321: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:46:57.86 ID:L3ltJ5W60
>>318
皆で行きましょう……!
>>319
pixivの小説、私もよく読んでいました。
結構勉強になります。
>>320
是非書きましょう!
書く人が増えればきっと、氷菓のSSも増える筈……
概算がどうにか映画にならない物か……
それでは第8話、投下致します。
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1349003727/
322: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:48:42.26 ID:L3ltJ5W60
それにしても、入須さんの突然の挨拶にはびっくりしました……
思わず大声をあげてしまい、恥ずかしい限りです。
でも……とても、嬉しかったです。
入須さんも最後は笑っていましたし、これにて一件落着……
ではありません!
私にはまだ、役目があるのでした。
危うくそのまま帰ってしまう所でした……
える「入須さんは教室でしょうか」
卒業式が終わって、三年生の方達が退場した後に、私達は教室へと戻ったのですが。
時間的にはそこまで経っていない筈です。
それならばまだ、入須さんは教室に居るでしょう。
私はそう思い、三年生の教室へと少しだけ急ぎながら向かいました。
323: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:49:20.87 ID:L3ltJ5W60
~教室~
ええっと、入須さんは……
その時、後ろから声を掛けられます。
沢木口「あれ、君は確か……古典部の子だっけ?」
える「あ、ご無沙汰しています」
沢木口「それで、何か用事でもあったの?」
える「ええ、実は……」
私の用事をお話すると、沢木口さんは早速入須さんを呼び出してくれました。
……一年生の終わりに、迷惑を掛けてしまったというのに。
沢木口さんはそんな事は無かったかの様に、私に笑顔を向けています。
324: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:49:56.01 ID:L3ltJ5W60
える「あの、ありがとうございます」
沢木口「いいって、気にしないで」
そう言うと、沢木口さんは友達の所へと向かっていきました。
その後、数分待った後、入須さんがやって来ます。
入須「千反田か、さっきはすまなかったな」
える「びっくりしましたよ」
入須「……そうだな」
入須「あの場面で、あの様に呼び掛けるのが一番効果的だと思ったから」
入須「と言うのはどうだろうか」
える「え、そうだったんですか」
325: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:50:28.23 ID:L3ltJ5W60
入須「ふふ、嘘だよ」
入須「あれは私の言葉だ」
える「……そうですか、良かったです」
入須「にしても、千反田はもう少し人を疑った方がいいと思うぞ」
える「入須さんの言っている意味は、分かります」
える「でも、それでも」
える「私は、人を信じる方が好きですから」
入須「……そうだったな」
そこで一度会話が途切れ、示し合わせた訳でも無く、私と入須さんは教室内の喧騒を眺めていました。
入須「それで、用事とは何だ?」
顔をそのまま動かさないで、入須さんは言いました。
326: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:50:54.38 ID:L3ltJ5W60
える「あ、そうでした」
える「お時間は取らせませんので、付いて来て欲しい場所があるんです」
私がそう言うと入須さんは少しだけ困った顔をします。
入須「……実は、クラスの奴等と予定があってな」
える「……わ、分かりました」
だ、駄目です。
このままでは古典部の皆さんに合わせる顔がありません……
入須「申し訳ないが、別の日でもいいか」
える「え、えっと……」
327: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:51:20.46 ID:L3ltJ5W60
私が戸惑っていると、教室の中から声が聞こえてきます。
それは、入須さんに向かって発せられていた声でした。
内容は、こっちを後回しにすればいい、との物で……
私はやはり、人に助けられていてばかりの様な気がします。
入須「……との事だ」
入須「なら断る理由が無くなったな、行こうか」
える「は、はい! ありがとうございます」
私は入須さんに頭を下げ、教室内に居る方達にも頭を下げました。
……良かったです、これで入須さんを驚かせる事が出来ます!
私の足取りは軽く、入須さんとお話をしながら古典部へと向かいました。
328: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:51:57.88 ID:L3ltJ5W60
~古典部~
える「着きました、入須さん」
入須「ここは、古典部か」
える「はい、とりあえず中に入りましょうか」
入須「ふむ、そうだな」
古典部の前でそう話をし、私は扉を開けます。
中には既に、折木さんと摩耶花さんが居ました。
福部さんはまだ、来ていない様です。
……でも、何か変です。
329: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:52:25.18 ID:L3ltJ5W60
これから入須さんを驚かせると言うのに、二人ともどこか浮かない顔をしていたのです。
……福部さんが来ていないからでしょうか?
