレが、まだ響いてるのだろうか?
等、本気で思う自分に少し情けなくなる。
扉を開けると、千反田、伊原が居た。
奉太郎(里志の予想通りって所か、まあ寝てる分には問題ないだろ)
そう思い、席に着くと腕を枕にし目を瞑る。
千反田は何故かソワソワしていたが、気になりますとは少し違った様子だ。
伊原はと言うと、絵を描くのに夢中で俺には興味も示さなかった。
あ、気づいていないだけか……気づいていても無視されるだろうけど。
これならば問題あるまい。
そう思い、夢の世界へと旅立つ。
74: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:25:24.12 ID:YerrbZjh0
十分、二十分だろうか、腕の痺れに目を覚ます。
すると伊原が立ち上がっていて、千反田の方を見つめていた。
少し、嫌な空気……? 何かピリピリとした感じだ。
摩耶花「えっと、ちーちゃん……今なんて?」
千反田はニコニコしながら、言った。
える「ですから、摩耶花さんは少しうざい所があると……」
眠気は一瞬で吹き飛んだ。
違う世界に迷い込んだんじゃないかと錯覚するほどの衝撃を受ける。
あの千反田が「うざい」なんて言葉を使うのかと。
その衝撃も引く前に、伊原は部室を飛び出て行った。
残されたのは、俺と千反田。
それと描きかけの絵。
俺は千反田に向けて言った。
奉太郎「……お前、何いってるんだ」
75: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:26:29.71 ID:YerrbZjh0
千反田がそんな事を言う筈は無いと思っていたし、俺の聞き間違えかもしれない。
える「ええっと、摩耶花さんはうざいと言ったのですが……」
不思議そうに、そう言うこいつには悪気は無さそうに見えた。
あり得ない、俺が知っている千反田ではないのだろうか?
いつの間にか、千反田が誰かと入れ替わって……ないだろう。
奉太郎「千反田、その言葉の意味は、知っているか」
千反田は首を傾げると「今日教えてもらったんです」と言い、続けた。
千反田から説明される内容は、まるで褒め言葉のような意味を持った言葉である。
俺は、この時はまだ落ち着いていた。
未だにニコニコしている千反田に本当の意味を教える。
次に起こった事は、俺の予想外であったが。
76: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:27:44.75 ID:YerrbZjh0
える「わたし、そんな事を……」
千反田はそう言いながら、伊原が去って行ったドアを見つめる。
える「わたし……」
俺は見た、千反田の目から、涙が落ちるのを。
どんどん涙は溢れていたが、千反田は拭おうとしなかった。
自分でも気づいていないのかもしれない。
奉太郎「千反田……」
える「すいません、私、謝らなければ」
小さく、本当に小さく、千反田が言った。
この感情は、なんと言うのだろうか?
腸が煮えくり返る?
いや、ちょっと違うな。
それを通り越したのは、なんと呼べばいいのだろうか。
俺は、ああ、怒っているのか。
77: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:28:54.84 ID:YerrbZjh0
こんだけ腹が立ったのは、いつぐらいだろう。
もしかしたら、初めてかもしれない。
勿論、千反田に対してじゃない。
その意味を教えたクソ野郎に、俺は怒っているのだ。
どうにも、冷静な判断はできそうにない。
今からそいつを探し出して、殴ろうか。
そうしよう。
そのまま部室を出ようとすると、千反田が声を掛けてきた。
える「折木さん、わたし……」
千反田は、まだ泣いていた。
奉太郎「ちょっと用事が出来た、すぐに戻る」
奉太郎「お前は悪くない、気にするな」
すると千反田は、泣き笑いというのだろうか。 「はい」と言い、顔を俺に向けていた。
78: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:29:24.47 ID:YerrbZjh0
どうにも、どうにもだ。
この怒りは収まりそうに無い。
俺は、千反田の事はよく知っているとは思う。
あいつは何事にも純粋だし、人を疑うという事をあまりしない。
そんなあいつを騙した人間には、なんとなく、当てはあった。
まずは、里志に会おう。
79: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:30:43.61 ID:YerrbZjh0
~図書室~
摩耶花に仕事を押し付けられて、僕はここに居る訳だけど。
里志「なんともやりがいが無い仕事だなぁ」
そんな事をぼやきながら、本を片付ける。
突然、ドアが思いっきり開かれた。
誰だい全く、図書室ではお静かにって相場が決まっているのに。
そっちに顔を向けたら、これはびっくり、ホータローじゃないか。
にしても随分と、あれは怒っているのか? ホータローが?
僕はそそくさと近づき、声を掛けた。
里志「ホータロー、どうしたんだい?」
聞きながらも、ちょっと焦る。
里志(僕、なんかしたかなぁ)
里志(というか、これほどまでに怒ってる? ホータローを見るのは初めてかも)
奉太郎「里志か」
奉太郎「少し、聞きたい事がある」
里志「なんだい? というか、何かあったの?」
奉太郎「俺たちと同級生で、漫研にいる、金髪の女子って誰だ」
人探し? それにしてはやけに怒っているみたいだけど……というか僕の質問、片方無視された?もしかして。
80: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:31:27.64 ID:YerrbZjh0
ちょっと、茶化してみようか。
里志「うん、分かるよ」
里志「でも、何が起きたのか教えてくれないかい?」
里志「ホータローをそこまで怒らせる事、少し興味があるよ」
奉太郎「いいから、誰だ」
おや、こいつは随分とご立腹だなぁ。
ううん、ま、いいか。
里志「それはC組みの人だよ。 名前は……」
そう言って名前を教えると、ホータローはすぐに図書室を出て行こうとした。
里志「ちょっと待ってホータロー」
どうやらホータローは、状況判断ができない程、怒っているらしい。
クラスに居るなんて保証は無いのに。
里志「とりあえず落ち着こうよ、らしくないよ」
奉太郎「落ち着いてる、いつも通りだ」
里志「そんな、今にも殴りそうな顔をしているのに?」
里志「ホータローが怒る程の事だ、よっぽどの事だとは思うよ。 でもさ」
里志「事情くらいは話してくれてもいいんじゃない?」
81: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:32:00.70 ID:YerrbZjh0
そう言うと、ホータローは一つ溜息を付いて、話してくれた。
朝、そいつと千反田さんが話していた事。
部室であった事。
僕も勿論、腹が立ったさ。
でもこういう時、落ち着かせるのはホータローの筈なんだけどなぁ。
さあて、どうしたものか。
82: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:33:05.64 ID:YerrbZjh0
~伊原家~
信じられなかった。
最初聞いた時もそうだけど、2回目を聞いた時。
私はその場に居るのも、辛かった。
ちーちゃんの事は、そんなに知っているつもりはない。
だけど、あんな言葉を使うなんて、とても信じられなかった。
でもそれは、私の勝手な想像かもしれない。
もしかしたら、そういう事を言う人だったのかもしれない。
そう思ってしまう私にも、嫌気がさしてきた。
摩耶花(明日から、どうしようかな)
古典部になんて、顔を出せる訳もない。
私が泣いていたの、折木に見られたかなぁ、悔しい。
ふくちゃんに会いに行こうと思ったけど、そんな気分にもなれなかった。
83: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:33:39.49 ID:YerrbZjh0
なんか、裏切られた気分。
ずっと、友達だと思っていたのに。
ちーちゃんは「うざい」って、ずっと思っていたのかもしれない。
なんで今日言葉にしたのか分からないけど……部室で自分の絵を描いていたからかな。
確かに、あそこは古典部の部室だし。
居やすい場所だと、思ってたけど。
摩耶花(それは、私の気持ち)
摩耶花(ちーちゃんやふくちゃん、折木がどう思っていたなんて、考えた事もなかった)
摩耶花(やっぱり私、馬鹿だ)
胸がぎゅっと、締め付けられる気がした。
摩耶花(今日は、ご飯食べられそうにないや)
84: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:34:47.00 ID:YerrbZjh0
~部室~
私は、なんて事をしてしまったのでしょうか。
摩耶花さんには会わせる顔がありません。
しばらく、部室でぼーっとしてしまいました。
茫然自失とは、こういう事を言うのでしょうか。
折木さんも、部室を出て行ってしまいました。
恐らく、怒っているのでしょう。
