367: ◆Oe72InN3/k 2012/12/21(金) 18:08:56.60 ID:l81KEbcN0
こんばんは。
第33話、投下致します。
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1352561755/
368: ◆Oe72InN3/k 2012/12/21(金) 18:09:46.08 ID:l81KEbcN0
1月のとある日、俺は里志を家に呼び出した。
理由が無く呼び出した訳では無い、俺はそういう奴では無いから。
里志「ホータローの部屋に入ったのは随分久しぶりな気がするね」
奉太郎「そうだったか?」
里志「前に来たのは、確かホータローが風邪を引いた時だったかなぁ」
ああ、去年の話か。
奉太郎「そんな事もあったな」
奉太郎「あの時は随分な扱いをしてくれて、ありがとう」
369: ◆Oe72InN3/k 2012/12/21(金) 18:10:19.42 ID:l81KEbcN0
里志「はは……悪いとは思ってるよ」
里志は少しだけ顔を引き攣らせながら笑い、壁を背に座る。
里志「それより、今日は思い出話の為に呼んだのかい?」
奉太郎「そうだと言ったらどうするんだ」
里志「別に? ホータローにもそういう感情があるんだな、と関心するかな」
奉太郎「そうか、なら関心はされないな」
里志「はは、そうかい」
里志「それなら、本題は何かな」
恐らく分かっているだろうに、こいつも性格が悪い。
370: ◆Oe72InN3/k 2012/12/21(金) 18:10:47.61 ID:l81KEbcN0
奉太郎「の前に、何か飲むか?」
里志「お、気が効くね」
里志「なら、お茶でも貰おうかな」
奉太郎「ああ、ちょっと待ってろ」
俺はそう言い、部屋を後にする。
台所でお茶を淹れ、考える。
今日、里志を呼んだのは……千反田の事で相談したかったからだ。
だが、それだけでは解決できないのかも、と言った想いもある。
俺は……誰かに話したかったのかもしれない。
371: ◆Oe72InN3/k 2012/12/21(金) 18:11:15.65 ID:l81KEbcN0
そんな事を考えている間に、お茶を淹れ終わった。
カップを二つ持ち、自分の部屋へと戻る。
奉太郎「待たせたな」
里志「ホータローが自ら動いて淹れてくれたお茶なんて、一生に一回飲めるか飲
めないかじゃないか」
里志「いくらでも待つよ」
奉太郎「さいで」
里志に片方のコップを手渡し、俺はベッドに腰を掛けた。
奉太郎「それで、本題だが……」
奉太郎「里志も大体の見当は付いているだろ」
372: ◆Oe72InN3/k 2012/12/21(金) 18:11:45.03 ID:l81KEbcN0
里志「……ま、付いていないと言えば本当の事では無いね」
奉太郎「なら話は早いな、千反田の事だ」
里志「僕が提案できる事なんて大した事では無いけど、いいかな」
奉太郎「構わんさ」
俺の言葉を聞き、里志は天井を見ながら口を開いた。
里志「まず、さ」
里志「ホータロー自身は、どうしたいの?」
373: ◆Oe72InN3/k 2012/12/21(金) 18:12:14.58 ID:l81KEbcN0
奉太郎「俺自身か」
奉太郎「そりゃ……別れたくは無い」
奉太郎「俺が考える最善は」
奉太郎「千反田の気が……千反田と言うか、千反田の両親のだが」
奉太郎「進学する大学を神山市内にする事にした……それと」
奉太郎「俺が付いて行く、千反田に」
里志「……そうかい」
そう言う里志の顔からは、いつもの笑いは消えている様に見えた。
374: ◆Oe72InN3/k 2012/12/21(金) 18:16:15.76 ID:l81KEbcN0
里志「まず、前者だけどね」
里志「遅すぎるってのが、正直な感想かな」
奉太郎「そりゃ……そうだろう」
里志がそう言うのも無理は無い、この時期に進学する大学を変える等……無理な話だ。
里志「後者だけどね、それはホータロー自身は望まないんじゃないかなって思うよ」
里志「勿論、千反田さん自身もね」
奉太郎「……ああ」
千反田は最初こそ、自分を連れて遠くに行こうと提案していた。
しかしあれは、駄目だ。
千反田は恐らく、もう決心は付いている。
俺がもし、千反田に付いて行く等言ったら……あいつはどんな顔をするのだろうか。
それが少し、怖かった。
375: ◆Oe72InN3/k 2012/12/21(金) 18:17:17.34 ID:l81KEbcN0
奉太郎「どっちにしろ、遅すぎるって事か」
里志「……だね、ホータローの出した案だとそう言う事になるよ」
奉太郎「……もし」
奉太郎「もし、里志が逆の立場だったら……どうすると思う?」
里志「それはつまり、僕がホータローの立場だったらって事かな」
奉太郎「そうだ」
里志「うーん」
口ではそう言っていた物の、里志はあまり考えている様には見えなかった。
里志「無難に別れるって選択肢を選んだら、後が怖そうだね……」
奉太郎「おい、別に相手を伊原で考えろとは言ってないぞ」
里志「はは、冗談だよ」
376: ◆Oe72InN3/k 2012/12/21(金) 18:17:46.10 ID:l81KEbcN0
里志「逆の立場だったら、か」
里志「……質問に質問で返して悪いんだけどさ、ホータローはこのままだとどうなると思う?」
奉太郎「このままだと? そんなの、決まっているだろ」
奉太郎「……別れるしか」
里志「やっぱり、そう思ってるのか」
俺の言葉を途中で切り、里志は口を開く。
里志「何でそうなるのかな?」
奉太郎「何でって、誰が考えてもそうなるだろ」
里志「はは、それは違うよ」
里志「僕だったらね、伝えるよ」
377: ◆Oe72InN3/k 2012/12/21(金) 18:18:12.53 ID:l81KEbcN0
奉太郎「伝える……って言うのは?」
里志「想いをね、ちゃんと伝える」
奉太郎「それは……迷惑だろうが」
里志「何でそうなるのかな?」
奉太郎「千反田はもう、決心が付いているんだ」
奉太郎「なのに、それを揺らがせる事を言ってどうする?」
里志「……はは」
里志「ホータローはさ、おかしいと思わなかったの?」
奉太郎「……何がだ」
里志「今日の事さ」
378: ◆Oe72InN3/k 2012/12/21(金) 18:19:11.43 ID:l81KEbcN0
今日の事……?
