54: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:02:19.43 ID:t71y6NXN0
こんばんは。
第2話、投下致します。
55: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:03:09.15 ID:t71y6NXN0
うう……寒い。
1月のとある日、俺は早朝から家を出ていた。
それも昨日、千反田から電話があり……内容は朝早くに会えないか、と言ったものだった。
俺は別にそれ自体が嫌では無かったし、二人きりで話す事もあったので気が進まないなんて事は全然なかった。
なかった……のだが。
まだ起きて1時間も経っておらず、完全に目が覚めている訳では無い。
それに加え外のこの寒さ……足が鈍るのは仕方ない事だ。
夜に少し雨が降っていた様で、道端にある水溜りには氷が張っていた。
それらをバリバリと割りながら、俺はあの公園へと向かっている。
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1349003727/
56: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:03:36.89 ID:t71y6NXN0
厚着をしてきたのは正解だった……していなかったら俺は数時間後、冷たくなって見つかっていたかもしれない。
そんな馬鹿みたいな事を考えながら、途中にある自販機でコーヒーを買う。
奉太郎「……ふう」
冷え切った体に染み渡る、自販機に感謝しておこう。
しかし最後まで飲みきる前に、具体的には半分程飲んだ所でどんどんと冷めていってしまう。
この理不尽な現実に、俺は特になんとも思わず最後の一口を体に取り入れた。
そのまま自販機の横に設置されていたゴミ箱に空き缶を放り込み、再び俺は歩き出した。
57: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:04:20.89 ID:t71y6NXN0
奉太郎「……うう」
体がぶるぶると震える。
……確かこの現象には名前があったはずだ、ええっと。
なんとかリングとか、そんな感じだったと思う。
体温調整をする為らしいが……これで暖かくなるとは到底思えない。
……まだ走ったほうがマシだと思う。
だが俺は走る気もせず、再び体をぶるぶると震わせながら公園へと向かった。
58: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:04:49.02 ID:t71y6NXN0
~公園~
俺が公園に着くと、千反田は既にベンチに座っていた。
奉太郎「おはよう」
そう声を掛けると、千反田はすぐに振り返り俺に挨拶をしてきた。
える「おはようございます、今日も冷えますね」
える「これ、どうぞ」
そう言いながら千反田が渡してきたのは缶コーヒーだった。
俺はそれを受け取り、違和感に気付く。
確かに今日は寒いが……冷めすぎではないだろうか?
俺はほんの少しだけ考えると、一つの質問を千反田に向けた。
59: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:05:20.35 ID:t71y6NXN0
奉太郎「これ、冷たい奴か」
える「ええっと……間違えてしまいまして」
この馬鹿みたいな寒さの中、冷たい缶コーヒーを飲むことになるとは。
える「大丈夫ですよ、私のも冷たいので」
千反田はそう言うと、俺の手に自分の持っていた紅茶を当てる。
……確かに冷たいが、大丈夫という意味が分からない。
奉太郎「……ありがたく受け取っておく」
える「はい、どうぞ」
える「いつも奢ってもらってばかりな気がしたので……私の奢りです」
60: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:05:51.86 ID:t71y6NXN0
缶コーヒー1本でそこまで胸を張られても……反応に困ってしまう。
奉太郎「今度飯か何か奢ってもらわないと、割りに合わないな」
俺がそう言うと、千反田はムッとした顔をして、俺に向け口を開いた。
える「酷いですよ」
える「折角、折木さんが寒い思いをしていると思って……」
える「買って待っていたんですよ」
奉太郎「……」
奉太郎「……このコーヒー、冷たいけどな」
える「……そうでした」
61: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:06:17.26 ID:t71y6NXN0
