113: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 14:54:28.35 ID:pG0CiL9g0
こんにちは。
予定より一日早いですが、第25話を投下致します。
次のお話は、古典部の日常が終わるまでには決めておきます。
恐らくシリアスな物か、バトルな物か……
もしかすると、ホラー系になるかもしれません。
それは置いといて、第25話投下します。
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1352561755/
114: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 14:55:15.21 ID:pG0CiL9g0
奉太郎「ふわぁ……」
える「お客さん、来ないですね」
奉太郎「去年は結構売れたんだがな……」
える「やはり、二年も経つと忘れられてしまうのかもしれませんね」
奉太郎「かもな」
文化祭初日、俺と千反田は二人で店番をする事となっていた。
先日、話し合った結果……初日は俺と千反田。
二日目は伊原と里志が店番をと言った風に決まったのだ。
窓の外からはいつもと違い、賑やかな声が聞こえてくる。
奉太郎「そう言えば、ここの高校の文化祭はどんな感じなんだ?」
115: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 14:55:42.65 ID:pG0CiL9g0
える「折木さん、その台詞を言うタイミングは二年前ですよ」
奉太郎「……今まで興味なんて無かったんだ、仕方ないだろ」
える「では、今年は興味があると言う事でしょうか?」
奉太郎「まあ、そうだな……少しはあるさ」
える「そうですか、それならばそんな折木さんの為に、説明しますね」
奉太郎「どうも」
える「えっとですね、まずは……凄いんです」
奉太郎「どんな風に?」
える「人がいっぱいなんですよ、色々な部活が色々な事をしているんです」
奉太郎「……それで?」
える「そうですね……」
える「声を出して、皆さん頑張っていますよ」
奉太郎「……千反田」
える「はい、何でしょうか?」
奉太郎「いや、やっぱり良い」
116: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 14:56:12.24 ID:pG0CiL9g0
える「む、折木さんが言おうとした事が……気になりますね」
言ったら多分、千反田にまた抓られる恐れがある。
……もしかすると、次は足でも踏まれるかもしれない。
そんな俺の気持ちを汲み取ってくれたのか、本日一人目の客がやって来た。
奉太郎「……これはこれは、わざわざ」
まさか、一人目の客がこの人だとは……思いもしなかったな。
田名辺「久しぶり、元気にやってるみたいだね」
える「あ、田名辺治朗さんですね。 お久しぶりです」
田名辺「君は、部長さんだったかな」
える「ええ、一年の時はご迷惑をお掛けしました」
田名辺「はは、気にしないで」
田名辺「君の頼みなんて、大した事じゃなかったよ」
田名辺「どっちかと言うと……」
そう言い、俺の方に視線を移してきた。
奉太郎「はは」
それに俺は苦笑い。
117: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 14:56:44.09 ID:pG0CiL9g0
奉太郎「それで……先輩は、ただ話をしに来た訳では無いですよね?」
田名辺「しっかりしてるな、君は」
田名辺「ま、元々買うつもりだったしね、一冊貰うよ」
奉太郎「どうも、ありがとうございます」
える「ありがとうございます」
そのまま先輩は帰るのだと思ったが、一度俺達に向き直ると何か考えている素振りを見せる。
田名辺「……ううん」
える「どうかされましたか?」
田名辺「いや、君達を題材にしたら、良い漫画が出来そうだと思ってね」
える「そ、そんな! 折木さんはともかく、私なんて面白くは無いですよ」
何がともかくだ、千反田め。
田名辺「はは、まあ頑張ってね。 今年は流石に手伝ってあげられないから」
そう言い、先輩は古典部を後にした。
118: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 14:57:12.01 ID:pG0CiL9g0
える「……そうですよね、今年は私達で何とかしないといけないんですよね」
奉太郎「ま、今日は一冊売れたし良いんじゃないか」
奉太郎「里志と伊原に任せれば、全部売りさばいてくれるだろ」
える「駄目ですよ、半分半分で売らなければ駄目です」
奉太郎「そうか、なら何か案があるのか?」
える「案……と言う程の事でも無いですが、一つ考えがあります」
奉太郎「ほう、聞こうか」
