816: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:35:14.81 ID:KdUl2NLN0
こんばんは。
第19話、投下致します。
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1349003727/
817: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:35:44.33 ID:KdUl2NLN0
俺は家の窓から、外を眺めていた。
今日は夕方の6時に千反田の家に行かなければならない。
それもそう、千反田と祭りに行く予定となっているからだ。
先ほど見た時計によると、今は5時。
約束の時間までは、もう少しありそうだ。
昨日、寝る前にこれまでの事を振り返り、俺の中で結論は出ていた。
後はそれを千反田に言うだけなのだが……それが随分と、難しそうである。
まあ、なるようになるか。
時間まではまだ少しあるが、行くか。
早く着いて困る事等……無いだろう。
818: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:36:13.37 ID:KdUl2NLN0
~千反田家~
インターホンを鳴らすと、応答する前に玄関から千反田が出てきた。
える「お早いですね」
千反田は俺に昨日見せた浴衣を、しっかりと着こなしている。
前にも何回か、この様な装いは見ているが……
それらよりも幾分か軽い感じの印象を受けた。
そんな姿に、俺は少し見惚れてしまう。
える「あの、折木さん?」
奉太郎「あ、ああ」
奉太郎「……似合ってるな、浴衣」
恐らく……相当、無愛想な感じになってしまっただろう。
819: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:36:47.53 ID:KdUl2NLN0
える「ありがとうございます」
しかし当の本人はそんな事、全く気にしていない様子だった。
える「では、行きましょうか」
奉太郎「そうだな」
そう言い、千反田の少し後ろを歩く。
後ろと言っても、ほとんど横に並んでいる様な感じではあるが。
奉太郎「そこは遠いのか?」
える「いいえ、そうでも無いですよ」
える「ええっと、確か歩いて20分程です」
20分か、確かにそうでも無いかも知れない。
今日、俺が危惧していた事の一つ……
歩いて1時間だとか、2時間だとか、そんな距離では無い様だ。
まあこれで、一つ心配事が消えた訳か。
820: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:38:29.40 ID:KdUl2NLN0
奉太郎「その祭りは人とか結構来るのか?」
える「……どうでしょう、私も始めて行く場所ですので」
そうだったのか。
つまり千反田は、そこまでの道のりを調べていると言う事か。
なんだか悪い事をしてしまった気分になる。
言ってくれれば、少しは手伝えただろうに……多分。
える「神社で開かれているお祭りらしいので、人はそこそこには居ると思います」
奉太郎「なるほど」
まあそうだろう。
神社で折角開かれて閑古鳥が鳴いている様だったら、悲しい物である。
821: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:40:48.12 ID:KdUl2NLN0
える「そう言えば」
ふいに、千反田が前を向きながら呟いた。
える「折木さんと二人でお出かけするのも、随分久しぶりですね」
……そうだな、確かに言われてみればそうだ。
奉太郎「今年は、始めてかもしれないな」
える「ええ、確かその筈です」
奉太郎「最後に二人で遊んだのはいつだっけか」
える「ええっと……」
千反田は少しの間、考える素振りをすると、口を開いた。
える「映画を見た時では無いでしょうか?」
そうだっただろうか……?
二人で遊んだ、と言える事は他にもあったと思うが……
822: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:44:18.83 ID:KdUl2NLN0
奉太郎「水族館に行った時じゃないか?」
奉太郎「ほら、お前が学校ズル休みした時の」
える「……あの時は、具合が悪かったと言う事にしておいてくださいよ」
奉太郎「そんな奴が、水族館に行きたいとか言うのか」
える「……折木さんは意地悪です」
奉太郎「すまんすまん、まあ……今となれば良い思い出かもな」
える「あそこの水族館も、また行きたいですね」
奉太郎「そうだな……皆で行った動物園でも、俺はいいがな」
える「あ、それもいいですね」
なんだか、話が脱線しているが……今思い出した。
最後に千反田と二人で遊んだのは、映画を見に行った時だ。
823: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:44:50.29 ID:KdUl2NLN0
……なんだか負けた気分がするので、言わないが。
そんな事を考え歩いていると、前に沢山の提灯が見えて来る。
奉太郎「あそこか?」
える「ええ、ここですね」
ほお、意外とでかい祭りなのか。
人も結構な量だ。
える「わ、わ、すごいですね!」
千反田もそれに驚いたのか、はしゃいでいる。
正直な所、人混みはあまり好きでは無いのだが……
しかし、そんな事を言っていては祭りなんて楽しめないだろう。
824: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:46:23.00 ID:KdUl2NLN0
奉太郎「迷子になるなよ」
俺がそう言うと、千反田は頬を膨らませながら答える。
える「折木さんの方こそ、迷子にならないでくださいね」
奉太郎「……へいへい」
える「納得出来ない返事ですが、行きましょうか」
奉太郎「ん、そうだな」
何か言い返そうかと思ったが、いつまでもここで漫才をしている訳にもいかないだろう。
千反田もそれが分かったのか、二人で一緒に神社の中へと入って行った。
825: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:46:53.54 ID:KdUl2NLN0
~神社~
える「色々な出店がある様ですね」
奉太郎「みたいだな」
奉太郎「あれか、例の気になりますか?」
える「そうなんですが……色々とありすぎて、どこから気になればいいのか……」
大丈夫か、目が泳いでいるぞ。
奉太郎「時間が無いって訳でも無いだろ、ゆっくり回ればいいさ」
える「は、はい。 そうですね」
える「あ、でも花火は見ますよね?」
奉太郎「ああ、今はまだ18時30分くらいだろう」
奉太郎「21時からの筈だから、時間はあるさ」
える「分かりました、今回は花火が遅れる事も無さそうですしね」
奉太郎「そうだな」
そう話し終わると、早速千反田は出店を回り始める。
俺は特に千反田みたいに気になる物等は無かったので、それに黙って付いて行った。
826: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:47:37.94 ID:KdUl2NLN0
える「折木さん、これをやってみませんか?」
ええっと、何々。
奉太郎「射的か」
える「ええ、どうですか?」
奉太郎「お先にどうぞ」
える「私ですか、分かりました」
そう言い、千反田は店の人に金を渡すと、銃を構えた。
える「……」
狙いはなんだろうか?
