267: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:03:04.64 ID:ovzyuyHd0
こんばんは。
第30話、投下致します。
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1352561755/
268: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:03:36.97 ID:ovzyuyHd0
奉太郎「……準備はいいのか」
える「はい、もう大丈夫です」
奉太郎「……分かった、聞くよ」
すると千反田は、雪に降られるのに構わず、柵の方へと歩いていった。
える「まずは、謝ります」
える「折木さん、騙していてすいません」
俺の方に振り向き、頭を下げる。
それを見て言葉を返そうとし、寸前で飲み込む。
とりあえずは最後まで話を聞こう。
える「私は」
える「来年、神山市を去ります」
269: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:04:25.01 ID:ovzyuyHd0
予想はしていた。
していたのだが、それはあくまでも予想であった。
千反田の口から出た言葉は、その予想を事実へと変える物だった。
奉太郎「……そうか」
奉太郎「去ると言うのは、どういう事だ」
える「大学です」
える「私が受ける大学は、東京にあるんです」
やはり、そうか。
奉太郎「そうか、それがお前の選択か」
える「……ええ、そうです」
そう答えた時、千反田は俺と眼を合わせなかった。
270: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:05:06.35 ID:ovzyuyHd0
える「もし、落ちてしまったら残りますけどね」
奉太郎「無いだろう、そんな事」
える「まだ分かりませんよ」
そうは言っているが、千反田が落ちる事なんて絶対にあり得ない。
つまり、4月で千反田は神山市から去る。
える「ですので、折木さん」
える「ごめんなさい」
奉太郎「何故謝る」
奉太郎「お前が悪い訳じゃない」
える「どうでしょうか」
271: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:05:48.00 ID:ovzyuyHd0
千反田は夜空を見上げていた。
未だに、雪は降り続けている。
える「折木さん」
奉太郎「……どうした」
える「折木さんが私に好きだと言ってくれた時、正確に言えば私が言ったんですが」
える「あの時、既にこれが決まっていたと言ったら、怒りますか」
奉太郎「付き合う前から、決まっていたって事か」
える「……はい」
奉太郎「怒りはしない」
える「何故ですか、私は騙していたんですよ」
奉太郎「お前の、千反田の気持ちは本当だったんだろ」
272: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:06:27.36 ID:ovzyuyHd0
える「それは、そうですが」
奉太郎「なら、その必要なんて無いさ」
俺はそのまま、千反田のすぐ近くまで歩いて行く。
える「……はい」
奉太郎「何でそんな悲しそうな顔をするんだ」
える「当たり前じゃないですか、折木さんは悲しく無いんですか」
奉太郎「約束、しただろ」
奉太郎「あの時から、少しだけ気付いていたのかもしれない」
える「こうなる事を、ですか」
奉太郎「……ああ」
千反田の横を通り過ぎ、柵に手を置く。
273: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:07:37.49 ID:ovzyuyHd0
える「そうですか」
それを見て、千反田が隣まで歩いて来た。
える「雪が綺麗ですね」
奉太郎「ああ」
俺の手の上に、千反田が手を重ねてきた。
える「私」
える「……嘘を、付きました」
奉太郎「嘘?」
える「ええ」
える「私が東京の大学に行くのを決めたのは、私自身では無いんです」
奉太郎「……親か?」
える「……はい」
える「これは、決まり事の様でして」
274: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:08:21.90 ID:ovzyuyHd0
奉太郎「そう、か」
それもまた、仕方の無い事なのだろう。
奉太郎「あまり気の効いた事は言えないが……」
俺は、千反田の頭の上に手を置く。
奉太郎「頑張れよ、大学」
千反田の体は少しだけ震えていた、それは寒さのせいか……すぐには分からない。
える「わたし」
える「本当は、本当はですね」
える「普通の家で生まれて、普通に勉強をして、普通に遊んで」
える「普通に恋愛をして、普通の大学へ行って、普通に!」
える「……幸せに、なりたかったです」
275: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:09:07.72 ID:ovzyuyHd0
奉太郎「……そう言う事は、俺の前だけにしておけよ」
える「なら、それなら今は良いですよね」
える「私はもっと、一緒に居たいです」
える「古典部の皆さんと、もっと遊びたいです」
える「折木さんとは、これからもずっと一緒に居たいです」
える「……ごめんなさい、本当に」