119: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 14:57:40.25 ID:pG0CiL9g0
~古典部前~
奉太郎「……良い案だと思うか?」
える「まだ分かりません」
奉太郎「場所を部室の中から廊下に移して、客が増えると思うか?」
える「ま、まだ分かりませんよ」
える「あの中よりは、人目に付きますし……」
奉太郎「それもそうだが……元から人の気配が殆ど無いぞ、ここ」
える「で、ですが……」
と話している内に、どうやら本当に人目に付いたらしく、近づいてくる人影があった。
奉太郎「今日は先輩に良く会う日何ですかね」
120: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 14:59:18.12 ID:pG0CiL9g0
入須「何だ、私の他にも来ていたのか?」
える「ええ、田名辺さんが来てましたよ」
入須「ああ、そう言えばさっき……職員室で盛り上がっているのを見かけたな」
なるほど、珍しい事もあると思っていたが、先生達への挨拶ついでと言った所だったのだろう。
奉太郎「それで、入須先輩はどうしてここに?」
入須「君は随分と酷い奴だな、文集を買いに来た以外に、ここに来る理由があるか?」
える「そうですよ、お客さんにその言い方は酷いです」
奉太郎「すみませんでした、じゃあ200円になります」
入須「顔見知りは半額かと思ったが、そうでは無いらしいな」
奉太郎「困っているんですよ、手伝ってください」
入須「構わんが……」
入須「それにしても、また随分な量を用意したな」
121: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 14:59:46.59 ID:pG0CiL9g0
奉太郎「去年はすぐに売れましたからね、ちょっと増やしてみたんです」
入須「そうか、それで今年は?」
奉太郎「見れば分かると思います」
入須「廊下で売っているくらいだしな、何となく察しは付いた」
入須「まあ……仕方ないな、もう一冊貰っていくよ」
える「いえ、そんな……悪いですよ」
入須「客が買うと言っているんだから、遠慮なんてするな」
奉太郎「なら、もう200円になります」
入須「君はもう少し遠慮を知った方が良いかもしれないが……」
122: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 15:00:15.28 ID:pG0CiL9g0
奉太郎「すみませんね、困ってる物でして」
入須「見れば分かるさ」
入須「それで、今年は何か手伝わなくていいのか?」
奉太郎「……ええ、それは大丈夫です」
入須「ほう……」
入須「自慢になる様で悪いが、私が話して回れば売れ行きは確実に伸びると思うぞ」
奉太郎「それはそうでしょうけど、今年は自分達の手で、何とかしてみせますよ」
入須「ふふ、そうか」
入須「なら最終日にでも、また様子を見に来るよ」
123: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 15:00:39.25 ID:pG0CiL9g0
える「嬉しいです、お待ちしてますね」
入須「それじゃ、また明後日に」
そう言い、入須は俺達に背中を向ける。
……そうか、まだ入須には用事があるではないか。
奉太郎「入須先輩」
入須「ん、どうした」
奉太郎「最終日に来ても、恐らく売り切れていると思うので、もう一冊どうですか?」
俺がそう言うと、横から何だか冷たい視線が飛んでくる。
入須「……分かったよ、もう一冊買っておく」
入須「これで最後だからな、完売を期待しているよ」
奉太郎「ありがとうございます、先輩」
124: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 15:01:06.46 ID:pG0CiL9g0
俺が一度頭を下げると、入須は背中を向け、手を軽く挙げながらその場を去って行った。
える「今のはどうかと思いますよ、折木さん」
奉太郎「仕方ないさ、売り切る為には」
える「納得できませんが……次はちゃんとした方法で売ってくださいね」
奉太郎「分かった、次からな」
奉太郎「にしても、千反田」
える「はい、何でしょう」
奉太郎「……中に入るか、廊下はちと寒い」
える「奇遇ですね、私も同じ事を思っていました」
125: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 15:01:34.17 ID:pG0CiL9g0
~古典部~
奉太郎「さてと、後は何冊くらいだろうか」
える「えっとですね、私達で一冊ずつと、糸井川先生の分と、後は売れた分」
える「……まだまだ先は長そうですよ」
確か、刷ったのは60部だっただろうか?
