728: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:41:47.34 ID:Z+iO6tmx0
こんばんは。
第16話、投下致します。
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1349003727/
729: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:42:16.23 ID:Z+iO6tmx0
奉太郎「……ふわぁあ」
大きなあくびをしながら起きる。
昨日はここに戻ってきたから、随分とぐっすりと眠れた。
昼間散々寝ていたせいで、少々心配だったが……
恐らく、頭をいつもより働かせたせいだろう。
部屋の時計によると、まだ朝の6時、俺にしては随分早起き出来た物だ……と自分を褒めたい。
奉太郎「とりあえず、寝癖直すか」
毎度毎度、この寝癖は俺を悩ませる。
里志や伊原に相談すれば、短く切ればいい等と言うだろうが、それもまた面倒なのだ。
しかし、結果的に見れば……そうするのが効率良くなるのかもしれない。
そう思う物の、髪を切ろうと思わない辺り、俺はやはりこの髪型が気に入ってるのだろう。
730: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:43:05.56 ID:Z+iO6tmx0
奉太郎「……どうでもいいな」
そんな独り言をしながら、洗面所で寝癖を直していた。
摩耶花「……おはよ」
後ろから声が掛かる。
奉太郎「ああ……おはよう」
伊原の元気の無さから、こいつも多分朝は苦手な方だと予測できる。
丁度寝癖は直し終わったし、伊原にその場所は譲る事にした。
……本当の所は、既に機嫌が悪そうな伊原の機嫌を更に損ねたく無かったからだが。
俺はそのままの足で、一度ベランダへと出た。
外に出ると、朝が早いだけあり、風が涼しい。
731: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:43:31.98 ID:Z+iO6tmx0
える「おはようございます、折木さん」
そしてそこにはどうやら、先客が居た様だ。
奉太郎「……早起きだな」
える「折木さんこそ」
奉太郎「俺は昨日、昼間少し寝ていたしな」
える「そうだったんですか」
奉太郎「ああ」
そこで一度、会話が途切れる。
心なしか、千反田が何か聞きたそうにこちらを見ていた。
奉太郎「……気になる事でもあったか」
える「良く分かりましたね」
……いや、そこまでそわそわしていたら誰でも分かるだろうに。
732: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:43:57.24 ID:Z+iO6tmx0
える「折木さんは何故、お昼に寝ていたのですか?」
これは……朝から、失言だったか。
それに答えるのは、面倒と言うよりは……言いたく無い。
奉太郎「……里志にでも、聞いておけ」
える「福部さんですか……今はまだ、寝ているので」
奉太郎「なら、伊原でもいい」
える「摩耶花さんは、一人の方が楽そうだったので」
奉太郎「じゃあ、入須でもいいだろ」
える「そうですね、そうします」
とりあえずこれで、今の所は回避出来た。
後は入須が俺の気持ちを考えてくれるかどうかだが、どうだろう。
733: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:44:24.86 ID:Z+iO6tmx0
える「何故ですか?」
今、入須に聞くと言ったばかりなのに、何を言っているんだこいつは。
俺が千反田のその質問に口を開こうとした時、後ろから声がした。
入須「うーん、言ってもいいか?」
いつから居たのか、入須の声が後ろからする。
奉太郎「……おはようございます」
入須「ああ、おはよう」
奉太郎「居るなら居ると、言ってくださいよ」
入須「すまんな、千反田は気づいていた様だったが」
える「ええ、すぐに気付きました」
える「入須さんの足音がしたので」
さいで。
734: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:45:02.61 ID:Z+iO6tmx0
える「それより、です」
える「入須さん、何故ですか?」
千反田がそう聞くと、入須は一度俺の方に視線を移す。
奉太郎「そこまで言ったなら、話してもいいんじゃないですか」
入須「君がそう言うなら、いいか」
奉太郎「俺は一足先に中に戻っています」
そう言い残し、俺は部屋の中へと戻る。
……今の最善手は、何だっただろうか。
むしろ、俺が昼間寝ていた原因を隠す必要が……無いな。
735: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:45:28.49 ID:Z+iO6tmx0
