672: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:26:01.85 ID:wMwX2Y5/0
こんばんは。
第15話、投下致します。
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1349003727/
673: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:26:48.41 ID:wMwX2Y5/0
俺は再び、意識を引き戻す。
そろそろ……千反田がここに来る。
入須「……まだかな?」
奉太郎「黙っていてくれるんじゃ、無かったんですか」
入須「すまんな、私もあまり……気が長い方では無いんだ」
奉太郎「そうですか」
入須「それに、そろそろ千反田が来るぞ?」
そう言い、入須が指を指す。
674: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:27:23.17 ID:wMwX2Y5/0
そっちに俺は視線を移すと、小さく……小さく人影が見えた。
ああ、くそ。
もう一度、後一回だけ意識を過去に向けよう。
そうすれば、きっと答えが出る筈だ。
花火大会もいよいよ、終盤へと向かっている。
一際派手にあがる花火を一度見て、視線を地面へと向ける。
あの後だ……俺が目を覚ましたら、確か。
675: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:27:50.15 ID:wMwX2Y5/0
過去
~別荘~
入須「折木君、まだ寝ているのか」
奉太郎「……ん」
その言葉で、俺はゆっくりと目を開けた。
奉太郎「……勝手に、部屋に入らないでくださいよ」
入須「ここは私の別荘だぞ、つまりこの部屋も私のだ」
奉太郎「……さいですか」
寝起きは最悪だった、そんな気分を表す様に、部屋が随分と暗い。
奉太郎「あれ、もう夜ですか」
入須「ああ、私はついさっき戻ってきた所だよ」
入須「今は19時くらい、かな」
676: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:28:18.28 ID:wMwX2Y5/0
奉太郎「そうですか……あ」
奉太郎「花火大会って、何時からでしたっけ」
入須「20時からだ、だからなるべく急いでくれるとありがたいな」
それは最初に言うべき事では無いのだろうか。
まあいい、準備をするか。
俺は適当に返事をした後、身支度を整える。
そして入須と一緒に別荘を出た時、ある事に気付いた。
奉太郎「そういえば」
奉太郎「里志と、伊原は?」
入須「ああ、彼らなら二人で花火を見ると言っていた」
入須「まあ、恋人同士なら、そうしたいのが本音だったんだろうな」
奉太郎「……そうですか」
677: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:29:00.57 ID:wMwX2Y5/0
奉太郎「それで、千反田は?」
入須「まだ来ていないよ」
入須「電話はあったが、電車が遅れているせいで……もしかしたら間に合わないかもな」
奉太郎「なるほど」
奉太郎「つまりは入須先輩と二人っきりって事ですか」
入須「何だ、やはり私と二人は嫌か」
奉太郎「……別に、そういう訳では無いです」
入須「また、千反田に勘違いされたらと考えているのか」
入須「私と折木君が、特別な関係の様に」
奉太郎「入須先輩」
奉太郎「……いくら俺でも、それ以上言うなら怒りますよ」
入須「……すまんな、冗談だ」
入須「千反田がそんな勘違いをもう起こさない事等、私は分かっているさ」
入須「あいつは、賢いからな」
奉太郎「……すみません」
奉太郎「それじゃ、行きますか」
678: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:29:26.94 ID:wMwX2Y5/0
~高台への道~
入須「まだ時間はありそうだな」
入須「何か、話でもしながら歩くか」
奉太郎「話、ですか」
奉太郎「……俺が気になるのは、花火師の人の事ですね」
入須「花火師の?」
奉太郎「はい」
奉太郎「その人は、どんな人ですか?」
入須「そうだな……」
入須「一言で言うなら……やはり、仕事一筋、と言った所だ」
679: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:29:53.79 ID:wMwX2Y5/0
入須「奥さんにも、子供にも、あまり優しい姿を見せてはいなかった」
入須「自分の仕事に誇りを持っていて、何より信念を持っていた」
入須「そんな人だよ」
奉太郎「なるほど、やはり」
