237: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 17:52:49.34 ID:UN23tKEE0
こんばんは。
第29話、投下致します。
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1352561755/
238: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 17:53:50.85 ID:UN23tKEE0
俺と千反田は、一緒に雪を眺めていた。
肌を突き刺す様な寒さの中で、一緒に。
奉太郎「去年の暮れも、雪が降っていたな」
える「ええ、そうでしたね」
奉太郎「もうすぐ一年経つのか、早い物だ」
える「私も、同じ事を思っていました」
俺は小さく「そうか」と返事をし、手すりに積もった雪を払い、そこに腕を置く。
239: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 17:54:44.19 ID:UN23tKEE0
奉太郎「そろそろ戻らないと、ばれたらまずいぞ」
える「折木さんがその気になるまで、ご一緒します」
その言葉に俺は視線を千反田の方へと移す。
千反田はどうやら、雪玉を作っている様だ。
奉太郎「風邪を引いても知らんぞ」
える「心配いりませんよ」
える「その時は、折木さんに看病して頂くので」
奉太郎「さいで」
何故ここでこうしているかと言うと、要は千反田に呼び出されたからである。
そして、話は既に終わっている。
俺はてっきり、こいつはすぐに戻るかと思ったのだが……どうやら違っていた。
240: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 17:55:10.75 ID:UN23tKEE0
える「できました」
そう言い、俺のすぐ目の前に雪だるまを置いてくる。
今日は、ちょっと疲れたな。
奉太郎「なあ」
える「はい」
奉太郎「明日はやはり、積もりそうだな」
える「そうですね、一面の雪景色というのも……素敵かもしれません」
奉太郎「……だな」
そう言い、空を見上げる。
空には星が輝いていて、手が届きそうにも思えた。
顔にいくつかの雪が降りてきて、溶ける。
そうして俺は、今日の事を思い出していた。
241: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 17:59:25.17 ID:UN23tKEE0
あの時、里志は答えなかった。
いつもなら、いつものあいつの冗談なら、すぐに「冗談さ」と言う筈だ。
つまり、あいつの言っていた事は冗談では無いのだ。
なら、どういう事か?
簡単だ。
千反田は居なくなる、って事か。
それに俺ははっきりと嫌だと感じた。
ならどうする?
242: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 18:00:14.09 ID:UN23tKEE0
多分、千反田が前々から隠していたのはこれだろう。
隠していたって事は……言いたくないって事でもある。
それならば問い詰めるのは得策とは思えない。
勿論、今すぐにでも……何故黙っていたのか聞き出したい。
しかし、里志が俺に話したのがそれではばれてしまう。
そうなるとは思えないが、下手をしたら里志と伊原の関係も変わってしまうかもし
れない。
俺一人の行動で、それだけ変えてしまうのは避けたかった。
ならばどうする?
待つ、しかなさそうか。
千反田が話してくれるのを。
243: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 18:00:46.40 ID:UN23tKEE0
その時、丁度部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
俺は思考を一回止め、扉の方に足を向ける。
大方、扉を開けられずに里志が困っているのだろう。 面倒な奴だ。
奉太郎「両手が塞がっているなら、一回下に置けばいいだろう」
言いながら扉を開ける、しかし目の前に現れたのは里志ではなかった。
える「え、えっと」
噂をすればと言う奴だろうか。
奉太郎「すまん、里志と間違えた」
目の前に来たらどうなるか分からなかったが、俺は不思議と落ち着いた気分にな
れていた。
える「そうでしたか」
千反田はそう言うと、いつもの様に笑顔を俺に向ける。
244: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 18:01:25.81 ID:UN23tKEE0
奉太郎「それで、何か用事だったか?」
俺も多分、いつも通りに話せていたと思う。
える「ええ、お話したい事があるので……お時間大丈夫ですか?」
恐らく、と言うか……ほぼ例の事だろう。
タイミングと言い、どこかで話を聞いていたのでは無いだろうか。
奉太郎「構わないが、里志に飲み物を頼んでいてな」
える「分かりました、なら30分後でも良いですか?」
奉太郎「ああ」
える「では、30分後に屋上でお待ちしてます」
そう言うと、足早に自分の部屋へと戻って行く。
できれば外より中の方が良かったんだが……寒いし。
別にいいか、今更追いかけるのもあれだ。
俺は少し着込んで行くことにし、部屋の中へと戻る。
245: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 18:02:09.99 ID:UN23tKEE0
奉太郎「俺はどうしたいんだ」
言いながら布団に横たわる。
何故、こうも面倒な事が立て続けに起きるのだろう。
千反田の家柄のせいだろうか?