客観的に見れば、そんな所か。
そうして俺は一度、自分の部屋へと戻る。
ベッドの上で一時間ほど本を読み、やがて入須に呼び出され、朝飯を食べる事となる。
俺と千反田と伊原と入須。
里志はまあ……まだ寝ているのだろう。
朝はどうやら、千反田達で飯を作った様で、かなり美味しかった。
唯一不満があるとすれば、俺が昼間寝ていた理由を聞いたであろう千反田が、にこにことしながら俺を見ている事だったが。
736: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:46:00.78 ID:Z+iO6tmx0
朝飯を食べ終わり、ゆっくりとした時間が流れる。
奉太郎「そう言えば、伊原は昨日どうだったんだ」
摩耶花「えっと、花火大会?」
奉太郎「それ以外に何かあったか」
摩耶花「一応の確認でしょ、別にいいじゃない」
奉太郎「大会は遅れただろ、花火は見れたか?」
摩耶花「まあ、うん」
摩耶花「見れたよ」
える「どうでした、花火は」
摩耶花「すごく、良かった」
そう言う事に大して感情を抱かない俺が、綺麗な花火だと思ったのだ。
伊原が感じた事は……とても俺には想像できないな。
737: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:46:26.95 ID:Z+iO6tmx0
入須「今年で彼の花火は終わりだが、来年もきっと素晴らしい物が見れるさ」
入須はそう言いながら、人数分のコーヒーを持ってくる。
奉太郎「ありがとうございます」
俺はそれを受け取り、一口飲んだ。
……実に良い、甘すぎないし、丁度良い。
あれ、待てよ。
奉太郎「千反田、それコーヒーだぞ」
える「あ、そうですね」
入須「なんだ、嫌いだったか」
える「嫌い、と言う訳では無いのですが……」
奉太郎「飲ませない方が良いと、言っておきます」
738: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:47:06.27 ID:Z+iO6tmx0
摩耶花「なになに、折木は何か知ってるの?」
える「あの、そのですね」
奉太郎「……性格が変わる」
摩耶花「ちーちゃんの?」
千反田がコーヒーを飲む、そして俺の性格が変わったらどうするんだ、こいつは。
奉太郎「ああ、そうだ」
摩耶花「それ……ちょっと気になるかも」
える「や、やめてください」
入須「ふふ、まあそうならやめておこう」
入須「お茶を淹れて来るよ」
える「すいません、ありがとうございます」
千反田が頭を下げると、入須は軽く手をあげ返事をし、台所へと戻って行った。
739: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:48:16.85 ID:Z+iO6tmx0
摩耶花「それで、どんな風になるの?」
奉太郎「聞きたいか?」
摩耶花「……うん」
える「ふ、二人とも駄目ですよ!」
奉太郎「との事だが」
摩耶花「残念……気になるなぁ」
える「もうこの話は終わりです、違うお話をしましょう」
あからさまに慌てている千反田を眺めるのも、中々面白い物だ。
奉太郎「ま、いつか機会があったらと言う事で」
摩耶花「りょーかい、楽しみにしておくわね」
える「そんな機会、来ませんよ!」
740: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:49:26.86 ID:Z+iO6tmx0
摩耶花「それで、どんな風になるの?」
奉太郎「聞きたいか?」
摩耶花「……うん」
える「ふ、二人とも駄目ですよ!」
奉太郎「との事だが」
摩耶花「残念……気になるなぁ」
える「もうこの話は終わりです、違うお話をしましょう」
あからさまに慌てている千反田を眺めるのも、中々面白い物だ。
奉太郎「ま、いつか機会があったらと言う事で」
摩耶花「りょーかい、楽しみにしておくわね」
える「そんな機会、来ませんよ!」
741: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:49:54.60 ID:Z+iO6tmx0
それから他愛も無い話をし、時を過ごす。
珍しく俺も、その輪の中に入れていた。
そして、里志も起きて来て何十分か過ごした後、俺がこの旅行でもっとも回避したかった出来事が訪れる。
里志「じゃあ、そろそろ海に行こうか」
入須「そうだな、今日は天気も良い」
える「楽しみです!」
摩耶花「折木も来るのよ? もう具合も良くなってるでしょ」
……来てしまった物は仕方ない。
潔く、諦めよう。
742: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:50:49.35 ID:Z+iO6tmx0
~海~
里志「うわ、すごく綺麗な所だね」
