855: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:10:35.39 ID:r8l++/tV0
こんばんは
第27話、投下致します。
856: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:11:01.77 ID:r8l++/tV0
必死に走る、追ってくる奴は居なかったが……それでも、必死に走る。
昇降口から出て、校門へ。
ふと、屋上に目を移した。
入須「……」
そこにはまだ入須が居て、遠くからだったのでよく分からなかったが……笑っていた気がした。
える「……あ、あの……! おれ……き、さん!」
途切れ途切れに、千反田が口を動かしていた。
その言葉で俺は前に向き直り、千反田に言葉を返す。
奉太郎「あとで……話す!」
奉太郎「今は……とりあえず……付いてきてくれ!」
千反田は返事をしなかったが、少しだけ強く握られた手に意思を感じる。
俺が向かった場所は、自分でも良く分かっていなかった。
目的地を決めていた訳では無かったので、当たり前と言えば当たり前かもしれない。
……どこか、静かに話せる場所がいい。
なら、あそこか。
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1346934630/
857: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:11:31.66 ID:r8l++/tV0
~川沿い~
奉太郎「……はあ……はあ……」
える「だ、大丈夫ですか?」
千反田は確か前に、長距離が得意とか言っていた。
なるほど、息が余り切れていないのはそういう事だろう。
奉太郎「……すまない、ちょっと……休ませてくれ」
える「……私は、もっと走れますが」
奉太郎「……簡便してくれ」
俺はそう言い、座り込む。
える「では、ここでお話……しましょうか」
千反田は俺の右隣に腰を掛けた。
える「……授業中だったのですが、用件はなんでしょうか?」
858: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:11:58.74 ID:r8l++/tV0
奉太郎「……今回の事だ」
える「……」
奉太郎「全部、話す」
奉太郎「それからどうするか、決めてくれ」
える「……分かりました、聞きます」
それから何分も掛けて、俺がした事……入須がした事を話す。
計画は台無しになってしまったが、そんな事は言っていられないだろう。
……結局、一番傷付いてしまったのは……千反田だったか。
俺が話をしている時、千反田はずっと俺の目を見つめていた。
俺にはそれが辛く、だが目を逸らす事もしない。
そうしなければ、全てが本当に……終わってしまう気さえしていた。
話している最中でも、千反田の表情には何も変化が無かった。
……いつもの千反田では、無いか。
俺はここまで、こいつを傷付けていたのか。
859: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:12:26.77 ID:r8l++/tV0
奉太郎「……という訳だ」
奉太郎「本当に、すまなかった」
俺は語彙が少ないとは自分でも思っていない、しかし。
そう言うしか、無かった。
える「……顔を上げてください」
千反田の言葉を受け、俺はゆっくりと下げた顔を上げる。
パチン、と乾いた音が響く。
ああ、俺は。
叩かれたのか、千反田に。
える「……終わりです」
それも、そうか。
千反田が手をあげる等、ほとんどありえない。
いや、ほとんどと言うか……今、初めて人の事を叩く千反田を見た。
当然だ、このくらい……当然だろう、俺。
860: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:12:58.12 ID:r8l++/tV0
……だがやはり、苦しいな。
たった一つの言葉が、ここまで人を苦しくできるとは知らなかった。
だが、千反田は……もっと苦しかったのだろうか。
部活にも、文化祭にも来れない程に……苦しかったのだろうか。
……出来ることなら時間を巻き戻したい。
でもそれは、都合が良いにも程があるって物だ。
俺は、罰を受けなければならない。
それもまた、仕方の無い事だろう。
……だがやはり、辛いな、本当に……苦しいな。
ふと、頬に水が垂れてきた。
雨、か?
いや……空は晴れている。
と言う事は、俺は。
861: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:13:27.21 ID:r8l++/tV0
える「……泣いて、いるんですか」
そういう事か。
奉太郎「……」
千反田の方を、向けなかった。
今あいつの顔を見たら、俺は自分が情けなさ過ぎて……どうしようも無くなってしまう。
千反田の顔を見たら、俺は多分、もっと泣いてしまうから。
える「……あの」
奉太郎「……」
言葉は返せなかった。
える「あの、勘違いしていませんか?」
える「私は、今回の事は終わりと言ったのですが……」
今回の、事?