最後に「気にするな」と言ってくれましたが、顔からは怒っているのがすぐに見て取れました。
勿論、私に怒っているのでしょう。
福部さんも、聞いたら恐らく私に怒りを感じると思います。
85: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:35:33.40 ID:YerrbZjh0
なんだか、胸が苦しいです。
帰る気分には、今はなれません。
足に力が入らない、というもありますが。
折木さんは、私に言葉の意味を教えてくれました。
もしかすると……折木さんとは、少し話ができるかもしれません。
摩耶花さんとも勿論、話さなくてはいけないのは分かっています。
ただ少し、時間が必要です。
私はそこまで、強くないんです。
ですが、どんな言葉で罵倒されても仕方ないです。
私が……愚かだったんです。
86: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:36:19.39 ID:YerrbZjh0
~図書室~
俺は、里志に話をして、少し気持ちが落ち着いたのだろうか。
自分では部室を出た後は落ち着いているつもりだったのだが、里志には違うように見えていたらしい。
里志は「どうするつもりだい?」と言って来たのに対し「そいつを殴る」と言っただけなのだが。
里志は苦笑いをしながら「それはホータロー、落ち着いてないよ」と言って来た。
まあ、そうかもしれない。
里志には全てを話した訳ではなかった。
千反田が涙を流していたのを話しては駄目な気がしたからだ。
里志も勿論怒っているだろう、そいつに対して。
しかしどうやら、俺を落ち着かせる為に堪えているらしい。
ああ、やっぱり俺は落ち着いてなんかいなかったか。
一度、深呼吸をする。
87: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:37:21.74 ID:YerrbZjh0
奉太郎「里志、すまんな」
里志「別に、気にしなくていいよ」
里志「まあ、怒ってるホータローも珍しいから悪くはないけどね」
奉太郎「それはよかったな」
里志はいつも通りの顔を俺に向けていた。
さてと、だ。
まずは状況整理。
千反田に嘘を吹き込んだのはC組みの奴らしい。
朝見かけた奴だろう、千反田と話していたし。
少し、考えようか。
5分ほど、頭を働かせてみた。
漫画研究会、千反田に嘘を吹き込んだ、そして……あの時。
ああ、そうか。
ならば話は早い、意外と簡単に終わるかもしれない。
後は、揃えるだけで大丈夫だ。
88: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:37:48.13 ID:YerrbZjh0
~帰り道~
ホータローも大分落ち着いたようで、安心だ。
それにしても今回は僕も全面協力させてもらったよ、ホータロー。
後はホータローが終わらせる、明日には終わるかな。
摩耶花と千反田さんは一度、話し合う必要があると思うけどね。
摩耶花はああ見えて、随分と自分を責めるからなぁ。
今夜、電話してみよう。
89: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:38:37.61 ID:YerrbZjh0
~千反田家~
える「私は、どうすればいいのでしょうか……」
つい、独り言が出てしまいます。
折木さんに貰ったプレゼント、どこか折木さんに似ているようなぬいぐるみを抱きしめます。
える「折木さんに、電話してみましょうか……」
そう思い、電話機の前まで来ましたが……どうにも電話が取れません。
折木さんになんと言えばいいのでしょうか。
私は騙されていたんです?
言い訳です。
皆さんには申し訳ない事をしました?
謝って済む問題でしょうか、これは。
折木さんに相談すれば、なんとかなるでしょうか。
予想外の回答で、私を驚かせてくれるのでしょうか。
90: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:39:34.50 ID:YerrbZjh0
そこで私は気付きました。
また、折木さんに頼ろうとしてしまっています。
これは甘えです、甘えてはいけません。
それに折木さんは、今回の件は無関係です。
巻き込むような事は、できません。
もう、大分遅い時間になってきました。
夜の21時。
少し思い出します、折木さんの家で、私はまたしても気になる事を解決してもらいました。
折木さんの寝癖を見て、少し気になったのも思い出しました。
思わず笑みが零れます。
やはり、皆さんとまた、一緒に仲良くしたいです。
これは、我侭なのでしょうか?
その時、突然電話が鳴り響いて、思わず受話器を取ってしまいました。
える「は、はい! 千反田です」
91: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:40:18.26 ID:YerrbZjh0
~折木家~
大体の構図は出来た。
後は俺がこれをどうするか、だけか。
まあ、どうにかなるだろう。
だけどまあ、少しは許してくれよ、里志。
……そういえば。
奉太郎(千反田にすぐ戻るとか言って、すっかり忘れてたな)
千反田は結構ショックを受けていたみたいだし、聞こえていなかったかもしれない。
だけど、まあ……
ああ、仕方ない。
やはり千反田が関係することだと、どうにもうまく省エネができない。
自室から出て、リビングへ向かう。
奉太郎「姉貴、携帯借りていいか」
俺はソファーに座る姉貴に話しかけた。
供恵「はあ? あんたが携帯!?」
供恵「……なんかあったんでしょ」
やはり鋭い、ニヤニヤしながらこっちを見るな。
92: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:41:15.74 ID:YerrbZjh0
奉太郎「少し、な」
奉太郎「ダメならダメで、いいんだが」
供恵「いいわよ、貸したげる」
意外にも姉貴は快く貸してくれた。
供恵「変わりに洗い物やっておいてね」
指差す先には大量の食器。
前言撤回、快くは間違いだ。
正しくは、エサにかかった獲物をなめまわすような視線を向けながら。 としておこう。
奉太郎「……分かったよ」
奉太郎「ありがとうな、姉貴」
供恵「あんたにしては随分と素直ね、どこか出かけるの?」
奉太郎「俺はいつも素直だ。 少しな、すぐに戻ると思う」
供恵「ふうん、気をつけて行ってきなさいよ」
姉貴が珍しく真面目な顔をしていた、あいつはどうにも勘が良すぎる。
93: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:41:56.85 ID:YerrbZjh0
服を着替え、外に出る。
少し前まで寒かったが、今は夜も涼しいくらいになってきた。
自転車に跨り、千反田の家に向かう。
以前はそこまで長くない距離だと思ったが、今は自然と長く感じた。
やがて見えてくる、大きな家。
門の前に自転車を止めると、携帯を取り出した。
千反田の家の番号を押し、コールボタンを押す。
近くにでも居たのだろうか、1回目のコールで繋がった。
える「は、はい! 千反田です」
奉太郎「千反田か、遅くにすまない」
える「え、えっと、折木さんですか……?」
奉太郎「ああ、今千反田の家の前にいるんだが……少し話せるか?」
える「……はい、分かりました」
千反田は、いつもより少しだけ暗かった気がする。
だがその中にも少しだけ嬉しそうな感情、そんな感じの声に聞こえた。
5分ほど待ち、千反田が出てきた。
94: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:43:17.29 ID:YerrbZjh0
える「こんばんは、折木さん」
奉太郎「夜遅くに悪いな、どこか話せる場所に」
そこまで言った所で、千反田が俺の声に被せてくる。
える「あの公園に、行きましょうか」
奉太郎「……そうだな」
公園に向かう途中は、お互いに無言だった。
千反田の様子は、やはり暗く、ショックが大きいのが見て取れる。
そんな千反田を見ていると、また怒りが湧いてきそうで、俺は敢えて千反田の方を見ずに、歩いた。
やがて、公園が見えてくる。
自販機に向かい、コーヒーと紅茶を買った。
千反田に紅茶を渡し、ベンチに腰掛ける。
それを見て千反田は俺の横に座った。
奉太郎(さて、何から話そうか)
95: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:44:15.59 ID:YerrbZjh0
しかし、考えをまとめる前に、千反田が口を開いた。
える「折木さん、すいませんでした」
える「私があんなことを言ったせいで、古典部に影響を与えてしまって……」
える「折木さんが怒るのも……仕方がない事です」
える「私が馬鹿でした、許してもらえるとは思っていません」
える「でもやっぱり、また皆さんで仲良くしたいんです」
える「……すいません、折木さんに相談する話では、ないですよね」
千反田は泣きそうな声で最後の言葉を告げると、俯いてしまった。
俺は、一瞬何を言っているのか分からなかった。
何故、千反田が謝る?
俺が千反田に怒っている?
また仲良くしたい?
許してもらえない?