いいえ、それは違う筈です。
摩耶花さんは分かりませんが、折木さんは例え福部さんが居ないとしても、ここまで分かりやすく暗い顔はしない筈です。
あくまでも、私の経験上……ですが。
える「あ、あの」
奉太郎「千反田か」
私が声を掛けた事でようやく、折木さんはこちらに顔を向けました。
……やはり、いつもと少し違う様な。
330: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:52:52.52 ID:L3ltJ5W60
える「あの、何かあったんですか?」
入須さんも異変には気付いた様で、扉の近くで待っていてくれました。
奉太郎「……ちょっとな」
摩耶花「ち、ちーちゃん」
摩耶花「そ、その……ごめん」
何故、摩耶花さんは私に謝るのでしょうか?
える「ええっと……」
私がそう言い、考えていると、折木さんが口を開きます。
摩耶花さんはまだ何か言いたい様な顔をしていましたが、それを遮るように折木さんは言ったのです。
331: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:53:18.23 ID:L3ltJ5W60
奉太郎「簡単に言うぞ」
奉太郎「手袋に穴が開いた」
える「……どういう意味ですか?」
奉太郎「聞くより、見たほうが早いだろ」
そう言い、折木さんは私に手袋を差し出します。
……それは確かに、少しだけですが、穴が開いています。
摩耶花「……それ、その」
奉太郎「部室の鍵が開いていたんだ」
奉太郎「それで、俺と伊原が来た時には既にこうなっていた」
奉太郎「そうだろ?」
折木さんはそう言い、摩耶花さんの方に顔を向けます。
332: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:54:23.45 ID:L3ltJ5W60
摩耶花「……」
摩耶花さんはその言葉に答えませんでしたが、折木さんが言うからにはそうなんでしょう。
なるほど、摩耶花さんが先程、私に謝ったのは恐らく……しっかりと見張っていられなかったからでしょう。
でも、一体誰が……
える「……酷いです、こんなのって」
える「あんまりです」
そこで、後ろで待っていた入須さんが声を掛けてきます。
入須「大体の事情は分かった」
333: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:55:12.56 ID:L3ltJ5W60
入須「千反田はその手袋を、私にプレゼントしようとしてくれたんだな」
える「……はい」
入須「だが、何者かによって手袋には穴が開けられた」
入須「そうだな?」
奉太郎「……ええ」
入須「それが何だ、縫えばすぐに治るだろ」
える「で、ですが!」
入須「もしかして」
入須「私に裁縫は無理だと言いたいのか?」
える「そ、そういうつもりではないです」
入須「ならいいじゃないか、是非渡してくれ」
その言葉を聞き、私は一度、折木さんの方へと顔を向けます。
334: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:55:38.80 ID:L3ltJ5W60
奉太郎「貰う人がああ言ってるんだ、渡してやれ」
える「……分かりました」
こんな形になってしまいましたが……入須さんは、喜んでくれるのでしょうか。
それだけが少し、心配です。
私はそんな事を思いながら、手袋とマフラーを入須さんに渡しました。
入須さんはそれを受け取ると、とても優しそうな笑顔で、こう言いました。
入須「最高のプレゼントだよ、ありがとう」
える「は、はい!」
える「あの、それは折木さんも作ったので……」
入須「そうなのか、ありがとうな」
入須さんはそう言うと、折木さんに頭を下げました。
335: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:56:19.92 ID:L3ltJ5W60
奉太郎「……余計な事を」
口ではそう言っていましたが、照れているのはすぐに分かります。
そしてその後、入須さんはクラスの方達との用事もあり、教室へと戻っていきました。
なんだか、今日別れても、また入須さんとは会えるような……私にはその様に感じられました。
……それより!