奉太郎「何を狙っているんだ?」
える「あのぬいぐるみです……折木さん、お静かに」
……うるさいと言われてしまう、すんません。
827: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:48:05.24 ID:KdUl2NLN0
える「……よいしょ」
となんとも頼り無い掛け声と共に、パコンと言う音がした。
弾はぬいぐるみには当たった物の、落ちはしない。
奉太郎「惜しかったな」
える「残念です……次は折木さん、どうぞ」
ううむ、なら俺もあのぬいぐるみでも狙うか。
そう思い、店の人に俺も金を渡す。
銃を構え、狙いを定める。
奉太郎「……」
える「折木さんはどれを狙うんですか?」
828: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:49:14.27 ID:KdUl2NLN0
奉太郎「お前と同じ奴だ」
える「あ、ほんとですか」
える「頑張ってくださいね」
奉太郎「……ああ」
俺に静かにしろと言った割には、随分と話し掛けてくる奴だな……
奉太郎「……よっ」
結局、俺も随分と頼り無い掛け声であったのだが。
える「あ」
千反田が思わず声を出したのも無理は無い。
弾は的外れの所へと飛んで行ってしまったのだから。
829: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:49:54.84 ID:KdUl2NLN0
奉太郎「……お前の方が向いているな」
える「そうかもしれません」
何かフォローして欲しかったが、仕方ないか。
奉太郎「……次、行くか」
える「は、はい」
千反田はとても名残惜しそうに、ぬいぐるみを見つめていた。
そんな千反田の視線に気付いたのか、店の人が声を掛けてくる。
「なんだ、お嬢ちゃんこのぬいぐるみが欲しいのか?」
「いいよ、二人してやってくれたから」
そう言うと、店の人は俺にぬいぐるみを手渡す。
千反田と俺は最初の方こそ断った物の、結局はそれを受け取った。
なんともいい人である……最後の言葉。
830: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:50:23.49 ID:KdUl2NLN0
「情けない彼氏の面子を守る為にも」
と言う言葉は蛇足だったが。
奉太郎「……それで、次は何か見たい物あるか?」
える「ええっと、そうですね」
える「……お腹が、減りました」
何もそんな恥ずかしそうに言わなくてもいいのに。
俺だって、腹は減っている。
奉太郎「そうか、じゃあ何か食べるか」
える「はい、そうしましょう!」
831: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:50:49.83 ID:KdUl2NLN0
それから俺と千反田は手頃な焼きそば等を買い、備え付けてあるベンチに座る。
える「お祭りで食べる物って、普段買う物よりおいしく感じませんか?」
奉太郎「あ、それはあるな」
える「何故でしょうね」
奉太郎「……さあ」
える「難しい問題です、これは」
える「でも今はそれより、食べましょうか」
助かった。
流石に、俺とて人間がその時々で違う感じ方をする理由など、分かる訳も無い。
気になりますが出たら、どうしようかと思っていた所だった。
832: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:51:28.42 ID:KdUl2NLN0
奉太郎「他にもまだ回りたい所があるのか?」
える「ええ、いくつか」
奉太郎「楽しそうで何よりだ」
える「折木さんは、楽しくないんですか?」
奉太郎「いや、楽しんでいると思うが……何で?」
える「いえ、前の折木さんなら楽しいと思わなかったかもしれないので」
奉太郎「……そうか」
奉太郎「なあ、千反田」
える「はい、何でしょうか」
833: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:52:12.47 ID:KdUl2NLN0
奉太郎「お前から見て、俺は変わったと思うか?」
える「私の中では、折木さんは折木さんですが……」
突然そんな質問をされ、きょとんとした顔をしながら千反田は答えた。
える「前よりも行動的になったと言うか、活発になったと言うか、それを変わったと言うならば、変わったと思います」
奉太郎「だろうな」
える「折木さん自身も、気付いているんですか?」
奉太郎「里志に良く言われるからな、嫌でも気付くさ」
える「ふふ、そうですか」
奉太郎「……それで」
奉太郎「それは、悪い事なのだろうか」
える「何故、そう思うんです?」
奉太郎「……なんとなく」
834: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:53:05.96 ID:KdUl2NLN0
える「折木さんにしては、随分と説得力が無い理由ですね」
える「私は……良い事だと思います」
奉太郎「何故? 千反田の気になる事を解決できるからか?」
俺がそう言うと、千反田はまたしても頬を膨らませながら答えた。
える「そうではありませんよ、今日の折木さんはやはり、意地悪です」
奉太郎「……さいで」
える「私が良い事だと思うのはですね」
える「それは、折木さん自身だからです」
……どういう事だろうか。