どうにも千反田は本気で言っているのか、冗談で言っているのか判断に困る時がある。
これは冗談だろうと思って、反応を返すと本気で言っていたり……
かと思えば……本気で言っていると思って返すと、冗談で言っていたり、といった事が多々ある。
そして今回は本気で言っていた方か。
奉太郎「それで、朝から漫才をやる為に呼んだのか」
える「それもいいかも知れませんが……違います」
える「えっと……」
える「色々と、ご迷惑をお掛けしてしまってすいませんでした」
……やっぱりか。
62: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:06:44.23 ID:t71y6NXN0
奉太郎「そんな事か」
える「……そんな事って、私はそうは思いません」
奉太郎「……もう終わった事だろ」
奉太郎「俺は別に気にしてないさ」
その俺の言葉は、今の俺の本心でもあった。
しかしそれは今だから言えるのだろう、冬休みは本当に最悪の気分だったし、前に千反田とこの公園で話した後の数日間はろくに飯も食えなかった。
……だけどそれも、終わった事だ。
える「で、ですが!」
多分、俺がいくら言ってもこいつは心のどこかでそれを思い続けるのかもしれない。
なら、口で言っても駄目なら。
63: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:07:21.37 ID:t71y6NXN0
奉太郎「……」
パチン、と小気味いい音が乾いた空気に響いた。
える「……い、痛いですよ」
える「……折木さんのデコピンは、ちょっと痛すぎると思うんです」
奉太郎「なら丁度いい」
奉太郎「それで全部チャラだ、それでいいだろ」
俺がそう言うと、千反田は自分の頬を両手で叩く。
える「……分かりました」
える「もう、気にしない事にします」
奉太郎「ああ」
64: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:07:49.11 ID:t71y6NXN0
える「……そういえば」
ふと、千反田が指を口に当てながら、思い出したかの様に言った。
える「新年のご挨拶がまだでしたね」
える「あけましておめでとうございます」
少し遅い新年の挨拶を、丁寧にお辞儀をしながら千反田は告げた。
そういえば……確かに、まだしていなかった気がする。
もしかしたらしたのかもしれないが、千反田がまだと言うからにはやっぱりしていないのだろう。
奉太郎「すっかり忘れてたな」
奉太郎「あけましておめでとう」
65: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:08:20.76 ID:t71y6NXN0
~古典部~
今日は朝が早かったせいもあり、若干眠い。
その眠気から来る機嫌の悪さを俺は里志に向けていた。
奉太郎「それで、用事は何だ」
里志「まあまあ、皆集まってからにしよう」
里志の呼び出しで集められる時はあまり良い予感がしない。
それは俺がここ2年近く、古典部で活動する事で学んだ事の一つだ。
える「すいません、遅れてしまいまして」
里志「お、来たね」
摩耶花「これで揃ったけど……どうして急に皆を集めたの?」
里志「そうだね……」
里志「もうすぐで2月になるよね」
66: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:08:46.62 ID:t71y6NXN0
そんな事、カレンダーを見れば誰にだって分かるだろう。
待てよ……どこか辺境の地に住む人らは、日付の概念が無い可能性もある。
なら俺の言葉は訂正しなければならないな。
正しくは、カレンダーを見れば……日付の概念が無い人以外は誰にだって分かるだろう、か。
なんだか長くなってしまったので、やはり訂正しなくてもいいか。
える「あの、折木さん?」
奉太郎「……ん」
摩耶花「またくだらない事でも考えていたんでしょ、そんな顔してた」
どんな顔だろうか。
……私、気になります。 と言おうかと思ったが、部室に変な空気は流したく無いのでやめておいた。
67: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:09:15.29 ID:t71y6NXN0
里志「じゃあ、話を聞いてなかったホータローの為にもう1回説明するね」
里志「もうすぐで2月になるよね」
いや、そんな事……カレンダーを見れば誰にだって分かるだろう。
摩耶花「……ちょっと、聞いてるの?」
奉太郎「あ、ああ」
奉太郎「勿論」
釘を刺されてしまっては仕方ない、里志の話に耳を傾けよう。
里志「2月と言えばなんだと思う?」