それらを並べると、俺は理解した。
96: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:45:01.36 ID:YerrbZjh0
こいつは、千反田えるは、真っ直ぐな奴なんだ。
今回の事も、人のせいにしないで、全て自分で背負っているんだ。
怒りが湧いてくると思ったが、俺の心に湧いたのは、落ち着いた物だった。
奉太郎「千反田」
奉太郎「お前は、そういう奴なんだよな。 やっぱり」
奉太郎「俺はお前には怒っていない」
奉太郎「千反田を騙した奴に、俺は怒っているんだ」
奉太郎「伊原も、ああいう性格だが捻くれた奴ではない」
奉太郎「少し話せば、すぐに終わる」
奉太郎「皆は許してくれない? それはちょっと不服だな」
奉太郎「少なくとも俺は、お前の味方だぞ」
奉太郎「第一に、俺は省エネ主義者だ」
奉太郎「それがわざわざ千反田の家に来ているんだ」
奉太郎「それだけで、俺がお前の味方ってのは、分かるだろ」
奉太郎(なんか、俺らしくないな)
奉太郎(まあ、いいか)
97: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:46:13.09 ID:YerrbZjh0
そこまで言うと、千反田は小さく声を漏らした。
える「……折木さん、私」
える「ずっと、ずっと、どうしようかと思っていました」
える「……でも、でもですね」
千反田は今にも泣きそうに、続けた。
える「折木さんが……いえにきたとき……わたし、うれしかったんです……っ」
否、千反田は泣いていた。
える「ずっと……ずっと相談じようどおもっでいて……っ…」
涙を拭い、千反田は自分の胸に手を置いた。
小さく「すいません」と言い、一呼吸置き、再び話し始める。
える「でも、折木さんの、今の言葉を聞いて、私、安心できました」
次に出てきた言葉は、いつもの千反田らしく、しっかりとした物だった。
98: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:47:07.14 ID:YerrbZjh0
奉太郎「……そうか、ならよかったんだが」
える「……少しだけ、すいません」
そう言うと、千反田は俺の肩に頭を預けてきた。
奉太郎(暖かいな)
俺はこの時、強く確信した。
奉太郎(なんだ、随分と悩まされていたが)
今まで何回か、友人が言っていた言葉。
奉太郎(分かってみれば、大した事はなかったか)
千反田が来て変わったと、里志は言った。
俺はずっと、そんなことは無いと、思っていた。
だが今、確信した。
千反田の頼みを断れないのも。
千反田が関係することだと省エネできないのも。
千反田に振り回され、満更ではなかったのも。
千反田が泣いたとき、俺は酷く怒ったのも。
全ての疑問に、答えを見つけた。
99: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:48:16.56 ID:YerrbZjh0
奉太郎(俺は、千反田の事が好きなのか)
言おうとした、好きだと。
だが……だが。
どうにもうまく言葉にできない。
前にも、似たような経験はあった。
前の時も、言おうとしたが、少しめんどうくさいというのがあったと思う。
だが、今回ばかりは。
いくら言おうとしても、できなかった。
そのまま、5分ほどが立った。
奉太郎「寝る時間、過ぎてるな」
時刻は23時近く、千反田が寝る時間は過ぎている。
える「そうですね」
える「でも今日は、ちょっと夜更かししたい気分です」
奉太郎「そうか」
奉太郎「夜景が、綺麗だな」
そう言うと、千反田は
える「……はい、折木さんと一緒に見れて、良かったです」
俺は……笑っていた、と思う。
第四話
おわり
100: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:49:07.32 ID:YerrbZjh0
以上で第四話終わりです。
続けて4.5話、投下致します。
101: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:50:13.27 ID:YerrbZjh0
私は、少し体が熱くなるのを感じながら、家に帰りました。
折木さんと一緒に夜景を見ていた時間は、とても短く感じました。
気持ちも、軽くなっています。
やはり、折木さんに相談したのは間違いではありませんでした。
……これは、甘えではないですよね。
明日は、しっかりと摩耶花さんとお話をするつもりです。
私が言った、許してくれないと言う言葉。
それは反対の意味にすると、私は古典部の皆さんを信じていないという事になります。
そんなのでは、ダメです。
私は皆さんを信じています。
摩耶花さんもきっと、分かってくれる筈です。
もし、万が一にでも、想像したくはないですが。
福部さんも、摩耶花さんも許してくれなかったら……
102: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:51:14.31 ID:YerrbZjh0
多分、私はもう学校に通えないと思います。
そうしたら、味方だと言ってくれた折木さんと、どこか遠くへ行きましょう。
折木さんならきっと、私の思いもよらない場所へ連れて行ってくれる……そんな気がします。
そんな事を考えながら、折木さんが以前くれたぬいぐるみを抱きしめます。
でも、まずは摩耶花さんと話さなければ。
える(明日、明日です)
える(うまく、話せるでしょうか……)
後ろ向きになってはダメです。
ちゃんと、伝えましょう。
折木さんがわざわざ家まで来てくれたんです。
折木さんを裏切らない為にも、また皆で仲良くする為にも。
……また、一緒にあの公園で夜景を見る為にも。
103: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:51:52.97 ID:YerrbZjh0
なんだか、折木さんの事ばかり考えてしまいます。
何故でしょうか?
私にはまだ、分かりません。
折木さんに聞けば答えてくれるでしょうか?
しかし、何故か聞いてはいけない気がします。
これは、自分で答えを出さないといけない問題……
える(折木さんが家に来てくれて、本当に良かったです)
える(もし来なかったら……考えたくもありません)
える(……今夜は、いい夢が見れそうですね)
104: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:53:06.60 ID:YerrbZjh0
~折木家~
奉太郎(はあ)
何度、溜息をついただろうか。
どうにも気持ちが落ち着かない。
千反田は別れる時には、いつも通りの顔だったと思う。
しかし、俺はどうだっただろう。
なんとも言えない気分である。
奉太郎(今まで避けてきたが……)
奉太郎(確かに、これはエネルギー消費が激しそうだ)
まあ、いい。
問題は明日だ。
準備は問題無いはず、後は俺次第。
千反田には、話せる内容ではない……か。
落ち着け、落ち着け。
105: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:53:41.40 ID:YerrbZjh0
これが終わったら、千反田とゆっくり話でもしようか。
とりあえずは、目の前のを片付けなければいけない。
奉太郎(今日は、もう寝るか)
自室へ向かった俺に、後ろから声が掛かる。
供恵「ちょっと、携帯返してよね」
ああ、すっかり忘れていた。
奉太郎「ありがとな」
再び、自室へ向かう。
しかし再度声が掛かる。
供恵「ちょっと、アンタ寝ぼけてるの?」
奉太郎「……なにが?」
姉貴はニヤリと嫌な笑顔を浮かべる。
供恵「あれ、約束でしょ」
指差す先には食器の山。
奉太郎(どうやら)
奉太郎(もっと先に片付けなければいけない問題があったな)
数えるのも嫌になる程の溜息をもう一つつき、俺は食器の山へと向かうのであった。
4.5話
おわり
106: ◆Oe72InN3/k 2012/09/07(金) 20:55:04.62 ID:YerrbZjh0
以上で四話、4.5話、終わりとなります。
次は早ければ日曜日辺り、遅くても一週間以内に投下します。
それでは、失礼します。
107: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) 2012/09/07(金) 21:31:04.68 ID:hge3FVjdo
乙乙
えるたそ可愛いよ
110: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/08(土) 14:40:17.78 ID:tGnwfJOuo
すばらしく乙
114: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 12:49:37.90 ID:nfnPYl4y0
こんにちは、第五話を投下致します。
115: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 12:50:14.89 ID:nfnPYl4y0
今日はあまり眠れなかった。
寝付こうとしても、中々寝付けず、睡眠時間は3時間程だろうか。
奉太郎(学校に着く前にぶっ倒れるかもしれんな、これは)
しかしそうは言ってもられない。
今日は、やるべき事があるからだ。
時刻は7時、準備をしなければ。
寝癖がほとんどついていない、それもそうか……まともに寝ていないのだから。
朝食を済ませ、コーヒーを一杯飲む。
奉太郎(今日で……終わらせる)
奉太郎(少し早いが、行くか)
カバンを背負い、玄関のドアに手を掛けた。
116: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 12:51:01.44 ID:nfnPYl4y0
供恵「ちょっとアンタ」
奉太郎「ん、なんだ」
供恵「……寝間着で学校に行くの?」
ああくそ、俺はどうやら……すっかり頭の回転が落ちている。
姉貴の横を無言で通り過ぎ、制服に着替える。
供恵「それもそれでありだとは思うわよー面白いし」
後ろから何やら声がかかるが、無視。
しかし、こんな状態で本当に大丈夫だろうか。
いや、駄目だ、これは絶対に……解決せねば。
洗面所で服装の確認をし、再び玄関に手を掛ける。
117: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 12:51:28.29 ID:nfnPYl4y0
供恵「ちょっとアンタ」
奉太郎「……今度はなんだ」
供恵「別に、ただ言ってみただけ」
奉太郎「行くぞ、構ってられん」
やはりどうにも、姉貴は苦手だ。
供恵「頑張りなさいよ」
考えを見透かされてる様で、苦手だ。
姉貴に返事代わりに手を挙げ、玄関のドアを開いた。
供恵「ま、私の弟だし余裕だとは思うけどねー!」
供恵「そ、れ、と! あんま無理はしないようにね」
朝から元気なこった、だが少し、元気は出たか。
118: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 12:51:55.20 ID:nfnPYl4y0
家を出ると、意外な顔が見える。
摩耶花「……おはよ」
こいつが俺の家に来るなんて、今日は雪だろうか?
