586: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:30:20.10 ID:mwRcZwGX0
こんばんは。
第19話/第20話を投下致します。
今回の投下で第二章は終わりとなります。
587: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:31:12.06 ID:mwRcZwGX0
8月のある日。
外で喚いてるセミ達も、この暑さでは焼かれるのでは無いだろうかと俺が心配するほど……今日は暑い。
しかし俺は出かけなければいけない。 昨日の夜、悪魔の電話があったせいで。
あれは確か、俺が風呂を出た後だった。 姉貴が「千反田さんから電話きてたわよ」と言うので渋々掛けたまでは良かった。
……あいつはこんな事を言っていた。
「明日古典部で集まる事になりました」
「折木さんも勿論来ますよね」
「福部さんが何やら話したい事があるらしいです」
との事らしい。
姉貴から電話が来たと聞いたときは、またどうせくだらない事だろうとは思ったが……里志が俺たちを集めるとは少し珍しい。
それに興味もあったせいか、俺は特に考えもせず行く旨を伝えてしまった。
……今日のこの気温を知っていれば、快諾は絶対にしなかっただろう。
だが、快諾をしなかったと行っても結局は行くことになっていたのかもしれない。
『 奉太郎「古典部の日常」 目次 』引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1346934630/
588: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:31:38.81 ID:mwRcZwGX0
しかしそれでも、やはりこの暑さでは外に出る気は失せると言う物だ。
ああ……この思考をする時間……それこそ無駄かもしれない。 それに行かなければあいつは……千反田えるは家まで迎えに来てしまう可能性もある。
奉太郎「……面倒だ」
夏の気温と言う物に少しの悪態を着きながら俺は外へと繋がる扉を開けた。
ようこそ夏へ! と言わんばかりの湿気と温度。 学校へ着く前に行き倒れしてしまうかもしれない。
倒れればそのまま病院へと運ばれるだろう。 そして涼しい病室で俺は夏を過ごす。 案外良い物かもしれない。
奉太郎「……暑い」
だが意外と人間は丈夫にできている、案外倒れない物だ。
自転車で来ればある程度は快適に学校まで行けたかもしれないが、自転車は姉貴が使用中なのでそれも叶わなかった。
今決めた、里志に何かアイスでも奢って貰おう。 そのくらいの権利は俺にあるだろう。
589: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:32:11.70 ID:mwRcZwGX0
~古典部~
奉太郎「……暑いな」
摩耶花「分かってるわよ、一々言わないで」
奉太郎「……寒いな」
摩耶花「気休めにもならないから、やめてくれない?」
奉太郎「……」
摩耶花「気まずいから何か喋ってよ」
理不尽だろ、これは。
奉太郎「……それで、後の二人はどうした」
摩耶花「さあ、まだ時間まで少しあるし……そろそろ来るんじゃない?」
千反田は百歩譲って許すとして、里志は集めた側……俺に言わせれば加害者だ。 何故あいつが居ない。
奉太郎「帰ってもいいか」
摩耶花「良いわけないでしょ」
奉太郎「……はぁ」
約束の時間まではもう少しある、もし5分過ぎても来なかったら帰ろう。 家でアイスでも食べたい。
590: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:32:41.92 ID:mwRcZwGX0
奉太郎「……」
摩耶花「……」
奉太郎「来ないな」
摩耶花「見れば分かるわよ」
奉太郎「じゃ、またな」
摩耶花「ちょっと、あんた本当に帰るの?」
奉太郎「俺はそこまで気が長くないからな、時間は無駄にしたくない」
摩耶花「よく言うわ……ほんと」
伊原を無視し、ドアに手を掛け開く。
える「おはようござい-----ひゃ!」
奉太郎「うわっ!」
丁度ドアを開けたところで、千反田が飛び込んできて俺とぶつかる。 千反田は見事に後ろへと倒れていた。
奉太郎「……大丈夫か」
える「あ、はい。 なんとか」
そのまま千反田に挨拶をして帰るわけにもいかず、仕方なく俺は再び席に着いた。
591: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:33:08.19 ID:mwRcZwGX0
摩耶花「帰るんじゃなかったの?」
伊原は少し声を大きくし、俺に向け言ってくる。
える「え、駄目ですよ。 福部さんが来るまで待ちましょう」
狙って言ったな、伊原め。
奉太郎「……分かったよ、だがあまりにも来なかったら帰るからな」
すると伊原が俺の耳に顔を近づけ、小さく言葉を発した。
摩耶花「……ちーちゃんには甘いんだね」
奉太郎「……俺は酷く後悔している」
摩耶花「……何を?」
奉太郎「……お前に話したことを」
摩耶花「……誰にも話さないわよ」
奉太郎「……そうか、あまり期待はしないでおく」
える「あれ? 何を話しているんですか?」
摩耶花「え、ああっと……」
奉太郎「な、何でもない」
える「なんでしょう……気になります」
さあて、どう回避しようか。 伊原のせいで全く持って面倒な事になってきたぞ。
592: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:33:36.23 ID:mwRcZwGX0