える「少しの間だけでも、夢を見たかったんです」
……千反田の目からは、涙が零れていた。
276: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:09:34.36 ID:ovzyuyHd0
奉太郎「お前の本音が聞けて良かった」
える「……はい」
奉太郎「けど、俺とお前とじゃ……やっぱり違うんだ」
奉太郎「今はとにかく、家の事を頑張れ」
奉太郎「応援してるから、千反田なら絶対にうまくやれる」
える「……嫌です、そんな事言わないでください」
える「……いつもの様に、解決してください!」
声が震えていた、顔はくしゃくしゃになっていた。
奉太郎「俺は、そんな優しい奴ではない」
える「嘘です、そんな訳ありません!」
277: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:10:14.03 ID:ovzyuyHd0
奉太郎「どうしてだ、何故そう断言できる?」
苦笑いしながら、俺は続ける。
奉太郎「俺はもしかすると、いつも適当な事を言っているだけかも知れないぞ」
える「そんなのは、あり得ません」
える「私、わたし、知っているんですから」
える「折木さんが、摩耶花さんに言った言葉を」
伊原に言った言葉? 何か不味い事でも言ったっけか。
える「入須さんへのプレゼントを、摩耶花さんが破いてしまった時です」
参ったな、言ったのか……伊原の奴め。
える「折木さんはこう言ったんです」
278: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:12:01.52 ID:ovzyuyHd0
奉太郎「もしまずい事になったら、とりあえず俺のせいにしておけ」
奉太郎「だったか」
える「はい、そうです」
える「自分を犠牲にして、人を助けようとした人が、優しく無い訳ないですよ」
奉太郎「それを優しいなんて、言えるのか」
える「そう思わない方も居るでしょう、ですが私は」
千反田の言葉を遮るように、口を開く。
奉太郎「別に、そっちの方が楽だったってだけだ」
奉太郎「あいつが下手に隠そうとするより、俺が適当な理由を付けた方が面倒じゃない」
える「本当に、そう思っていますか」
奉太郎「それは……」
える「折木さん、もし本当に面倒だったなら……始めから、何も見ていない振りをするのが一番なんですよ」
何も、言い返せなかった。
える「それでも、折木さんは違うと言いますか」
奉太郎「……分かった、分かったよ」
奉太郎「それで、俺にどうしろって言うんだ」
279: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:12:47.05 ID:ovzyuyHd0
える「私を……千反田えるを、遠くに連れて行ってください」
それは多分、千反田の本心だった。
だが、俺はそれに答えていいのだろうか。
それをして良いほどに、俺は偉いのだろうか。
その後、本当に千反田は幸せになれるのだろうか。
一人の人生を背負うほど、俺はまだまだ出来てはいない。
280: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:13:21.11 ID:ovzyuyHd0
奉太郎「……ごめん」
える「どうして、ですか」
える「摩耶花さんは助けて、私は助けてくれないんですか!」
言った後、千反田ははっとした顔になる。
俺も思う事はあったが、今は千反田の気持ちを受け止めるしかできない。
える「ご、ごめんなさい」
える「……折木さん」
える「私は……すいません、本当にすいません」
千反田は未だに、泣き続けていた。
黙って、隣で頭を下げる千反田を抱きしめる。
今の俺には……これくらいしかできそうになかった。
281: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:13:47.11 ID:ovzyuyHd0
何分だろうか、何十分かそのままでいた気がする。
やがて、千反田が口を開く。
える「ごめんなさい、もう大丈夫です」
それを聞き、千反田を抱きしめていた腕を解く。
える「折木さん、一つお願いをしても良いですか?」
奉太郎「俺に出来る事なら、何でも」
える「最後の時まで、一緒に居てくれますか」
奉太郎「そんな事、当たり前だろ」
奉太郎「引き受けよう」
える「はい、ありがとうございます」
そう言う千反田の顔は、寂しそうに笑っていた。
俺は街に降り続ける雪を見ながら、口を開く。
奉太郎「去年の暮れも、雪が降っていたな」
282: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:14:21.02 ID:ovzyuyHd0
~現在~
える「すっかり積もって来ましたね」
その言葉を聞き、辺りを見回す。
少し考え事をしている間に、一面はほとんど雪で覆われていた。
奉太郎「そうだな、明日は部屋でゆっくり過ごすか」
える「駄目ですよ、折角来たんですから」
奉太郎「冗談だ」
える「それなら良いんですが……」
そう言うと、千反田は小さくあくびをする。
奉太郎「そろそろ戻った方が良いんじゃないか」
奉太郎「風呂にも入りなおさないといけないしな」
283: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:15:20.18 ID:ovzyuyHd0
