206: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:27:01.73 ID:dwmrjsng0
こんばんは。
第5話、投下致します。
207: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:27:27.86 ID:dwmrjsng0
摩耶花「うーん……」
える「難しいですね」
える「こっちのは、どうでしょう?」
摩耶花「それもちょっと、私には出来なさそうかな」
える「そうですか……」
似たような光景は去年も見ていた。
場所も同じ、古典部で。
奉太郎「今年もやるのか」
摩耶花「当たり前でしょ」
奉太郎「……ご苦労様」
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1349003727/
208: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:28:05.02 ID:dwmrjsng0
そう、バレンタインデーが近づいているのである。
去年は結局、里志はちゃんとチョコを受け取らなかった。
しかし今年なら……しっかり受け取るであろう。
それなのに何故、こんなにも悩んでいるのだろうか。
……俺には到底理解できない事だな。
える「折木さんはどう思いますか?」
不意に声を掛けられ、千反田の方に顔を向ける。
千反田の顔の距離には……未だに慣れない。
奉太郎「お、俺に聞いてもどうしようもないだろ」
わずかに身じろぎしながら俺は答えた。
209: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:28:30.65 ID:dwmrjsng0
摩耶花「ううん……」
摩耶花「……そうだ」
伊原は何やら思いついた様で、それに対して興味も無い俺は読んでいた小説に視線を戻す。
摩耶花「折木」
奉太郎「なんだ」
視線はそのままで、声だけを返す。
摩耶花「あんた、チョコ食べたくない?」
奉太郎「俺にくれるのか」
摩耶花「そんな訳無いでしょ」
摩耶花「毒見してみる気は無いかって聞いてるのよ」
つまり、里志に喜んで貰える様なチョコを俺が食べて、それを評価しろという事か。
……しかし自ら毒見と言うとは、ちと怖い。
210: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:28:56.44 ID:dwmrjsng0
える「それはいい案ですね!」
いや、全く良くは無いだろう。
える「折木さん! 是非お願いします!」
奉太郎「いや……俺は」
える「折木さん!」
こうなってしまっては、もう俺に逃げ場は無い。
まだ日曜日にやった豆まきの疲れが残っていると言うのに、更に働けと言うのか。
でもまあ……他にする事も無いし、いいか。
奉太郎「……分かったよ、やろう」
摩耶花「じゃー日曜日に集まろうか」
える「ええ、私の家でやりましょう」
こうして俺は里志にあげるのに相応しいチョコを選ぶ為、日曜日の予定を埋められた。
摩耶花「……ありがとね」
しかし、まあ……悪い気は、しないか。
211: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:29:23.84 ID:dwmrjsng0
~千反田家~
甘い。
まだチョコを食べている訳では無いが……匂いが甘すぎる。
俺は甘い物が好きと言う訳でも無い、どちらかと言うと逆だろう。
しかし当の千反田と伊原はとても楽しそうにチョコを作っている。
俺はそれからしばらく、その匂いと戦いながらチョコを待つ。
える「出来ました!」
そう言いながら、一つ目のチョコが運ばれてきた。
212: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:29:52.37 ID:dwmrjsng0
える「これは、ガナッシュです」
奉太郎「ほう」
とは言ったが、正直何の種類なのか見当も付かなかった。
える「本来は、トリュフ等に付けられるのですが」
える「これのみでも十分においしいので、どうぞ」
そうなのか。
まあ、食べない事には分からない。
そう思い、俺はチョコを一つ口に放る。
奉太郎「……甘いな」
える「ええっと……」
213: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:30:19.31 ID:dwmrjsng0
俺の反応があまり良く無かったと思ったのか、千反田はそのまま台所へと戻って行った。
いや、旨いと言えば旨かった。
だがちょっと、くどい様な感じの……そんな甘さだった。
台所で未だに作業をしている千反田と伊原に、風を浴びてくるとの事を伝え、廊下に出る。
……しかし、本当に俺がこの役目で良かったのだろうか。
里志とは食べ物の好き嫌いも違うだろうし、それに対して感じる事も違うと思う。
なら、そうか。
あくまでも一般的な意見を出せばいいのかもしれない。
主観的な意見では無く、客観的な意見か。
……ううむ、難しいな。
やはり俺には、この役目は少し向いていないだろう。
そんな俺の考えを遮る様に、後ろから声が掛かった。
214: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:30:52.93 ID:dwmrjsng0