摩耶花「そうね……でも人が全然居ないのは何で?」
入須「ああ、プライベートビーチみたいな物だからな」
……何て人だ。
える「海は久しぶりですね、去年の夏は入れなかったので」
千反田はいつかのプールの時と同じ水着を着ていた。
やはり、目のやり場に困ってしまう。
里志「それじゃ、入ろうか」
里志の言葉を受け、俺と入須を除く三人は海へと入って行った。
俺は、まあ……海でわいわい遊ぶと言う性格でも無いので、砂浜に腰を掛ける。
743: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:51:26.62 ID:Z+iO6tmx0
入須「何だ、入らないのか?」
そう言い、入須は俺の横へと腰を掛けた。
奉太郎「入須先輩こそ、入らないんですか」
入須「私は、まあ」
奉太郎「そうですか」
にしても、本当に綺麗な所だな。
空には雲一つ無く、日本の海とは思えない程に透き通った色をしている。
奉太郎「入須先輩は、昨日の事……最初から分かっていたんですか?」
入須「……さあ、どうだろうな」
奉太郎「ま、別にいいですけど」
そんな会話をしながら、海で遊ぶ里志達を眺めていた。
どこから持ってきたのか、ビーチボールで遊んでいる。
744: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:51:52.69 ID:Z+iO6tmx0
奉太郎「……大学は、どうですか」
入須「大学か」
入須「楽しい所だよ」
入須「だがやはり、高校の方が楽しかったかもな」
奉太郎「これから、大学へ行くであろう本人に言う台詞がそれですか」
入須「なんだ、嘘でも高校より楽しいと言えばいいのか?」
奉太郎「……」
奉太郎「先輩は」
奉太郎「後悔していますか、去年の事」
俺が言っているのは、去年俺と入須が……千反田を、傷付けた事だ。
入須「そうだな……どうだろう」
入須「でも結局は、君と千反田の距離は縮まったのでは無いか」
745: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:52:20.86 ID:Z+iO6tmx0
奉太郎「まあ……そうかもしれませんが」
入須「千反田を傷付けてしまった事は、後悔しているよ」
奉太郎「……でしょうね」
入須「ここだけの話だがな」
入須「先輩は、珍しく落ち込んでいたよ」
入須が指す人物とは、俺の姉貴の事だろう。
奉太郎「そうですか」
入須「君が言った通りだった……先輩も、後悔していたんだ」
奉太郎「なら結局、あの計画では……誰が、救われたんでしょうね」
入須「決まっている、誰も救われていない」
……だろうな。
746: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:52:52.26 ID:Z+iO6tmx0
入須「でも、それはあの当時での事だ」
奉太郎「当時の? どういう意味ですか」
入須「……もしかすると、次に繋がっていたのかもしれない」
奉太郎「すいません、少し意味が分かりかねます」
入須「……はっきり言うか」
そう言うと、入須は俺の方に顔を向ける。
入須「あそこで、君と千反田が近づいていなかったらどうなっていたと思う?」
入須「私が計画を拒否し、何も起こらなかったとしたら」
奉太郎「……それは」
恐らく、何も変わらない日々が過ぎていた。
747: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:53:26.96 ID:Z+iO6tmx0
俺と千反田は以前の距離を維持して、その距離を縮める事は……無かったのでは無いだろうか。
あれだけの事が無ければ、俺から千反田に歩み寄る事も無かったし、千反田もそうだろう。
そして多分、千反田の父親の話を聞いた日。
俺が千反田の気持ちを理解しようとしなければ、あの日に公園に行くことも無かったのかもしれない。
それは本当に、何も無い、今まで通りの折木奉太郎だろう。
良く言えば、自分のモットーを貫き通していると言える。
しかし悪く言えば、変わろうとしていないと言う事か。
ああ、なるほど。
……やはり入須は、昨日の事は分かっていたのだ。
748: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:53:53.72 ID:Z+iO6tmx0
奉太郎「苦手です、入須先輩は」
入須「君の言葉を借りると、本人の前で言う事では無い、と言った所だな」
奉太郎「それはすいませんでした、失言ですね」
入須「ふふ、そうだな」
まあ、苦手ではあるが……嫌いでは、無いか。
そんな事を考えながら、顔を再び里志達の方に向けた。
目の前に、誰かが居る。
入須と話し込んでいて全く気付かなかった。
空気で分かる、それは千反田だ。
俺はそいつに目を移す。
……手には、ビーチボール?
