1: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:15:27.63 ID:eVP4bQtW0
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1349003727/
2: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:15:56.85 ID:eVP4bQtW0
それでは、第1話、投下致します。
3: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:16:22.34 ID:eVP4bQtW0
部室の扉に、向こうから手を掛けられているのはこちら側からでも分かった。
そして、ゆっくりと扉は開かれ……
俺は多分、いや……俺だけではない。
里志や伊原も、千反田が現れる事を望んでいたのかもしれない。
……そうであって欲しかった。
何しろ、古典部を訪れる変わり者など……今ここに居る三人を除けば千反田以外あり得ないからだ。
これが新入生が入ってくる時期、4月頃なら俺達はここまで期待はしなかったと思う。
だが今は1月、冬休みが明けてすぐの事だ。
それなら……もしかすると。
4: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:17:03.00 ID:eVP4bQtW0
俺は唾を飲み込み、扉が開かれるのを待つ。
早く、早く開けないか、何をもったいぶっているんだ。
驚くほど、扉が開くのは遅かった。
……いや、俺が時間を長く感じているだけか。
だって俺がここまでの考えをするのに、多分まだ3秒程しか経っていないからだ。
里志や伊原の動きも、扉同様遅かったのでそういう事なのだろう。
しかし、時間は確実に刻まれている。
ようやく、そいつの体が隙間から見える。
制服は……女子の物だった。
つまり、それは……!
5: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:17:29.76 ID:eVP4bQtW0
入須「……どうした、揃いも揃ってそう見られては、私も恥ずかしいのだが」
なんという事だ、ここまで必死に考えていたのに……この野郎。
奉太郎「……なんだ入須か」
入須「おい、今何て言った」
……つい言葉が漏れてしまったのだ、それを聞いていたとは嫌な奴だ。
里志「入須先輩、こんにちは」
里志「にしても……ホータロー、今のは流石にどうかと思うよ」
摩耶花「今の折木の顔、少し面白かった」
摩耶花「しかも、先輩の事呼び捨てにするなんて考えられないわ」
6: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:17:57.03 ID:eVP4bQtW0
こいつらも多分、俺と同じ事を思っていたのに……薄情な奴らだな。
……いや、俺一人を犠牲にすればそれでこの二人は助かるんだ。
なるほど、これが生存本能と言う奴だろうか。
……少し違うか。
奉太郎「いや、あの」
奉太郎「……すいませんでした」
俺が取ったのは最善の選択だった。
とりあえず謝っておけば、入須もそこまで気にしないと思う。
入須「全く、君は普段からそんな風に思っていたのか」
奉太郎「……そんな訳、無いじゃないですか」
俺はこれでもかと言うほどの爽やかな笑顔を入須に向ける。
7: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:18:28.69 ID:eVP4bQtW0
入須「……なんだその顔は、私を馬鹿にしているのか」
当の入須はそれを爽やかな笑顔だな、とは思わなかったが。
入須「……まあいい」
入須「君達、全員が残念そうな顔をしたのには見当が付く」
里志や伊原も顔に出していたらしい、それなのに俺だけに物を言うとは……やはり、嫌な奴だな。
入須「……千反田が来たと、思ったんだろう」
その入須の予想は、素晴らしくも当たっていた。
里志「……はい、入須先輩の言う通りです」
里志「間違いなく、僕達はそれに期待していました」
摩耶花「……」
里志は大体いつもの調子で、伊原は黙って首を縦に振り、それぞれ入須の質問に答えた。
8: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:18:56.14 ID:eVP4bQtW0
奉太郎「……それで、用事はなんだったんですか」
奉太郎「あなたが古典部に来るとは、珍しい」
里志や伊原に反し、俺は悪態を付き入須に返答を促す。
入須「君は変わらないな」
入須「古典部へ来た理由か……」
入須「……そうだな、折木君が」
入須『入須先輩、わざわざ足を運んでくれるなんて光栄です』
入須「とでも言ったら教えようかな」
……絶対に言ってやるもんか。
9: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:19:37.57 ID:eVP4bQtW0
奉太郎「俺がそれを言うと思いますか」
入須「いや、思わんよ」
奉太郎「……」
こいつは、何を考えているんだ。
俺には見当が全く付かない。
入須「でもな、私がある一言を言えば」
入須「君は間違いなく、さっきの台詞を言うだろうな」
ある一言……?
奉太郎「言わせてみてくださいよ、俺に」
そう入須を挑発すると、入須は若干もったいぶりながら口を開く。
入須「……千反田の事だ」
10: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:20:23.47 ID:eVP4bQtW0
奉太郎「……」
俺は少し考える。
確かにその入須の言葉が本当なら、俺は間違い無くさっきの台詞を言うだろう。
しかし……しかしだ。
入須は本当に、千反田の話で来たのだろうか?