える「折木さん」
える「私、気になります!」
奉太郎「……何がだ」
折木さんも、私が何に対して気になるのかは分かっていた様で、暗い顔をしながら答えました。
336: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:56:55.54 ID:L3ltJ5W60
える「……今回の事です」
奉太郎「駄目だ」
える「何故ですか、私……どうしても」
そこまで言った時、古典部にまた一人、やってくる人物が居ました。
このタイミングで来るのは恐らく、福部さんでしょう。
里志「ごめんね、遅れちゃった」
える「お疲れ様です、福部さん」
里志「うん、疲れたよ……って」
里志「何かあったのかい? 皆」
やはり福部さんも、部室の空気に気付いたのでしょう。
337: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:57:41.12 ID:L3ltJ5W60
折木さんも摩耶花さんも説明する気が無い様だったので、私がゆっくりと説明をします。
……説明するのには、あまり慣れていないせいもあって、随分と回りくどい説明になっていまいましたが。
里志「なるほど、そういう事か」
里志「それで、ホータローは何か分かったのかい?」
奉太郎「……何も」
里志「本当かい? 僕が見た限り、何か分かっている顔だけど」
える「そうなんですか? 折木さん!」
やはり、折木さんは分かっていたのでしょう。
それならば、聞かない以外の選択はありません。
ですが……
338: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:58:24.26 ID:L3ltJ5W60
奉太郎「分からないと言ってるだろ」
奉太郎「……帰る」
そう言い、折木さんは鞄を手に取ると、部室を後にしようとします。
える「ま、待ってください」
私はそれを見て、付いて行きます。
一度、福部さんと摩耶花さんの方に振り返り、顔を見ました。
福部さんは困ったような顔をしていて、摩耶花さんは未だに暗い顔をしています。
福部さんと摩耶花さんを残して帰るのは気が引けますが……
折木さんがここまで答えない理由が、少し気になってしまうのです。
そして私は、折木さんの後に続きました。
339: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:59:04.10 ID:L3ltJ5W60
~帰り道~
学校から出て、前を歩いている折木さんを見つけます。
私は駆け足で近寄り、横に並んで歩き始めました。
奉太郎「悪いな、さっきは」
える「……いえ、気にしないでください」
奉太郎「いつも自分は気になると言うのに、気にしないでと来たか」
える「……あの」
奉太郎「気になるか、さっきの事」
える「気にならないと言えば、嘘になってしまいます」
える「……やはり、気になります」
える「折木さんには、嘘を付きたく無いんです」
340: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:00:01.49 ID:L3ltJ5W60
奉太郎「そんなの、小さい事だろ」
える「どんなに小さくても嫌なんです」
奉太郎「……」
その後、私と折木さんの間を少しの沈黙が包みます。
奉太郎「……はあ」
奉太郎「……お前には、話しておくべきか」
える「えっと……」
奉太郎「さっきの事だよ、他言無用で頼むぞ」
える「それを決めるのは、聞いた後がいいです」
奉太郎「……ああ、分かった」
341: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:00:45.97 ID:L3ltJ5W60
そう言うと、折木さんはゆっくりと話し始めました。
奉太郎「まず、俺と伊原が部室に行った時、鍵は開いていた」
える「でも、さっきは閉まっていたと……」
奉太郎「あれは嘘だ、すまんな」
える「では、一体何故?」
奉太郎「部室で俺と伊原はお前が来るのを待っていたんだ」
奉太郎「いつもみたいに席に着いて、な」
奉太郎「その時、入須へのプレゼントは部室に置いていただろう?」
える「ええ、あれを持ち歩くのは少し、大変そうだったので」
342: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:01:51.69 ID:L3ltJ5W60
奉太郎「それで、伊原が俺にもう一度プレゼントを見ていいか聞いてきたんだ」
奉太郎「それを断る理由なんて無い、俺は見ていいぞと言った」
える「……はい」
なんとなく、私にも分かってきました。
奉太郎「机は木で出来ているからな」
奉太郎「しかも結構古い、ささくれている部分がいくつかあった」
奉太郎「それにあいつは、伊原は手袋を引っ掛けてしまった」
える「……」
奉太郎「気付いた時には、あの状態になっていた」
奉太郎「……そういう事だ」
える「……そうでしたか」
343: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:02:17.41 ID:L3ltJ5W60