奉太郎「素晴らしい花火が、期待できそうですね」
入須「そうとも、私が一番好きな花火だ」
入須がここまで言い切ると言う事は、多分誰から見ても……素晴らしい物なのだろう。
入須「私が思ったのは……」
奉太郎「何ですか」
680: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:30:21.17 ID:wMwX2Y5/0
入須「君と、その花火師はどこか似ている、と言った所だな」
はあ、俺とその花火師が似ている……か。
奉太郎「あり得ませんよ」
奉太郎「第一、俺はそんな面倒な事はしません」
奉太郎「仕事で選ぶとしたら、絶対に無いですね」
奉太郎「それにその仕事に、信念やプライドを持つ事も、無いと思いますよ」
入須「きっぱりと言い切るのだな」
入須「観点を、変えてみたらどうだろうか」
奉太郎「観点を?」
入須「ああ」
681: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:30:47.97 ID:wMwX2Y5/0
入須「私が聞くに、君は省エネをモットーとしている」
また姉貴か、余計な事を。
入須「それを花火師の仕事と置き換えるんだ」
入須「君はそのモットーに感じているのは、信念だろう」
奉太郎「……どうでしょうかね」
入須「私から見たら、似ているよ」
やはり……俺にはとても、そうは思えない。
682: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:31:13.68 ID:wMwX2Y5/0
~高台~
入須は時計に目をやっていた。
入須「そろそろ20時か」
俺は設置されていたベンチに腰を掛け、その時を待っている。
入須「君は、花火は好きか?」
奉太郎「どちらでも無い、と言ったほうが本当でしょうね」
入須「そうか」
入須は手すりに背中を預けながら、腕を組んでいた。
奉太郎「不満ですか?」
入須「不満……とはどう言う事かな」
683: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:31:39.52 ID:wMwX2Y5/0
奉太郎「折角の花火大会、それに招待したのにそんな感想で」
入須「ふふ」
入須「……君の事は少しは分かっているつもりだ」
入須「だから別に、不満と言う事も無いかな」
入須「ある程度は予想できていたと言う事だ」
奉太郎「それなら……いいですが」
入須「君は、おかしな奴だな」
真顔で言われると、なんだか嫌だな。
奉太郎「そう言う事を、単刀直入に言うのはやめた方がいいと思います」
684: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:32:05.37 ID:wMwX2Y5/0
入須「だってそうだろう」
入須「それなら良い、と言うくらいなら……最初から、どちらでも無いなんて言わなければいいじゃないか」
奉太郎「……俺は」
奉太郎「嘘はあまり、好きでは無いので」
入須「……ふふ、そうか」
入須「そう言えば」
入須「千反田も、嘘はあまり好きでは無かったな」
その時の入須の顔は、本当に嫌な笑い方をしていた。
奉太郎「……それは、初耳です」
俺がそう言うと、入須は眉を吊り上げながら、口を開いた。
685: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:32:31.36 ID:wMwX2Y5/0
入須「何だ、嘘は嫌いなんじゃなかったのか」
奉太郎「……全く」
奉太郎「嘘よりも、あなたの事が嫌いになりそうですよ」
入須「……それもまた、嘘だと良いのだがな」
奉太郎「さあ、どうでしょうね」
その時、夜風が一際強く吹く。
夏はまだ始まったばかりなのに、その風はとても冷たく、俺は少しだけ身震いをした。
入須「……おかしいな」
奉太郎「おかしいとは、俺の事ですか?」
入須「いいや、違う」
何だ、さっきまでの空気とは変わって……入須は少し、いや、いつも通り真面目な顔をしていた。
686: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:32:57.18 ID:wMwX2Y5/0
奉太郎「では、何がおかしいと言うんですか」
入須「あれだよ」
そう言いながら、入須が指を指したのは時計。
俺は促されるまま時計に目を移す。
奉太郎「20時10分ですね」
奉太郎「別に、おかしい所はありませんが」
入須「はあ……」
入須「君は何の為にここまで来たのか、忘れたと言うのか」
何の為だったか……
ああ、そうだ、花火だ。
687: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:33:24.85 ID:wMwX2Y5/0
