396: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 17:57:52.56 ID:ZxovJm850
こんばんは。
第34話、投下致します。
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1352561755/
397: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 17:58:30.94 ID:ZxovJm850
奉太郎「何だ、珍しく早いな」
里志「そりゃ、最後くらいは一番乗りしたいからさ」
奉太郎「普段からそれをしていれば、どんだけ楽だったか」
里志「今更だよ、それは」
奉太郎「さいで」
まだ少し寒さが残る中、いつもの場所で里志と落ち合う。
いつも、とは言った物の毎日って訳では無いが。
398: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 17:58:59.94 ID:ZxovJm850
摩耶花「ふくちゃんと折木が先に居るなんて、今日は雪でも降るのかしら」
奉太郎「どっちかと言うと、里志だけに言って欲しい台詞だな」
里志「はは、次からはちゃんと来るからさ。 勘弁してよ」
奉太郎「次、か」
奉太郎「その次って奴は、いつになるんだろうな」
摩耶花「そっか、今日でもう」
える「遅くなりました!」
伊原が最後まで言い終わらない内に、千反田の声が聞こえた。
える「おはようございます、皆さん」
里志「おはよう、千反田さん」
摩耶花「おはよ」
奉太郎「おはよう」
399: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 17:59:31.96 ID:ZxovJm850
里志と会う場所に、全員が揃う。
それもまあ、最後くらいは全員で行こうと言う里志の提案なのだが。
奉太郎「で、遅れたと言ってもまだ5分前だぞ」
摩耶花「ちーちゃんは折木とは違うのよ、時間を大切にする人だから」
奉太郎「ほう、つまり俺は時間を大切にしていないって事か」
摩耶花「そりゃそうよ、休みの日なんて家でゴロゴロしているだけでしょ」
ごもっとも、何も言い返せない。
里志「まあさ、これで皆揃ったね」
える「あ、福部さんも来ていたんですね」
里志「ち、千反田さん。 冗談だよね?」
千反田も随分と里志の扱いに慣れた様だ、見ていて面白い。
400: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 17:59:58.19 ID:ZxovJm850
奉太郎「じゃあ、そろそろ行くか」
える「はい、そうですね」
摩耶花「桜も咲いてるし、良い日かな?」
里志「そうだね、卒業式の日だし上出来じゃないかな」
そう、今日は神山高校の卒業式だ。
401: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:00:35.46 ID:ZxovJm850
~古典部~
里志「暇だねぇ」
一度教室に行った後は、時間まで自由行動となっていた。
それも多分、最後に友達と話したり思い出に浸る時間を与える為だろう。
教室には、仲間と話す奴や先生と話す奴。
いつも通りに本を読んでいる奴やトランプで遊んでいる奴も居た。
俺は半ば強制的に、この古典部まで連れてこられたのだが。
奉太郎「ただ待つだけだろ、それに目的も無く俺を呼ぶな」
402: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:01:09.36 ID:ZxovJm850
摩耶花「そういえば、卒業生のスピーチってふくちゃんだったよね? 練習とか大丈夫なの?」
……確か、そんな話も聞いた様な気がする。
里志「うーん、最後に笑いを取りたいんだけど……中々良い案が出ないんだよね」
奉太郎「壇上から降ろされる姿が目に浮かぶな」
摩耶花「あはは、それ分かるかも」
える「ですが、去年のスピーチは良かったと思いますよ」
里志「やっぱり普通にやるのが良いのかなぁ」
むしろ、普通以外の選択肢は無いだろう。
403: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:01:42.40 ID:ZxovJm850
奉太郎「それはそうと、去年のスピーチで思い出したが」
奉太郎「誰だったか、卒業生のスピーチの中で大声を出した奴が居たな」
里志「はは、居た居た」
える「や、やめてくださいよ! 思い出すと恥ずかしいです……」
摩耶花「二人共やめなって、ちーちゃんが可哀想だよ……あはは」
奉太郎「そう言うお前も笑ってるじゃないか」
摩耶花「だって、思い出したら可笑しくて……」
える「皆さん酷いですよ、もう……」
笑い疲れたのだろうか、そこで一度会話が途切れた。
404: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:02:16.48 ID:ZxovJm850
摩耶花「……今日で最後だね」
奉太郎「卒業だからな」
里志「楽しかったよ、三年間」
える「……最後じゃありません」
える「また、いつか皆さんで会うんです!」
える「だから、最後ではありません!」
摩耶花「ちーちゃん……」
里志「そうだね、うん」
里志「また会えるさ、きっと」
奉太郎「……まあ、そうだな」
奉太郎「それより、そろそろ行かないと遅れるぞ」