奉太郎「珍しいな、今日は良くない事が起きそうだ」
摩耶花「……そうかもね」
摩耶花「折木、ちょっといいかな」
伊原の威勢がいい反論も聞けない、無理もないか。
奉太郎「ああ、少し頭を回さないといけないしな」
摩耶花「?」
摩耶花「まあいいわ」
伊原は少し疑問に思ったみたいだが、そこまでは気にしていない様子だった。
並んで学校へ向かう。
119: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 12:53:00.71 ID:nfnPYl4y0
奉太郎(一生に一度あるかないかの、奇跡的な絵になりそうだな)
摩耶花「まさか、折木と学校へ一緒に行くことがあるなんて夢にも思わなかったわ」
全くの同意見。
摩耶花「昨日の、事なんだけどね」
伊原はそう、前置きをした。
やはりそうか、むしろそれ以外だったら俺はどんな顔をしていただろう。
奉太郎「あれか」
摩耶花「……うん」
摩耶花「私、少し邪魔だったかな。 やっぱり」
摩耶花「ふくちゃんから昨日、電話がきてね」
摩耶花「私は悪くない、安心してって」
摩耶花「でもやっぱり……迷惑だったのかな」
なんでだろう……千反田といい、伊原といい、どうして自分を責めるのだろうか?
120: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 12:53:43.26 ID:nfnPYl4y0
奉太郎「なんで俺にそんな話をするんだ、里志に相談すればいいだろう」
摩耶花「……ふくちゃんにこんな話、できる訳ないじゃない」
摩耶花「ちーちゃんは、あんな事言わないと思っていたのに」
摩耶花「……それだけ」
奉太郎「ま、余り深く考えるな」
奉太郎「千反田は今日、話があるみたいだぞ」
俺が事情を説明してもいいのだが、本人同士で話すのが一番いいだろう。
摩耶花「そう、ちーちゃんが」
摩耶花「……分かった、少し腹を割って、話そうかな」
奉太郎「ああ、それがいい」
奉太郎「だけど、そんなに気を病むなよ」
奉太郎「言い返してこないお前と話していても、つまらん」
121: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 12:54:22.15 ID:nfnPYl4y0
摩耶花「……折木のくせに」
摩耶花「でも、ありがとね」
摩耶花「けど……やっぱり折木に励まされるのって、なんかムカツク」
おいおい、随分と酷いなこいつは。
今の一瞬で、俺の株は下がって上がって下がったのだろうか。
摩耶花「ちょっと元気出たし、私先に行くね」
そう言うと伊原は走り、学校へ向かっていった。
奉太郎(元気が出たらなによりだ)
奉太郎(けど、今のままの伊原の方が……大人しくていいかもしれない)
伊原に聞かれたら、それこそ俺は生きて帰れる気がしない。
まあ、少しは頭の回転になったか。
あくびをしながら、学校へと向かう。
122: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 12:55:14.71 ID:nfnPYl4y0
奉太郎(それにしてもだるいな、体が重い)
1……2……3……4……あ、学校が見えた。
あくびを4回したところで、ようやく学校が見えてきた。
校門の前で一度止まり、深呼吸。
奉太郎(今日は少し、気合いを入れんとな)
柄にも無く「おし、行くぞ!」と意気込んでいたところで、背中に衝撃が走った。
里志「おっはよー! ホータロー!」
奉太郎「……いって!」
奉太郎「朝から元気だな、お前」
少々目つきを悪くして、里志を睨む。
里志「そういうホータローは随分とだるそうだね、はは」
奉太郎「昨日は少ししか眠れなかったんだ、寝つきが悪くてな」
里志「そんな日もあるさ! でもね、今日は期待してるよ? ホータロー」
123: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 12:55:59.50 ID:nfnPYl4y0
奉太郎「……今日はちょっと、気合い……いれていくか」
里志「あんまり無理はしないようにね、大丈夫だとは思うけど」
奉太郎「分かってる、大丈夫だ」
里志「そうかい、じゃあ僕は総務委員の仕事があるから、これで」
そう言うと、里志は俺に手を振りながら昇降口へと走っていった。
下駄箱で靴を履き替える。
階段を上がろうとしたところで、後ろから声が掛かった。
伊原、里志ときたら……あいつだろう。
える「おはようございます、折木さん」
奉太郎「やはり千反田か、おはよう」
える「やはり? ちょっと気になりますが……今はやめましょう」
俺の第六感まで気になられては、対処のしようが無い。
124: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 12:56:42.59 ID:nfnPYl4y0
える「あのですね、今日の放課後なんですが」
える「部室でお話をしようと思っていて、申し訳ないんですが」
用は、放課後は部室を空けてくれないか、ということだろう。
丁度いい、今日はどうも部活に出れそうになかった。
奉太郎「ああ、空けて置く、今日は部活は休ませて貰う事にする」
える「そうですか、ありがとうございます」
える「それと、ですね」
まだ何かあるのだろうか?
える「少し顔色が優れないようですが……大丈夫ですか?」
125: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 12:57:16.51 ID:nfnPYl4y0
そう言うと、千反田は俺のおでこに手を当ててきた。
奉太郎「だ、大丈夫だ。 気にするな」
周りの人間がこっちを見ている、何もこんな人が多いところでやることはないだろうが!
える「ならいいのですが、それでは!」
そう言うと、千反田は自分の教室へと向かって行った。
奉太郎(いつも通りの、千反田だっただろうか)
奉太郎(少しは元気が出たみたいだな、あいつも)
そのまま教室へ向かい、自分の席に着く。
奉太郎(にしても、眠いな)
少し寝よう、少しだけ。
俺はそう考えると同時に、眠った。
126: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 12:57:45.00 ID:nfnPYl4y0
腰が痛い、腕も少しだけ痛い。
奉太郎「ん……」
目が覚めた、クラスは賑やかな様子だ。
「おう、折木」
突然、名前もまともに覚えていないクラスメイトに声を掛けられた。
「お前、中々やるじゃねーか」
奉太郎「ん、なにが」
「昼までずっと寝てるなんて、そうそうできないぞ?」
昼まで……?
