603: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:40:41.72 ID:82esDMmt0
こんばんは。
第13話、投下致します。
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1349003727/
604: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:41:13.28 ID:82esDMmt0
花火は未だに上がり続けている。
一際大きな花火が上がり、その音で俺は意識を過去から引き戻した。
入須「そういえば」
入須はまだ、手すりから夜景を眺めていた。
俺は視線をそちらに移しながら、入須の次の言葉を待つ。
入須「答えは、出たか」
奉太郎「答え……ですか?」
入須「まさか、もう忘れたのか」
入須「先程、私が提示した問いに対する……答えだ」
605: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:41:40.81 ID:82esDMmt0
……ああ、あれの事か。
奉太郎「……まだ、出そうに無いですね」
入須「……そうか」
入須「だが、あまり時間は無いぞ」
奉太郎「そうなんですか」
入須「今、決めた」
入須「この花火大会が終わる前に、答えを出してもらう」
……また急な。
そんなすぐに答えが出る問題でも無いだろうに。
606: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:42:07.07 ID:82esDMmt0
奉太郎「随分と急かしますね」
入須「まあな」
入須「どの道、いつかは答えなければいけないんだ」
入須「それなら今でも、構わないだろう」
奉太郎「……分からない、というのは答えになりますか」
入須「それは、無理だな」
入須「もし……千反田に聞かれたら、君はどうするんだ」
入須「その時もまた、分からないと言うのか?」
奉太郎「それは……」
607: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:42:34.56 ID:82esDMmt0
口篭る俺を見ながら、入須は少しだけ声を大きくし、俺に告げた。
入須「答えを出すのは、この花火大会が終わるまで」
入須「それでいいな」
奉太郎「……分かりました」
俺はそれを、断れなかった。
……まあ、時間はまだある。
時刻は21時30分、か。
ゆっくりと、思い出して行けば十分に間に合うだろう。
何しろ花火大会は、まだ始まったばかりだ。
608: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:43:19.90 ID:82esDMmt0
過去
~古典部~
俺は、部室で勉強をしていた。
と言っても、一人で静かに……とは行かない。
える「折木さん、分からない所があれば言ってくださいね」
奉太郎「……ああ」
一人の方が集中出来るのだが、別に千反田が居る事に特別不快感などは無かった。
それにしても、何故放課後の部室で勉強をしなければならないかと言うと……
五月の中間テスト、それの対策の為である。
俺はまあ……熱心にと言う程でも無いが、ある程度は勉強をしなければならない程の成績だ。
対する千反田は、成績優秀者。
そいつに教えて貰うと言うのは、一般的に考えればそれはそれは良い事なのだろう。
609: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:43:46.76 ID:82esDMmt0
しかし、どうにも……教え方が下手すぎた。
例えば、俺が式の組み立て方……答えが出る経緯を忘れ、悩んでいた時。
俺の目の前に座るこいつは、答えをざっくりと言い、途中の経過は全く教えてくれない。
多分、千反田にも悪気がある訳では無いだろう。
だが、答えを言った後も悩んでいる俺を見る目は、何故答えが出たのに悩んでいるんですか? とでも言いだけで、なんだか虚しくなってくる。
そして今も、俺は目の前の問題に悩まされていた。
何度かペンをくるくると回し、考える。
……駄目だ、全く持って分からない。
610: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:44:13.61 ID:82esDMmt0
奉太郎「……」
える「……」
奉太郎「……」
ふと、千反田の方にちらりと視線を移す。
自分の問題を解いていて、静かなのだと思ったが……
奉太郎「……あまりじろじろ見ないでくれないか」
千反田は、俺の方をジッと見つめていた。
える「あ、ごめんなさい」
奉太郎「……まあいい」
そう言い、再度問題に目を移す。
それから5分程経ったが、結局何度考えても分からない。
またしても千反田に視線を移すと、やはりと言うか……千反田はまた、俺の方を見ていた。
611: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:44:39.27 ID:82esDMmt0
奉太郎「……ふう」
俺は回していたペンを置き、千反田に向け口を開く。
奉太郎「何か、言いたい事でもあるのか」
える「……いえ、別に、大丈夫です」
何が大丈夫なのか分からないが。
奉太郎「なら、俺の方を見るのをやめてくれないか」
奉太郎「……集中できん」
える「そ、そうですよね」
少しくらい言っておかないと、こいつは多分また俺の方を見るだろう。
人に文句を付けるのは好きでは無いが……
それもまた、仕方の無い事だろう。
俺は一度置いたペンを取り、再び問題に取り組む。
612: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:45:05.58 ID:82esDMmt0
正確に言えば、取り組もうとした時だった。
える「だ、駄目です!」
奉太郎「な、なにが」
急に大きな声をあげる物だから、回している途中だったペンを落としてしまう。
える「折木さんが熱心に勉強していたので……我慢していたのですが」
える「やはり、我慢できません!」
える「折木さん!」
矢継ぎ早にそう言いながら、俺の方にぐいっと顔を寄せる。
……この感じ、あれか。
える「私、気になります!」
613: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:45:32.59 ID:82esDMmt0
全く、満足に勉強も出来たものでは無い。
しかしまあ……その気になる事を解決出来たなら、千反田も幾分か落ち着くだろう。
なら、俺がやるべき事は一つ。
奉太郎「……何が気になってるんだ」
える「ええ、私」
える「そのペンが、気になるんです」
……ペンが?