そう言いながら、俺は時計を指さす。
405: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:02:42.87 ID:ZxovJm850
える「もうそんな時間ですか、あっという間ですね」
俺はそのまま、廊下へと繋がる扉に手を掛ける。
摩耶花「にしても、ほんっと折木はいつも通りね」
里志「はは、ホータローが卒業を悲しむなんて、あんま想像できないよ」
全く、失礼な奴らだ。
俺にだって卒業が悲しいと言う気持ちくらいはある。
ただ、あまり考えたく無いだけだ。
進学する大学すら、見事に全員ばらばらと来ている。
もしかすると本当に、こいつら全員と会えるのは今日が最後かもしれない。
……いかんいかん、あまり考えないで置こう。
それより今は、卒業式に集中しなければ。
いつの間にか前を歩く三人を見ながら、俺はそう結論を出した。
406: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:03:14.27 ID:ZxovJm850
思えば。
思えば本当にあっと言う間の三年間だった。
最初は部活に入る気なんて無かった。
姉貴のせいで古典部へと入る事となり、そこで千反田と出会ったんだ。
俺が入部した理由はただ、姉貴に言われただけ。
千反田が入部した理由は、あいつの叔父の件……氷菓の事だ。
里志も入部して、気付けば伊原も入部していた。
そんなあいつらと活動している内に、少しずつ楽しくなってきたのかも知れない。
407: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:03:50.11 ID:ZxovJm850
いや、古典部らしい活動はほとんどしてなかった気がするが……
それでも、千反田が「気になる事」を持ってきて、里志が補足して、伊原が頭を悩ませる。
最初こそ乗り気では無かったが、次第に俺も考える様になっていった。
誰に頼まれるでも無く、最初に自分から考えようとしたのはいつだっけか。
……確か、二年のマラソン大会の時。
あの時、俺は何故自分から考えたのか。
多分、千反田の事を信じていたからだろう。
408: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:04:17.10 ID:ZxovJm850
あれから余計に、千反田の事を意識していたのだ。
そして気付けば、好きになっていた。
ずっと一緒に居たかった。
あいつは俺に無い物を沢山持っていた。
そんなあいつを見ているだけで、俺は幸せだった。
……千反田のパーソナルスペースの狭さには未だ慣れないが。
慣れないとは言った物の、不快に感じている訳では無い。
ただ、少し照れ臭いって感じだろう。
しかし、それも今日で……
409: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:04:46.85 ID:ZxovJm850
里志「ホータロー?」
奉太郎「ん、どうした」
里志「どうしたって、そう聞きたいのはこっちだよ」
里志「卒業式が終わってから、ずっとそんな調子じゃないか」
奉太郎「ああ、まあそうだな」
奉太郎「すまんな、それで何か用か?」
里志「うん、千反田さんが探してたみたいだよ」
奉太郎「……そうか」
里志「いつまでもこうして学校に居られる訳じゃ無いし、会ってきたら?」
奉太郎「いや……もう少し、部室にいる」
里志「そうかい、なら僕はお手洗いにでも行こうかな」
奉太郎「ああ」
頬杖を付きながら返事をする。
数十秒後、気配で里志が部屋から出て行ったのが分かった。
410: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:05:29.58 ID:ZxovJm850
何分だろうか、しばらくそのままの姿勢で窓の外を眺めていた。
里志が出て行ったときの時計と今現在の時計によると、三十分は経ったかもしれない。
三十分? ここからトイレまでは十五分あれば十分往復出来る筈だ。
なら、何でまだ戻って来ないのだろうか。
そう思ったとき、丁度扉が開く。
来た奴の顔を見て、里志が戻ってこなかった理由がすぐに分かった。
411: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:06:53.75 ID:ZxovJm850
える「探しましたよ、折木さん」
奉太郎「別に隠れていた訳でも無いがな」
奉太郎「俺に何か用だったか?」
える「酷いですよ、最後くらい挨拶させてください」
最後……か。
さっきは最後じゃないとか言っておきながら、結局は自分もそう言ってるでは無いか。
多分、千反田自身がそう思いたくなかったから出てきた言葉なのだろう。
わざわざそれに、突っ込むことはしなかった。
奉太郎「そうだったな……場所、変えるか」
える「ええ、そうですね」
える「では、また屋上でもどうでしょうか」
俺は千反田の案に、黙って頷いた。
412: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:07:34.07 ID:ZxovJm850
~屋上~
屋上に出ると、流石にまだ冷たい風が体を刺す。
手すりがある所まで歩き、下を眺めた。
既に帰り始めている生徒がちらほら居て、校門の左右に並んでいる桜がそれを見送る。
そんな卒業式の日にぴったしな光景が、目に入ってくる。