奉太郎「俺には皆に話すという選択もあったがな」
奉太郎「結果的にお前には話してしまったが、まあ」
奉太郎「一番悪いのは、俺だろうな」
える「何故、そう思うんですか」
奉太郎「さっきも言っただろ、話すという選択もあったんだ」
える「違います、そんな選択はありませんでした」
奉太郎「……どういう意味だ」
える「私は、少なからず、折木さんについては知っているつもりです」
える「他の人なら分かりません、ですが」
える「折木さんにとっては、摩耶花さんを庇う以外に選択は無かった筈です」
344: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:03:11.10 ID:L3ltJ5W60
私がそう言うと、折木さんは顔を私とは反対側に向け、小さく呟きました。
奉太郎「……どうだかな」
える「ですが、今……この場なら、選択は他にもあります」
奉太郎「何が言いたい」
える「戻って、福部さんにも話すんです」
奉太郎「……それをしたら意味が無いだろ、元々千反田にも言うつもりは無かったんだ」
奉太郎「結果的に話してしまったが、お前が黙っていればそれで終わる」
える「……折木さんは、摩耶花さんの顔を見ましたか?」
奉太郎「……顔?」
345: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:03:36.50 ID:L3ltJ5W60
える「摩耶花さんは言おうとしていたんですよ、自分がした事を」
える「何故、あんな顔をしていたのか……さっきまで分かりませんでした」
える「ですが、折木さんの話を聞いて、全て分かりました」
える「……皆で、話し合うべきです」
奉太郎「……そうだったのか」
奉太郎「余計な事をしてしまったのかもな、俺は」
える「だから、今ならまだ間に合うんです」
奉太郎「……まだ学校に居るとも限らないだろ」
える「いいから、行きますよ!」
346: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:04:22.12 ID:L3ltJ5W60
私はそう言い、折木さんの手を掴みます。
そのまま後ろに向き直り、走りました。
奉太郎「お、おい!」
後ろで折木さんの声が聞こえましたが、気にしないで私は走ります。
……なんだかちょっとだけ、折木さんの前を行っている自分が嬉しかったのを覚えています。
似たような事が前に、あの時は逆でしたが。
いえ、状況も違いました……ですが。
それでも嬉しかったんです、折木さんの手を引いて走れたのが。
347: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:04:52.16 ID:L3ltJ5W60
~古典部~
廊下を駆けて、古典部の前へとやってきました。
そのままの勢いで扉を開けます。
摩耶花「ちーちゃん?」
摩耶花「それに、折木も」
良かった……摩耶花さん達はまだ部室に居てくれました。
える「あ、あの!」
える「摩耶花さんは悪くないです!」
摩耶花「え、えっと?」
奉太郎「千反田、落ち着け」
奉太郎「俺が説明する」
348: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:05:51.89 ID:L3ltJ5W60
……人に説明をするのには、やはり私では厳しい物があるようです。
しかし、摩耶花さんは先程の私の言葉をゆっくりと理解し、折木さんの言葉を遮りました。
摩耶花「……今日の事ね」
摩耶花「実は、それなんだけど」
里志「全部聞いたよ、摩耶花から」
摩耶花「……ごめんね、ちーちゃん」
摩耶花「折木も、ごめん」
奉太郎「なんだ……千反田の言う通りだったって訳か」
える「ふふ、だから言ったでは無いですか」
える「摩耶花さんは悪く無いですよ」
える「入須さんにも今度、お話しましょう」
349: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:06:53.75 ID:L3ltJ5W60
摩耶花「……うん」
そこで折木さんが、扉の傍に立ったままで言いました。
奉太郎「あー、それなんだが」
奉太郎「多分、入須は全部分かっていたんだろうな」
里志「入須先輩が? どうしてさ」
奉太郎「……あいつは場を収めようとしていた」
奉太郎「自分がそのままプレゼントを貰う事によって、これ以上話を掘り下げられない様にしたんだ」
奉太郎「だからあいつには、言う必要は無いだろう」
える「そうだったんですか、私は全然気付きませんでした……」
つまり入須さんは、全て気付いていて……
最後の最後まで、ご迷惑を掛けてしまった様ですね。
350: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:07:21.48 ID:L3ltJ5W60
奉太郎「……すまなかったな、伊原」
奉太郎「お前の考えている事が、俺には分からなかった」
摩耶花「別に、折木が謝る事は無いでしょ」