奉太郎「……2月か」
奉太郎「寒いな」
里志「いや、そういう感想的な物じゃなくてもっとイベント的な奴だよ」
68: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:10:31.17 ID:t71y6NXN0
奉太郎「……バレンタインか」
里志「……ホータローも少し意地悪になったね」
里志「確かにそれもそうだけど、その少し前の事さ」
少し前……何か、あっただろうか。
……ああ、あれか。
奉太郎「節分か?」
里志「そう! それだよ!」
里志がいきなり大声を出したせいで、俺と千反田が一瞬怯む。
伊原は……慣れているのかもしれない、いつも通りだった。
69: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:11:00.22 ID:t71y6NXN0
奉太郎「それで、節分がどうかしたのか」
里志「節分と言ったら、何を想像する?」
える「ええっと、2月の節分ですよね?」
奉太郎「2月の? 他に節分など無いだろ」
里志「いいや、節分は元々季節の分け目の事を言うんだよ」
える「ええ」
える「立春、立夏、立秋、立冬の前日を節分と指すんです」
奉太郎「……ほお」
える「ですが、一般的には立春の前日の事を言うので、福部さんが仰っているのも2月のですよね?」
70: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:11:26.36 ID:t71y6NXN0
里志「うん、そうだよ」
える「なら……」
摩耶花「豆まき、って事?」
里志「そう、それだよ摩耶花」
何がどう、それなのか分からないが……
やはり、良い予感はしない。
里志「……古典部で豆まきをしないかい?」
える「良い考えです!」
その里志の提案に、即座に反応したのは千反田だった。
摩耶花「楽しそうね、私もやりたい」
そしてやはり、伊原もそれに続く。
奉太郎「ここでするのか?」
俺も別に、絶対にやりたくないと言う訳でも無かったし、このくらいならいいだろう。
嫌な予感と言うのも、外れてくれると有難い物だ。
71: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:11:53.04 ID:t71y6NXN0
里志「うーん、僕はここでもいいけど」
奉太郎「……いつも通り、本を読んでいたら駄目か」
今の言葉は試しに言ってみたのだが、里志はそれを冗談だとは思わなかったらしい。
里志「別にいいけど、豆を当てられながら本を読むのは……僕だったら嫌かな」
奉太郎「……ならやめておく」
部室で静かに本を読む俺、そこに現れる里志、千反田、伊原。
そして本を読みながら豆を顔にぺちぺちと当てられる。
……何か、おかしいだろ。
里志「ちょっと提案なんだけどさ、豆まき自体は皆賛成なんだよね?」
える「ええ、そうです」
俺は別に賛成とは一言も言った気はしないが……反対と言う訳でもなかったので、特に何も言わず続きを聞く。
72: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:12:18.30 ID:t71y6NXN0
里志「なら、ホータローの家で豆まきをしない?」
奉太郎「……何故、俺の家なんだ」
里志「僕の家でもいいんだけどさ、妹がちょっとね」
そういえば、里志には妹が居るんだった。
……随分と、変わり者の。
奉太郎「……ああ、そうだった」
奉太郎「なら、伊原の家は駄目なのか」
摩耶花「私の家も、ちょっと」
摩耶花「その……都合が悪いかな」
何か隠しているような顔をしていたが、そこには突っ込まない。
……俺だって、部屋はしっかりと片付けてからで無いと人を上げるのは少し気が引けてしまう。
俺でさえそう思うのだから、他の奴は更にそう思っている事だろう。
73: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:13:11.67 ID:t71y6NXN0
奉太郎「……千反田の家は」
える「私の家ですか……大丈夫ですよ」
里志「本当かい? 実はそっちが本命だったんだよ」
里志「千反田さんの家は広いからね、豆まきのやりがいがあるよ」
……悪かったな、俺の家は狭くて。
それにそっちが本命とは、俺は随分と失礼な奴を友達に持ってしまった。
結果的には俺の家でやる事は無くなり、良かったのかもしれないが……なんか納得がいかない。
しかし、それよりさっきから気になる事がある。
千反田ではないから、気になりますとまでは行かないが……少しだけ引っ掛かる事だ。