一年の時より大変では無いが、去年の売れ行きから部数を増やしすぎたかもしれない。
える「折木さんには、何かアイデア等は無いんですか?」
奉太郎「と言われてもな……」
える「そうですか……ううん」
俺と千反田が二人して考え込んでいる所に、三人目の客がやって来た。
奉太郎「……久し振りだな」
126: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 15:02:02.59 ID:pG0CiL9g0
大日向「廊下で会えば挨拶くらいはしてたじゃないですか、久し振りって訳でも無いですよ」
大日向「あれ? 二人だけですか?」
える「ええ、摩耶花さんと福部さんは二人で見て回ってますよ」
大日向「二人でですか? いいなぁ」
大日向と千反田は例の一件から、何か話したのだろうか。
俺が思っていたよりも、二人共に自然な感じであった。
大日向「何か、良いですよね」
大日向「恋人同士で文化祭を一緒に回るって、素敵じゃないですか?」
127: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 15:02:30.36 ID:pG0CiL9g0
える「まあ、その……そうですね」
大日向「折木先輩は、どう思いますか?」
奉太郎「お、俺か?」
奉太郎「……別に、なんとも思わんさ」
大日向「そうですか、先輩らしいですね」
大日向「らしいですよ、千反田先輩」
大日向「折木先輩は恋人同士で文化祭を回る事に、特に何も思わないみたいです」
大日向「酷いですよね……彼女の前で」
奉太郎「お前……知っていたのか」
える「誰にも話してはいないんですが、大日向さんが何故分かったのか……気になります」
128: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 15:03:01.02 ID:pG0CiL9g0
大日向「知ったのは今ですよ」
大日向「勘って奴です。 女の勘はよく当たるんです」
まんまと嵌められたって訳か、面倒な奴め。
大日向「それよりも、やっぱり……お二人って付き合っていたんですね」
奉太郎「まあ、そうなるな」
大日向「へえ、いつからです?」
える「少し前ですよ、夏からですね」
大日向「え? 夏から? 今年の?」
奉太郎「何を驚いているか分からないが、そうだ」
大日向「そりゃ、驚きますよ」
大日向「だって、仮入部した時から付き合っていると思ってましたから」
奉太郎「何故、そう思う?」
大日向「仲良く見えたからですよ、それだけです」
129: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 15:03:35.18 ID:pG0CiL9g0
そんな事を言われ、ふと横に居る千反田に視線を移す。
すると、千反田も同じ事を考えていた様で、意図した訳でも無く目が合った。
同時に顔を逸らす、何だか恥ずかしい。
大日向「本当に、仲が良さそうですね。 妬けるなぁ」
大日向「あ、そろそろ時間なので行きますね」
奉太郎「おい、ちょっと待て」
大日向「えっと、何です?」
奉太郎「これ、1冊200円だ」
大日向「あはは、分かりましたよ。 買います」
奉太郎「鑑賞用にもう一冊買って行ってもいいぞ」
える「お、れ、き、さ、ん」
える「押し売りは駄目です、ちゃんと売りましょう」
130: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 15:04:02.65 ID:pG0CiL9g0
大日向「怒られてる先輩は、珍しいですね」
大日向「今日はいい物が見れましたよ、ありがとうございます」
そう言いながら、大日向は頭を下げる。
奉太郎「……古典部に戻ってくるつもりは、無いか」
大日向「そこは微妙な所です、と言うか」
大日向「先輩達、もうすぐ卒業じゃないですか」
奉太郎「そうか、そう言えばそうだった」
奉太郎「悪いな、引き止めて」
大日向「いえいえ、それじゃそろそろ失礼しますね」
やはり、大日向にも色々と考えがある様だ。
今では普通に接しているが、戻るに戻れなくなっていた……と言う事も考えられる。
もし、俺がもうちょっとだけ気遣ってやれば、今年の文化祭は一緒に氷菓を出していたかもしれない。
131: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 15:06:00.46 ID:pG0CiL9g0
大日向「でも、誰も居なくなった古典部を延命させるくらいなら、構いませんけどね」
去り際、大日向はそんな事を呟く。
甘かった。
大日向を理解する為の時間は、あまりにも足りていなかった。
やはりとか、考えているだろうとか、俺にそんな事を推察する権利など無いのだ。
一年の時に、千反田に対しても同じ事を考えた事がある。
俺はあの時から、成長していないのだろうか?
