465: ◆Oe72InN3/k 2012/09/17(月) 18:52:04.47 ID:E5Os0heU0
予想以上にキーボードを打つ手が進んだので第15話を投下します。
本当に、今回だけですよ?
466: ◆Oe72InN3/k 2012/09/17(月) 18:52:40.35 ID:E5Os0heU0
数回のコール音の後、電話は繋がった。
里志「……もしもし、ホータローかい?」
奉太郎「ああ、用事は……言わなくても分かるか」
里志「うん、今日の部室荒らしの事だよね」
奉太郎「そうだ、単刀直入に聞くぞ」
奉太郎「何故、千反田に協力した?」
そう、里志は千反田の部室荒らしに協力をしていた。
里志とは長い間付き合いがあるが……今回、何故千反田に協力をしたのか? それは俺にも分からなかった。
こいつは適当にやっている様に見えて、根は真面目でもある。
そんな里志が部室の物を散乱させている千反田を見て、何を言ったのか? 何を思ったのか? それを聞かずには今回の事を終わらせたく無かった。
里志「今日、僕がどんな風に動いたか……初めから説明した方がよさそうだね」
里志「言いたい事はあると思うけど、最後まで聞いてくれると助かるよ」
里志「僕は……委員会の事で千反田さんに用があったんだ。 そこはホータローも知っているね」
里志「今日、僕は……」
『 奉太郎「古典部の日常」 目次 』引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1346934630/
467: ◆Oe72InN3/k 2012/09/17(月) 18:53:46.30 ID:E5Os0heU0
~~~
さて、厄介な事になってしまったよ……なんでわざわざ部長達に呼びかけをしにいかなければならないのか。
初めから書類を回しておけばこんな事にはならなかったのに、まあ……他の人を責める訳にもいかないかな。 この件は他人任せにしていた僕の責任でもあるしね。
里志「と言っても、部活の数が半端じゃないからなぁ……」
里志「とりあえずは、古典部から行こうかな」
今日は確か、文集の事で集まる予定になっていた。
昼休みに委員会の仕事があった事をホータロー達に伝えておきたかったんだけど……急な事だったせいで伝える暇が無かった。
過ぎたことは仕方ない、部室に行けば二人は居るだろうし……その時にでも説明しよう。
特別棟に入り、僕は古典部の部室へと向かった。
丁度、4Fの廊下に着いたところで何やら危なげな音が聞こえてくる。
里志「古典部の方から聞こえてくる? 何の音だろう?」
古典部の前に着き、音がやはりこの中から聞こえてきているのをしっかりと確認した。
ドアをゆっくりと開ける、何をしているんだろう?
僕がその時見たのは、確かホータローがいつの間にか着ける様になっていたペンダントを……
床に叩き付けている、千反田さんの姿だった。
468: ◆Oe72InN3/k 2012/09/17(月) 18:54:24.88 ID:E5Os0heU0
里志「千反田さん!? 何をしているんだ!?」
える「ふ、福部さん? どうしてここに……」
どうして、という事は……千反田さんは今日、僕が委員会で遅れるのを知っていたのだろう。
つまり、千反田さんにとってこれは見られてはいけない事だ。
里志「なんでそんな事をしているんだ! 何か……ホータローとあったのかい?」
える「……いえ、そういう訳では無いです」
里志「じゃあ、なんで……」
える「……折木さんに、嫌われなければ……ならないんです」
里志「……全く言ってる意味が分からないよ、千反田さん」
える「すいません、でも……どうしてもなんです」
ホータローに嫌われたかった……?