奉太郎「遅れているんじゃないですか?」
入須「いいや、それはあり得ない」
入須「私は今日、一度彼に会っているんだ」
彼……とは、花火師の事だろう。
入須「準備は完璧だった」
奉太郎「なら、その後に何か予想外の事が起きて」
入須「それも無いな」
入須「彼はこの仕事に……大袈裟に言えば、命を賭けていた」
入須「そのくらい、誇りに思っていたんだ」
入須「それはさっきも言っただろう」
688: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:33:50.84 ID:wMwX2Y5/0
入須「私は小さい時から、彼の花火を見ている」
入須「1分くらいの前後なら、時計のずれとも言えるがな」
入須「ここまで遅れた事は……今まで無かった」
ふむ……つまり、よく分からん。
奉太郎「まあ、その内始まるでしょう」
入須「だと良いんだが」
入須「……少し、心配だな」
そう言う入須の顔は、どこか寂しげで……
気付いたら俺は、顔を入須から背けていた。
多分、いつもの入須らしくない入須を、見たくなかったのだろう。
689: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:34:16.66 ID:wMwX2Y5/0
奉太郎「まあ、気楽に考えましょう」
入須「……ああ」
それから5分、10分と経つが、花火大会は始まらない。
入須はどこか、そわそわしている様子だった。
奉太郎「先輩らしく無いですね」
入須「ふふ、君が私の何を知っているんだ」
奉太郎「……何も」
入須「本当に、おかしな奴だな……君は」
入須はそう言い、俺の隣に腰を掛けた。
690: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:34:42.66 ID:wMwX2Y5/0
入須「一つ、問題を出そうか」
奉太郎「結構です」
入須「聞くだけでも聞け」
入須「君なら多分、分かるしな。 私も解決して欲しい問題だ」
……ううむ、どうしようか。
まあ、何もしないで待っているよりは、いくらかマシか。
それに……俺が今日ここに居るのも、入須の招待あってこそだしな。
考えても、罰は当たらないか。
奉太郎「分かりましたよ、何ですか?」
入須「君ならそう言ってくれると思ってた」
入須「私が提示する問題は一つ」
691: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:35:46.10 ID:wMwX2Y5/0
入須「何故、今日……花火大会が未だに始まっていないのか、だ」
……また無茶な。
奉太郎「それが俺に分かる訳が無いでしょう」
入須「どうだろうな」
入須は何がおかしいのか、笑っていた。
奉太郎「まあ、頭の隅には、一応置いておきます」
入須「ああ」
692: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:36:12.54 ID:wMwX2Y5/0
~現在~
ああ、そうだった。
そうして俺は入須の問題へと取り組む事になったのだ。
そう思い、顔を上に戻した。
える「私、気になります!」
奉太郎「うわっ!」
勢い余って、ベンチから落ちそうになる。
奉太郎「ち、千反田か」
奉太郎「いきなり声を出すな、びっくりするだろ」
える「いえ、何度か声を掛けましたよ」
える「でも、考えている様子だったので……」
俺はそれほどまでに、しっかりと考えていたのか。
693: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:36:39.74 ID:wMwX2Y5/0
奉太郎「それで、お前が気になると言うのは」
える「入須さんと同じ事です!」
それを聞き、視線を入須に移す。
入須「暇だったからな、全て説明しておいた」
くそ、最初からこれが狙いだったのでは無いだろうか。
まあでも、千反田が見えた時点でこの展開は予想できていた。
える「それで、何か分かりましたか?」
奉太郎「花火大会が遅れた理由、か」
える「勿論です!」
694: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:37:06.68 ID:wMwX2Y5/0
える「仕事一筋の方が、何故最後の花火大会と言う一大行事で失敗をしたのか」
える「何故、失敗をする事になったのか」
える「万全の準備が出来ていたにも関わらず、何故それが起きてしまったのか」
える「私、気になります」
俺は千反田の言葉をしっかりと聞き、返す。
奉太郎「……失敗とは、少し違うかもしれない」
える「それは……どういう事ですか?」
過去を遡ったおかげで、大体の答えは出ていた。