しかし、それでも。
それでも、大日向はそう言ってくれた。
奉太郎「結局、俺はお前との約束を守れなかったな」
える「大日向さんを古典部に戻す、と言った事ですか?」
132: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 15:06:30.49 ID:pG0CiL9g0
奉太郎「ああ」
約束を守る男など、どの口が言えた物か。
一人の人間を一つの部活に入れる事すら出来ないと言うのに。
える「気にしていますか?」
奉太郎「……」
える「例えば」
える「一人の人が、一人の人を助けると言ったとします」
える「結果は失敗、助ける事は出来ませんでした」
奉太郎「……ああ」
える「ですが、助けようとした人は努力をしました」
133: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 15:06:59.31 ID:pG0CiL9g0
える「自分が出来る事は全部して、助けようとしたんです」
奉太郎「だが、結局は助けられなかったんだろう」
える「そうです」
える「でも……それでも、その努力は助けて貰おうとした人にも伝わっているとしたら、どう思いますか?」
奉太郎「それはあくまでも、予想だろ」
奉太郎「結果的に助けられなかったら、約束を破ったことになる」
える「そうですね、折木さんが仰っている事は正しいです」
える「ですが、その努力……約束を守ろうとした姿勢は、素晴らしい事だと思います」
える「前にも言いましたが、私は努力をしている人が好きです」
える「結果は駄目でしたが、それでも努力を尽くした折木さんの事は、好きです」
奉太郎「……ありがとな」
える「ふふ、ですから今回の氷菓も頑張って売りましょう!」
奉太郎「ああ、分かった」
える「それと、この前の日曜日にした約束も、努力してくださいね」
奉太郎「勿論だ、分かっている」
134: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 15:07:27.74 ID:pG0CiL9g0
える「まずは氷菓ですね」
える「私、ちょっと宣伝をしてきますね」
俺が代わりに行こうか、と言いそうになるが押し[ピーーー]。
それ自体が面倒と言う訳では無い、俺と千反田……どちらが宣伝するのに向いているか考えればすぐに分かる事だ。
奉太郎「ああ、店番は任せろ」
える「折木さんにも何か任せたい所ですが……」
奉太郎「実はな、一つ考えがある」
える「本当ですか! 何でしょう?」
奉太郎「少し時間が掛かるからな、戻ってくる頃には出来ていると思う」
える「そうですか、では行ってきますね」
そう言い、千反田は部室を出て行く。
さて、俺もやる事をやらねば。
必要な物は幸い、部室に揃っている。
固まった体を解しながら、俺は席を立つ。
135: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 15:08:10.93 ID:pG0CiL9g0
奉太郎「……何をしている?」
える「いえ、戻ってくる頃には出来ると言われたので、戻ってきました」
奉太郎「お前の冗談は分かりにくい……それは冗談か?」
える「ふふ、冗談です」
える「今度こそ行ってきますね、折木さんの考えを楽しみにしています」
奉太郎「宣伝の方、宜しく頼んだぞ」
136: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 15:08:38.20 ID:pG0CiL9g0
俺が作ろうとしている物は、一日目が終わる頃にようやく出来た。
千反田の宣伝効果がどの程度あったのかは分からないが、まばらには客が来ていた気がする。
3日目は去年同様、ほとんど無いに等しい。
勝負は明日、伊原と里志に任せる事となる。
氷菓残り部数-----42部
第25話
おわり
137: ◆Oe72InN3/k 2012/12/01(土) 15:09:48.42 ID:pG0CiL9g0
以上で第25話、終わりとなります。
次回は月曜日?火曜日?どちらかになるかと思います。
年内完結目指して!!
乙ありがとうございました。
139: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) 2012/12/01(土) 15:59:29.87 ID:dKJviMo70
いいね!
142: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/02(日) 01:06:48.25 ID:4Ryu7MUAO
乙っ!
日曜日にした約束を努力して下さいねって・・・まるでこれから起きることみたいじゃんかよえる・・・!
怖いけど先が気になるジレンマ・・・
なにはともあれ、文化祭万歳!!楽しいなあっ!
143: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/02(日) 19:44:26.69 ID:laaQgFmr0
乙です。昨日投下されたんですね。これから楽しみです。
文化祭、楽しそうですね。えるの宣伝方法もですが、ほうたるが何を作ったのか気になるところです。
次は明日か明後日。楽しみですね。
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- 2013/01/06(日) 22:04:14|
- 氷菓
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