奉太郎「……少し、外の空気を浴びてくる」
折木さんはそう言うと、部屋の外に出て、どこか風に当たれる場所へと行ってしまいます。
える「……そう言えば」
える「私、まだ少しだけ気になる事があるんです」
里志「はは、ホータローが居ないとどうにもならないかもね」
摩耶花「私達で良ければ聞くけど……」
える「あのですね」
える「摩耶花さんは何故、そのお話を福部さんにしたのでしょうか?」
摩耶花「それはさっきも言ったよ、元から私は……話すつもりだった」
える「ええ、それは分かります」
える「ですが、皆さんが揃っていた場面でも言えた筈なんです」
摩耶花「……やっぱり、ちーちゃんには分かっちゃうのかな」
える「すいません、失礼な事を言っているのは分かっています……」
351: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:07:49.74 ID:L3ltJ5W60
摩耶花「いいよ、話そう」
摩耶花「思い出したんだ」
摩耶花「ちーちゃんと入須先輩が来る少し前に、折木が言った事を」
える「……折木さんは何と言ったんですか?」
摩耶花「折木はね」
摩耶花さんはそう言うと、私の耳に口を近づけ、福部さんに聞こえないように教えてくれました。
その言葉を聞いた私は、やはり折木さんは折木さんだと感じる事になります。
折木さんの言葉を借りるなら、あくまでも私からの視線、ですが。
でもやはり、折木さんという方は……そういう方なのでしょう。
里志「千反田さんの気持ちが良く分かるよ、とても気になる」
摩耶花「……だめ、私とちーちゃんの秘密だから」
える「ふふ、そうですね。 秘密です」
352: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:08:20.92 ID:L3ltJ5W60
摩耶花「それにしても、似合わないと思わない?」
そうでしょうか?
私にはとても似合っている台詞の様に思えますが……
える「私は、折木さんらしいと思いますよ」
摩耶花「ふうん、なるほどねぇ」
摩耶花さんは何故かニヤニヤとしていましたが……それよりも私には、行きたい場所がありました。
える「私……折木さんの所に行ってきますね」
私はそう告げ、部室を後にします。
353: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:08:46.72 ID:L3ltJ5W60
~屋上~
える「見つけました」
奉太郎「千反田か、何でここに居ると思った?」
える「なんとなくです」
奉太郎「……そうか」
折木さんは屋上から景色を眺めていて、私も横に並び、一緒に景色を眺めました。
える「もう、日が暮れてきていますね」
奉太郎「結局、卒業生達より長く居残ってしまったな」
える「そうみたいです」
奉太郎「それで、どうして急に来た」
える「……折木さんの顔を、見たかったので」
354: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:09:20.34 ID:L3ltJ5W60
奉太郎「そ、そうか」
える「あの、折木さん」
奉太郎「ん?」
える「……いえ、何でも無いです」
奉太郎「変な奴だな」
える「ふふ、帰りましょうか」
奉太郎「……ああ、そうだな」
私は先程、摩耶花さんから聞いた折木さんの言葉について、何か言おうと思っていましたが……
この事は、私の胸の内に、閉まっておく事にしました。
その言葉はとても優しい物で、きっと折木さんは……あまり人に知られたく無いと思っているでしょう。
355: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:09:58.70 ID:L3ltJ5W60
~公園(現在)~
奉太郎「あの時は……お前に助けられたな」
える「そうでしょうか?」
奉太郎「ああ」
える「お礼をまだ聞いていない様な気がするんですが……」
千反田はそう言い、自分の口元に指を当てた。
奉太郎「お前はそんな奴だったか」
える「いつも通りですよ?」
奉太郎「……ありがとうな」
える「ふふ」
356: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:10:59.96 ID:L3ltJ5W60
える「しっかり、目を見て言って欲しいです」
なんだ、様子がおかしいぞ。
……まさか、コーヒーのせいなのだろうか。
千反田はただ、眠れなくなるだけと言っていたが……とんでもない。
恐らく自分では分かっていないのだろう、今度教えねば。
える「どうしたんですか? 折木さん」
とりあえず、今は千反田の言う通りにしておくのが無難か。
奉太郎「ありがとう、千反田」
える「そんな、見つめないでください」
……面倒だ。
357: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:11:27.70 ID:L3ltJ5W60
しかし幸いな事に、辺りは既に、公園の電灯が付くほどに暗くなっていた。
奉太郎「そろそろ帰るか」