確認するべき事は、あと一つ。
奉太郎「入須先輩」
入須「ん、どうした?」
695: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:37:32.40 ID:wMwX2Y5/0
奉太郎「今日も、花火師の奥さんは仕事に?」
入須「ええっと、どうだったかな」
入須「昼間、挨拶した時は見えなかったから、恐らくそうだろう」
奉太郎「そうですか、ありがとうございます」
やはり、そうか。
ならもう、答えは出た。
なんとか間に合ったと言う所だが……間に合った物は間に合ったのだ。
奉太郎「じゃあ、何故……花火大会が遅れたのか、説明するか」
える「はい!」
奉太郎「まず第一に、今日の花火大会は20時に予定されていた」
奉太郎「それにも関わらず、始まったのは21時だ」
696: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:38:01.50 ID:wMwX2Y5/0
える「ええ、そう聞いています」
奉太郎「一時間のずれ……千反田は何を予想する?」
える「ええっと、そうですね」
える「準備不足、花火の設置ミスが考えられます」
える「後は……あまり言いたくないですが、急病なども」
奉太郎「大体、そうだろうな」
奉太郎「入須先輩、急病は考えられますか?」
入須「……無いと思うな」
入須「風邪にも滅多に掛からない人だ、考えられない」
入須「勿論、断言はできないが」
奉太郎「それだけ聞ければ十分です」
697: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:38:28.22 ID:wMwX2Y5/0
える「でも、そうなると……準備不足などでしょうか?」
入須「いいや、それもあり得ない」
奉太郎「そう、入須先輩が昼間に確認した時は、完璧に準備は出来ていたんだ」
奉太郎「つまり、先程、千反田があげた理由は全てが違う」
える「それなら、何故?」
奉太郎「……」
らしくないな、俺がこれを言うのはらしくない。
だが、それしか……そう答えを出すしか無かった。
……
いや、違う。
俺は、期待していたのか。
そうあって欲しいと。
698: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:38:55.61 ID:wMwX2Y5/0
奉太郎「今日、千反田は花火を見る事が出来たか?」
俺がそう言うと、未だにあがり続ける花火に一度目を移し、千反田は口を開く。
える「ええっと? 今現在、見れていますよ」
奉太郎「そうだ」
奉太郎「だが、通常通りの時間……20時に始まっていたらどうだ?」
える「……恐らく、見れなかったでしょうね」
入須「……そう言う事か」
どうやら、入須は分かった様だ。
さすがと言うべきか、だが少し……気付くのが早すぎでは無いだろうか?
ま、そんな事今はどうでもいいか。
俺はそう結論付け、話を再開する。
699: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:39:25.22 ID:wMwX2Y5/0
奉太郎「そう、そうなんだ」
奉太郎「今は22時を過ぎた所、通常通り行われていたら」
奉太郎「もう、終わっている時間なんだよ」
える「でも、それとどう関係が?」
える「まさか、私の為に大会が遅れた等は、言いませんよね」
奉太郎「……俺が、花火師だったとしたら」
奉太郎「その可能性もあったな」
そう俺が言った言葉は、花火の音に掻き消され、千反田には届いていなかった。
える「あの、今何て言いました?」
奉太郎「花火師は……奥さんの為に、大会を遅らせたんだろうな」
える「奥さんの、為ですか」
700: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:39:55.51 ID:wMwX2Y5/0
奉太郎「ああ、そうだ」
奉太郎「千反田がここに来るのに遅れた理由は、何だ」
える「ええっと、電車が遅れていたせい、ですね」
奉太郎「その通り」
奉太郎「それに巻き込まれたのは、花火師の奥さんも同じだったんだよ」
える「……と言う事は」
奉太郎「……自分があげる最後の花火」
奉太郎「それを、自分が一番好きな人に」
奉太郎「見て欲しかったんだと思う」
える「……」
入須が提示した問題、千反田が俺の目の前に出した問題。
その問題の答えを千反田に教えると、しばらく千反田は黙って花火を見ていた。
701: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:40:20.47 ID:wMwX2Y5/0
何度かまた、花火があがる。
それを見ながら、千反田はようやく口を開いた。