里志「君はこう思っているんだよね」
里志「千反田さんに自分の気持ちを伝えるのは、千反田さんの決意を折る行為だと」
奉太郎「……そうだ」
里志「でも、君は僕に相談した」
里志「どうすればいいのか、とね」
里志「はは、おかしいと思わない?」
奉太郎「……そうか」
奉太郎「俺が言っている事は、そういう事か」
里志「そうさ、矛盾しているんだよ」
……言われるまで、全く気付かなかった。
379: ◆Oe72InN3/k 2012/12/21(金) 18:19:53.77 ID:l81KEbcN0
里志「矛盾が起きたのは仕方ないよ、ホータローは他人に優しすぎる」
里志「去年と同じ事を言うけど、気持ちは伝えた方が良いと思う」
本当に……奇しくも、去年と同じ様になっていた。
俺は、あの時から成長していないのだろうか。
奉太郎「そう、か」
だがそれだけで、良いのだろうか。
千反田に気持ちを伝えるだけで、解決するのだろうか。
何かある筈だ。 何か。
俺は何度も考えた、悩んだ。
今の俺では、どうする事も出来ないと。
……なら、そうなのではないだろうか?
つまり、そう言う事だ。
ああ、何だ……そんな事だったのか。
380: ◆Oe72InN3/k 2012/12/21(金) 18:20:40.85 ID:l81KEbcN0
奉太郎「……はは」
里志「びっくりさせないでくれよ、いきなり笑うなんて」
奉太郎「すまんすまん、ただ……ちょっとな」
里志「ま、いいさ」
里志はゆっくりと立ち上がり、俺に向けて口を開いた。
里志「それで、答えは出たかな」
奉太郎「まだ、はっきりとは分からない」
奉太郎「だが、後2ヶ月はあるし」
奉太郎「千反田と別れる日までには、出しておく」
奉太郎「……最悪の結果になっても後悔はしたくないしな」
381: ◆Oe72InN3/k 2012/12/21(金) 18:23:33.17 ID:l81KEbcN0
里志「大丈夫だよ、心配いらない」
里志「最悪の結果って言うのは、何も起こらない事だろうしね」
里志「少なくとも、この状況なら……だけど」
そう言った里志の顔には、いつも通りの笑顔が出ていた。
奉太郎「もうこんな時間か」
ふと時計に目が行き、時間を確認した。
既に針は夕食時を指している。
里志「本当だ」
里志「思いの他、話し込んでいたみたいだね」
奉太郎「だな」
382: ◆Oe72InN3/k 2012/12/21(金) 18:24:54.93 ID:l81KEbcN0
奉太郎「ああ、そうだ」
里志「ん?」
奉太郎「今日、姉貴が家に居るんだが……飯、食って行くか?」
里志「お! 久しぶりのお姉さんのご飯か、頂いてもいいかな?」
奉太郎「構わん、姉貴に伝えてくる」
俺は扉に手を掛け、開いた。
そのまま廊下に出て、閉め掛けた所で一度その手を止める。
奉太郎「……里志、最後に一ついいか」
里志「うん? まだ何かあったのかい」
奉太郎「俺は、去年から成長しているのだろうか」
383: ◆Oe72InN3/k 2012/12/21(金) 18:25:23.89 ID:l81KEbcN0
それを聞くと、里志は一瞬きょとんとした顔をした後、すぐにいつも通りの顔に戻る。
里志「今更? そんなの分かりきってるじゃないか」
里志「ほら」
そう言いながら、里志は指さす。
俺はその先に、視線を移した。
そこには、先ほど俺と里志が飲んでいた紅茶のカップが二つ、並んでいた。
里志の言いたい事を理解し、俺は苦笑いしながらリビングに居る姉貴の元へと向かって行った。
第33話
おわり
385: ◆Oe72InN3/k 2012/12/21(金) 18:44:49.93 ID:l81KEbcN0
以上で第33話、終わりとなります。
乙ありがとうございました!
384: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/21(金) 18:31:45.84 ID:MMM3WY8IO
乙
>里志「最悪の結果って言うのは、何も起こらない事だろうしね」
なんかサラッと言ってるけど、実に的を射てる言葉だよな
388: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/21(金) 20:02:19.56 ID:nasW84eDO
乙
2人の会話の言い回しがおしゃれでいいな
今回の相談で良い方向に向かえば良いが…果たして
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- 2013/01/14(月) 22:17:24|
- 氷菓
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