里志「みんなー遅れてごめーん!」
える「あ、福部さん。 お待ちしてました」
たまにはタイミングがいい事もあるな、里志は。 アイスを奢って貰うのは簡便してあげよう。
奉太郎「遅いぞ、何をしていた」
里志「色々あってね、僕も大変なんだよ」
摩耶花「何かあったの?」
里志「いや……ちょっと、ね」
える「なんでしょう……もし私達に相談できることでしたら……」
奉太郎「どうせくだらない事だろ」
える「酷いです! 折木さん!」
える「もし、福部さんが思い悩んでいたら助けてあげるのが仲間という物ですよ!」
これが友情と言う物なのか、なるほど。
摩耶花「それで、ふくちゃんどうしたの?」
里志「え? 寝坊した」
593: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:34:04.09 ID:mwRcZwGX0
この時の千反田の顔は中々に面白かった。 今まで見たことの無いようなじっとりとした目で里志を見ていたのだから。
奉太郎「……里志、今日俺たちを集めた用事はなんだったんだ」
里志「あ、そうそう。 実はね」
里志「皆で旅行にいかないかな?」
奉太郎「行かない」
里志「……千反田さんはどうかな?」
える「旅行、ですか?」
里志「そそ、折角の夏休みだしね」
摩耶花「いいとは思うけど、どこに行くの?」
里志「夏と言ったら海! 沖縄に行こう!」
える「沖縄ですね! 行ってみたいです!」
摩耶花「沖縄って言っても……そんなお金無いわよ」
奉太郎「そうだそうだ、お金なんて無いぞ」
やはり、里志にはあげるべきではなかった。 回りまわって結局は俺が被害を受けることになるとは想像もできなかった。
594: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:34:30.27 ID:mwRcZwGX0
里志「ホータローは知ってるでしょ。 沖縄に行く方法」
える「え、そうなんですか?」
奉太郎「さあな、検討もつかん」
里志「おっかしいなぁ、ホータローが居なければ行けなかった筈なんだけど……」
摩耶花「ちょっとふくちゃん、早く説明してよ」
里志「チケットさ」
里志「もう大分前だけどね、ホータローに貰ったんだ」
里志「それもぴったし4枚! 僕はこれをメッセージだと思ったよ」
奉太郎「……どんなメッセージだと思ったんだ」
里志「皆で旅行に行きたいっていう、ホータローのメッセージさ」
奉太郎「やっぱりそれ返せ」
里志「人に一度あげたものを返せって言うのはどうかと思うよ? ホータロー」
摩耶花「折木もたまにはいい所あるじゃん。 行こう、皆で」
奉太郎「俺はこの為に渡した訳では無い、返せ」
える「福部さんの言うとおりです! 一度あげた物を返せというのはあまり良くないと思いますよ。 折木さん」
595: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:35:09.21 ID:mwRcZwGX0
奉太郎「……沖縄に行きたいだけだろ、千反田」
える「そ、そんな事はないですよ!」
える「別に沖縄に行きたいとは……思っていないです」
奉太郎「そうか、残念だったな」
奉太郎「里志、千反田は沖縄に行きたくないそうだ」
奉太郎「とても心苦しいが、3人で行こう」
俺がそう言い、里志の方に顔を向けると里志は何故か全てを悟った様な顔を俺に向ける。
里志「そうなの? 千反田さん」
える「い、いえ! 私は……」
える「……行きたいです」
里志「らしいよ、ホータロー」
里志「……良かった、これで全員参加だね」
ああ、俺は嵌められたのか。
この古典部には俺の味方など最初から居なかったのだ。
596: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:35:35.37 ID:mwRcZwGX0
奉太郎「やはり、奢ってもらう事にした」
里志「え? なんの話しだい?」
奉太郎「気にするな、その内分かるから」
里志「なんか、嫌な感じだね。 とても嫌な感じがする」
摩耶花「そ、れ、で!」
摩耶花「いつ行くの?」
里志「うん、それも決めないとね」
里志「三泊四日あるから、満喫できそうだよ」
里志「じゃあ、予定を決めていこうか」
597: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:36:48.10 ID:mwRcZwGX0
~沖縄~
結局は、こうなる。
里志「着いたね! 沖縄!」
奉太郎「まずは旅館に行こう、荷物を置きたい」
沖縄までは飛行機で来たのだが、あの乗り物は俺を苦しめる為に存在しているのかもしれない。
あれに年がら年中乗っている姉貴を少し、尊敬する。
摩耶花「それにしても、旅館もちゃんと付いてるチケットなんてすごいね」
摩耶花「ほんのちょっとだけ、折木に感謝しておくわね」
奉太郎「形のある物をくれ」
里志「まあまあ、とりあえずは旅館に行こうか」
里志「それから観光でもゆっくりすればいいしさ」
奉太郎「ああ、そうだな……それより」
奉太郎「あいつは何をしているんだ」
俺はそう言い、首で千反田を指す。
里志「千反田さんは、多分……興味を惹かれる物があるのかもね」
確かに、さっきから静かに周りをくるくると見回している。 目を輝かせながら。
奉太郎「おい、千反田」
える「え? あ、はい」
奉太郎「行くぞ、観光なら後でゆっくりすればいい」
える「あ、そうですね。 分かりました」