える「……そうみたいです、折木さんも戻りますか?」
奉太郎「俺は……ああ、もう少しだけここに居る」
奉太郎「コーヒーもまだ、少し残っているし」
える「分かりました、ではお先に失礼しますね」
奉太郎「見つからないようにな」
える「ふふ、もし見つかった時は」
える「今屋上に居る方に、無理矢理と言う事にしておきます」
奉太郎「……そいつは笑えない冗談だな」
える「では、失礼します」
奉太郎「ああ、また明日」
そうして千反田は部屋へと戻って行った。
284: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:16:12.52 ID:ovzyuyHd0
俺は一人、夜の街並みを見下ろす。
奉太郎「ごめんな、千反田」
里志から貰ったコーヒーは、もうすっかり冷めてしまっている。
奉太郎「今の俺じゃ、答えなんて出せなかったんだ」
これで終わりなのだろうか。
俺は……はっきりと嫌だと思ったのに。
だが、今の俺にどうこう出来る問題では無いのも明らかだ。
285: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:16:38.49 ID:ovzyuyHd0
しかし、それでも。
それはあくまでも、今の俺だからだ。
奉太郎「……俺は、諦めないぞ。 千反田」
誰も聞いてはいないだろう呟きを、自分自身に約束させる様に……言葉にした。
第30話
おわり
286: ◆Oe72InN3/k 2012/12/12(水) 18:22:47.42 ID:ovzyuyHd0
以上で第30話、終わりとなります。
乙ありがとうございました。
288: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/12(水) 18:32:25.83 ID:b+st5Bn/o
頑張れほうたる超頑張れ
289: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/12(水) 20:49:00.80 ID:y5Hl8J0v0
乙。
続きが気になるね。
290: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/12(水) 22:37:03.01 ID:4A6VFD740
すまん。素朴な疑問なんだが、
地方在住者にとって、進学で東京に行くとか、別に普通の事だよな。
それなのに、そのことをもってもう二人の付き合いが終わりになりそうな雰囲気が漂っているのが、
ちょっと違和感あるんだけど。
奉太郎だって東京の大学にいってもいいわけだし、
えるは必ず神山に戻ってくるわけだし。
293: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/13(木) 00:35:02.98 ID:mfzQOcGAO
乙!
奉太郎、その言葉をえるに伝えてさえいれば、どれだけえるが救われることか・・・
だが、まだ・・・
まだ間に合うぞ・・・
何はともあれ、期待してますよ!
296: ◆Oe72InN3/k 2012/12/13(木) 10:49:57.45 ID:3tmVmF7k0
>>290
える自身、東京の大学に進学したら疎遠になる……と言う事を分かっていたのでしょう。
自然に関係が消えるのが嫌で、でも奉太郎と一緒には居たい。
しかし千反田家の者として、学ぶべき事も沢山ある。
そんな矛盾した想いが募って、奉太郎と一緒に何も縛られない場所へと行きたかったのでしょうね。
奉太郎自身も、千反田の本心を聞いてそれを察したのでしょう。
その方面にほとんど知識が無い奉太郎が付いて行っても、足手まといになると感じているかと。
>>293
勿論、伝える事は簡単でした。
奉太郎も伝えたかったのでしょう。 一人だけ屋上に残って、言葉を漏らしたくらいですから。
しかし前の大日向の件で約束を守れなかった事、それを文化祭で再認識して簡単には言えなかったんでしょうね。
えるはその時、気にしていないと言っていましたが、奉太郎の中では結構大きな失敗だったのでしょう。
>>294
すいません修学旅行編これにて終わりなんです……
補足説明になって申し訳ないです。
次の投下は明日……か明後日になりそうです。
余談ですが、↑この文章コピペになりそうじゃないですか?
297: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/13(木) 11:08:10.68 ID:TrBALLp0o
ここなら何ら違和感ないけど2ch住人が見るとコピペになるかもね
キャラの心情を別目線で語るんじゃなくて
こういう狙いがあったという書き方のがコピペ化を回避出来るかも
あくまでコピペにされるのが気になるなら一考してみて
300: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/13(木) 23:28:38.00 ID:fAWyIZiSo
期待してるよ、ホータロー
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- 2013/01/11(金) 22:12:18|
- 氷菓
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