まさか、俺が知らないだけで、千反田はシャーペンが大好きな奴だったのかもしれない。
ありとあらゆるシャーペンを集めていて、それで今日俺が持っていたシャーペンが千反田の持っていなかったペンだったのだ。
奉太郎「そうか、なら今度買った場所を教えよう」
える「……ええっと」
あれ、違うのか。
614: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:46:08.28 ID:82esDMmt0
奉太郎「なんだ、シャーペンマニアでは無かったのか」
える「どちらかと言うと、筆の方が好みです」
える「いえ、そうでは無くてですね」
える「折木さんが持った時の、シャーペンが気になるんです」
奉太郎「……すまん、もっと分かりやすく説明できないか」
える「は、はい」
える「ええっと、折木さんはいつもこんな感じでペンを持ちますよね」
奉太郎「ああ、そうだな」
正直、自分がどんな感じでペンを持っているかなんて分からなかったが、ここで話の腰を折るような事はしない。
える「それでですね、時々こういう風に」
そこまで言うと、千反田は指をピクピクとさせている。
615: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:46:35.17 ID:82esDMmt0
奉太郎「……何をしているんだ」
える「う、うまくできません」
ああ……そういう事か。
奉太郎「貸してみろ、そのペン」
える「あ、はい……どうぞ」
奉太郎「千反田が気になっているというのは、これだろ」
俺はそう言い、手の上でペンをくるりと回す。
そしてそのペンを、うまく掴むと、千反田は声を大きくしながら言った。
える「な、何が起きたんですか!」
奉太郎「ペンを回しただけだが……」
える「何故、その様な事が出来るのか……気になります」
何でだろうか、逆に聞きたい。
616: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:47:01.16 ID:82esDMmt0
奉太郎「……俺も気付けば出来ていたからな」
える「でも、私には全然出来そうに無いですよ」
奉太郎「うーん……」
奉太郎「授業中に、練習してみたらどうだ」
える「折木さんは授業中にやっているんですか?」
奉太郎「まあ、暇だしな」
える「いけません! しっかりと聞かないと駄目ですよ」
なるほど、確かに正論である。
だが俺にも言い分はあった。
奉太郎「それで、それを補う為にわざわざ放課後、部室に残って勉強しているのだが」
奉太郎「俺が集中出来ないのは何故か、分かるか千反田」
617: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:47:28.52 ID:82esDMmt0
俺がそう言うと、千反田は若干焦りながら答える。
える「あ、そ、それとこれとは別です」
える「そんな事より、私にも教えてください」
俺の言い分は……そんな事と言う一言で片付けられてしまった。
奉太郎「しかし、教えると言ってもだな」
える「そこを何とか、お願いします」
奉太郎「ううむ……」
奉太郎「……まず、ペンを持ってみろ」
える「はい! こんな感じですかね?」
奉太郎「ああ、まあそれでいいんじゃないか」
奉太郎「で、その後はだな」
奉太郎「こうやって、こうだ」
そう言い、俺は自分が持っていたペンをくるりと回す。
618: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:47:56.83 ID:82esDMmt0
える「あの、失礼な事を聞いてもいいですか」
何だろう、わざわざ失礼な事と前置きしてまで聞くと言う事は、大分失礼な事なのだろうか。
える「折木さんって、教え方が上手い方では無いのでしょうか」
奉太郎「……お前がそれを言うか」
える「す、すいません」
える「でも、全然分からなかったので……」
と言われても、俺も困ってしまう。
奉太郎「とりあえず、練習しておけばいいさ」
奉太郎「その内出来る様になるだろ」
俺は千反田にそう告げ、勉強を再開する。
619: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:48:23.78 ID:82esDMmt0
奉太郎「……」
える「……よいしょ」
奉太郎「……」
える「……あ!」
奉太郎「……」
える「……うまく行きませんね」
先程から、ペンの落ちる音が鳴り響いている。
その音が聞こえた後、千反田の独り言が聞こえてくる。
こんなんじゃ、勉強所では無いな……全く。
奉太郎「ああ、もう」
未だにペンを回そうと奮闘している千反田を見て、俺は席を立つ。
そのまま千反田の後ろに回り、ペンを持つ手を上から掴む。
620: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:48:49.29 ID:82esDMmt0
奉太郎「だから、こうやって……」
奉太郎「こうだ」
俺はそう言い、いつもの要領で千反田の手を動かした。
うまく行くとは思わなかったが……ペンはうまい具合に一回転し、千反田の手に収まった。
える「すごいです、折木さん!」
奉太郎「別に凄くは無いだろ……」
奉太郎「もう一回、やってみろ」
俺は千反田後ろに立ったまま、手を離す。
える「はい、やってみますね」
える「……よいしょ」
……ああ、違う。
後ろから見ているとなんとなく分かる……こいつはペンを、指で追いかけ過ぎだ。
621: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:49:23.53 ID:82esDMmt0
奉太郎「だから、こう持って」
そう言い、俺は再び千反田の手を掴む。
その時、ふと千反田が俺の方に顔を向けた。