勿論、それは多少あるのかもしれないが。
だが、他の奴なら面倒な事……とは思わないかもしれない。
それは結局、俺が今まで面倒な事を避けてきたせいで、そう思えてしまうのだろう。
奉太郎「整理してみるか……」
何の特徴も無い天井を見ながら、ゆっくりと思考する。
まず、里志の言葉だ。
あいつが言うには、千反田は居なくなってしまうらしい。
らしいと言うのも変だが……そこには、里志の勘違いだったと言う俺の希望があるのだろう。
246: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 18:02:57.41 ID:UN23tKEE0
そして何故、あいつははっきりと言わなかったのか。
俺に言わない様にと、千反田か恐らく伊原辺りにでも言われている筈だ。
それらがあったから、あいつはわざと回りくどい言い方をしたのだ。
次に、千反田が居なくなるとして……俺はどうするのか。
正直に言うと、分からない。
何故居なくなるのかも分からないし、それは分かった所でどうにかなる問題なのだろうか。
里志は恐らく、それを知っていて……俺ならばどうにか出来るかも、と考えた可能性はある。
そして昼間の会話、確か千反田と俺の違いについてだ。
俺が話をして、それを聞いて里志は口止めされていた話をする気になったのだ。
ならば、家絡みの事だろう。
去年の事もあった、だからいきなり明日居なくなるって事は無い。
少なくとも千反田は、同じ事を2回繰り返し等しない。
ならばもう少し先、と言う事は。
247: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 18:03:50.52 ID:UN23tKEE0
奉太郎「……大学か」
それくらいしか、無さそうだった。
里志「おーい、聞いてるかい?」
奉太郎「うわ、いつから居たんだ」
突然里志の声が聞こえ、飛び起きる。
里志「酷いなぁ、少し前からだよ」
思いの他、考えすぎていた様だ。
奉太郎「悪いな、ちょっと考え事をしていた」
里志「無理もないさ、何故かは分からないけどね」
奉太郎「そうだな」
奉太郎「そういえば、何故かは分からないが……さっき千反田が来た」
里志「そうかい、何て?」
奉太郎「何やら話があるらしい」
248: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 18:04:35.38 ID:UN23tKEE0
里志「なるほど、何の話だろうね」
奉太郎「行けば分かるさ、そろそろ約束の時間だ」
里志「先生が見回りに来たら、誤魔化しておくよ」
奉太郎「悪いな、それと」
奉太郎「コーヒー、ありがとな」
里志「いいさ、そのくらいお安い御用だ」
そのまま里志から貰ったコーヒーを手に、部屋の外へと足を向ける。
里志「ホータロー」
奉太郎「何だ」
里志「ごめんね、力になれなくて」
奉太郎「何の話だか分からんな」
奉太郎「それに、このコーヒーだけで十分だ」
249: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 18:05:04.96 ID:UN23tKEE0
里志「ホータロー」
奉太郎「何だ」
里志「120円だよ、それ」
奉太郎「……冗談か?」
里志「さあ、どうだろう」
そう言う里志は、いつもの顔だった。
俺はその言葉に軽く手を挙げ、外に出る。
全く、隙がない奴だな……
まあ、でも幾らか気持ちは楽になった、気がする。
しかし……未だに俺は結論を出せていなかった。
250: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 18:05:39.55 ID:UN23tKEE0
~屋上~
扉を開けると、一瞬で中へ引き返したくなるほどの寒さを感じる。
それに加え、空からはチラチラと雪が降りてきていた。
奉太郎「……寒い」
える「お待ちしてました」
扉のすぐ横で、千反田は待っていた。
雪に降られないように、僅かな雨よけがある場所で。
奉太郎「悪いな、寒かっただろ」
える「ここに呼んだのは私ですよ、折木さん」
奉太郎「そういえば、そうだったな」