……俺には分からないが、多分。
入須はそんな冗談を言う奴では無いと言う事くらいは、俺にも分かった。
奉太郎「……分かりました」
奉太郎「入須先輩、わざわざ足を運んでくれるなんて光栄です」
11: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:20:54.02 ID:eVP4bQtW0
入須「……くっ」
今こいつ、笑ったよな。
俺はバツが悪そうに、視線を入須から逸らす。
里志「……」
摩耶花「……」
里志と伊原は、何か笑いを必死に堪えている様な表情をしていた。
……揃いも揃って、こいつら。
入須「……まさか本当に言うとは思わなかったよ」
入須「言わなくても、話はする予定だったんだがな」
……やはり苦手だ。
奉太郎「それで、その千反田の話、してもらいますよ」
入須「ああ、そうだな」
入須「……私から聞くよりも」
12: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:21:22.77 ID:eVP4bQtW0
入須「本人から聞いた方が手短に済むだろう」
何を言っているんだ、こいつは。
しかし俺の思考は止まっても、入須の動きは止まらない。
入り口の扉から少し離れ、何やら顔だけを廊下に出して合図をしている様に見えた。
そして、次にその扉から現れたのは……
える「……あの、こんにちは」
俺が、俺が一番会いたかった人だった。
……あの日、千反田は確かに言った。
さようなら、と。
そして俺は結局、最後まで言葉を掛けられなかった。
足があんだけ動かなかったのは初めての経験だった。
しかし今も、足が勝手にこんだけ動くと言うのも、初めての経験だった。
13: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:21:56.06 ID:eVP4bQtW0
奉太郎「……千反田!」
俺はそのまま、千反田の近くまで行き、千反田を抱きしめる。
奉太郎「本当に、千反田なんだな」
奉太郎「いつもの、お前なんだな」
える「え、あ、は、はい」
その返答は、確かにいつもの千反田だった。
える「あ、あの!」
そして千反田は声を強くして、俺に申したい事がある様子だった。
える「……えっと、少し、恥ずかしいんですが……」
俺はその言葉で我に帰る。
入須は眉をひそめ、首を横に振っている。
これに台詞を加えるなら、やれやれとか、全く君はとか、そんな所だろう。
14: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:22:23.17 ID:eVP4bQtW0
里志はいつもより更に笑っていて、若干その笑顔が引き攣っている様にも見えた。
伊原はと言うと、顔を手で覆ってしまっている。
俺はそんな周りの奴らの反応を見て、初めて自分が千反田を抱きしめている事を恥ずかしく思った。
奉太郎「……す、すまん」
える「ふふ、いいですよ」
千反田は本当に、千反田だった。
いつもの笑顔が、それを俺に教えてくれる。
そしてゆっくりと千反田は部室の中に入っていく。
える「……ありがとうございます」
俺の横を通り過ぎるときに、確かに千反田はそう言っていた。
そのまま自分の席、いつもの席に千反田は座る。
15: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:22:50.83 ID:eVP4bQtW0
入須「……それじゃ、私はこれで失礼するよ」
える「ええ、ありがとうございました」
……結局、入須は何をしに来たのだろうか?
いや、そんな事はどうでもいい、今は……!
奉太郎「聞いても、いいか」
える「……ええ」
奉太郎「何故、学校に居る?」
える「……ふふ、私でも予想できました」
える「折木さんの言う事を予想できたのは、少し嬉しいです」
奉太郎「……そりゃ、どうも」
16: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:23:20.53 ID:eVP4bQtW0
える「……お話しましょうか」
里志「……うん、僕も気になるな」
里志「なんで千反田さんが今日、学校に来たのか」
摩耶花「私も、今思っている事が当たって欲しい」
摩耶花「……会いたかったよ、ちーちゃん」
こういう時、里志は結構凄いと思う。
全くもって、動揺している様子には見えなかったからだ。
伊原はそれとは逆で、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
伊原が言いたかった事は恐らく、千反田が本当に戻ってきたのか、という事だろう。
……俺は、どんな顔をしていたのかは分からない。
自分の事は難しいからな、仕方ない。
17: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:23:50.87 ID:eVP4bQtW0
える「あ、それよりも先に」
える「入須さんと一緒に来た理由から、お話した方がいいかもしれません」
意味があったのか、入須が同行していたのには。
える「実はですね……少し、一人で来るのが気まずくて」
奉太郎「……」
える「え、ええっと」
奉太郎「なんだ、気まずくて……の後は?」
える「い、いえ。 それだけです」
奉太郎「……はあ」
こいつは本当に変わらないな。
18: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:24:38.93 ID:eVP4bQtW0
奉太郎「お前が入須と来た理由は分かった」
奉太郎「……それよりも、なんで今日来たんだ」
える「……やはり、言い辛いですね」
そう言い、千反田は顔を伏せる。
千反田を除く三人は、黙って千反田の言葉を待っていた。
やがて、顔を上げると……千反田は再び口を開く。
える「実は……」
える「その、父の容態が戻りまして」
里志「ええっと……」
摩耶花「……つまり、どういう事?」
える「あの、私も驚いたんですよ」
える「……結論から言いますと」
える「えっと……高校を辞める必要が、無くなりました」
19: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:25:05.55 ID:eVP4bQtW0
里志「……と、言う事は」
摩耶花「……えっと」
える「あの、ですから」
える「皆さんとまた一緒に、居られます」
摩耶花「つまり……」
里志「ううん……」
える「あ、あの!」
駄目だ、こいつらに任せていては多分……日が暮れてしまう。
かくいう俺も、状況をうまく飲み込めては居なかったが……まとめるくらいの事はできるだろう。