時計に視線を移す。
時刻は12時を少し回った所。
127: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 12:58:14.65 ID:nfnPYl4y0
奉太郎「ああ、寝すぎた」
「先生達、震えてたぞ。 見てる分には面白かった」
それだけ言うとそいつは満足したのか、いつもつるんでいるらしき奴等の元へ向かって行った。
奉太郎(後で呼び出されそうだな、めんどうくさい)
奉太郎(しかし、少しは頭が冴えたか……まだ少しだるいが)
昼休みか、教室は少し気まずい。
朝から昼まで寝ていた奴をちらちらと見る連中がいるからだ。
奉太郎(部室で飯を食うか)
省エネでは無いが、俺にも一応気まずさを避けたいって気持ちはある。
弁当を持ち、部室へ向かった。
128: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 12:58:43.57 ID:nfnPYl4y0
~古典部部室~
あくびを一つつきながら、扉を開ける。
誰も居ないと思ったが……どうやら先客が居た様だ。
える「あ、折木さん、こんにちは」
奉太郎「なんだ、誰も居ないと思ったのだが」
える「たまに、ここで食べているんです」
える「陽が暖かくて、気持ちいいので」
奉太郎「そうか、邪魔してもいいか?」
える「ええ、勿論です」
千反田の前の席に腰を掛け、弁当を開く。
129: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 12:59:25.82 ID:nfnPYl4y0
える「おいしそうなお弁当ですね、自分で?」
奉太郎「いや、姉貴が作ってくれている」
える「そうですか、お姉さん優しいんですね」
奉太郎「……本気か?」
える「え? はい、そうですけど……」
奉太郎「何も知らないからそんな事が言えるんだ……」
える「でも、これだけの物って中々作れる物ではないですよ」
そうなのだろうか?
姉貴が家に居るときはほとんど作ってくれるし、そんな事は思った事がなかった。
奉太郎「そうなのか? 普通の弁当だと思うが」
える「いえいえ、折木さんの事を想っている、いいお姉さんだと分かるお弁当です!」
ふうむ……少しは姉貴にも感謝しておくか。
130: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 12:59:55.27 ID:nfnPYl4y0
奉太郎(姉貴よ、ありがとう)
こんなもんでいいだろう。
奉太郎「少し感謝しておいた、心の中で」
える「ちゃんと直接言った方がいいと思いますが……」
奉太郎「気持ちが一番大事なんだ」
える「そ、そうですか」
千反田の苦笑いが、少し辛い。
奉太郎「それはそうと、千反田の弁当も中々すごいな」
える「そ、そうでしょうか? 私のこそ普通、ですよ」
奉太郎「そんなことはないだろう、とても旨そうだぞ」
える「……少し、食べます?」
131: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 13:00:24.44 ID:nfnPYl4y0
奉太郎「いいのか? じゃあ一つ」
そう言うと、千反田はおかずを一つ、俺の弁当に移す。
奉太郎(貰ったままでも、なんか悪いな)
奉太郎「俺のも一つやろう」
える「はい! ありがとうございます」
千反田の弁当に、おかずを一つ移した。
そこでふと、本当にどうでもいい考えが浮かんできた。
奉太郎(今千反田に貰ったおかずを、そのまま返していたらどんな反応をするのだろうか)
奉太郎(……なんて無駄な事を考えているんだ、俺は)
勿論そんな事はしない。
132: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 13:00:54.39 ID:nfnPYl4y0
そして、千反田に貰ったおかずを口に運ぶ。
奉太郎(う、うまい)
奉太郎「これは……うまいな、こんな料理を作れるなんて、なんでもできるんじゃないか? 作った人」
える「ええっと……」
える「これ、作ったの私なんです」
千反田は恥ずかしそうに笑いながら、そう言った。
奉太郎「そ、そうか」
何故か、嵌められた気分に俺はなる。
そんな風に若干気まずい空気が流れた時、ドアが勢い良く開く。
前にも、似たような光景があったような……
133: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 13:01:28.92 ID:nfnPYl4y0
里志「おっじゃまー!」
里志「あれ、ホータローに千反田さん?」
里志「ご、ごめん! 邪魔しちゃったみたいだね!」
待て、里志よ。
奉太郎「おい、里志」
里志「え、なんだい?」
奉太郎「お前、いつから居た?」
里志「えっと……最初から、かな」
くそ、全然気づかなかった。
そう言うと里志は手短な席に腰を掛ける。
里志「ごめんごめん、盗み聞きするつもりはなかったんだよ」
里志「でも二人がカップルみたいにしてるのをみたら、ついね」
える「カ、カップルだなんてそんな」
える「たまたま、会っただけですよ! 本当に!」
える「折木さんと私は、その……仲はいいですけど、まだそんな仲では無いというか……」
千反田の焦っている所を見るのは、少し楽しいかもしれない。
134: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 13:02:05.29 ID:nfnPYl4y0
奉太郎「里志、その辺にしておけ」
だが、こいつは一言言わないといつまでも続けるだろう。
里志「あはは、ジョークだよ、千反田さん」
える「じょ、じょーく……ですか」
千反田は胸を撫で下ろし、ハッとする。
える「あ、あの」
える「福部さん」
里志「あー、例の事かい?」
里志はこう見えても、勘は冴えるほうだと思う。
千反田の微妙におどおどした様子を見て、なんの話か分かったのだろう。
える「知ってたんですか、この度は……」
135: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 13:02:33.81 ID:nfnPYl4y0
つまり、例の事件の事だ。
だが千反田が最後まで言う前に、里志は口を開いた。
里志「これでも僕は、人間観察をしている方だと思うんだ」
里志「それでね、人を見る目も結構あると思っている」
里志「だから、千反田さんの事は信じているよ」
里志「ホータローの事は、どうかな?」
奉太郎「おい」
里志「うそうそ、信じてるよ。 ホータロー」
そう言うと、里志は俺に抱きつこうとしてくる。
やめろ、気持ち悪い。
136: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 13:03:20.97 ID:nfnPYl4y0
える「ふふ、ありがとうございます」
える「やはり、折木さんの言うとおりでした」
里志「ん? ホータローが何か言ったのかい?」
奉太郎「……なんでもない、気にするな」
える「なんでもない、です」
里志「うーん、気になるなぁ」
俺が最近、非省エネ的な行動をしているのを里志に知られたら……どんな風にいじられるか分かった物じゃない。
どうはぐらかそうか考えていたとき、里志は何かを思い出した様に拳と手の平を合わせた。
里志「あ! 委員会の仕事の途中だったよ、すっかり忘れてた」
奉太郎(この動作を本当にやってる奴は始めてみたぞ……)
しかし、こいつも色々と大変だな。
里志「じゃ、そういう訳で! またね~」
137: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 13:04:01.38 ID:nfnPYl4y0
一体、あいつは何をしに来たのだろうか……暇なのか。
奉太郎「そういう訳だ、伊原も必ず話せば分かってくれる」
える「はい……そうですよね!」
さて、と。
そろそろ昼休みも終わりか。
奉太郎「じゃあ俺は教室に戻るとする」
える「はい、私はもうちょっとここでゆっくりしてから戻ります」
奉太郎「そうか、じゃあまた」
える「はい」
俺が部室から出ようとした所で、思い出したように千反田が言った。
える「あ、そういえば」
える「午後の授業は、寝ないで頑張ってくださいね」
……どこまで噂が広まっているんだ、全く。
軽く手を挙げ、千反田に挨拶をすると俺は教室に戻って行った。
138: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 13:04:50.37 ID:nfnPYl4y0
~教室~
教室に入り、10分ほど経っただろうか。
授業開始のチャイムが鳴り響いた。
奉太郎(状況の整理を……するか)
まず一つ目。
・千反田を騙した奴は誰か?
C組の女子、名前は里志から聞いている。
二つ目。
・そして、そいつは何をしたか?
千反田に嘘を吹き込み、使わせた。
恐らく、千反田と伊原が仲が良いのを知っていて嘘を吹き込んだのだろう。
目的は漫研絡みと考えるのが妥当。
139: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 13:05:34.86 ID:nfnPYl4y0
三つ目。
・そいつの目的はなんだったのか?
千反田と伊原の仲違い。
多分だが、千反田は伊原を傷つける為に利用されたという考えが有力。
つまる所、伊原を追い込むのが目的という事か。
最後に、四つ目。
・そいつに何を話すか?
