710: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:06:24.36 ID:On4qT+Dm0
皆で氷菓のSSを作る仕事をしましょう。
第23話投下致します。
711: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:06:51.72 ID:On4qT+Dm0
今日はもう、何もする気が起きません。
どうして、何故、と言った感情が私の心を埋め尽くしていました。
でも、私は聞いて居たから。
折木さんが前に、私の事が好きだと言っていたのを、聞いてしまったから。
あれは……私の勘違いだったのでしょうか。
それとも、折木さんは自分では気付いていませんが……意外と鋭い人です。
あの時、私が居るのを知っていてそう言ったのでしょうか。
そして、あの言葉も嘘だったのでしょうか。
私は見事に、今までずっと……騙されていたのでしょうか。
そんな事を思ってしまう自分は、最低なのかもしれません。
『 奉太郎「古典部の日常」 目次 』引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1346934630/
712: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:07:18.11 ID:On4qT+Dm0
でも、私は……
私は、もっと折木さんと一緒に居たかった。
残りの時間を少しでも、一緒に過ごしたかった。
それすらも、叶わぬ望みと言うのでしょうか。
今頃、お二人は何をしているのでしょう。
一緒に笑っているのでしょうか。
それとも、どこかのお店でお茶をしているのでしょうか。
気になります、気になりますが。
……私にはもう、解決してくれる人はいないのかもしれないです。
布団の中でうずくまっていると、全てを忘れられそうで……ちょっぴり、本当にちょっぴりですけど、心が安らぎました。
713: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:07:51.23 ID:On4qT+Dm0
える「……うっ……ううっ」
いつまでも泣いていてはいけません。
文化祭も……あるんです。
私は部長なんです、少しでもしっかりとしないと。
この気持ちを引き摺っていては……ダメです。
でも今日は、今日だけは……
少しだけ、泣かさせてください。
える「うっ……おれ……き、さぁん!……」
今まで、感じていた事が無いと言えば嘘になります。
私は、好きでした。 折木さんの事が。
でも……入須さんと仲良くしている折木さんを見て、ここまで胸が苦しくなるとは思いもしませんでした。
私の中で、折木さんという方がどれほどの存在だったのか、今になって良く分かります。
714: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:08:17.75 ID:On4qT+Dm0
一緒に遊園地に行きました。
摩耶花さんを傷つけた私を、助けてくれました。
時間が遅くなると、家まで私を送ってくれました。
風邪が治った次の日に、我侭を言う私に付き合って水族館へ連れて行ってくれました。
お弁当を一緒に食べたりも、しました。
動物園にも行きました。
私が部室を荒らした時も、私を信じて私の計画を台無しにしてくれました。
映画を見に行きました。
沖縄にも、旅行に行きました。
そして私の持ってくる気になる事を、見事に全て解決してくれました。
他にも、いっぱい……思い出があります。
715: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:09:54.19 ID:On4qT+Dm0
あれも、それも、全て。
……全て、私が勝手に思っていた事なのでしょうか。
入須さんは、いい人です。
私にも、返せない程の恩があります。
でも……入須さんさえ、居なければ。
ふとそんな考えが浮かんできて、すぐに頭から振り払います。
……私って、最低です。
折木さんが入須さんと仲良くするのも、少し納得しました。
多分、嫌気が差したのかもしれません。
……なんだか泣き疲れてしまいました。
……少し、少しだけ……寝ましょう。
起きたらきっと……いつも通りに戻っている事を願って。
716: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:10:20.21 ID:On4qT+Dm0
~文化祭三日前~
気付けばもう、金曜日……新たな一週間が終わりそうになっていました。
あの日から毎日、夢であればと思いましたが……そんな事はありませんでした。
折木さんとは一度も会っていません。
会えばまた……少しだけ落ち着いた気持ちが崩れてしまいそうで、会えませんでした。
それはつまり……
校門から出ようとした所で、私に声が掛かります。
里志「今日も部活に来ないのかい、千反田さん」
私が、あれから一度も部室に足を運んでいない事となります。
自分では、決めたつもりでした。
私がしっかりしないと、と。
ですが、私の決心という物は随分と脆い様で、部室に足が向かうことはありませんでした。
717: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:11:06.11 ID:On4qT+Dm0
える「すいません、家の用事で」
分かりやす過ぎる嘘だと、自分でも思います。
里志「……そうかい、なら仕方がないかな」
里志「でもね、千反田さん」
里志「待ってるよ、皆」
里志「勿論、ホータローもね」
える「……やめてください」
里志「今日が文化祭前、最後の部活だよ」
里志「それは千反田さんも分かっているだろう?」
里志「来るつもりはないのかい?」
里志「後、文化祭にも来ないつもりかな……千反田さんは」