20: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:25:32.37 ID:eVP4bQtW0
奉太郎「つまり」
奉太郎「千反田の父親は無事に千反田家を収める役目に戻り」
奉太郎「そしてそのおかげで、千反田も学校を辞める必要が無くなった」
奉太郎「また一緒に、古典部で活動できる」
奉太郎「……って事か?」
なんだ、俺も結局最後は本人に答えを促しているではないか。
……それより俺がまとめた事、合っているのだろうか。
える「ええ、そうです!」
える「……折木さんが居て、助かりました」
える「私本当に、父親の体調が直ったときですが」
える「あまりこう思ってはいけないのは分かりますが」
える「どうしようかと、思っちゃいまして」
える「折木さんにあれだけ言っておきながら、どうしようかと……」
21: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:25:59.73 ID:eVP4bQtW0
……なんだ、俺がこの冬休みに散々悩まされた事は無駄だったという事か。
奉太郎「そう、か」
くそ、千反田に俺の冬休みを無駄にされてしまったではないか。
里志「……僕は、なんとなくこうなるかと思っていたよ」
それに加え、新年の気分も最悪だったではないか。
摩耶花「本当に! 本当に良かったよ、ちーちゃん」
そしてついさっきまでも、最悪の気分だったではないか。
だが。
今は、とても良い、心地良い気持ちだった。
22: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:26:26.75 ID:eVP4bQtW0
奉太郎「本当なんだな、千反田」
える「ええ、私一人では、とてもここまで来れなかったですよ」
える「……皆さんに、どんな顔をしていいか分からず……」
奉太郎「そんな事、どうだっていいさ」
える「そう、ですよね」
なんだか俺が随分悩まされていた時間が全て無駄になってしまったが、まあいいか。
とにかく、これでまた……古典部四人が揃った。
23: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:26:53.57 ID:eVP4bQtW0
時期は冬、新年だ。
今年は絶対に、いい年になるだろう。
春は出会いと別れがあり、夏にはまた多分……どこかに出かけるだろう。
秋は文化祭、去年楽しめなかった分、今年は楽しみたい。
そして冬には……今年の冬は、暖かく過ごせるかもしれない。
俺はこの一年に、今までに無い期待を寄せながら、ゆっくりと千反田に向け言った。
奉太郎「……さようならでは、無かったな」
える「……ええ、私の間違いでした」
える「また、お会いできましたね」
える「折木さん」
第1話
おわり
24: ◆Oe72InN3/k 2012/09/30(日) 20:28:00.52 ID:eVP4bQtW0
以上で第1話、終わりとなります。
次回投下日は未定です、前よりは投下ペースは落ちると思います。
本当ですよ
25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/09/30(日) 20:36:37.89 ID:pBYXHk500
次スレ早えwwwwwwww
続編と内容で思わずイヤッホーした
26: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) 2012/09/30(日) 20:38:45.25 ID:ZzlWE5ZOo
前スレ共々乙乙
こっちは気張らずゆるーく書いてって欲しいもんす
44: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) 2012/10/01(月) 17:02:09.48 ID:fTb1RxjO0
乙です。
なんつーか、良かったんだろうけど。
倒れて半年意識不明で急変から……というのは、ちょっと。前作の意味が。。(・・; ま、書いた人が良いのなら、いーのかな。
ほうたる、省エネから少しは成長してほしいな。でも、ダラダラとした日常では成長しないか。
どちらにしても、楽しみにしています。キャラ崩壊しない程度に頑張ってください。
45: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/02(火) 06:16:55.58 ID:ewEXmdflo
一理ある
47: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 09:19:07.74 ID:lrRc/JQU0
>>44-45
その辺りは、多分何か突っ込まれるんだろうなとは思っていました
かと言って何か考えていると言う訳でも無いです
せめて、少しでも楽しんで見ていただけれはなと考えているので、どうかお付きあいください
49: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) 2012/10/02(火) 12:08:58.23 ID:eS+5pPqAO
>>44
前作はあれで綺麗に終わってるから
このスレはパラレルというかシュレティンガー的というか
ifとして楽しんでる
50: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 12:29:48.55 ID:lrRc/JQU0
そうですね、そうとらえて頂くのが一番いいかも知れないです。
千反田父がもし、病気から立ち直ったら?
奉太郎にもう一度だけチャンスが巡ってきたら?
と言った感じですかね
それと、書き忘れていましたが本日の夜に第二話、投下致します。
51: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/02(火) 12:41:53.85 ID:q00T3jIL0
今度こそものにしろよ、ほうたる……
52: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/02(火) 13:46:50.52 ID:dwDrthNAo
この世界線ではハッピーエンドになりますように・・・
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- 2012/10/02(火) 21:46:00|
- 氷菓
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