える「素敵、ですね」
奉太郎「……意外だな」
える「私が、大会が遅れた理由を素敵と言った事がですか?」
奉太郎「ああ」
える「……誰でも、そう思うのでは無いでしょうか」
奉太郎「……そうかもしれないな」
える「折木さんは、どう思いました?」
俺か、俺は。
奉太郎「……自分の信念を曲げ、最後は愛する人の為になる事をした」
奉太郎「それを悪い事とは、言えないさ」
える「ふふ、そうですよね」
そうして、俺と千反田、入須は最後の花火があがり、夜空に消えるまで、口を開く事は無かった。
702: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:40:47.74 ID:wMwX2Y5/0
~帰り道~
入須「やはり、折木君に答えを求めたのは正解だったな」
奉太郎「……それが合ってるかも分からないのにですか?」
入須「間違ってはいないだろう」
入須「この中で一番、花火師と付き合いが長い私が言うんだ」
入須「君の答えは、正解だよ」
奉太郎「……そりゃどうも」
そう言い、自然と入須は俺と千反田の前を歩く。
千反田と横に並び、帰るまでの道を歩く事となった。
奉太郎「さっき、俺が言った事だが」
える「えっと」
える「折木さんが意外と言った事ですか?」
703: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:41:18.41 ID:wMwX2Y5/0
奉太郎「ああ」
奉太郎「千反田は、今回の事……見覚えが無いか?」
える「見覚え……」
える「すいません、無いですね」
奉太郎「俺は、似たような事が前に合ったのを覚えている」
える「それは、私も知っている事でしょうか」
奉太郎「勿論」
奉太郎「そうじゃなきゃ、聞かないさ」
千反田は腕を組みながら、しばらく考えた後に、口を開く。
える「ごめんなさい、私にはやはり……」
そうだろうな。
千反田には、分からない事だろうから。
704: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:41:47.68 ID:wMwX2Y5/0
奉太郎「……前に、雛祭りがあっただろ」
える「今年の、ですか?」
奉太郎「いや……去年のだ」
える「去年の……」
奉太郎「その時、通常とは違うルートを通った筈だ」
える「あ、そんな事もありましたね」
奉太郎「ええっと、誰だったか」
奉太郎「あの、茶髪のせいで」
える「ふふ、小成さんの息子さんですね」
奉太郎「そうそう」
える「もう少し、人の名前を覚えた方が良いですよ」
奉太郎「……努力はするさ」
705: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:42:16.44 ID:wMwX2Y5/0
ええっと、それで何の話だったっけか。
奉太郎「ああ、それで」
奉太郎「あの時、俺は言ったよな」
奉太郎「茶髪が違うルートにしたかった理由を」
える「ええ、覚えています」
える「その……行列が、桜の下を通る姿を」
その行列のメインは勿論、雛である千反田だ。
それを分かっていてか、少しだけ恥ずかしそうに千反田は言った。
奉太郎「それで、それに千反田は何て答えたか覚えているか?」
える「……確か、そんな事のために、と」
706: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:42:48.96 ID:wMwX2Y5/0
奉太郎「そうだ、そう言った」
える「えっと、それと今回の事に、何の関係が?」
奉太郎「……俺は、あの時、千反田がそう言った時」
奉太郎「そんな事とは、全然思えなかった」
える「……それは、どういう意味でしょうか」
奉太郎「あの茶髪は、自分が良い写真を撮りたい為に、ルートを外させた」
奉太郎「花火師は、奥さんの為に、花火大会を遅らせた」
奉太郎「そのどちらも、極端に言えば自分の為だろう」
える「……そうなりますね」
奉太郎「でも、それでも」
奉太郎「他にも、救われた人が居るんだ」
707: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:43:19.73 ID:wMwX2Y5/0
奉太郎「花火大会が遅れた事で、千反田は間に合った」
奉太郎「そして、行列が桜の下を通ることで」
奉太郎「……俺は、今までで一番綺麗な景色を見れた」
える「あ、あの……それって、折木さん」
奉太郎「後ろから見ていても、綺麗だった」
奉太郎「どんな景色よりも……いい物だったよ」
える「……は、恥ずかしいです」
奉太郎「……すまん」
奉太郎「俺らしく、無かったな」
える「い、いえ……良いんです」