718: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:12:44.45 ID:On4qT+Dm0
える「やめてくださいと言っています!」
里志「……分かったよ、それなら僕からはもう何も言わない」
里志「けどね……まあ、これは言わなくていいかな」
つい、声を荒げてしまいました。
福部さんには謝らなければなりません、ですが……私がそう思った頃には既に、福部さんの姿はありませんでした。
私はやはり、ダメな人なのでしょう。
心配してきてくれた人を退け、私の感情だけで怒鳴ってしまいました。
今日もやはり、部室へと足は向いてくれそうにありません。
719: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:13:19.94 ID:On4qT+Dm0
~文化祭二日前~
今日は何も予定がありません、家から出る必要も……ないです。
パソコンを立ち上げ、神山高校のホームページを開きました。
そこには文化祭を目前にして、色々な工夫がこなされているのが良く分かるページとなっていました。
その華やかなホームページと違い、私の心は酷く沈んでいます。
以前、折木さんに文化祭の前には顔を出して欲しいなんて思いましたが、そんな言葉は見事に自分へと戻ってきています。
私は、どうすればいいのでしょうか。
そんな事を思っていた時、家の電話が鳴り響きました。
今日は家に私一人しかおらず、他に取る人は居ません。
私は電話機の前に立ち、電話を取ります。
720: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:14:01.38 ID:On4qT+Dm0
える「はい、千反田です」
摩耶花「あ、ちーちゃん?」
える「摩耶花さん、ですか?」
摩耶花「うん、そうそう」
このタイミングで掛けて来ると言う事は、恐らく部活の事でしょう。
摩耶花「昨日のさ、テレビ見た?」
える「え? 昨日の、テレビですか?」
摩耶花「うん、20時くらいにやってた奴かな?」
える「……いえ、見ていませんが」
摩耶花「ええ! そりゃあちょっと勿体無い事をしたね」
摩耶花「ちーちゃんが好きそうな内容だったんだけどなぁ」
える「……少し、気になります」
摩耶花「そう来ると思った! あはは」
える「ふふ、教えてくれます?」
摩耶花「勿論!」
721: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:14:27.99 ID:On4qT+Dm0
それから30分程、他愛の無い会話を摩耶花さんとしていました。
私が思っていた事を摩耶花さんが切り出す事はとうとう無く、私は受話器を静かに置きました。
摩耶花さんは恐らく、私を気遣ってくれたのでしょう。
敢えて、私が部活に行っていない事を話さなかったのでしょう。
……私は本当に、いい友達を持ちました。
私には少し、勿体無いかもしれません。
722: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:16:01.77 ID:On4qT+Dm0
~文化祭一日前~
福部さんや、摩耶花さんに言われた事によって、気分はかなり落ち着いていました。
……やはり、文化祭には行きましょう。
大丈夫、私は大丈夫です。
最近はほとんど家に篭っていたので、外の空気もたまには吸いたい気分です。
ちょっとだけ、お散歩でもしましょうか。
そう思い、身支度を済ませると家から外に出ます。
場所は……どこにしましょうか。
前の駅前には……ちょっと、行ける気分では無いです。
少し町外れでも、お散歩しましょう。
そう決めた私は、駅とは反対側に足を向けます。
所々で見える紅葉がとても綺麗で、思わず目を奪われてしまいました。
空気は新鮮で、気持ちがいいです。
そうやって30分程歩き回った所で、少し足が痛んでいる事に気付きました。
最近ほとんど家に篭っていた事が、悪い様に回って来たのかもしれません。
723: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:17:08.57 ID:On4qT+Dm0
……少し、休憩しましょう。
私は辺りを見回し、偶然にも近くにあった喫茶店へと向かいます。
看板には歩恋兎と書いてあり、私は春に入部してくれそうになった一人の子を思い出しました。
える「ここは……懐かしいですね」
意外と、家から近いところにあった様で……今度からちょっと通ってみようと思いました。
そして店の正面に着いたとき、窓際に座る二人の男女が見えました。
……私は本当に、つくづく運が悪いのかもしれません。
神様という者が居たら、私はさぞかし恨まれているのでしょう。
ああ、もう……嫌になってしまいます。
何もかも。
この一週間、必死で頭から消し去ろうとしました。
摩耶花さんと福部さんが、声を掛けてくれました。
そんな全ての事を無駄にする物が、私の目に入ってしまいました。
私が見たのは、
楽しそうに笑う入須さんと。
いつも通りの顔をしている、折木さんの姿でした。
724: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:17:47.78 ID:On4qT+Dm0
える「……もう」
える「……いや、です」
必死にそこから逃げました。
何回か転び、足はどんどん痛みます。
気付けば、雨が降ってきていました。
摩耶花さんも福部さんも、ごめんなさい。
える「……こんなの、もういやです」
私は再び転び、そこから立ち上がる気力も、無くなってしまいました。
える「……こんな世界、もういやです」
今までの全ての記憶を、消して欲しいと願いました。
高校で過ごした記憶を全て。