598: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:37:14.35 ID:mwRcZwGX0
~旅館~
俺達が泊まる事となっている旅館は、高校生が旅行で泊まるにはとても豪華すぎる程だった。
える「わあ、素敵な旅館ですね」
千反田がそう言い、俺に笑顔を向けてくる。
奉太郎「そ、そうだな」
不意打ちの笑顔に、少し動揺してしまった。
里志「僕達の部屋は……ここだね」
里志「二部屋あるから、僕とホータローは左の部屋で、千反田さんと摩耶花は右の部屋でいいかな?」
摩耶花「うん、じゃあ一回荷物置いてくるね」
える「また後で」
伊原と千反田はそう言うと、自分達の部屋へと入って行った。
俺と里志はそれを見て、同じく自分達の部屋へと入る。
里志「それにしても、随分と立派な所だね」
奉太郎「そうだな、一応姉貴にも何かお土産買って行ってやるか」
里志「うん、それがいい」
俺と里志は荷物を置くと、その場に座り込む。
599: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:38:09.35 ID:mwRcZwGX0
里志「もう、夏も終わりが近いね」
里志が思い出したかの様に、口を開いた。
里志「この旅行が終われば、すぐに秋が来そうな気がするよ」
奉太郎「そうか? まだ結構時間があるだろ」
里志「あっという間さ、ついこないだまで中学生だったんだ」
里志「それが今は高校生、この分だと大人になるのもすぐかもね」
奉太郎「……そう、かもな」
少しの沈黙、窓から吹き込んでくる風が俺の髪を揺らしている。
里志「そうそう、それよりさ」
里志「ホータロー、千反田さんと何かあった?」
奉太郎「……お前もか」
里志「お前も? って事は摩耶花に何か言われたね」
奉太郎「ああ、最近仲が良くなった様に見えるとかなんとか」
里志「はは、それじゃあ僕と摩耶花は一緒の意見だ」
奉太郎「……時間が経てば、自然とそうなるだろ」
奉太郎「俺とお前だって最初から仲が良かった訳ではないしな」
600: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:38:41.21 ID:mwRcZwGX0
里志「まあ、そうだね。 それは確かにそうだよ」
里志「でも、ちょっと違うと言うか……うーん、なんて言えばいいのかな」
そして、次に里志が口を開こうとした時に扉越しから声が掛かる。
摩耶花「ちょっと、いつまで休んでいるのよ」
摩耶花「まだ夜まで時間あるしどっか行かない?」
里志「……この話は、また今度にしようか」
奉太郎「……分かった」
里志「ごめんごめん! 一回中に入って計画立てようか?」
里志はそう言うと、扉を開け中に伊原と千反田を入れる。
二人が中に入り座ると、そこを中心として里志が持ってきた地図を開いた。
里志「やっぱりさ、沖縄と言ったら首里城じゃない?」
摩耶花「あ、ちょっと行って見たいかも」
える「私は水族館に行ってみたいです! 色々と周る所が多そうですね」
三人がそんな事を話しながら、盛り上がっていた。
601: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:39:21.08 ID:mwRcZwGX0
ああ、駄目だ。 やはり俺は……こういうのは合っていない。
こんな感じは前にもあった、いつだったっけか。
……図書室で話した時か、あの時は確か……本の謎で盛り上がる三人を眺めていたんだった。
俺がこいつらの様に他愛の無い事で楽しめる様には多分、ならないだろう。
特に行きたい場所等があった訳でも無く、今回の旅行もただの成り行きだったのだ。
少しだけ自分は薔薇色なのだろうか? と前に思った事があった。
けどやはり、本質的な部分は変わらない。
俺には、灰色の方が似合っているという物だ。
摩耶花「ちょっと、折木?」
奉太郎「……ん、すまない」
その思考を、伊原によって遮られた。
摩耶花「またあんた、くだらない事考えてたんじゃないの?」
奉太郎「……ああ、そうだな」
摩耶花「……? ま、いいわ」
摩耶花「とりあえず行く場所は決まったから、準備したら外でいいかな?」
里志「うん、了解」
える「分かりました、では一度戻りますね」
奉太郎「ああ、また後でな」
……そんな事を考えていても仕方ないか。
折角の旅行だ。 少しは楽しもう。
602: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:39:59.96 ID:mwRcZwGX0
それからは、良く分からない城や沖縄の街中を四人でぶらぶらと歩いた。
夏の日差しは神山よりも随分と乾いていて、大分爽やかだったと思う。
沖縄特産の物を食べたり、所々にある観光名所を回っていたらあっという間に辺りは暗くなっていた。
里志「早いなぁ、もう暗くなってるよ」
摩耶花「明日もあるんだし、まだ時間はたっぷりあるでしょ」
える「そうですね。 明日は是非、水族館へ行きたいです」
奉太郎「よっぽど気に入ったのか、水族館が」
える「はい!」
里志「はは、じゃあ明日は水族館でいいかな?」
摩耶花「うん、異論無し!」
そんなこんなで早くも明日の予定は決まった様だ。
奉太郎「分かった、じゃあそろそろ戻るか」
俺の言葉を聞き、三人は旅館に向かって歩き始める。
前を歩く三人はどうやら、今日の事で話をしている様だった。
奉太郎(……疲れたな)
少し、歩きすぎた。 旅館に着いたらすぐにでも寝たい気分だ。