これには少し考えがある。
正面から言って、千反田と伊原に土下座でもするのなら苦労はしないが……
それをすぐにする奴なら、初めからこんな事はしないだろう。
里志にも協力をしてもらい、手は打ってある。
しかし、里志に話していない事もある。
少し懲らしめないと、駄目だろう。
140: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 13:06:08.51 ID:nfnPYl4y0
そこまで考え、俺は息をゆっくりと吐き出した。
話をする場も、既に打ってある。
里志からそいつに「今日の放課後、話があるから屋上でいいかな?」と言って貰った。
俺が言ってもいいのだが……直接会ってしまったら何をするか自分でも分からない。
どうせなら人目に付かない所の方が、勿論いいだろう。
奉太郎(ここまで動き、頭を使ったのは随分と久しぶりだな)
奉太郎(たまにはいいか、熱くなるのも)
そして、放課後はやってきた。
第五話
おわり
141: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 13:07:27.76 ID:nfnPYl4y0
以上で第五話、終わりとなります。
第六話は少し時間を置いて、今日の夜に投下予定です。
それではまた後で、失礼します。
乙、ありがとうございます。
何か質問などあれば宜しくお願いします。
144: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:43:38.46 ID:nfnPYl4y0
こんばんは。
第六話+6.5話を投下致します。
145: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:44:12.56 ID:nfnPYl4y0
俺は、自分を抑えられるだろうか?
大丈夫だ、意外にも冷静になっている。
今は16時、1時間もあれば……終わるだろう。
奉太郎(行くか)
そう思い、教室を出る。
向かう先は、屋上。
146: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:44:54.95 ID:nfnPYl4y0
~屋上~
屋上に繋がる扉を躊躇せず開く。
空は曇っていた、風は無い。
視線を流すと、そいつが目に入ってきた。
「あれ、福部君に呼ばれて来たんだけど」
「アンタ誰?」
初対面の人間にこの対応とは、なるほど納得だ。
奉太郎「A組の折木奉太郎だ」
「折木? 聞いたことないなー」
「それで、アタシに何か用?」
「まさか、告白とかするつもり? ムリムリ」
そいつは笑っていた、俺にはどうも……汚らしく見えて仕方ない。
147: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:45:24.78 ID:nfnPYl4y0
奉太郎「千反田える、この名前は知っているだろう」
「ちたんだ……ちたんだ、ああ、アイツね」
「知ってるけど、それがどうしたの?」
奉太郎「それと伊原摩耶花、勿論知っているだろう」
「あー、あのウザイ奴ね。 勿論知ってる」
やはり、駄目だ。
なんとか抑えようと思ったが、里志には穏便に済ませようと言われたが……
俺はどうやら、そこまで人間が出来ていない様だ。
奉太郎「……自分のした事は、分かっているんだろ」
奉太郎「千反田に嘘を吹き込み、伊原に向かって言わせた」
奉太郎「覚えて無いなんて、言わせないぞ」
148: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:46:06.09 ID:nfnPYl4y0
「あの馬鹿正直な奴でしょ、今時あんなの信じる奴がいるなんてね」
「思い出したらおかしくなってきちゃう」
良かった。
正直な話、これを否定されたら俺には手は無かった。
千反田は誰に言われた等……あいつの性格だ、言わないだろう。
それをコイツは自分で認めてくれた、良かった。
奉太郎「お前は、なんとも思っていないのか」
奉太郎「千反田を傷付け、伊原も傷付け、なんとも思わないのか」
「別に? 騙される方が悪いんじゃない?」
149: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:46:38.81 ID:nfnPYl4y0
奉太郎「……あいつは、千反田はお前の事を信じて……伊原に言ったんだぞ!」
奉太郎「それを、お前はなんとも思わないのか!」
奉太郎「千反田は人を疑わないし、嘘なんて付かない」
奉太郎「どこまでも……正直な奴なんだぞ」
「ふーん、あっそ」
「アタシも知ってるよ、あいつが馬鹿正直な所」
「それで教えてあげたんだもん」
「こいつなら絶対に騙されるなーって思ってね」
150: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:47:06.24 ID:nfnPYl4y0
奉太郎「……お前に千反田の何が分かる!!」
自分でも、驚くほどに大きな声で叫んでいた。
言われたそいつは、少し身を引きながら再び口を開く。
「な、なに熱くなってんの? ほっときゃいいじゃん」
奉太郎「あいつはな、千反田は伊原にその言葉を言った後……!」
思いとどまる、こいつに……千反田の泣いていた所なんて、教えたくない。
奉太郎「お前に千反田と話す権利なんて無い!」
「それは残念だなぁ、もうちょっと使おうと思ってたのに」
「ていうかさ、たかが友達の事で本気になってて恥ずかしくないの?」
151: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:47:35.07 ID:nfnPYl4y0
たかが友達、か。
確かに、俺も昔は少しそうだったのかもしれない。
氷菓事件の時、千反田の家で話し合いをした時。
俺は流そうとした、それが俺らしいと思い。
たかが一人の女子生徒の悩み。
たかが高校の部活動。
だけど、俺とこいつは……絶対に同類なんかじゃない。
不思議と、今の言葉で俺は落ち着けた。
奉太郎「……もういい」
「あっそ、じゃあ帰っていいかな」
奉太郎「違う、お前に普通の話し合いなんて、通じないからもういい」
「言ってる意味が分からないんだけど?」
152: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:48:08.60 ID:nfnPYl4y0
奉太郎「お前は、漫研で活動してるな」
「……それが何?」
奉太郎「その部室から少し離れた場所」
奉太郎「女子トイレが無く、男子トイレしかない場所があるのも知ってるな」
「それが……なんだよ」
奉太郎「以前俺は、お前がトイレから出てくるのを見かけている」
奉太郎「男子トイレ、からな」
「アンタ、ストーカー?」
もう、くだらない挑発は無視をする。
奉太郎「昨日、その男子トイレを少し調べた」
奉太郎「見つかったのはこれだ」
153: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:48:46.40 ID:nfnPYl4y0
俺の手にあるのは、ビニール袋に入った【煙草】
奉太郎「これは、お前の物だろ?」
「っ! んな訳ないでしょ!」
やはり、認めないか。
奉太郎「そうか、余りこういう事はしたくないんだが」
そう言い、俺はポケットから一つの写真を取り出した。
そこには、金髪の女子が男子トイレで煙草を吸っている光景が写し出されている。
奉太郎「こいつは、俺の友達が撮ってくれた写真だ」
奉太郎「知ってるか? 図書室のとある場所から丸見えなんだぞ」
「……アタシを脅してるつもり?」
154: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:49:21.35 ID:nfnPYl4y0
奉太郎「そうなるな」
奉太郎「これを学校側に提出されたくなかったら、今後一切」
奉太郎「千反田と伊原に関わるな」
「……そんな物、出されたら……」
小さいが、俺には確かに聞こえていた。
しかし、すぐに元の調子に戻る。
「おもしろいね、アンタ」
「じゃあ、こういうのはどうかな?」
「アタシが捏造写真で盾にされてる、捏造写真を仕組んだのは伊原摩耶花」
「面白そうじゃない?」
奉太郎「そんなので、先生達が信じる訳ないだろう」
「確かにね、でも」
「お互いの言い分を尊重し、退学は無し」
「両名にしばらくの停学を言い渡す」
「こうなると思うんだけど?」
「それで停学が明けたら、無事にアタシはまた千反田ちゃんと伊原ちゃんと仲良しこよし」
「いいと思わない?」
155: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:49:48.42 ID:nfnPYl4y0
奉太郎「……本気でそう思っているのか」
「もっちろん」
奉太郎(これは本当に、使いたく無かったが)
奉太郎(仕方ないか)
奉太郎「俺が、どんな友達を持っているかお前は知らないのか」
「はあ? アンタの友達になんて興味ないし」
奉太郎「そうか」
奉太郎「お前を呼び出した奴、覚えているか」
「福部の事?」
奉太郎「そうだ、あいつがどこに所属しているか知っているか」
「言ってる意味がわからないんだけど、何を言いたいのよアンタは!」
156: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:50:15.52 ID:nfnPYl4y0
奉太郎「あいつは総務委員会に所属しているんだ」
奉太郎「副委員長としてな」
「総務……委員会?」
奉太郎「俺が持っているこの写真、あいつも既に持っている」
奉太郎「そして、少なからず学校の上層部に影響力のある立場だ」
奉太郎「そんな奴がこの写真を提出したら、どうなるかお前でも分かるだろ」
「や、やめてよ」
急に弱気、か。
「そんな事されたら、アタシは」
奉太郎「お前の意見なんか聞いていない!!」
「ひっ……」
奉太郎「俺が譲歩してやっているんだ、お前が……」
157: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:50:46.31 ID:nfnPYl4y0
奉太郎「今後、千反田や伊原、里志……福部とも」
奉太郎「それに俺と、一切関わらないならこいつは提出しない」
奉太郎「だがこいつは保管させてもらう、いつでも提出出来る様にな」
奉太郎「お前がもし、俺たちに関わってきたらすぐに退学にしてやる」
奉太郎「分かったか?」
「……」
奉太郎(仕上げだな)
奉太郎「お前も退学になったら困るだろう? 親がどこかしらの学校のお偉いさん、だからな」
「っ! ……わ、分かった」
158: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:51:18.52 ID:nfnPYl4y0
その情報は、誰に聞いた物でもなかった。
今の会話から、こいつの言葉が小さくなる部分、表情の変化。
それらを繋げて、得た情報であった。
奉太郎「俺もそこまで鬼じゃない、お前が変な事をしなければ何もしない」
「ご、ごめんなさい」
奉太郎「別に謝らなくていい、俺にも、千反田にも伊原にも、里志にも」
奉太郎「お前の謝罪なんて、何も響かない」
奉太郎「……もし今度何かあったら、話し合いだけでは済むとは思うなよ」
それ以降、そいつはうなだれて口を開こうとしなかった。
159: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:51:46.15 ID:nfnPYl4y0
俺は、屋上から降りる。
階段を降り、一度自分の教室へ向かった。
椅子に座り、大きく深呼吸をする。
奉太郎(5回、くらいか?)