える「次のチョコ、出来ましたよ」
奉太郎「ああ、そうか」
その言葉を聞き、俺は再び部屋に戻る。
える「どうぞ、これはおいしいですよ」
そう言い、差し出されたのは……
奉太郎「これ、チョコなのか?」
える「マカロンです」
俺はチョコなのかどうなのか聞いたのだが、千反田の答えは俺の疑問を解決してくれなかった。
もしかすると、単純にマカロンという言葉を俺が知らないだけで、何かの種類なのかもしれない。
しかし……見た目的にはどうみてもチョコでは無い。
だとすると、やはり。
215: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:31:20.33 ID:dwmrjsng0
奉太郎「マカロンか」
える「ええ、そうです」
奉太郎「……そういう種類のチョコなのか」
俺がそう言うと、千反田は首を傾げながら答える。
える「ええと、マカロンをご存知無いんですか?」
奉太郎「と言う事は、これはチョコでは無いのか」
える「チョコレートマカロンなので、チョコは入っていますよ」
なんとなく分かった。
つまり、マカロンにはいくつか種類があり、今俺の目の前にあるのはチョコが入っているマカロン……と言う事だろう。
奉太郎「そうか」
考え込むより、食べた方が早いだろう。
そう思い、俺はマカロンを口に入れる。
216: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:31:48.77 ID:dwmrjsng0
奉太郎「……甘いな」
える「あ、えっと……」
さっきと同じ感想だったのがあれだったのかもしれない。
千反田は言葉に詰まってしまっていた。
奉太郎「まあ……さっきのよりは、好きかな」
える「そうですか、では次のチョコを準備しますね」
まだやるのか。
俺は去る千反田の後ろ姿に心の中で呟き、天井を眺めた。
……
何か、おかしくないだろうか。
217: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:33:48.57 ID:dwmrjsng0
チョコをあげるのは里志であって、俺では無い。
つまり……俺が好きなチョコを作っても、里志は喜ばないかもしれない。
今、千反田と伊原がやっているのは、俺の感想を参考にチョコを作る……という作業である。
と言う事は、だ。
完成したチョコは多分、俺好みのチョコであって決して里志好みのチョコでは無いだろう。
似たような事をさっきも考えたな……結論は何だったか。
ああ、客観的な意見か。
さっきはすっかりと忘れていた、次は気をつけよう。
俺が再び結論を出した所で、丁度よく千反田がやってくる。
218: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:35:10.64 ID:dwmrjsng0
える「次の、持ってきましたよ」
える「チョコレートタルトです」
何だかさっきから、千反田がウェイトレスに見えて仕方ない。
口には出さないが。
奉太郎「そういえば伊原は何をしているんだ」
える「摩耶花さんですか、先ほどからずっと頑張っていますよ」
奉太郎「……そうか」
奉太郎「って事は、これも伊原が作ったのか」
える「ええ、勿論です」
える「今までのも全部、摩耶花さんが作ったんですよ」
219: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:35:57.44 ID:dwmrjsng0
それは驚いた、ほとんど千反田が作ってそれをあいつが手伝っていた物だと思ったが。
……あいつは見た目や性格に反して料理が出来るのか。
奉太郎「主に千反田が作ってる物だと思っていたよ」
える「ふふ、私は横で少しお手伝いしていただけですよ」
どうやら俺が考えていた事とは逆だったらしい。
そのお手伝いがどの程度なのかは分からないが、伊原も伊原なりに努力していると言う事だろう。
そう考えると、さっきまで適当な感想しか出さなかった自分に後悔してしまう。
奉太郎「ま、頂くか」
える「はい、どうぞ」
千反田の言葉を聞き、口に入れる。
さっきまでと同じ味だとしても、違う事を言おうとは思っていたが……今回のは素直に美味しかった。
220: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:36:24.90 ID:dwmrjsng0
奉太郎「……丁度いいかもな」
える「本当ですか!」
奉太郎「あ、いや……あくもでも、俺からしたらだぞ」
奉太郎「俺は里志じゃないから、あいつの好みは分からん」
摩耶花「やっぱり、そうよね」
俺の言葉を聞いていたのか、台所から伊原がやって来た。
摩耶花「折木には折木の好みがあるし、それはふくちゃんも一緒だよね」
奉太郎「まあ、そうだろうな」
ううむ、やはりもう少しちゃんとした感想を言えば良かったか。
奉太郎「でも、その……おいしかったぞ」
摩耶花「……そっか、ありがとね」
奉太郎「それに」
える「気持ちが大事、ですからね」
221: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:36:50.13 ID:dwmrjsng0
俺が言おうとしていた事を、千反田に見事予測されてしまった。
える「折木さんが前に仰っていたので」
摩耶花「折木が? へえ、折木がねぇ……」
そんな事、俺は以前言っただろうか?