708: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:43:48.70 ID:wMwX2Y5/0
俺はその後、前からお前の顔を見たかったと言おうとした。
しかし、口をモゴモゴさせながら、ありがとうございますと言う千反田を見たら、どうしても言葉には出来なかった。
……多分、恥ずかしかったんだと思う。
どうにも自分の事は、分かり辛い。
入須「そろそろ着くぞ」
ふいに入須が、声を掛けてきた。
気付けばもう、別荘が見えている。
……なんだか今日一日で、物凄いエネルギーを使った気がするな。
709: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:44:14.41 ID:wMwX2Y5/0
しかしどうにも、まだ引っ掛かる事が俺の中にはあった。
あいつは、最初から全て分かっていたのでは無いだろうか。
花火大会が遅れた理由を。
奉太郎「……やはり、苦手だ」
そんな俺の呟きが聞こえたのか、入須は振り向きながら、口を開く。
入須「結論が出た所で、もう一度言うが」
入須「似ているよ、君は」
ああくそ、まんまと嵌められたって訳だ。
……今度誘われたとしても、断る方向にしよう。
次に花火を見る時は、そうだな。
千反田と二人でと言うのも、悪くないな。
第15話
おわり
710: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:45:07.54 ID:wMwX2Y5/0
以上で第15話、終わりとなります。
乙ありがとうございました。
711: ◆Oe72InN3/k 2012/10/24(水) 22:45:59.66 ID:wMwX2Y5/0
そしてもう700レス……
今回はさすがに、1スレ内で終わりそうにないですね。
712: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/24(水) 23:13:45.53 ID:1QydybNyo
乙でした
いいんですよ、何スレ続けても…
713: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/24(水) 23:16:22.13 ID:EXnaN/+v0
>>711
乙です!
次は水着回···!
誰か絵のうまい人、3人娘の水着絵を···!
715: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/24(水) 23:33:45.93 ID:jVbYT1e3o
おつー
まやかたちのイチャイチャも気になるね
>>713
おいやめろ>>1がその気になったらどうするんだ
716: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2012/10/24(水) 23:41:44.25 ID:/FrXhWw/0
>>710
乙
帰り道、イチャコラしてる奉太郎とちーちゃんに入須先輩が呆れていたりしたら俺得
>>713
ちょっと待ってくれ
水着イラストを所望とか変なフラグが立つ予感ありありなんだが
717: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2012/10/25(木) 00:26:41.32 ID:DKcLq1vLo
???「私、絵には自信があるんです!」
オイヤメロ、ウワァァァァァ
718: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/25(木) 00:32:55.77 ID:HcX5qShoo
乙
絵は3度目の正直を期待するしかないな
719: ◆Oe72InN3/k 2012/10/25(木) 00:39:12.20 ID:LXGtt7z20
>>713
お呼びでしょうか?
と言っても、私の絵を見て亡くなられた方が出たら笑えないのでやめておきます……
実は絵が下手なのは自覚しています、ここだけの話。
724: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) 2012/10/25(木) 09:35:30.70 ID:JEB9yf780
726: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/25(木) 16:46:05.24 ID:pV3SLmRDO
アニメ二期やってほしいわ
また毎晩のようにVIPでえるたそ~ってレスしたい
- 関連記事
-
- 2012/10/26(金) 21:47:30|
- 氷菓
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0
-
|
-