思考を放棄して、殴りかかりそうになった回数。
だが、もし殴ったとしてだ。
千反田はそれで喜ぶだろうか?
伊原は? 里志は?
間違いなく、喜びはしない。
それがなんとか俺を留まらせた。
奉太郎(全く、今日は本当に疲れた)
時刻は……17時30分、か。
少し、長引いてしまったな。
さて、と。
千反田と伊原の方は、無事に終わっただろうか?
160: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:52:40.27 ID:nfnPYl4y0
私は、昼休みに折木さんと別れた後、摩耶花さんの教室を訪ねました。
摩耶花さんは少し、私を怖がっていた様で胸が痛みます。
しかし、伝えなくてはいけません。
える「あの、摩耶花さん」
摩耶花「ちーちゃんか……何か、用事?」
える「……はい、今日の放課後に少し話せますか?」
摩耶花「……うん、いいよ」
一瞬だけ、摩耶花さんが嫌そうな表情をしました。
それだけで、私はもう……
摩耶花「でも委員会の仕事があるから、終わってからでいいかな」
そして、摩耶花さんは私の顔を見てくれませんでした。
える「はい、では部室で待っていますね」
そう伝えると摩耶花さんは軽く頷き、それ以降は喋ろうとはしません。
私は教室を出ると、自分の教室に向かいます。
また少し、泣きそうになってしまいます。
える(涙脆くなったのでしょうか、私は)
教室に戻るとすぐに午後の授業が始まりました。
あっという間に授業は終わり、放課後となります。
161: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:53:19.32 ID:nfnPYl4y0
摩耶花さんの委員会は大体17時頃に終わる予定となっていました。
それまで少し、時間が余っています。
一度部室に行き、座って外を眺めていましたが……校内でもお散歩しましょう。
そう思い、人が少なくなった校内を歩きました。
気付けば自然と、折木さんのクラスへ。
教室を覗くと、まばらには人が居ましたが折木さんの姿は見当たりません。
える(そうでした、折木さんはもう帰っているのでしょう)
朝の事を思い出し、教室を去ろうとした所で不自然な物を見つけます。
える(あれは、折木さんのカバン?)
える(忘れていったのでしょうか……でも、おかしいです)
折木さんは意外と言ったら失礼ですが……忘れ物は滅多にしません。
そんな折木さんが忘れ物? それかまだ学校にいるのでしょうか?
5分ほどそこで待ちましたが、戻ってくる気配はありません。
162: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:53:52.10 ID:nfnPYl4y0
える(仕方がないです、また散歩でもしましょう)
そして階段まで差し掛かったとき、何やら声が聞こえてきます。
あれは……屋上から?
声の抑揚が、折木さんの物と一緒です。
間違いありません……折木さんです。
える(誰かと話しているのでしょうか? 少しだけ……行ってみましょう)
私は、屋上の扉まで辿り着きました。
これでも意外と耳はいい方だとは思っています。
内容はしっかりと聞こえました。
その内容は、どうやら私の事の様で。
昨日の事のようです。
える(もしや折木さんは、昨日私と話していた方とお話を?)
折木さんの方は、とても真剣に。
もう片方の方は、どこかふざけている感じ……でしょうか。
163: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:54:27.03 ID:nfnPYl4y0
突然、折木さんが大声をあげます。
える(折木さんが、あんなに大きな声で……)
少なくとも、一年間一緒に居ましたが……ここまで大声を出しているのは聞いたことがありません。
自分で言うのもあれですが、その内容は……私の事を大切に思ってくださっている物です。
ここまで……ここまで折木さんは、していてくれたのですか。
私は本当に、折木さんに頼りっぱなしです。
扉越しに、折木さんに頭を下げその場を去ります。
あまり、聞いてはいけない内容でしょう。
折木さんがその話をしてくれなかったのも、私に知られたくなかったからでしょう。
ならば、聞いては駄目です。
私はゆっくりと部室に戻り、決意を固めます。
える(私は、摩耶花さんにしっかりと気持ちを伝えます)
える(友達を失うのは……耐えられません)
える(絶対に、仲直りします!)
その時、扉が開きました。
摩耶花さんが来たようです。
164: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:54:55.03 ID:nfnPYl4y0
~古典部部室~
やっぱり、帰ろうかな。
ちーちゃんには悪いけど……
いや、駄目だ。
朝、折木にも相談に乗ってもらったし、ここで逃げちゃ駄目だ。
でも扉は、とても重い。
なんて言われようとも、私はちーちゃんと話さなきゃいけない。
そうしないと、いつまでも弱いままだ。
胸に手を置き、息を整える。
摩耶花(よし!)
扉を、開けた。
そこには、いつも通りのちーちゃんが居た。
165: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:55:21.42 ID:nfnPYl4y0
摩耶花「……来たよ」
なんて、暗い声なんだろう。
える「摩耶花さん、わざわざすいません」
摩耶花「話って、何かな」
分かってるだろう、自分でも。
性格悪いのかな、私。
える「昨日の、事です」
摩耶花「……そう」
ちーちゃんは、ゆっくりと語り始めた。
その内容を頭に入れる。
そして5分ほどで、話は終わった。
166: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:56:00.88 ID:nfnPYl4y0
える「言い訳みたいに、なってしまいましたが」
える「摩耶花さん、本当に申し訳ありません」
える「合わせる顔も無いと思いましたが、話さずにはいられませんでした」
える「すいませんでした」
そう話を締めると、ちーちゃんは頭を下げた。
ほんっとに。
ほんとーに! 私って、馬鹿だ。
ちーちゃんが、そんな事……昨日言った事を本気でする訳ないじゃんか。
私は昨日まで、ちーちゃんの事を疑っていたのをすごく後悔した。
ああもう! 最低じゃないか私。
謝るのは、こっちの方だ。
167: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:56:33.02 ID:nfnPYl4y0
そして、尚も頭を下げ続けるちーちゃんに向け、言った。
摩耶花「……ちーちゃん」
摩耶花「謝るのは、私の方だよ」
摩耶花「ちーちゃん! ごめん!」
するとちーちゃんはキョトンとした顔をこっちに向け、少し困惑していた。
摩耶花「私、ちーちゃんの事疑ってた」
摩耶花「もしかしたら、そういう事を言う人なんじゃないかって」
摩耶花「でも、普通に考えたらありえないよね」
摩耶花「ごめんね、ちーちゃん」
える「あ、あの」
える「……許して、くれるんですか」
何を言ってるんだこの子は!