える「もっと一緒に居たいです」
奉太郎「い、いいから……帰るぞ」
える「……そうですか、残念です」
今後一切、コーヒーは飲ませない様にしようと強く誓った。
誰に誓った訳でもないが。
える「ふふ」
横を歩いている千反田が急に笑い出すのが少し怖い。
奉太郎「何がそんなに楽しいんだ」
える「折木さんの横を歩ける事です」
奉太郎「それはありがたいお言葉で」
える「では、お礼を言ってください」
奉太郎「……」
358: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:12:21.48 ID:L3ltJ5W60
その言葉は無視したが、千反田本人も大して気にしていなかったのか、それ以上お礼を求める事は無かった。
える「私たちも、もう三年生ですね」
える「皆さんと一緒に居られるのも、後一年ですか」
える「……寂しいです」
なんだ、さっきまでニコニコしていたと思ったら……今度は泣きそうになっている。
だがまあ……その千反田の気持ちも、分からなくは無かった。
奉太郎「なあ、千反田」
える「はい? どうしました?」
俺はそんな千反田を見ていると、こいつがどこかに行ってしまいそうな気持ちになって、それを振り払うために、言った。
奉太郎「手、繋ぐか」
える「……はい!」
多分いつも通りの千反田なら、俺はこんな事は言えなかったかもしれない。
それはまあ……コーヒーに少しだけ感謝と言う事で。
千反田の家までの時間、短い時間ではあったが……千反田と手を繋ぎ、歩いて行った。
第8話
おわり
359: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:13:16.83 ID:L3ltJ5W60
以上で第8話、終わりとなります。
乙ありがとうございました。
やはり、えるたそ視点だと文が難しい……
360: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) 2012/10/13(土) 19:36:25.48 ID:vNHhGkob0
乙です。
とうとう三年生ですね。どきがむねむねです。
日常だと思い出の積み重ねが絆を強くしてくれるのでしょうか。
でも、それも一緒にいられなくなると薄れてしまいます。ほうたるとLはどういう選択を獲るのでしょうか。
Lは千反田家も背負う分、あまり自由はないでしょう。気になります。
>>321
ss少し書いてみましたが、面白くなかった。(涙) でもまあ、いいか。。
363: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:44:53.63 ID:L3ltJ5W60
>>360
おお!
間違えていたらごめんなさい、東大のでしょうか?
前作のテーマが成長だとしたら、今回のテーマは距離感となっています。
そして6話~8話はそのテーマを表しているお話となります。
その距離感と言う物を前提にして見て頂ければ幸いです。
362: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/10/13(土) 19:40:58.06 ID:KPW2quqq0
何日かに一回壁が凹むんですけど
>>1乙です!
364: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/13(土) 19:50:43.59 ID:AQxUfxKvo
乙でした
ほうたるは優しいな
365: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:51:01.70 ID:L3ltJ5W60
私は来る日も来る日も壁を殴り続けた。
もう既に、何回壁を殴りつけた事だろう。
目の前にある四角い箱、その中で何も知らない奴等は気楽に言っている。
家の壁が無くなったとか、殴る壁が無いとか。
しかし私には、壁が無くなる事はありえない。
362「フンッ! フンッ!」
今日もまた、壁を殴りつける。
私は信じているのだ、この壁をぶち破れると。
それはいつになるかは分からない。
ひょっとすると、何十年……何百年も先の事かもしれない。
だが、それでも私は壁を殴るのをやめない。
362「フンッ! フンッ!」
思えば壁を殴り始めたのはいつの事だっただろうか。
それは遠い記憶……私は過去を振り返るのはあまり好きでは無い。
大事なのはそう……今。
現在、だ。
この壁を破ったとき、私は救われるに違いない。
362「フンッ! フンッ!」
私は私を信じ、また……私が殴りつけているこの壁も信じているのだ。
今まで殴った回数は恐らく1万を軽く超える。
しかしその中で、私自身を……私の拳を……そしてこの壁を疑ったこと等、一度たりとも無かった。
いつかこの壁……
二次元との壁を、壊せると信じて……
366: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) 2012/10/13(土) 19:55:10.24 ID:BWt6qUra0
>>1乙!