そんな考えが顔に出ていたのか、千反田は補足を始める。
835: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:53:59.93 ID:KdUl2NLN0
える「つまりですね、例えばですが」
える「折木さんが、急に非行の道に走ったとしても、それは折木さん自身が選んだ事ですよね」
また随分と、飛んだな。
える「その行為自体は、良い事とは言えないですが」
える「でも、自分で決めた事ならば、それは良い事だと思うんです」
奉太郎「ふむ……つまり」
奉太郎「俺が今から酒や煙草をやっても、良い事なんだな」
える「……止めますよ?」
奉太郎「止めるのか」
える「ええ、止めます」
奉太郎「良い事なのに?」
える「……もしかして、ふざけていますか?」
836: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:54:51.44 ID:KdUl2NLN0
奉太郎「……ばれたか」
える「もう、やはり意地悪です」
奉太郎「すまんすまん」
奉太郎「まあ、でも言いたい事は分かったよ」
える「……そうですか、それならば良かったです」
奉太郎「ああ、なんだ……その」
奉太郎「ありがとうな、千反田」
える「ふふ、どういたしまして」
837: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:55:29.24 ID:KdUl2NLN0
それから、いくつか店を一緒に回る。
金魚すくい、輪投げ等々。
食べ物をやっている店もいくつか回り、時を過ごした。
そして。
奉太郎「そろそろ、時間だな」
える「あ、もうそんな時間ですか」
奉太郎「ああ、行くか?」
える「ええ、そうですね」
える「少し、食べ過ぎてしまった気がします……」
そうは言っていた物の、千反田の様な、生活が真面目な奴ならば大して気にする事でも無いだろうに。
838: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:55:55.14 ID:KdUl2NLN0
奉太郎「なら、走るか」
える「この格好では、無理ですよ」
える「それに折木さんは、絶対に走らないじゃないですか」
奉太郎「……良く分かったな」
える「誰にでも分かる事ですよ、折木さん」
そう言い、笑顔で千反田は俺の顔を覗き込んできた。
なんだ、俺の事を散々意地悪と言っておきながら、こいつも随分意地悪だな。
える「では、行きましょうか」
奉太郎「ああ、そうしよう」
俺はこの時、強く確信する。
……決着を付けるべきは、今日。
839: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:56:47.33 ID:KdUl2NLN0
しかし、それを回避する事も俺には出来た。
俺から何も話さなければ、千反田から何か言ってくる事も無いだろう。
それこそが省エネか。
なんて事を考え、一人苦笑いをする。
それだけは絶対にあり得ない。
俺は学んだのだ、あの日、あの公園で。
それならば同じ過ちを踏む必要なんて、無いだろう。
去年出来なかった事をする為に。
千反田との距離は既に正確に測れている筈だ。
なら……後は、俺の口から話すだけ。
なんだ、難しい難しいと思っていたが、簡単な事では無いか。
しかし何故か、俺は今日一番緊張しており、鼓動が早くなっているのを感じていた。
第19話
おわり
840: ◆Oe72InN3/k 2012/10/30(火) 22:57:16.98 ID:KdUl2NLN0
以上で第19話、終わりとなります。
乙ありがとうございました。
841: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) 2012/10/30(火) 23:19:51.23 ID:2qBEXaQAO
乙!
二人とも、自分の選択とか変化とかが正しいのかお互いに聞き合ってる。
・・・可愛いやつらめ!
いい所で止まりますね!続きも期待して待ってます!
842: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/30(火) 23:21:20.72 ID:r7s1Jjf1o
おつー
遠くに来てるし、二人以外の誰かが助けてくれることもないわけだね
よく言えば邪魔が入らないってことだけど
がんばれ、奉太郎
844: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) 2012/10/30(火) 23:59:57.96 ID:qxkJC57g0
乙です。
いいなあ、お祭行きたい。まずは縁がないからな。
良い青春時代を歩んでいると思うよ。ほうたるもえるも。暗黒だった僕から見たら、彼らは十分に薔薇色だな。
848: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) 2012/10/31(水) 10:59:01.15 ID:xD//KGFK0
次、気になります!
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- 2012/11/01(木) 21:48:14|
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