俺はこの時、まずいと感じた。
予想以上に、千反田の顔が近かったのだ。
そのまま数秒間、千反田と見つめ合う。
そんな沈黙に耐え切れず、俺は顔を逸らした。
千反田も顔を逸らし、口を開く。
える「あ、あの……」
える「少し……は、恥ずかしいです」
あえて言わなくてもいいだろうに、そんなの俺だって感じている。
622: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:50:12.80 ID:82esDMmt0
奉太郎「す……すまんな」
そして千反田の手を離し、俺は自分の席へと腰を掛けた。
空気を変えるため、咳払いを一つすると、俺は千反田に話しかける。
奉太郎「……えっとだな、千反田はペンを追いかけ過ぎだ」
える「追いかけ過ぎ……ですか」
奉太郎「ああ」
奉太郎「ペンを押し出したら、そのまま戻ってくるのを待つんだ」
奉太郎「それで、タイミング良く掴む、それだけだ」
える「分かりました……もう一度、やってみますね」
える「ええっと、こんな感じで持って」
える「……えい!」
623: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:50:40.93 ID:82esDMmt0
しかし、ペンは先程同様、床へと落ちて行った。
まあでも、さっきよりかは大分マシになっていた様に見える。
える「やはり、難しいですね」
奉太郎「その内出来るようになるさ、さっきも言ったけどな」
える「はい……頑張ってみます」
える「でも、折木さんは簡単そうに回して、凄いです」
奉太郎「そ、そうか」
える「折木さんの特技はペン回しだったんですね」
……なんか、とても情けない特技では無いだろうか。
奉太郎「そこまで大袈裟に言う程の物でもないだろ」
俺はそう言うと、千反田はやはりと言うべきか、顔を近づけ、言ってきた。
624: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:51:06.76 ID:82esDMmt0
える「いいえ、それは違いますよ」
える「どんな些細な事でも、皆さんそれぞれ、得意な物や苦手な物があるんです」
奉太郎「……まあ、そうだな」
奉太郎「それは分かる」
える「ふふ、そうですか」
える「例えば折木さんは物事を組み立てるのが、得意ですよね」
そうなのだろうか、自分では良く分からないが……
える「でも、私は物事を組み立てるのが苦手です」
奉太郎「ああ、それは何となく分かる」
千反田に向けそう言うと、少しむくれながら続けた。
625: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:51:43.16 ID:82esDMmt0
える「……それでですね、先程のペン回しもそれに当てはまるんです」
える「どんな些細な事でも、それらはその人と言う物を表していると、私は思います」
える「誰しも、これだけは負けられない、と言うのがあると思うんです」
奉太郎「俺にそれがあると思うか」
える「折木さんは……そうですね」
える「面倒くさがりな所は、誰にも負けませんよ」
さっきの仕返しと言わんばかりに、千反田はにこにこしながら俺に言ってくる。
奉太郎「……お前も随分言う様になったな」
える「でも、それもまた……折木さんという方を表しているんです」
える「写真を撮るのが得意な方、絵を描くのが得意な方、物を作るのが得意な方、ゲームが得意な方」
える「どれだけ小さい事でも、それらは立派な物だと……私は思うんです」
626: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:52:14.54 ID:82esDMmt0
なるほど……確かに、そう言われればそうかもしれない。
奉太郎「つまり、お前の好奇心も……千反田と言う人間を表しているのか」
える「ええ、そうなりますね」
える「それで、私も折木さんの様にペンを回せるのか……と感じまして」
奉太郎「ああ、それでペンが気になる、と言ったのか」
える「はい、そうです」
える「でも、私には少し難しいみたいです」
そう言いながら、笑う千反田の顔は……
どこか、寂しげだったのを俺はしっかりと記憶していた。
第13話
おわり
627: ◆Oe72InN3/k 2012/10/21(日) 18:52:41.29 ID:82esDMmt0
以上で第13話、終わりとなります。
乙ありがとうございました。
628: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/21(日) 18:57:53.62 ID:F9Avvrtb0
なにやらまた不穏な影が
629: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) 2012/10/21(日) 18:58:40.69 ID:wTn15/sW0
いつもながら、乙です。
なにやら、女帝が。。L嬢も距離が。。
これは気になります。次回が待ち遠しいですね。
以前ss、というか二次創作モノですが、書き始めた事を書きましたが、続ける事はなかなか難しいものです。
頑張ってください。影ながら応援しています。僕も見習わないと。。
631: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/21(日) 20:58:00.20 ID:D2Fd4plH0
更新が楽しみで毎日わくわくしてる
そして何やら怖い展開に。。
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- 2012/10/22(月) 21:44:59|
- 氷菓
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