える「前に、部室でお弁当を一緒に食べた時、言っていましたよ」
そんな疑問にすぐに千反田が答える、今の疑問は口に出していなかった筈だが……顔に出ていたのかもしれない。
奉太郎「あったっけか、そんな事」
える「ええ」
こいつがここまで言うからには、あったのだろう。
奉太郎「ま、そういう事だ」
摩耶花「分かった」
摩耶花「やっぱり私が作れる様な奴じゃないと、難しいしね」
222: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:37:18.39 ID:dwmrjsng0
奉太郎「なんだ、結局千反田が作っていたのか」
摩耶花「違うわよ、今日のはちゃんと私が作ったのよ」
摩耶花「本当よ?」
奉太郎「……分かったよ」
摩耶花「簡単に、って意味だからね」
摩耶花「ちゃんと分かってる?」
奉太郎「ああ、よく分かりました」
摩耶花「ならいいけど」
223: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:37:48.90 ID:dwmrjsng0
奉太郎「それで、もう今日はお開きでいいか」
摩耶花「うーん、そうね」
摩耶花「色々聞けて、いい物が作れそうだし……今日はお開きにしようか」
える「分かりました」
える「では私達は片付けがあるので、折木さんは先に帰りますか?」
奉太郎「あー、いや」
奉太郎「俺も手伝う」
える「そうですか、ではお願いします」
食べるだけ食べて、先に帰るのは流石にちょっと気が引ける。
二週連続で日曜日が使われてしまったのはいただけないが、仕方ないか。
食器の場所は千反田が把握しているだろうし、俺は皿洗いへと興じる事になった。
224: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:38:23.10 ID:dwmrjsng0
全ての片付けが終わり、外の景色を見ると既に日は沈みかけていた。
奉太郎「今年は多分、里志もちゃんと受け取ってくれるだろうな」
摩耶花「そうだといいんだけどねぇ」
える「大丈夫ですよ!」
縁側に腰を掛ける、ふと後ろを見ると俺たちの影が部屋の奥へと伸びていた。
摩耶花「あ、そういえばさ」
奉太郎「ん?」
摩耶花「ちょっとチョコ余っちゃったから、折木も持って帰ってよ」
奉太郎「別にいいが、そんなに作ったのか?」
摩耶花「うん、まあね」
そう言い、伊原から渡されたチョコはしっかりとラッピングがしてあった。
225: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:38:58.44 ID:dwmrjsng0
奉太郎「なんだ、余った物にこんなのはしなくて良かったのに」
摩耶花「まあまあ、そう言わずに」
何故か千反田がもじもじしているのが気になったが……
ま、いいか。
奉太郎「分かったよ、ありがとうな」
摩耶花「折木って、最近ちょっと素直になったよね」
奉太郎「最近は余計だ」
摩耶花「それと、ちーちゃんにもしっかりお礼言っておきなさいよ」
奉太郎「千反田に?」
摩耶花「いいから早く」
さっきまで普通の伊原だったが、凄むと怖い。
226: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:39:47.92 ID:dwmrjsng0
奉太郎「わ、分かった」
奉太郎「ありがとうな、千反田」
える「あ、い、いえ」
える「あの、それは余っただけですので、贈り物の内には入らないですよね」
奉太郎「ん? 何を言っているんだ」
える「な、なんでもないです!」
……よく分からんが。
気付けば影は消え、辺りは暗くなっていた。
奉太郎「……さて、帰るか」
摩耶花「そだね」
える「はい、お疲れ様でした」
227: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:40:14.84 ID:dwmrjsng0
~帰り道~
俺と伊原は千反田の家を後にする。
さすがに2月と言った所か、日が短い。
夏ならば多分、まだ薄暗い程度だろうが……既に周囲は真っ暗となっていた。
帰ってる途中、伊原と少し話をした。
摩耶花「それで、付き合ってるの?」
奉太郎「何が」
摩耶花「あんたとちーちゃん」
奉太郎「……そんな訳無いだろ」
摩耶花「いやいや、逆にびっくりなんだけど」
228: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:40:41.42 ID:dwmrjsng0
奉太郎「なんで」
摩耶花「だって、ちーちゃんが戻って来た時、その」
摩耶花「……抱きついてたし」
奉太郎「……ああ、まあ」
摩耶花「もうてっきり、折木が告白したのかと思ったよ」