603: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:40:26.73 ID:mwRcZwGX0
夜の気温は心地が良いものだ、海が近いせいもあるのだろうか? 吹いてくる風が気持ちいい。
そんな風が一際強く吹いたとき、俺の少し前を歩く千反田が振り返る。
にこりと笑い、歩みを止め、俺の横に並んで歩き始めた。
奉太郎「……どうした」
える「いえ、折木さんが少し疲れている様子だったので」
奉太郎「そうか? いつも通りだが」
える「それならいいんですが」
える「どうですか? 沖縄は」
奉太郎「……いい所だとは、思うかな」
える「何か意味がありそうな言い方ですね」
奉太郎「まあな」
える「それはどういう意味でしょうか?」
奉太郎「敢えて言うなら、地元の人が何を言っているのか分からないって事だ」
える「……ふふ、確かにそうですね」
える「暮らすのは少し、苦労しそうです」
奉太郎「千反田は沖縄に住みたいのか?」
604: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:40:52.25 ID:mwRcZwGX0
える「い、いえ。 私には家があるので……」
ああ、そうだった。 これは、しまったな。
奉太郎「……すまん」
える「何故、謝るんですか?」
える「前にも言いましたが、私は自分の場所をつまらない所だとは思っていませんよ」
える「楽しい場所、という訳でもないですが……」
だったら、だったらなんで。
何でそんな悲しそうに言うんだ。 お前は外を見たいんじゃないのか? と言おうとする。
だがそれは、言葉には出せなかった。
俺はとても、千反田の人生に口を出せるほどの人間ではない。
人から尊敬される程の人間でもない。 だから言葉に出せなかった。
奉太郎「……旅館、見えてきたぞ」
える「あ、ほんとですね。 明日は水族館、楽しみです!」
605: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:41:20.34 ID:mwRcZwGX0
~旅館~
伊原と千反田と別れ、俺と里志は自分達の部屋へと戻ってきた。
奉太郎「……ふう」
里志「よっぽど疲れたみたいだね、まあ……それもそうか」
俺は窓際に置かれていた椅子に腰を掛ける。
吹き込んでくる夜風が俺の心を安らがせる。
里志「それで」
もう片方の椅子に里志が座り、話しかけてきた。
里志「ホータローはさ」
里志「自分が優しいと思った事はあるかい?」
さっきの話の続きではないらしい、また別の話だろう。
それより……俺が、優しいと思った事?
奉太郎「無いな」
里志「確かにそうだね、ホータローは優しくない」
無いと言ったが、改めてはっきり言われると少しムッとするな……
奉太郎「そう言うお前は自分が優しいと思うのか?」
里志「勿論! 甘すぎるくらいに優しいさ」
606: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:41:47.41 ID:mwRcZwGX0
里志の顔は、いつもの笑顔が消えていて……真剣その物だった。
言葉からしてふざけている物と思っていたが、里志の真剣な顔を見て少し驚かされた。
奉太郎「随分と自信があるな、今度伊原に聞いてみよう」
里志「はは、摩耶花に聞いたら絶対に優しくないって返って来ると思うよ」
奉太郎「……それなら優しくはないんじゃないか」
里志「うーん、どうだろうね」
奉太郎「今日のお前は、話していると疲れるな……」
里志「それは悪いことをしてしまった、じゃあ僕はお風呂に入ってくるよ」
奉太郎「ああ、俺は後で入ることにする」
里志が居なくなった後、窓から外を眺めた。
海の匂いが少しだけして、新鮮な気分になる。
奉太郎「俺が優しいか……」
奉太郎「やはり、ないな」
まだまだ先は長い、明日は水族館か。
朝が、早そうだな……
第19話
おわり
607: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:42:14.54 ID:mwRcZwGX0
以上で第19話、終わりとなります。
続いて第20話、投下致します。
608: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:42:41.49 ID:mwRcZwGX0
顔を何者かに蹴られ、目が覚めた。
頭を掻きながら起き上がる。
奉太郎(こいつは……寝相が悪すぎるな)
蹴った犯人はすぐに分かる、この部屋には俺と里志しか居ないのだから。
奉太郎(まだ4時か、少し距離を置いて寝よう)
里志と距離を置き、再び寝ようとしたのだが……
寝言がどうにもうるさい。 どんな夢を見ているのだろうか。
奉太郎(……少し、外の空気でも吸ってくるか)
眠いが、仕方ない。
戻ってもまだ里志がうるさいようだったら押入れに突っ込んでおこう。
そう思いながら扉を開け、廊下に出る。
ふと左から物音がし、そちらに視線を向けた
609: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:43:15.16 ID:mwRcZwGX0
える「あ、おはようございます」
奉太郎「おはよう、伊原の寝相は悪いのか」
える「え?」
奉太郎「……いや、なんでもない」
お互いどこに行くかを言う訳でも無く、外に出た。
旅館の裏手に回ると、海が見渡せるベンチが何台か設置されており、そこに俺と千反田は腰を掛けた。
える「折木さんって、意外と朝が早いんですね」
奉太郎「本当にそう思うか?」
える「……違うんですか?」