僕から見たら、千反田さんとホータローはとても仲が良い様に見えていた。
ひょっとしたら付き合ってるんじゃないか? とも思った程に。
そんな千反田さんが、どうして? 分からない、僕はホータローほど頭の回転は良くは無い。
それでも……ホータローが何かした。 という事では無いらしい。 千反田さんの言葉からそれは分かった。
える「……福部さん、これを皆さんに言うのは……福部さんの自由です」
える「でも私は、私にはこの方法しかなかったんです」
える「これが……一番良い方法だったんです」
里志「さっぱり分からないね、これが良い方法だなんて……とても思えないよ」
える「そう……ですよね。 すいません」
469: ◆Oe72InN3/k 2012/09/17(月) 18:54:52.15 ID:E5Os0heU0
いつもの千反田さんと、雰囲気が違った。
とても悲しそうに見えた、千反田さんは自分でも……こんな方法は取りたく無かったのかもしれない。
これでは駄目だ、なんとか……うまく終わらせたい。
千反田さんは何か考えがあり、こんな事をしたのだろう。 つまり……今のままホータローにばれるよりかはマシかもしれない。
それに僕はホータローを信じている、きっと千反田さんを助けてくれる。 僕には考え付かないけど……ホータローならもしかすると。
里志「……分かったよ、千反田さん」
里志「委員会の仕事でね、各部長達に用事があって来たんだ」
里志「悪いけど、付いて来て貰えるかな? 総務委員会の仕事なんだ」
える「……すいません、福部さん。 ありがとうございます」
僕が協力するのを、千反田さんは理解したのだろう。 礼儀正しく頭を下げると真っ直ぐと僕の方を見ていた。
やっぱり、とても普通の理由ではこんな事をする人ではない。 何か……あったのかな。
える「行きましょう、福部さん」
える「あまり、時間もありません」
~~~
470: ◆Oe72InN3/k 2012/09/17(月) 18:55:24.14 ID:E5Os0heU0
里志「と、言う事だよ」
要するに……里志は今、この状況を分かっていたのか。
俺が千反田をなんとかして、里志に連絡を取るまでの事を。
千反田といい、里志といい、予測されるのはあまり良い気分では無いぞ……
奉太郎「……そうか」
里志「何か言いたい事があったら、好きなだけ言ってくれると助かるよ」
里志「言うだけで満足できないなら、好きなだけ殴るといい」
奉太郎「……いや、やめておく」
奉太郎「面倒なのは嫌いだ、特に言う事はない」
里志「……そうかい、悪かったね。 ホータロー」
奉太郎「終わり良ければ全て良しって事だ。 まだ終わりが良かったのかは分からんがな……」
里志「うん、そうだね。 ああ、それとホータロー」
里志「一つ千反田さんは、嘘を付いていたよ」
471: ◆Oe72InN3/k 2012/09/17(月) 18:55:51.11 ID:E5Os0heU0
奉太郎「……嘘? 内容を教えてくれるか」
里志「千反田さんは、僕が来たのをホータローがトイレに行ってから5分と言っていたよね」
里志「それが嘘なんだよ、本当に僕が来た時間は」
里志「ホータローがトイレに行ってから【1分後】だったんだ」
奉太郎「1分後? その嘘に意味があるようには思えないんだが……」
里志「僕もそう思ったさ、まあ自分の感情を必死に抑えて部室を荒らしていたのだろうし……時間感覚が狂っていたのかもね」
そう、だろうか? あの千反田がそんなミスをするとは思えない。
千反田が部室を荒らしている最中に俺が戻ってきてしまったら全て終わってしまうのだから、時間を気にしていなかった筈が無い。
千反田の目的は……今日の放課後、俺と二人で話す事だった筈だ。 もっとも最初の予定では俺がどこかに呼び出すというのを予想していただろう。
それは千反田の「ここまで早く気付かれるとは思わなかった」という言葉に繋がる。
つまり……どういう事だ。 どうも引っかかる、何故そこで嘘を付く必要があった?
里志と千反田の会話を思い出せ、そこに何かある筈だ……
不自然な点が……
472: ◆Oe72InN3/k 2012/09/17(月) 18:56:18.69 ID:E5Os0heU0
あった。
そういう事か、だとすると……あの言葉の真意は何だったのか。
それはつまり……俺に嫌われたかった理由と直結する物だろう。 という事はだな、もしかすると。
……可能性の一つではあるな。
里志「ホータロー? どうかしたのかい?」
里志の呼び掛けによって、我に帰る。 少し、考え込みすぎていた。
奉太郎「ああ、いや。 なんでもない」
奉太郎「すまなかったな、長々と」
里志「気にしないでくれよ、僕が面倒な事にしたのは間違いないんだからさ」
奉太郎「……まあ、そうだな。 今度何か奢って貰う事にする」
里志「はは、お安い御用さ。 じゃあ、そろそろいいかな?」
奉太郎「ああ。 また明日」
里志との会話は、俺にとって得るものがあった。
一つの可能性が……できれば外れて欲しい物ではあるが。
悩んでいても仕方ない、俺にこれは……解決できるのだろうか? 答えは、出そうに無かった。
しかしだ、可能性がゼロでは無い限り……やってみる価値はあるかもしれない。
それは省エネとは程遠い、成功する訳でも無いし、俺の予想が当たっているとも言えない。 だけどこれは、やらなくてはいけないことの様な気がした。
季節は夏、時刻は19時、場所は家のリビング……俺は、折木奉太郎は、決意を固めた。
473: ◆Oe72InN3/k 2012/09/17(月) 18:56:52.29 ID:E5Os0heU0
~古典部~
ドアをいつも通り開けると、全員が揃っていた。
里志「相変わらず来るのが遅いね、ホータローは」
える「こんにちは、折木さん」
ここまでは普通、悪く言えば予想通り。 しかし一つ誤算があった。
摩耶花「……話してよね、昨日の事」
しまった、伊原の事を忘れていた。 非常にまずいぞ……
どうする? 諦めて話すか?