奉太郎「……したさ」
摩耶花「え? ならもしかして」
摩耶花「振られたとか?」
奉太郎「どうだろうな」
摩耶花「何よそれ」
奉太郎「……いや、そうだな」
奉太郎「振られたというのが、一番近いかもな」
229: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:41:09.43 ID:dwmrjsng0
摩耶花「ふうん」
本当の所は、色々あって有耶無耶になっているだけであったが……
あれから千反田も特にその事については言わなかったし、俺も別段言う気は無かった。
摩耶花「有耶無耶になったとか?」
奉太郎「……千反田に聞いたのか」
摩耶花「違うわよ」
奉太郎「じゃあ、なんで」
摩耶花「勘」
さいで。
230: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:41:36.51 ID:dwmrjsng0
奉太郎「とにかく、そんな所だ」
摩耶花「なるほどねぇ」
奉太郎「……何か言いたそうだな」
摩耶花「そりゃね」
摩耶花「でもまあ、ゆっくり考えればいいと思うよ」
摩耶花「まだ1年あるんだし、ね」
奉太郎「ああ、そうだな」
確かに伊原の考えている通り、このままでは駄目だろう。
千反田との今の距離感は好きだったが……
このままで卒業したら、どうなるのだろうか。
俺には少し、難しい話か。
231: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:42:02.71 ID:dwmrjsng0
~折木家~
そういえば、先週の日曜日も千反田の家から帰った時は暗くなっていたな。
あそこに行くと、どうやら暗くなるまで帰れないのかもしれない……気を付けねば。
そんな事を考えながら、俺はベッドに横たわる。
去年は確か、姉貴に貰った一つを同じように部屋で食べたな。
今年はちょっと早く、一つだけチョコを貰えた。
貰えたと言っても、余り物だが。
ま、それでも貰えたには違いないだろう。
ラッピングを解くと、何の変哲も無い、普通のチョコがそこにあった。
俺はそのチョコをひとかじりする。
何故かそれは、とても俺好みの味だった。
第5話
おわり
232: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 20:42:38.01 ID:dwmrjsng0
以上で第5話、終わりとなります。
乙ありがとうございました。
233: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/08(月) 20:53:15.57 ID:3/AhCFtr0
おつおつ!
ほうたるが貰ったのは、えるたそからのって事か
234: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) 2012/10/08(月) 20:55:19.20 ID:iqTi8c/A0
乙です。
想像していたより早いですね。それにしても、やはり告白はそのままでしたか。ほうたるの気持ちも分かるけど、うかうかしてると。。
それにしてもL嬢は可愛いですね。気付かれていないのが可愛そうですが。w
235: ◆Oe72InN3/k 2012/10/08(月) 21:49:47.50 ID:dwmrjsng0
そういえば……すっかり忘れていたのですが、こっちのシリーズになってから話毎にタイトル付けようと思っていたんでした。
>>233
そうです。
私も、えるたその手作りチョコを食べたいです。
>>234
ですね。
1年なんてあっと言う間、それは去年の事でほうたるも気付いている筈なんですがね。
それでも答えを出さないのは、やはり心のどこかで今の関係でありたいと思っているからなんでしょう。
236: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/08(月) 22:18:25.38 ID:cM93S4uto
おつー
前作の最後も感じたけど
高校生って、もっと変われる可能性を持ってると思うよ俺は
まあ原作も、ほうたるが変わるときが古典部シリーズの終わる時なんだろうけど
238: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) 2012/10/09(火) 00:03:01.14 ID:pdwYB6DVo
えるたそ俺にもチョコくれたそ~
- 関連記事
-
- 2012/10/09(火) 21:45:41|
- 氷菓
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0
-
|
-