奉太郎「俺が起きたのは、顔を蹴られたからだ」
える「顔を? ええっと……」
奉太郎「……里志は寝相が悪すぎる」
える「あ、そういう事でしたか」
える「少し、想像できますね」
奉太郎「俺はてっきりお前も同じ様に起きたと思ったんだが」
える「私はいつも朝が早いので、自然と目が覚めました」
奉太郎「ふむ、伊原も随分と寝相が悪そうだけどな」
610: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:43:48.79 ID:mwRcZwGX0
える「そんな事はないですよ! 摩耶花さんはとても」
える「その……可愛く寝ていました」
俺は寝相が悪そうだな、と言った。
対する千反田は可愛く寝ていたと言った。
千反田はうまく否定する言葉が出なかったのだろう。 千反田も中々に苦労している様だな。
奉太郎「……少し、つまらない話をしてもいいか」
える「はい、いいですよ」
奉太郎「あの話は、まだ話せそうに無いか」
これは確認だった。 後どのくらいの時間があるのか、と。
だが、話の内容を聞きたいという気持ちも少しあったのかもしれない。
える「……すいません、まだ……できません」
える「もう少し、もう少しなんです」
千反田はそう言いながら、俺の顔を見ながら話している。
611: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:44:27.72 ID:mwRcZwGX0
える「私の気持ちに整理が付いたら、必ずお話します」
そう言う千反田の顔は、とても申し訳無さそうにしていた。
そして最後の言葉を言うときには、俺から顔を逸らしていた。
そこまで申し訳無さそうにされてしまうと、なんだか悪いことをした気分になってしまう。
奉太郎「……変な事を聞いてすまなかった」
える「い、いえ」
奉太郎「少し眠いな、俺はもうちょっと寝る事にする」
える「そうですか、私もそろそろ戻ります」
それから会話は無かった。
終始申し訳無さそうにしている千反田を見ていると、やはりこの会話はするべきでは無かったのかもしれない。
える「では、また後で」
奉太郎「ああ」
最後に挨拶を軽くすると、俺は再び部屋へと入る。
奉太郎(……押入れに押し込むか、こいつ)
俺の布団を巻き込み、とても幸せそうに里志は寝ていた。
……その後、何度か里志を押入れに入れようとするが中々うまく行かない。
仕方がないので俺が押入れで寝る事にした。
気分はどこかの青い狸である。
意外にも寝心地が良く、すぐに夢の中へと俺は入って行った。
612: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:44:54.15 ID:mwRcZwGX0
~水族館~
朝は少し面倒くさい事になってしまった。
起きたら押入れの扉は開いていて、里志と伊原が俺の事を携帯のカメラで撮っているのが最初に見た光景だ。
……携帯ではなく、スマホか。
まあそんな事はどうでもいい。 その写真を消すのに大変な労力を使ってしまったのだ。
しかし……中途半端に寝て起きたせいで、若干頭が痛い。
だが折角来ているんだ、少しくらいは我慢しよう。
あまりこいつらに、迷惑は掛けたくはない。
そして今は水族館へと来ている。
里志「この水族館は結構有名だね」
里志「大きく分けて、3つのエリアがあるみたいだよ」
摩耶花「へぇー。 どんなのがあるの?」
里志「まずは一つ目、サンゴ礁」
奉太郎「サンゴ礁? それって見ていて楽しいのか」
里志「ただサンゴを見るだけじゃないさ、そこに住んでいる魚達も一緒に見れるみたいだね」
える「は、早く行きましょう!」
里志「あはは、落ち着いて千反田さん」
613: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:45:26.44 ID:mwRcZwGX0
里志「次に二つ目、黒潮」
里志「ここが多分、一番迫力があるんじゃないかな?」
摩耶花「黒潮って言うと……サメとかかな?」
里志「そう、その通り!」
奉太郎「ほお、それはちょっと見てみたいな」
える「そうですよね! あの、早く行きましょう」
奉太郎「少しは里志の説明に耳を傾けろ……時間はあるんだし」
える「あ、す、すいません……」
里志「じゃあそんな千反田さんの為に、手っ取り早く説明を終わらせちゃうね」
里志「もう一つは深海」
える「深海……ですか」
614: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:45:59.53 ID:mwRcZwGX0
里志「そう、沖縄の周辺に住んでいる深海魚が見れるみたいだね」
里志「深海は面白いよ、普段見れない魚がいっぱいいる」
奉太郎「ま、暇はしそうにないな」
摩耶花「そうね、じゃあ行こうか?」
摩耶花「ちーちゃんも早く行きたそうだし」
える「ご、ごめんなさい。 私、楽しみで」
里志「良い事さ、ホータローにもこのくらい興味を持って欲しい物だね」
奉太郎「ふん、いいから行くぞ」
615: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:46:29.97 ID:mwRcZwGX0
~館内~
奉太郎「まずはどこから周るんだ?」
里志「そうだね……どうしようか?」
摩耶花「あ、じゃあサンゴから見たいかな」
える「はい! 行きましょう」
奉太郎「特に決まっていないなら、そこから周るか」
それにしても、随分と広いな。
前に千反田と行った所よりも2、3回り大きいのではないだろうか?