74: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:13:50.11 ID:t71y6NXN0
奉太郎「一つ、聞いていいか」
里志「ん? なんだい」
奉太郎「お前がやろうとしているのは、普通の豆まきか」
摩耶花「折木何言ってるの? 普通じゃない豆まきってどんなよ」
える「今の言葉、何か意味があるんですよね」
える「……私、気になります!」
ここで来たか、いや……少しだけ予想は付いていたが。
里志「……まあ、普通ではないかな」
……嫌な予感が当たってしまっただろう。
なんという事だ、今年初めの失敗はこれになりそうだな。
75: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:14:15.88 ID:t71y6NXN0
里志「ホータローは、どんな豆まきを予想しているんだい?」
奉太郎「……予想と言う程の事でもないが」
奉太郎「まず最初、古典部で豆まきをするのか、と俺が聞いたときだ」
奉太郎「その後、俺は本を読んでいて良いかと聞いたな」
里志「うん、それに僕は」
里志「顔に豆を当てられながら読むのは嫌だな、みたいに答えたね」
奉太郎「……普通、豆は人にぶつけないだろ」
摩耶花「ええっと、つまり?」
奉太郎「それに里志は広い場所を探していた」
奉太郎「千反田の家が本命だったと、言った様にな」
える「……と言う事は」
奉太郎「お前がやろうとしているのは」
奉太郎「……豆の、ぶつけ合いか」
76: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:14:42.61 ID:t71y6NXN0
里志「さっすが、ホータローだ」
……反対しておけばよかった。
節分で豆をぶつけ合う馬鹿が、どこにいるのだろうか。
摩耶花「わ、私は別にいいけど……」
摩耶花「そんな野蛮な事、ちーちゃんは」
える「私、やりたいです!」
里志「……決定だね、ホータロー」
奉太郎「……はあ」
ここに居た。
日本の、神山市の、神山高校に四人ほど。
俺は是非ともその馬鹿達の顔を見てみたい。
……帰ったら、一度鏡でも見てみる事にしよう。
77: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:15:11.78 ID:t71y6NXN0
そんな成り行きで、古典部4人は何故か節分の日に豆をぶつけ合う事になったのだ。
里志が言うにはチーム分けをするらしく、なんだかこういう遊びがあった気がする。
ええっと、サバイバルゲームか。
決戦は確か、2月3日。
節分の日と覚えておけばいいだろう。
曜日は日曜日か、昼に集合と言うのも問題は無い。
ただ一つ、問題があるとするならそれは。
摩耶花「また、一緒になったわね」
伊原と同じチームになってしまった事だった。
第2話
おわり
78: ◆Oe72InN3/k 2012/10/02(火) 23:16:53.04 ID:t71y6NXN0
以上で第2話、終わりとなります。
乙ありがとうございます。
82: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) 2012/10/03(水) 00:01:11.55 ID:R3DA7pGV0
乙です
次回も楽しみだ
84: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) 2012/10/03(水) 03:06:18.33 ID:sPyyDOgj0
乙です。
節分かあ。神社の豆まきに行くかと思ったら、サバイバルゲームだった。w
別の意味で新鮮です。次回も頑張ってください。
85: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) 2012/10/03(水) 11:28:32.83 ID:ThwZDCxAO
無言の笑顔で粛々とほうたるに豆を投げつけるえるたそが思い浮かんだ
夜はえるたその豆を…
毎回面白いです
次回も私、気になります!
86: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/03(水) 19:56:54.07 ID:XU6GXih70
やっと追い付いた
量多すぎわろちん
そんなことより白ワンピえるたその参考画像ください
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- 2012/10/05(金) 23:45:00|
- 氷菓
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