論外だ、他に方法は……
摩耶花「ちょっと、折木聞いてる?」
千反田と里志がいかにも気まずそうな顔をしている、一番気まずいのは俺だというのに。
474: ◆Oe72InN3/k 2012/09/17(月) 18:57:20.20 ID:E5Os0heU0
奉太郎「ああ、どう話そうか悩んでいた」
あまり人に罪を被せるのは好きではないが……仕方ないか。
奉太郎「……犯人は、C組の奴だった」
あれだけの事を少し前にしたんだ、多少は目を瞑ってもらうしかない。
摩耶花「……また、あいつか」
摩耶花「私ちょっと行って来る!!」
える「ま、待ってください! 摩耶花さん」
俺や里志が止めていたら、間違いなく振り切られていただろう。 その点、千反田が声を掛け静止させたのは正解だったかもしれない。
しかし、ここからどう切り返すか。 当の千反田もその後の言葉が続いていない。 伊原が痺れを切らすのも時間の問題だ。
奉太郎「……あいつには、昨日きつく言っておいた」
奉太郎「……千反田がな」
すまん、千反田。 許してくれ。
475: ◆Oe72InN3/k 2012/09/17(月) 18:57:54.49 ID:E5Os0heU0
摩耶花「ちーちゃんが? 確かに昨日ちーちゃんは残っていたけど……本当に?」
伊原が疑うのも無理はない、千反田は人を厳しく罵る等の事を全くしない。 少なくとも俺は一度も見たことが無い。
奉太郎「ああ、とても口には出来ない言葉を使っていた」
える「……」
千反田の視線がちょっと怖い、後で呪われないか少し心配になる。
摩耶花「……そう、ちーちゃんが……」
奉太郎「そうだ、C組の奴もかなりショックを受けていた。 もう関わっては来ないだろう」
奉太郎「俺ももし言われたとしたら、立ち直れそうに無い……そのくらい酷かった」
える「……」
やめてくれ、そんな視線を向けないでくれ。 悪いのはそう、伊原だ。 伊原が気にしなければこんな事にはならなかったんだ。 だから俺は悪くない。
と必死で心の中で言い訳をするが、千反田には通じていない様子だった。
476: ◆Oe72InN3/k 2012/09/17(月) 18:58:34.70 ID:E5Os0heU0
奉太郎「ま、まあそういう訳だ。 だからもう大丈夫だ」
摩耶花「……うん、分かった。 でも、ちーちゃんがそこまで言うなんて……想像できないな」
そりゃそうだ、俺も想像できない。
里志「まあ、さ。 皆無事だったし、結果オーライだよ」
里志「って事で文集について話し合おうよ! 当初の目的はそれだった訳だしね」
える「え、ええ。 そうですね」
里志のナイスフォローもあり、この場はどうやら収まった。 しかし千反田から放たれている正体不明の圧力は俺に圧し掛かっていた。
……とりあえず、後で謝ろう。
摩耶花「おっけー、気持ち切り替えていこ!」
伊原もどうやら納得した様子だ。 それならばそれに乗るしかない。
伊原の発言で、文集についての会議が始まる。 あれをこうしたらいいとか、内容の順番はこうしたらいいとか。
俺は合間合間で「ああ」とか「それがいいな」とか適当に口を挟むだけだったが。
そして、珍しくこの会議をいつまでも続けていたいと願っていた。 これが終われば勿論帰る事になるだろう。
伊原と里志は付き合っている、それは周知の事実である。 つまりは一緒に帰るのが普通……いつも通りだ。
となると、残るのは俺と千反田。 俺は今更になって先ほど伊原にした言い訳を後悔し始めている。
……手遅れだが。
477: ◆Oe72InN3/k 2012/09/17(月) 18:59:12.97 ID:E5Os0heU0
~帰り道~
嫌な事を待つ時間という物は、とても早く過ぎ去ってしまう。
以前里志と会話をした時は楽しい事はすぐに終わる……みたいな事を言っていた気がしたが、それに一つ付け加えたい。
回避したい事を待つ時間は、すぐに来る。 という事を。
そんな訳で今は千反田と二人で歩いている。 無言で。
奉太郎(気まずいな……)
何か話そう、とりあえずは。
奉太郎「その、悪かった」
える「……酷いです、折木さん」
奉太郎「すまん、あれしか思いつかなくて」
える「でも、あそこまで言う必要も無かったと思います!」
それは確かに、その通り。 現に俺は少しだけあの状況を楽しんでいたのだから。
478: ◆Oe72InN3/k 2012/09/17(月) 18:59:40.05 ID:E5Os0heU0
千反田もそれに気付いていたのか、こんな事を言った。
える「折木さん、少しだけ楽しんでいましたよね」