俺は少し、楽しんでいるのかもしれない。
水族館に行きたいと言った千反田には感謝しておこう。
奉太郎(千反田よ、ありがとう)
摩耶花「折木何やってるの? 置いて行くわよ」
奉太郎「ちょっとくだらない事を考えていた、行くか」
616: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:47:05.29 ID:mwRcZwGX0
~サンゴ~
摩耶花「ここは、ヒトデとかが居るのかな?」
里志「うん、そうみたいだね」
える「あ、あの。 これって触ってもいいんでしょうか?」
奉太郎「いいんじゃないか? 他の人も触っているし」
える「で、ではちょっと失礼して……」
そう言い、千反田は水槽の中に手を入れた。
える「か、可愛いですね。 」
てっきりヒトデを触るのかと思ったが、千反田はナマコを触りながらそう言っていた。
奉太郎「それが……可愛いのか?」
える「え? 可愛いと思いますが……」
里志「僕はこっちの方が好みかな」
そう言う里志が手に持つのはウニ。
617: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:47:32.26 ID:mwRcZwGX0
奉太郎「……なあ、伊原」
摩耶花「な、なに」
奉太郎「お前はあいつらが持っている物が可愛いと思うか?」
摩耶花「なんか嫌だけど、折木と思っている事は一緒だと思う」
奉太郎「そうか、少し安心した」
しかし放って置いたらいつまでも里志と千反田は夢中になって、他の所に回れなくなってしまう。
奉太郎「おい、そろそろ行くぞ」
二名とも、渋々と言った感じで水槽から離れて行った。
でも確かに、あのウニやナマコの水の中で優雅に暮らしている生き方は学べる所が大いにあるだろう。
省エネに終わりはないのだ。
618: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:47:58.23 ID:mwRcZwGX0
里志「ええっと、ここは熱帯魚かな?」
奉太郎「みたいだな」
少し大きめの水槽には、色々な種類の熱帯魚達が居た。
摩耶花「……かわいいなぁ」
そう呟く伊原の顔は、とても子供っぽく見えた。
伊原は元々童顔であるが……この時は本当に中学生……ひょっとしたら小学生にも見えた。
える「本当ですね、可愛いです」
える「で、でも。 この大きなお魚は小さなお魚を食べてしまわないのでしょうか?」
奉太郎「……」
想像してみた。
客がたくさん見ている中で、食べられていく小さな魚達。
奉太郎「いや、ないだろ」
619: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:48:25.08 ID:mwRcZwGX0
える「そうなんですか、なら良かったです」
摩耶花「わぁ……」
……今度は伊原か。
奉太郎「いつまで見ている、次に行くぞ」
俺がそう言うと、伊原は俺の方を睨み付ける。
なんというか、この態度こそが里志と千反田とは違うのだろう。
そして俺はふと思う。
何故、憎まれ役が俺なのだろうか。
里志「まだ他にも小さなエリアがあるみたいだけど、違う所に移ろうか?」
える「ええ、そうですね。 他のエリアも気になります!」
摩耶花「うん、どうせ来たならざっとでも全部見たいもんね」
奉太郎「んじゃ、最初の場所に一回戻るか」
620: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:48:51.11 ID:mwRcZwGX0
~館内~
摩耶花「次はどこに行こうか?」
奉太郎「旅館に行こう」
摩耶花「……ちょっと黙っててね」
奉太郎「……ああ」
これが多分、気のいい奴だったら「そうだ! 旅館に行こう!」となるのだろうが、伊原相手では絶対にならない。
里志「あ、じゃあ次は黒潮の所に行かない?」
える「大きなお魚がいる所ですね! 行きましょう!」
ま、否定する理由も無い。 流れに乗って行くか。
摩耶花「おっけー!」
621: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:49:52.65 ID:mwRcZwGX0
~黒潮~
奉太郎「……すごいな」
とても巨大な水槽の中に、サメやマンタが居る。
迫力は物凄い物がある、これは……
える「……すごいですね」
千反田も思わず声を漏らしていた。
摩耶花「うう……ちょっと怖いね」
える「……可愛いです」
え? これも可愛いに入るのか?
里志「やっぱりこうでなくちゃね! 水族館に来たからには!」
里志「このでっかい水槽を見ていると、自分達が水槽の中にいるんじゃないかって錯覚しちゃうよ」
える「……来て良かったです、本当に」
奉太郎「そうだな、これは来て良かったと思う」
摩耶花「折木がそんな事言うのって、珍しいね」
奉太郎「……俺も普通に感動とかするからな、言っておくが」
里志「え、そうだったの?」
622: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:50:25.84 ID:mwRcZwGX0
こいつは。
奉太郎「それは冗談なのか? 本気で言っているのか?」
里志「いや……割と本気だったけど……」
さいで。
える「このガラスが割れたら……すごい事になりそうですね」
突然割れるガラス、逃げ惑う人々。
そしてサメは人々を食らい尽くすのだ。
いや、確かこのサメは人にあまり危害を加えないとか言っていた気がする。
奉太郎「まあ、割れないだろ」
える「……そうですか、それなら良かったです」
摩耶花「ちーちゃん、折木ー! 次行くわよ」
俺は渋々、巨大な水槽から離れる。
あ、伊原や千反田や里志はこういう気持ちだったのか。
さっきは悪いことをしてしまったな……
623: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:51:38.48 ID:mwRcZwGX0
~館内~
奉太郎「次はどうする?」
里志「うーん、僕と摩耶花は行きたい所に行っちゃったしね」
摩耶花「ちーちゃんに決めてもらおうか? 折木に聞いてもろくな事無いし」
悪かったな、ろくな事しか言えないで。
奉太郎「でも行ってない所はあと一つだろ? なら別に決めなくてもいいんじゃないか」
里志「あ、確かにそうだね。 じゃあ行こうか?」
える「あ、あの」
千反田が何かを言いたそうに、既に次に向かい歩いている俺達に声を掛ける。
摩耶花「どうしたの? ちーちゃん」
える「……すいません、少しはしゃぎすぎたみたいで……疲れてしまいました」
える「旅館に、戻りませんか?」
里志「意外だな、千反田さんがそんな事を言うなんて」
摩耶花「でも確かにちーちゃん、すごく楽しんでたもんね」
奉太郎「……」
里志「ま、じゃあ戻ろうか?」
摩耶花「うん、大分時間も経っていたみたいだしね」
624: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:52:23.40 ID:mwRcZwGX0