える「先程、窓から雪が降っているのが見えたので……ここにしちゃいました」
奉太郎「なるほど」
える「流石に、いくら十月と言えども……寒いですけどね」
251: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 18:06:39.92 ID:UN23tKEE0
奉太郎「……そうだな」
える「どうですか、北海道は」
これは、千反田の癖なのだろう。
何か言い辛い事がある時、こいつは話を切り出さない。
問い詰めても良かった。 用事は何だ、と。
だが俺はそうしなかった。
……聞きたく無かったのかも知れない。
える「折木さん?」
奉太郎「ああ、すまん」
奉太郎「北海道か、まあそれなりにはって感じだな」
える「ふふ、そうですか」
俺は手に持っていたコーヒーを一口、飲み込む。
える「あ、私も欲しいです」
奉太郎「予想通りだな、言うと思った」
252: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 18:07:17.09 ID:UN23tKEE0
ポケットに手を入れ、途中で買っておいた紅茶を手渡す。
奉太郎「ほら」
える「ありがとうございます」
そう言い、千反田は蓋を開けると紅茶を一口飲んだ。
える「美味しいですね」
奉太郎「寒いから、余計にそう思うのかもな」
える「ですが、折木さんが淹れてくれたお茶の方が美味しいです」
奉太郎「そりゃどうも」
二人で雪を眺めていた。
253: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 18:07:44.31 ID:UN23tKEE0
える「結構降りますね」
奉太郎「北海道だしな」
える「積もるかもしれないですね」
奉太郎「これだけ降っていればな」
える「寒いですね」
奉太郎「それは、さっき言ったな」
える「……そうでした」
話す事が無くなったのか、沈黙が訪れる。
このままで良かった。
こいつと二人……並んでいるだけで俺には十分だった。
だが、そうはならない。
える「ごめんなさい」
奉太郎「何故謝る」
える「私がお呼びしたのに、本題を切り出せなくて、です」
254: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 18:08:11.74 ID:UN23tKEE0
奉太郎「覚えていないのか」
える「すいません、覚えていないと言うのは?」
奉太郎「千反田の準備が出来てからで良い、と俺は言った。 前にな」
奉太郎「だから、何時間でも待つ」
える「……はい」
千反田はもう一度、紅茶を飲むと大きく深呼吸をした。
える「分かりました、折木さん」
える「本題に、入りましょう」
第29話
おわり
255: ◆Oe72InN3/k 2012/12/11(火) 18:08:39.32 ID:UN23tKEE0
以上で第29話、終わりとなります。
乙ありがとうございました。
256: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/11(火) 18:10:02.99 ID:AW9xGJkIO
ここで終わりますか
258: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/11(火) 18:56:52.53 ID:V4Z+NsFF0
乙です。
ほうたるがぼやぼやしてるから。ま、仕方ないんだろうけど。
頑張りすぎている某奉太郎も違うような気がするしね。
しかし、えるとはなかなか結ばれない運命なのかなあ。
261: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/11(火) 20:58:31.33 ID:IqqSiCJw0
雰囲気いいなぁ
>>1さんの作品の独特な雰囲気ほんと好きだw
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- 2013/01/10(木) 22:10:28|
- 氷菓
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