725: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:18:16.08 ID:On4qT+Dm0
しかし神様に恨まれているだろう私には、そんな願いが叶うはずもありませんでした。
降り注ぐ雨が私を打ちつけ、雨音は私をあざ笑っている様に聞こえます。
える「……皆さん、ごめんなさい」
える「……私はそこまで、強くないんです」
本当に、何故こんな事になったのでしょうか。
私がもっとしっかりしていれば、折木さんは私のそばに居てくれたのでしょうか。
分かりません。
ああ……私はどうやら、随分と折木さんに依存していたのでしょう。
あの日、一番最初の日。
折木さんと会わなければ、こんな事にはならなかったんです。
726: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:18:41.98 ID:On4qT+Dm0
でも、でも。
時期が少し、早まっただけだと思えば……
……ダメです。 それでも、無理な様です。
胸が張り裂けそうになるというのは、こういう事でしょうか。
……入須さんさえ、現れなければ。
これが、嫉妬という物でしょうか。
今日は少し……良い勉強になった日だったのかもしれません。
授業料は、ちょっと高すぎる気がしますが。
える「ごめんなさい、皆さん」
える「私は、行けそうに無いです」
そんな思いを、聞いてはいないだろう空に向けて放ちました。
……帰りましょう。
727: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:19:09.61 ID:On4qT+Dm0
服はびしょびしょになり、足には擦り傷が沢山付いてしまいました。
走ったせいで、足はズキズキと痛みます。
ですが、家まで着けば……しばらくは、お休みです。
そう思うと、足取りは軽くなると思ったんです。
しかし、逆に何故か……私の足は鉛の様に重くなっていきます。
家に着く頃には流す涙も流しつくし、気分は不思議と落ち着いていました。
……格好は酷いですが。
そのままお風呂を浴び、縁側に座ります。
雨は止んだようで、雲から差し込む日差しがとても綺麗でした。
える「……私は本当に、弱いですね」
728: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:19:36.34 ID:On4qT+Dm0
もっと、強くならなければ。
じゃないと……この先、どうすればいいのか分からなくなってしまいます。
える「もう、泣くのはやめましょう」
える「笑って、過ごすんです」
える「……ですがもうちょっとだけ、休ませてください」
私は最後に涙を一筋流し、泣くのを止めました。
いつまでも……泣いていられません。
文化祭には行けそうにないですが……それが終われば、後は心配事は無い筈です。
……折木さんには、あのお話をできそうには無いですね。
折木さんも望んではいないのかもしれないです。
……いけません、また泣きそうになってしまいました。
最近の私は、随分と涙脆くなった様で困ったものです。
……次に皆さんと会うときは、笑顔で会いましょう。
きっと、できる筈です。
そして、一つ……決めました。
729: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:20:02.75 ID:On4qT+Dm0
これだけは、絶対にやらないと気が済まない事を。
あの人と……入須さんと一度、正面からお話をする事にしました。
そうすれば多分、私も踏ん切りが付けられるかもしれないです。
私も仏ではありません、なので思いっきりこの気持ちをぶつけないと、どうにもなりません。
私の勝手な我侭だという事は分かっています。
ですがそれでも、入須さんには悪いですが……付き合ってもらう事にします。
入須さん、ごめんなさい。
私はこれでも、言う時は言うんです。
ですのでどうか、宜しくお願いします。
文化祭が終わった後、お話をしましょう。
……どうぞお手柔らかに、お願いします。
第24話
おわり
730: ◆Oe72InN3/k 2012/09/24(月) 23:20:55.31 ID:On4qT+Dm0
以上で第24話終わりとなります。
乙ありがとうございました。
732: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/24(月) 23:32:39.07 ID:hIC8dXato
えるたそ・・・青春だねぇ
733: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/24(月) 23:58:32.68 ID:7hDO1eWho
おつー
ちーちゃん…
入須先輩がうまいことやってくれるのに期待してるお…
734: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) 2012/09/25(火) 00:44:12.78 ID:U2zhatCAO
嫉妬すると感じる、腹の下にズシンとくる様な焦燥感と
そんな感情を抱いてしまう自分自身への嫌悪とその葛藤
あれは切ない
頑張れえるたそ
毎度毎度、丁寧な描写で感激です
次回も、私、気になります!
738: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/25(火) 17:26:11.47 ID:sSZ5X5Zm0
入須先輩との対決か…!
ところで>>729で終わったのって第23話ではないですか?
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- 2012/09/25(火) 21:47:00|
- 氷菓
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