……何かおかしいだろ、これは。
俺が言った時と変わった事は……無い。
ここまで来ると自分自身が少し、かわいそうに思えて仕方ない。
だが、旅館に戻れるならまあ……いいか。
そして俺たちは、旅館へと戻って行った。
625: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:52:56.38 ID:mwRcZwGX0
~旅館~
伊原と里志は少し買い物をすると言って、二人で出て行った。
一度は俺と里志の部屋に集まった四人だったが、今は俺と千反田しか居ない。
奉太郎「それにしても、珍しいな」
える「何がです?」
奉太郎「お前が疲れたって言った事だ」
える「あ」
える「あれはですね、少しだけ……嘘だったんです」
奉太郎「ん? どういう意味か教えてくれ」
える「疲れたというのは本当です。 ほんの少しだけでしたけど」
える「本当はですね、少し、その」
える「折木さんが辛そうに見えた物で」
626: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:53:27.74 ID:mwRcZwGX0
奉太郎「……そうか」
える「どこか、具合が悪かったんですか?」
奉太郎「いや……少し頭が痛かっただけだ」
奉太郎「別にそこまでしてくれなくても……良かったんだがな」
素直にお礼を言えない自分に少し、腹が立ってしまった。
える「そうでしたか、では余計なお世話でしたね……すいません」
奉太郎「なんでだ」
える「え?」
奉太郎「悪いのは俺だ、何で俺を責めない?」
える「何故、ですか……自分でもちょっと、分かりません」
える「でも、折木さんは悪くないですよ」
627: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:53:54.97 ID:mwRcZwGX0
奉太郎「……そうか、すまなかったな」
奉太郎「少し、一人にしてくれるか」
俺が変な事を言ってしまうのは、頭が痛むからだろう。
そう思わないと、どうしようもなかった。
える「はい、分かりました」
える「それでは折木さん、お大事に」
千反田はそう言うと、俺の部屋の扉を閉めようとする。
奉太郎「……千反田」
聞こえるか聞こえないかくらいの声だったが、しっかりと聞こえていた様だった。
える「はい? どうかされましたか?」
奉太郎「その、ありがとな」
える「……はい!」
俺は千反田のその声を聞くと、ゆっくりと瞼を下ろす。
ああ、やはり頭が痛む。
旅館まで戻ってきたのは、正解だった。
少し、寝よう……
628: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:55:13.73 ID:mwRcZwGX0
寝たのは確か夕方だったが、俺はそのまま朝まで眠っていた。
その日が確か二日目だったから、今日が終わればもう帰らなければならない。
飛行機は朝の予約となっている、実質的には今日が最終日か。
今日は朝から沖縄市内を全員で周り、お土産やら特産品等を食べ歩いたりした。
そして夕方になって日が傾き始めたところで里志が思い出した様に言った。
里志「そういえば……海に行って無くない?」
俺達はその言葉でようやく、気付けたというのがあれだが……
だがもう夜になる、諦めるしかないだろうと俺が言ったのだが千反田が納得しなかった。
える「では、海辺で花火はどうでしょうか?」
との提案を出してきたのだ。
勿論これには里志と伊原は大賛成。
俺も否定する必要も無いので賛成し、今は海へと来ている。
629: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:55:48.68 ID:mwRcZwGX0
~海~
買いすぎた。
何を買いすぎたかと言うと……無論、花火をだ。
これがいい、これもいい、とやっている内に、とても四人で使うには多すぎる量の花火となっていた。
かれこれ一時間もやっているのに終わりがまだ見えない。
俺はそれに飽き、少し離れた所で座り込む。
10分ほどそうやって眺めていたら、里志も花火に飽きたのかこちらにやってきた。
里志「隣、いいかい?」
奉太郎「ああ」
そう返事をすると、里志は俺の隣に腰を掛ける。
里志「この前の話の続きでもしようか」
この前の話……ああ。
奉太郎「俺と千反田が仲良くなったとか、そんな話だったか」
630: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:56:23.05 ID:mwRcZwGX0
里志「うん、その話さ」
里志「それで、どうなんだい?」
奉太郎「どう、と言われてもな」
奉太郎「まあ、お前達から見ればそう見えるのかもな」
里志「ホータロー自身はそれを感じているんだろ?」
奉太郎「どうだろうな、自分の変化は良く分からんからな」
里志「……僕は回りくどいのは嫌いだからね、単刀直入に聞くよ」
里志「ホータローは、千反田さんの事をどう思っているんだい?」
伊原はどうやら、本当に誰にも言っていない様だった。
里志が知らないという事はそうなのだろう。
奉太郎「前に、伊原にも同じ様な事を聞かれたな」
里志「はは、摩耶花は結構勘が鋭いからね。 僕は常日頃から用心しているよ」
里志「……それで、ホータローは摩耶花の質問になんて答えたのかな?」
631: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:56:57.20 ID:mwRcZwGX0
奉太郎「……言ったさ」
奉太郎「千反田の事が、好きだと」
里志「……やっぱりそうか」
里志「僕はさ、意外性がある人間が好きなんだ」
奉太郎「つまり、普通に人を好きになった俺は好きになれないって事か」
里志「……まさか、逆だよ」
奉太郎「……逆?」
里志「僕にとってはね、何事にも興味を示さないホータローこそが普通なんだ」
里志「だからそんなホータローが、人を好きになったって事が意外な事なんだよ」
里志「違うかい?」
奉太郎「灰色の俺が普通だって言うなら、そうかもな」
632: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:57:44.06 ID:mwRcZwGX0
里志「それは冗談なのかな?」
奉太郎「そんなつもりは無いが」
里志「……いや、そうだね」
里志「確かに今のホータローは灰色だよ、間違い無い」
奉太郎「なら、少し安心した」
里志「少なくとも今は、だけどね」
里志「それを決めるのはホータロー自身さ、周りから見たらどうこうって話じゃない」
奉太郎「なら俺が自分は薔薇色だと思えば、そうなるのか?」
里志「それも少し違うね、その内分かると思うよ」
奉太郎「今のままで十分だ、変化なんて……いらない」
里志「……それは、千反田さんに関しても?」
奉太郎「分からん、まだ答えが出ていないんだ」