奉太郎「い、いや……そんな事はない」
傍目から見たら俺はさぞかし怪しかった事だろう。 苦笑いをしながら顔を千反田とは反対側に動かしていたから更に怪しい。
える「……やっぱり、楽しんでいたんですね」
奉太郎「……少し、少しだけ」
える「折木さん、私はこれでも知り合いが多くいます」
突然何を言っているんだ? と思った。 会話の繋がりが俺には全く分からなかった。
える「……折木さんは人の悪口を言うのが大好きな人です」
える「……折木さんは人使いがとても荒い人です」
える「……折木さんは人の事を貶めるのが楽しくてたまらない人です」
える「私も少し……楽しめるかもしれません」
479: ◆Oe72InN3/k 2012/09/17(月) 19:00:07.86 ID:E5Os0heU0
そういうことか、こいつめ。 つまりは俺の評判はガタ落ちとなり、外に行くだけで指を指され、顔を伏せて歩くことになる。
まさか千反田も本気で言ってる訳ではないだろうが……そうだよな? 本気ではないよな?
でもとりあえずは、なんとかせねば。 俺はゆったりと暮らして行きたい。
奉太郎「……すいませんでした」
える「……嘘ですよ、冗談です」
える「折木さんには感謝しています、そんな事はとても出来ません」
良かった、やはり本気では無かった。
える「ですが、私も恥ずかしいので……あまり、言わないでくださいね」
奉太郎「あ、ああ。 分かった」
こうして普通に話していると、千反田が何に悩んでいるのかなんて全く分からなくなってくる。 とても悩みがありそうには見えない。
少しだけ……聞いてみるか。
480: ◆Oe72InN3/k 2012/09/17(月) 19:00:41.10 ID:E5Os0heU0
奉太郎「千反田」
奉太郎「その、昨日言っていた理由なんだが」
千反田は動じることも無く、俺の話しに耳を傾けていた。
奉太郎「……いつ頃になりそうだ?」
える「話せる時、の事ですね」
える「遅くても……3年生になる前に、早くても今年の終わりくらいには」
予想以上に、時間はある様だ。
奉太郎「……そうか、分かった」
俺は一つ、里志との会話から抱いていた疑問に答えを得た。
千反田はあの時一つ嘘を付いていた。 単純に考えてしまえば別にどうでもない嘘である。
しかし、俺には引っかかる事がある……それは。
里志と千反田の会話、最後に千反田が言った言葉だ。
里志の記憶が正しければ千反田は最後にこう言った。
「あまり、時間もありません」と。 それはどういう事か?
最初は俺が戻るまで時間が無いと言っているのだと思った。 しかしそれは違う。
481: ◆Oe72InN3/k 2012/09/17(月) 19:01:07.81 ID:E5Os0heU0
里志と千反田の会話……大体だが恐らく3分程だった筈だ。
里志が来る時間を入れても4分、この時点で最低でも俺が戻るまで6分の時間があった。
その状況で、あまり時間が無いと言うであろうか? 答えは否。
つまり千反田が言った言葉は、その状況から出た言葉では無い。
それはもっと大きな、いわばタイムリミット……
先ほど千反田が言った話せる時までの時間、それまでの時間があまり無い、と言う事なのだろう。
そしてその話せる時が来る時に、千反田の身に何かが起こる。 それが俺の出した答えだった。
だが、今の俺にはどうしようもない。 千反田の悩みが何かなんて皆目検討も付かない。
けど俺にとって有利な事はある。 予想以上にあった時間だ。
その時までに、俺は答えを見つければいい。 千反田に対する答えを。
今はまだ夏、冬とは程遠い。 セミの鳴き声がやかましい程だ。
しかし、懸念しなければいけない事もある。
時間が流れるのは俺の予想以上に、早いという事だ。
第15話
おわり
482: ◆Oe72InN3/k 2012/09/17(月) 19:02:56.28 ID:E5Os0heU0
以上で第15話、終わりとなります。
折り返し地点に到達しました。
乙ありがとうございます。
486: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) 2012/09/17(月) 23:03:18.30 ID:8OvpJGXNo
おつです
487: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/18(火) 18:38:23.32 ID:pccO1m4IO
おつー
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