それはつまり、どういう意味だ。
……くそ、頭が上手く回らない。
862: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:13:55.00 ID:r8l++/tV0
える「あの……折木さん?」
俺はようやく、千反田の方に顔を向ける事ができた。
奉太郎「……うっ」
だがやはり、俺の予想以上に千反田の顔が近く、思わず後ずさりしてしまう。
える「……すいません、私の言い方が悪かった様です」
える「それと、頬……大丈夫ですか?」
える「勢いで、思わず……」
える「……このくらいは、許してくれますよね」
奉太郎「あ、ああ」
それはつまり、終わりという事だろうか、今回の事については。
……良かった、良かった。
863: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:15:06.16 ID:r8l++/tV0
奉太郎「……ふううう」
思わず、体から力が抜ける。
える「……私、本当に辛かったです」
える「折木さんの顔を見たら、おかしくなってしまいそうで」
える「あの様な気持ちは、初めてでした」
える「だから、部活にも……文化祭にも、行けませんでした」
える「……でも」
える「最後には、こうなりました」
千反田はそう言うと、優しく笑った。
奉太郎「本当に、悪かった」
奉太郎「お前の気持ちに気付けなくて、俺は」
864: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:15:32.52 ID:r8l++/tV0
える「もう、いいですよ」
える「最後にはちゃんと、こうなりましたから」
える「そ、それとですね。 一つ質問です」
える「さっきの話を聞いた限りだと……その」
える「私が入須さんとお話していたのも……聞いていたんですよね?」
奉太郎「まあ……そうだが」
える「なら、その……私が、折木さんの事を」
える「あの、ああ言ったのも、聞いていたんですか」
奉太郎「……そうなる」
える「……そうでしたか」
える「一緒、ですね」
その千反田の言葉の意味が、俺には分からなかったが……言う、しかないだろうなぁ。
865: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:16:02.17 ID:r8l++/tV0
奉太郎「千反田」
える「……はい」
千反田も俺の言おうとしている事に気付いたのか、俺の顔を正面から見つめる。
奉太郎「俺は、大好きな人に……酷い事をしてしまった」
奉太郎「だが、それでも伝えずにはいられない」
奉太郎「……それを言うのは、俺には許される事では無いかもしれないが」
奉太郎「けど、俺は言う」
奉太郎「その大好きな人は、お前だ……千反田」
奉太郎「俺は、千反田えるの事が」
奉太郎「好きだ」
866: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:16:31.93 ID:r8l++/tV0
内心は、もうこれ以上ないくらいに緊張していた。
……これは本当に、省エネでは無い。
たったこれだけの言葉を言うのにも、俺の想定を遥かに上回る量のエネルギーが必要だった。
……だが、気分は良かった。
気持ちを伝えるのは、気分がいい物だった。
える「……気持ちは、私の心にしっかりと届きました」
える「ありがとうございます、折木さん」
える「でも私には、まだ答えを出せ無いんです」
える「……もう少し、もう少しだけ」
える「待って貰えますか?」
奉太郎「……ああ」
える「ありがとうございます」
867: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:17:00.55 ID:r8l++/tV0
そう言った千反田の顔は、今まで見た千反田の顔のどれよりも。
綺麗で。
可愛くて。
愛おしくて。
俺は心底、こいつの事が好きなんだなと、実感した。
それから少しの間、千反田と一緒に話をしていた。
他愛の無い会話でも、嬉しかった。
千反田の一挙一動全てが、好きになれそうで。
俺は自然に笑い、千反田も笑い。
幸せとは、こういう事を言うのだろうか。
868: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:17:45.51 ID:r8l++/tV0
える「あ、折木さん」
奉太郎「ん?」
える「喫茶店に、行きませんか?」
える「少し……喉が渇いてしまって」
奉太郎「ああ、そうだな」
奉太郎「じゃあ、行こうか」
える「はい! 今日は折木さんの奢りですね」
奉太郎「そうだな……好きなだけ頼めばいい」
える「ふふ、お言葉に甘えさせてもらいますね」
869: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:18:12.04 ID:r8l++/tV0
~喫茶店:歩恋兎~
喫茶店に入ると、いつもの店主が軽く会釈をしてきた。
俺と千反田はそれに軽く返すと、カウンター席に着く。
俺はブレンドを頼み、千反田はココアを頼んでいた。
いや、ココアとスコーンと、サンドウィッチ……それに
奉太郎「おい」
える「え? 何でしょうか」
奉太郎「いくら俺の奢りとは言っても……持ち合わせが足りなかったらどうするんだ」
える「ここで、お皿を洗えば……」
奉太郎「……」
える「冗談ですよ、その時は私も出します」
える「でも、折木さんのお金が無くなるまでは、私は出しません!」
870: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:18:37.73 ID:r8l++/tV0
奉太郎「……いい案だな、それは」
える「ふふ、私もそう思います」
ま、いいか。
今日くらいは、いい。
奉太郎「……そうだ、これ」
奉太郎「千反田にあげる予定だった、プレゼント」
奉太郎「受け取ってくれ」
える「これは、ネックレスですか」
える「ふふ、嬉しいです」
える「折木さんから貰ったのは、ぬいぐるみ以来かもしれません」
奉太郎「……そういえばそんな事もあったな」
える「今でもちゃんと、私の部屋にありますよ」
える「今度、来ますか?」
奉太郎「い、いや! いい!」
奉太郎「それはいい、やめておく」