749: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:54:45.62 ID:Z+iO6tmx0
瞬間、俺がその状況を理解する前に、千反田によって放たれたボールが顔に命中する。
える「ご、ごめんなさい!」
そう言いながら、逃げていく千反田が見えた。
プールの時も確か、同じ様な事をされた気がする。
あの時は何も考えていなかったせいで受け流してしまったが……今は違う。
奉太郎「……千反田」
俺は逃げる千反田に向かって、聞こえるくらいの声を出した。
える「え、はい!」
千反田は振り返り、俺の話に耳を傾ける。
奉太郎「俺が今、やるべき事は何か分かるか」
える「えっと、それは……どういう事でしょうか」
奉太郎「手短に、終わらせよう」
750: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:55:22.34 ID:Z+iO6tmx0
冷や汗を掻きながら後ずさりする千反田に向かって、ボールを放った。
見事に命中し、倒れる千反田。
摩耶花「うわ、折木ひどーい!」
伊原がそれを見て、声を荒げる。
奉太郎「やり返しただけだ、別に酷くもなんとも無い」
我ながら、その通りである。
里志「まあまあ、手をあげるのは良くないよ、ホータロー」
……そう言いつつも、何故俺を羽交い絞めにする?
摩耶花「ちーちゃん、チャンスチャンス!」
待て待て! 卑怯では無いだろうか。
751: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:55:52.73 ID:Z+iO6tmx0
える「お返しです、折木さん!」
そう言い、俺に向かってボールを投げてきた。
しかしそれは俺の顔の横を通り過ぎ、後ろに居た里志へと当たる。
奉太郎「どうやら良い腕をしている様だ、千反田は」
倒れた里志に向かって、俺はそう言った。
里志「千反田さん」
える「え、ええっと……」
里志「自分がした事は、自分の下へと帰ってくるんだよ」
矛先はどうやら、俺から千反田へと向かった様だ。
これでようやく、俺もゆっくりできると言う物である。
しかし、それを考えられたのも一瞬であった。
里志が投げたボールは、手から滑り、入須へと当たる。
752: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:56:22.00 ID:Z+iO6tmx0
入須「福部くん」
入須「……自分が言った言葉は、忘れていないだろうな」
おお、入須の顔が恐ろしい。
もしかすると、伊原のそれよりも怖いかもしれない。
俺は無関係を装い、その場から少し距離を取った。
省エネ省エネ、眺めている方が安全だ。
そして何より、楽だ。
それからボールを投げ合う四人を眺めつつ、俺は夏の日差しを浴びていた。
実に……俺らしい選択である。
第16話
おわり
753: ◆Oe72InN3/k 2012/10/26(金) 22:56:47.25 ID:Z+iO6tmx0
以上で第16話、終わりとなります。
乙ありがとうございました。
754: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) 2012/10/26(金) 23:22:19.06 ID:7PwD5k0y0
乙です。
海が楽しそうでいいなあ。でも受験勉強もしろよ~。w
昨日久しぶりに秒速5センチメートル見て泣きました。ああいう風にはなってほしくないなあ。でも大学は別れちゃいそうだしなあ。遠距離は余程の事がないと壊れると思うので、奉えるについてはどういう結末がいいのかわかりませんね。
そんな妄想をしています。
755: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) 2012/10/26(金) 23:25:02.50 ID:n1gKc6e80
乙
759: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/27(土) 02:32:03.12 ID:QMlGtkRW0
乙えるの水着に目のやり場がないなら入須はどうなるんだよ
秒速いいよね
今後も楽しみしてます。
760: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) 2012/10/27(土) 14:29:05.79 ID:vksLvgfAO
>>1
乙!確かに、奉太郎がえるに気持ち伝えたのって、喧嘩した時だもんな・・・
>>759
意識してる相手だからこそ、目のやり場に困るんだろ。こう・・・嬉しいような、罪悪感のような
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- 2012/10/27(土) 20:48:22|
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