里志「そうか……まあゆっくりと決めなよ、時間は沢山あるんだからさ」
そうだろうか。
奉太郎「いや……あまり、無いかもしれない」
里志「どういう事だい?」
633: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:58:12.93 ID:mwRcZwGX0
奉太郎「時が経つのは早いって事さ」
里志「前にした話だね、それは」
里志「確かにそれなら、少し焦らないといけないかもしれない」
奉太郎「ああ、そうだな」
奉太郎「……少なくとも、今年が終わる前に……答えを出さないといけない気がするんだ」
里志「はは、応援しているよ。 ホータロー」
奉太郎「ああ、そうだ。 一つ聞きたい事があるんだった」
その時、波が強く打ち付けられた。
奉太郎「-------、-------、---?」
里志「-------、---、----------」
俺と里志の声は、波の音に掻き消された。
だが里志の返答はしっかりと聞こえていた、少し、少しだけだが。
……夜も遅い時間になってきたな、風は大分冷たい。
そうか、もう……夏も終わりか。
若干の肌寒さを覚え、一つの夏が終わるのを俺は感じていた。
第20話
二章
おわり
634: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 20:58:40.22 ID:mwRcZwGX0
以上で第20話、二章の終わりとなります。
乙ありがとうございます。
635: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/22(土) 20:59:26.03 ID:CD54ipfe0
乙でした
女の子と旅行とか羨ましい
636: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 21:00:19.96 ID:mwRcZwGX0
次 回 予 告 ! !
637: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 21:01:42.08 ID:mwRcZwGX0
ついに恋合城へとたどり着いた古典部員達……
しかし、そこには彼等を待ち受ける4人の刺客が!!
遠垣内「俺が司るのは統率……この部屋に来たのが運の尽きだったな」
目的の文集を無事、奪えるか!?
沢木口「ちゃお! それじゃあ早速、死んでもらうね」
無事に姉の供恵を救うことができるのか!?
羽場「ここまで来たのは認めてやろう、だがここを簡単に突破できると思うなよ?」
彼等は、えるが掛けられてしまった呪いを解くことができるのか!?
中城「わはは、久しぶりだな! お前らとは一度戦って見たかった!!」
そして最後に待ち受ける人物とは!?
入須「ご苦労、よくここまできたな」
入須「早速ですまないが……」
入須「入須の名の元に命ずる」
入須「------------地に這え!!」
える「っ! ……この、能力は!?
里志「まさか、重力を!?」
入須「違うな、私の能力は……」
入須「絶対命令--------それが私の力だ」
奉太郎「そ、そんな無茶苦茶な……!」
入須「くくく……私は女帝だぞ? 貴様らに勝ち目等無い」
その先に……ある物とは!?
638: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 21:02:12.00 ID:mwRcZwGX0
間違えました
639: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 21:03:25.87 ID:mwRcZwGX0
古典部の日常/第三章
夏が終わり、季節は秋へと移り変わる。
奉太郎は、答えを出すことができるのだろうか?
入須「君に、それを言う権利があるのかな?」
日常は日々消費されて行く。
摩耶花「ちーちゃんは……私の友達だ!!」
行き着く先には、何があるのか。
里志「それは違う、僕が言いたかったのはね」
それは幸せか、或いは……
奉太郎「考えろ、思い出せ……一字一句、繋がる筈だ」
時間は無い、結末は……
える「……さようなら、折木さん」
古典部の物語は、最終章へと……
640: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/22(土) 21:03:58.73 ID:CD54ipfe0
能力バトルものか…
わくわくしてきたぞ!
641: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/22(土) 21:05:51.58 ID:CD54ipfe0
え?
ホントに間違い…?
643: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 21:09:32.54 ID:mwRcZwGX0
すいませんわざとです
645: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/22(土) 21:21:49.54 ID:9GMviozWo
おつー
ちーちゃん…
646: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/22(土) 22:02:54.17 ID:s8tlA4OVo
乙乙
そう言えば30話構成って言ってたから、残りあと10話くらいなのか…
なんか早いなぁ…
終わったら>>639の内容で書いてもいいのよ
647: ◆Oe72InN3/k 2012/09/22(土) 22:12:36.50 ID:mwRcZwGX0
a
>>639は純粋な予告です。
分かり辛くてすいませんほんと……
648: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) 2012/09/22(土) 22:13:06.52 ID:X5nmWoeAO
あと10話か、私、気になります!
そして完結したら入須先輩メインで書いてもいいんだよ
649: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/22(土) 23:01:29.32 ID:9GMviozWo
そんなわかりづらくないでしょww
にしても、アニメ終わっちゃったし新規ssも減るだろうなあ
ちょっと残念
655: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/23(日) 11:34:06.87 ID:G94z4zFOo
入須に勝つためには桁上がりの四名家の力が必要なのか…
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- 2012/09/22(土) 23:45:00|
- 氷菓
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