871: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:19:03.73 ID:r8l++/tV0
える「そうですか……」
える「あのぬいぐるみ、どこか折木さんに似ている様な気がして、可愛いんですよ」
える「どこと無くやる気無さそうな感じが、とても」
さいで。
奉太郎「……にしても、さっきの授業だが」
奉太郎「何の授業だった?」
奉太郎「あの怒号、余り良い予想ができないんだが」
える「ふふ、数学ですよ」
える「尾道先生の授業でした」
奉太郎「……明日は、大変だな」
える「……一緒に、怒られましょう」
奉太郎「……だな」
872: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:19:48.53 ID:r8l++/tV0
える「そういえば……福部さんや摩耶花さんにも、お話しないといけませんね」
奉太郎「……ああ、そうだな」
える「私は勘違いして……お二人に、謝らなければなりませんね」
奉太郎「違う、悪いのはお前じゃない」
奉太郎「全部、俺が悪いから」
える「終わりだと、さっき言った筈ですよ。 折木さん」
える「一緒に、謝りましょう」
える「半分こ、です」
奉太郎「……分かった、そうしよう」
奉太郎「今年は、文化祭……楽しめなかったな」
える「ええ、でも……それより嬉しいことが、ありましたから」
873: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:20:22.37 ID:r8l++/tV0
奉太郎「そ、そうか。 来年は楽しめるといいな」
える「……そうですね……来年も……」
気のせい、か?
一瞬悲しい顔をした気がしたが、違う……気がしたんじゃない、確かにした。
もしかすると……いや、今はやめておこう。
奉太郎「外も、暗くなってきたな」
える「……もうこんな時間ですか」
える「そろそろ、帰りましょうか」
奉太郎「ああ、家まで送っていくよ」
874: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:21:00.38 ID:r8l++/tV0
~帰り道~
える「あの、折木さんは何故……あの時間に来たんですか?」
奉太郎「今日の事か?」
える「ええ、そうです」
奉太郎「居ても立ってもいられなくてって言った感じでな……悪いことをしたよ」
える「……今日の折木さん、謝ってばかりです」
える「私、折木さんが教室に入って来たとき」
える「……本当に嬉しかったんですよ」
える「今までの事が無かった様になる気がして、私……」
える「それで本当に、何も無かったかの様になっちゃいました」
奉太郎「……そうか」
える「何も無かった、とは違いますね」
える「折木さんの言葉が、聞けましたから」
875: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:22:08.45 ID:r8l++/tV0
奉太郎「……言わずには、いられなかったんだ」
奉太郎「千反田が話をしてくれる時って約束だったけどな」
える「いいえ、私は幸せですよ」
える「……かっこ良かったです、折木さん」
奉太郎「そ、そうか」
奉太郎「……照れるな、少し」
える「家まで送ってくれる折木さんも、かっこいいです」
奉太郎「……やめよう、恥ずかしい」
える「……そうですか、では」
える「手、繋ぎましょうか」
奉太郎「……ああ」
876: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:23:08.83 ID:r8l++/tV0
その日、俺は本当に幸せだったと思う。
千反田は答えてくれなかったが……それでも、俺には勿体無いくらいの幸せな時間だった。
いや……その日だけでは無い。
それから毎日、一週間、一ヶ月。
里志と伊原にはしっかりと頭を下げた。
里志は「やはりホータローは、力だね」等と言っていた。
伊原は「今度何かしたら許さないから!」と言いながら俺の脛を蹴って来た。
……あれは結構、痛い。
まあそれほど伊原も怒っていたのだろう。 それもまた……仕方の無い事だ。
それから毎日、いつも通りで……毎日、千反田と一緒に帰った。
段々と寒くなっていったけど、千反田と居る時は不思議と暖かかった気がする。
そして、十二月のある日。
つい、昨日の事。
冬休みまで後、一週間。
そんなある日、千反田が
877: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:24:16.30 ID:r8l++/tV0
学校に、来なくなった。
第27話
おわり
878: ◆Oe72InN3/k 2012/09/28(金) 23:25:17.53 ID:r8l++/tV0
以上で第27話、終わりとなります。
乙ありがとうございました。
879: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/28(金) 23:28:38.04 ID:GCOZEG2r0
乙です!
毎日わくわくして待ってます!
えるたそ…
882: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) 2012/09/28(金) 23:49:54.54 ID:vPbIvDWAO
この引き…次回も私、気になります!
884: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/29(土) 01:28:32.82 ID:6em38/PP0
乙
やばい…これはやばい…。
886: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/29(土) 08:52:06.05 ID:JxJByD4Jo
乙
夜な夜な読んでやっと追いついたお
>>64とは一体何だったのか
この週末で終わる勢いじゃんww
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- 2012/09/29(土) 22:04:00|
- 氷菓
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