もっといちゃいちゃしてもいいのだぜ?
ところで、皆さんのイチオシの氷菓のSSが、私気になります。
よかったら、紹介してくれ(奉えるものが美味しいもので)
367: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/13(土) 20:38:59.53 ID:PvWwbpux0
壁殴りワロタ
氷菓ssは全部好きだなあ
好みもあるだろうし、片っ端から読むといい
ていうか、ほうたるから手を繋ごうって言ったの初めてか…?
368: VIPNIPPERがお送りします 2012/10/13(土) 20:53:41.49 ID:1PQep7xM0
乙です
マラソン希望!
コーヒーのくだり見てツンデレえるを見たくなったのは俺だけじゃないはず
369: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) 2012/10/13(土) 20:59:52.89 ID:vNHhGkob0
>>363
すみません。残念ながら。東大のが気になります。(笑)
距離感ですか。改めて読んでみると、面白さが違いますね。最近、その都度毎読んでいただけで、話を続けて読む事をしていなかったから目からうろこでした。
やはり何度も楽しむ事ができるのは、良いですね。
370: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/13(土) 21:07:49.88 ID:8FCU2PKa0
乙!
ここ以外でオススメするなら、pixivで奉える小説の「二人の場所」は絶対見たほうがいい
超オススメ。R18要素もあるが、そこらで見るR18とレベルが違うし、嫌にならない
R18を見ていて壁を殴りたくなるんだから不思議なもんだ
>>1は見た??
後は、次話で完結する「農家な奉える」も熱いものがあるな
371: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 21:14:07.30 ID:L3ltJ5W60
>>366
全部面白いですよ!
>>367
おお、気付いてくれたのは嬉しいです。
前作含めて、初めての事なんですよね。
えるたその調子がいつも通りでは無かったにしろ、ほうたるも少しずつですが成長しているのでしょう。
>>368
見たくなったら書く作業に入るんだ……!
そしてツンデレえるを見てニヤニヤしたいんです。
>>369
SS速報内で書かれているSSです、面白いですよー
そして369さんのSSが私、気になります。
372: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 21:16:01.27 ID:L3ltJ5W60
>>370
R18は何となく、避けていたのですが。
そう言われてしまうと気になってしまう……
二作品、今度目を通して見ます。
373: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/13(土) 21:20:59.76 ID:8FCU2PKa0
いやいや、あれはみた方が良い。
ちなみに、5話構成で、R18は3話だからまあそこだけ避けるのもアリかもだけど、見たほうがいいかと
ところで>>341の閉まってたってどこのこと?
374: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 21:24:59.21 ID:L3ltJ5W60
>>373
あやべえ……
ちょっとすいません
>>341
を修正します。
375: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 21:27:34.02 ID:L3ltJ5W60
そう言うと、折木さんはゆっくりと話し始めました。
奉太郎「まず、俺と伊原が部室に行った時、鍵は閉まっていた」
える「でも、さっきは開いていたと……」
奉太郎「あれは嘘だ、すまんな」
える「では、一体何故?」
奉太郎「つまり……」
奉太郎「今日、古典部の部室を訪れたのは……卒業式が終わった後は俺と伊原だけになる」
える「……そうなりますね」
奉太郎「そして、俺と伊原は部室でお前が来るのを待っていたんだ」
奉太郎「いつもみたいに席に着いて、な」
奉太郎「その時、入須へのプレゼントは部室に置いていただろう?」
える「ええ、あれを持ち歩くのは少し、大変そうだったので」
376: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 21:29:10.15 ID:L3ltJ5W60
正しくは>>375となります。
暑さにやられたのかもしれないですね、怖い怖い。
……夏、終わってましたね。
378: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/13(土) 21:48:19.17 ID:AQxUfxKvo
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- 2012/10/13(土) 21:47:58|
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