える「どうでしたか、古典部は」
奉太郎「ま、終わってみれば楽しかったな」
える「ふふ、そうですか」
奉太郎「そう言う千反田はどうだったんだ?」
413: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:08:00.97 ID:ZxovJm850
える「私ですか」
える「私は、本当に良い人達と出会えました」
える「三年間、楽しかったですよ」
奉太郎「はは、だろうな」
える「ふふ」
千反田が楽しく無かったと言ったら、どんな顔をすればいいのか分かったもんじゃない。
だから、俺の予想通り楽しいと言った時には自然と俺も笑っていた。
える「あの、折木さん」
414: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:08:26.43 ID:ZxovJm850
奉太郎「ん?」
える「あの約束は、守れそうでしょうか?」
奉太郎「前に言っていた奴か」
える「はい、そうです」
奉太郎「そうだな、なんとか大丈夫そうだ」
える「そうですか」
奉太郎「千反田の方はどうなんだ」
える「私、ですか」
える「今の所はですね、大丈夫です」
奉太郎「……そうか」
える「ですが、あまり一緒に居ると約束を破る事になりそうです」
奉太郎「なら、そうだな」
奉太郎「……今日の所は帰ったらどうだ」
415: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:10:09.41 ID:ZxovJm850
素直に言えない自分が、少し嫌になる。
今日の所は、なんてよく言えた物だ。
千反田は、今日帰ったらすぐに神山市を出ると言っていた。
それを見送っても良かったが、多分大勢の人が来るのだろう……詳細は知らないが。
その大勢の中の一人になるのは、あまり気が進まなかった。
える「……そうですね」
千反田も、その言葉を否定する事はしなかったが。
える「それでは、ここが私達のお別れの場所ですね」
千反田は優しく笑い、そう言った。
奉太郎「……俺は、もう少しだけここに居る」
える「分かりました」
える「さようなら、折木さん」
416: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:10:42.70 ID:ZxovJm850
奉太郎「……」
屋上から、千反田が出て行った。
本当に、何とも呆気ない終わり方であった。
俺は不思議と、落ち着いて居たと思う。
何度か頬を風が叩く。
日は傾き始め、後1時間もすれば暗くなっているだろう。
俺達生徒達は、最終下校時刻までは残っていいとの事を伝えられていた。
なので、いつも見る放課後より残っている人数は多かった様に見える。
俺は少しだけ、視線を下に移す。
417: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:11:13.78 ID:ZxovJm850
友達と話している生徒、学校内を歩いて思い出に浸る生徒。
そんな中に一人、見知った姿を見つけた。
……千反田えるだ。
あいつは屋上に居る俺の方を向くことは無く、ゆっくりと校門に向かって歩いていた。
心無しか、いつもより歩く速度は遅いように見える。
丁度半分くらい歩いた時、俺は思わず苦笑いをしてしまう。
知っていたのだ、この光景を俺は。
418: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:11:40.84 ID:ZxovJm850
そう、一年と少し前、あの公園で見た光景だ。
あの時は、まるで桜道を歩いている姿の様に見えた。
そして今。
校門までの道を彩る桜の間を、千反田は歩いていた。
それを見て、俺はゆっくりと口を開く。
奉太郎「ありがとう、千反田」
その声は、恐らく……届いてはいなかった。
第34話
おわり
419: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/26(水) 18:14:02.20 ID:JibtG0I5o
このままでいいのかほうたる
あと一話か?
420: ◆Oe72InN3/k 2012/12/26(水) 18:15:47.12 ID:ZxovJm850
以上で第34話、終わりとなります。
乙ありがとうございました。
>>419
はい、第35話で本編は完結となります。
何個か短編もあるんですが、短編も投下終えられるのは来年になりそうです。
本編の方は今年中には終わらせます。
422: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 01:16:08.77 ID:4DsU7hOAO
乙!
奉太郎・・・
本当にこのままでいいのか・・・?
後一話だと、急展開も無理だよな・・・
つらいな・・・・
423: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/12/27(木) 01:42:21.29 ID:kU/MJXh/0
永遠に会えなくなるような最後は悲しいけどさてどうなることか、
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- 2013/01/15(火) 22:18:49|
- 氷菓
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