168: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:57:05.26 ID:nfnPYl4y0
摩耶花「当たり前じゃない! だって私たち」
摩耶花「友達、でしょ」
今年一番の、いい笑顔だったと思う。
良かった、本当に。
胸の痛みは、とても自然に……心地よく消えていた。
える「……はい! 友達、ですよね」
ちーちゃんの笑顔も、今年で一番可愛らしかった。
える「良かったです、本当に……良かったです」
ちーちゃんの瞳から、綺麗な涙が落ちるのを見た。
摩耶花「良かったよ、私もほんっとに」
摩耶花「……良かったよ」
169: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:57:33.42 ID:nfnPYl4y0
その後は、時間が許すまでお話をした。
今回の事で、お互いが思っていた事。
その間何回か泣き、笑った。
やっぱり、ちーちゃんはちーちゃんだ。
私の大切な、友達。
そうだ、あれをあげよう。
元からあげる予定だったんだけど、ね。
摩耶花「そだ、ちーちゃん……」
える「はい? なんでしょうか」
摩耶花「これ、あげる」
える「……これは、すごく綺麗ですね」
摩耶花「なら良かった、喜んで貰えるなら私もうれしい」
える「私のお部屋に飾りたいですが……この部屋に飾ってもいいですか?」
摩耶花「ちょっと恥ずかしいけど……うん、いいよ」
摩耶花「ちーちゃんのお部屋用のも、今度あげるね」
える「はい! ありがとうございます、摩耶花さん」
170: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:58:07.32 ID:nfnPYl4y0
~教室~
少し休んでいたつもりだったが、もう18時か……
ふと窓から外を眺めると、千反田と伊原の姿が目に入ってきた。
お互いに笑顔で、とても仲が良さそうに見える。
奉太郎(向こうも、うまくいったようだな)
奉太郎(俺も帰るか、体が重すぎるぞ……)
教室を出た所で、少しだけ黄昏れたい気分になった。
奉太郎(部室に寄って行くか)
そう思い、普段より重く感じる体を引き摺りながら目的地へ向かう。
古典部の前に着き、ゆっくりと扉を開けた。
夕日が差し込み、中々に趣がある光景となっている。
近くの席に腰掛け、溜息を一つついた。
奉太郎(最近は本当に、体を動かしっぱなしだな)
奉太郎(俺は、今薔薇色なのだろうか?)
奉太郎(わからん……)
奉太郎(まあ、どっちでもいいか)
奉太郎(しかし……何も灰色に、拘る必要もないかもしれない)
171: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:58:36.80 ID:nfnPYl4y0
最終下校を知らせるチャイムが鳴り響いた。
奉太郎(もう少し居たかったが……仕方ない、帰るか)
部室を出ようとしたところで、見慣れない物が視界に入ってきた。
奉太郎(……全く、周りから見たら薔薇色の一員か、俺も)
そして俺は、家へと帰る。
部室には--------
俺、里志、伊原、千反田。
全員が笑顔の、綺麗な色使いの絵が飾ってあった。
今日もまた、高校生活は浪費されていく。
それは灰色か、薔薇色か。
こいつはどうやら、自分で決める事ではないらしい。
今日もまた灰色の……いや、どちらかは分からない高校生活は浪費されていく。
第六話
おわり
172: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 20:59:04.40 ID:nfnPYl4y0
以上で第六話は終わりです。
続けて6.5話を投下します。
173: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 21:01:22.23 ID:nfnPYl4y0
やっと、家に着いた。
今日はとても長く感じる。
色々あったが……無事に終わった。
ま、終わりよければ全て良しと言った所か。
家に入り、自室へ向かう。
姉貴がリビングに居るが、疲れていて姉貴の話に付き合う体力は無い。
奉太郎(やはり少し、体が重いな)
朝からだったが、今がピークだろうか……どうにもふらふらする。
ああ、もう少しで、部屋に着く。
奉太郎(なんか、視界が揺れているぞ)
奉太郎(ま、ずいな)
そこで、俺の意識は途絶えた。
174: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 21:02:03.73 ID:nfnPYl4y0
摩耶花から連絡が来て、千反田さんと仲直りした事を聞いた。
里志(ホータローの方もうまくいってるだろうし、これで一件落着って所かな)
けど、ホータローには随分と任せっぱなしにしてしまったなぁ。
僕の立場を使うってのは良いと思ったけどね。
とりあえず明日、部室でゆっくり皆で話そう。
里志(にしても、疲れたなぁ)
突然、部屋の電話が鳴り響いた。
里志(誰だろう? 摩耶花なら携帯に掛けて来る筈だし……ホータローかな?)
電話機の前まで行き、映し出されている番号はホータローの家の物だった。
里志(やっぱりか、今日の結果報告と言った所かな?)
そう思い、電話を取る。
里志「もしもし、ホータローかい?」
供恵「ごめんねー。 奉太郎じゃなくて」
里志「あれ、ホータローのお姉さんですか?」
供恵「そっそ、里志君お久しぶり」
里志「どうも! それで、何か用でしょうか?」
供恵「うん、実はね」
175: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 21:02:30.22 ID:nfnPYl4y0
私は家のベッドに転がると、今日の事を思い出す。
摩耶花(本当によかった、仲直りできて)
一応、敵を作りやすい性格だとは自分でも分かっている。
でも、ちーちゃんに嫌われたと思ったときは本当に辛かった。
しかしそれも思い過ごしで……なんだか思い出したら泣けてきちゃう。
摩耶花(やっぱりちーちゃんとは、友達続けていたいな)
明日は、またいっぱい話をしよう。
今度、どこかへ遊びに行こうかな。
ちーちゃんは遊ぶ場所知らなさそうだし、私が案内しなくちゃ。
そうだ、どうせならふくちゃんも、折木も呼んでどこかへ行こう。
そう思い携帯を手に取る。
電話番号を押そうとした所で、着信。
摩耶花(ふくちゃんから? 何か用なのかな)
摩耶花「もしもし、ふくちゃん?」
里志「摩耶花! ちょっと今から出れる!?」
焦っている感じ……何かあったのかな?
摩耶花「う、うん」
摩耶花「……一体どうしたの?」
176: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 21:03:03.25 ID:nfnPYl4y0
縁側に座り、夕日色に染まる空を眺めました。
私は……とても友達に恵まれています。
折木さんも、福部さんも、それに摩耶花さんも。
皆さん、とてもいい方達です。
私には少し勿体無いくらいの、そんな人たちです。
でもやはり、最後にはまた……折木さんに助けられました。
いつか、私が折木さんを助ける事はできるのでしょうか?
える(何か、恩返しはできないでしょうか……)
える(折木さんにも、福部さんにも、摩耶花さんにも)
最初に古典部に入った目的は、氷菓の件です。
しかし私しか部員がおらず、どうしようかと思っていたときに現れたのは折木さんでした。
そして私が長い間、考えていた問題も解決してくれました。
他にも色々と、今回の事だってそうです。
える(とても返しきれそうな恩では……ないですね)
気温も大分、気持ちいいくらいになってきます。
もうすぐ夏も、やってきます。
177: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 21:03:38.56 ID:nfnPYl4y0
える(時が経つのは早いですね、これからどのくらいの間、一緒に居られるのでしょうか)
える(後、2年も……ないですね)
考えると寂しい気持ちになってしまうので、気持ちを切り替える為に冷たい水でも飲みましょう。
そう思い、台所へと向かいました。
丁度台所に入ろうとしたとき、家のインターホンがなります。
える(お客さんでしょうか?)
える(こんな時間に、珍しいですね)
私は台所へ向かっていた足を玄関に向けると、扉を開きました。
摩耶花「ちーちゃん!」
える「ま、摩耶花さん?」
摩耶花さんから私の家までは大分距離があるのに……どうしたのでしょう?
える「どうしたんですか? 随分と慌てている様ですが……」
摩耶花「折木が、折木が倒れた!」
6.5話
おわり
178: ◆Oe72InN3/k 2012/09/09(日) 21:06:04.65 ID:nfnPYl4y0
以上で6.5話、終わりです。
次回の投下は今のところ未定となっています、一週間以内には投下できると思いますが……
予定日と時間が決まりましたら、またここでご連絡します。
乙、ありがとうございました。
何か質問等ありましたら、書いておいて貰えれば見たときに答えます。
それでは、失礼します。
179: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/09(日) 21:08:55.11 ID:mlWywXB8o
乙ん
安定して面白いなぁ
181: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) 2012/09/10(月) 06:39:06.78 ID:5W4BLIQWo
気になるとことで終わらせるにはしかたないことだけどきになるおつ
次→
奉太郎「古典部の日常」 03
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- 2012/09/10(月) 21:56:00|
- 氷菓
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