534: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:04:29.72 ID:ZXQeME8o0
遅れてスイマセン。
今から最後の短編を投下致します。
引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1352561755/
535: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:05:28.30 ID:ZXQeME8o0
三年生となり、様々な事があった。
里志や伊原の事、入須の事、古典部の事、そして何より千反田の事だ。
他にも学校の行事等もあった。
そして最後の……と言っても、期末テスト等はまだ残っているが。 楽しめるイベントとしては最後の修学旅行も終わった。
……俺が楽しめると思うのも、変わったからだろうか。
人はそんなすぐには変われない、だろう。
それを考えると、三年と言う時間は変わるには十分だったのだろうか?
思えば一年のあの日、千反田と会った時から少しずつ、俺は変わり出していたのかもしれない。
それが良い事なのか、悪い事なのかと聞かれると迷うが。
それでも今の俺にとっては、多分。 良い事かもとは思う。
ああ、またこんな無駄な事を考えている。
536: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:06:27.70 ID:ZXQeME8o0
まあそれも、暇潰しと考えれば良いだろう。
こうして目的地も見えてきた訳だし、全てが無駄と言う訳でも無いか。
奉太郎「にしても」
奉太郎「あいつが風邪とは、珍しい事がある物だ」
そう、目的地を見ながら一人呟く。
修学旅行が終わって、丁度土日の休みに入ろうとした所で伊原から連絡があった。
何でも「ちーちゃんが風邪を引いちゃったみたい」との事だった。
伊原や里志も心配そうにしていたが、俺が一度見舞いに行くと言ったら「よろしく」との返答が来た。
あいつらも薄情と言う訳では無い。 それは断言できる。
何故かと言われると悩むが、今までの付き合いからして……と言った所か。
多分、大勢で押しかけるのは迷惑と思っているのだろう。 そういう気配りが出来るのは良い所だろう。 あいつらの。
537: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:07:17.83 ID:ZXQeME8o0
……面と向かっては絶対言わないが。
ああ、いつまでこうして居るんだ。
何となく、顔を合わせづらいと言うのはある。
修学旅行の時に、あんな事を言われてしまったら……仕方の無い事だろう。
だが、今はそれより元気になって欲しい。
多分、風邪の原因の一端には俺も関係あるだろうし。
あんな寒い中、一時間近く話していたら風邪を引くのも無理は無い。
……くそ、俺はいつまでこうして考えているんだ。 とっとと会って、とっとと帰るべきだろう。
そうだ、そうしよう。 無駄な時間の浪費だけは、せめて避けよう。
無理矢理にも手を動かし、インターホンを押す。
538: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:07:44.33 ID:ZXQeME8o0
体調が悪いのを知っていてこうするのもあれだが、無言で入って行く訳にはさすがに行かない。
……と言うか、事前に電話くらいしておくべきだったか。 家に居ないって事もありえるだろうし。
まあ、今更だが。
そんな俺の想いも杞憂に終わる。
インターホンの奥から、千反田の声が聞こえてきたからだ。
見舞いに来た旨を伝えると、少しだけ焦りながら千反田は「今開けます」と言った。
その声はいつもより弱々しく、やはり来るべきでは無かった等と俺は考えてしまう。
しかし「開ける」と言われた手前、流石に帰る訳には行かなかった。
やがて鍵を開ける音がし、扉が開く。
える「わざわざすいません」
奉太郎「別にいいさ、俺が風邪を引いたときも来てくれてたしな」
ううむ、いつもとはやはり違い、元気が無い。
話すだけ話したら、さっさと帰る事にしよう。
539: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:08:13.32 ID:ZXQeME8o0
える「立ち話もあれですので、どうぞ」
確かに、病人に辛い思いをさせるのは良くない。
俺は千反田の要求を飲む事にした。
したのはいいのだが……場所が悪かった。
通されたのは、千反田の部屋だったからだ。
昔、一度だけ見た事はあるが……しっかりと中に通されたのは初めてだった。
物はきちんと整理され、無駄な物も余り無いように見える。
える「あの、あまり見られると少し恥ずかしいです」
奉太郎「あ、そうだな。 すまん」
いかんいかん、気持ちを切り替えなくては。
千反田は今まで寝ていたのだろうか、敷かれたままの布団に座った。
540: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:08:40.04 ID:ZXQeME8o0
奉太郎「悪いな、具合悪いときに」
える「いえ、構いませんよ」
奉太郎「体調はどうだ?」
える「まだ少し熱はありますが、休み明けまでにはなんとかなりそうです」
奉太郎「そうか」
少しの沈黙。
の後、俺はある事を思い出した。
奉太郎「ああ、と言うか、なんだ」
える「どうかされましたか?」
奉太郎「いや、なんかこう。 手土産でも持ってくるべきだったなと思って」
える「ふふ、大丈夫ですよ」
える「折木さんが来てくれただけで、十分です」
こいつはまた、こう恥ずかしい事を真面目な顔で言うから困る。
……嫌では無いが。
541: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:09:05.64 ID:ZXQeME8o0
奉太郎「あー」
奉太郎「って事で、そろそろ帰る」
奉太郎「長居しても、迷惑だろうしな」
俺は恥ずかしさを紛らわす様に、千反田にそう言った。
返事を待たず、立ち上がり部屋から出ようとする。
一歩踏み出そうとした時、何かに足を取られ転びそうになった。
える「ま、待ってください。 折木さん」
原因は、千反田が俺のズボンの裾を掴んだから?
奉太郎「な、何だ。 と言うかいきなり危ないぞ」
える「あ、ごめんなさい」
しゅんとなる千反田を見て、少しだけ罪悪感に苛まれる。
……いや、俺は何も悪い事はしていないと思う。
542: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:09:36.87 ID:ZXQeME8o0
奉太郎「それで、何かあったか?」
える「あ、いえ。 何かと言う程でも無いんですが」
える「あの、ええっとですね」
える「……折木さんとお話していると、少しだけ楽なのでもう少し居て欲しいんです」
何故か今度は恥ずかしそうに言う。 さっきの「来てくれただけで十分」の時は真面目に言っていたのに。
……よく分からん、本当に。
そのまま手遊びを始めた千反田に、俺は声を掛けた。
奉太郎「まあ、千反田が良いならいいが」
える「本当ですか、ありがとうございます」
本当に気を使っていないだろうか。 と心配してしまう。
だが、本人が良いと言うなら……良い、のか?
ま、考えても仕方ない。 今日くらいは流れに身を任せてみるのもありか。
俺はそう決断し、再び千反田の近くへと座り込んだ。
543: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:10:06.63 ID:ZXQeME8o0
それからは本当に、どうでもいい話をしていたと思う。
お互いに、修学旅行のあの日の話は避けていたが、それでも十分に楽しかった。
奉太郎「あー、そうだ」
える「どうかしましたか?」
奉太郎「何かして欲しい事とか、あるか?」
える「して欲しい事……」
そう呟き、千反田は少しの間だけ考える。
える「あ、それでしたら飲み物が」
用は、何か飲みたいって事か。
奉太郎「分かった、何が良い?」
える「出来れば、お茶でお願いします」
奉太郎「ああ、了解した」
544: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:10:39.87 ID:ZXQeME8o0
千反田は冷蔵庫に入っていると言っていたが、さすがに人の家の冷蔵庫を勝手に開けたく無い。
親は家に居ないと言っていたが、変なタイミングで帰って来られては俺が困ってしまう。
との理由で、俺は外にある自販機へと向かった。
ほんの10分程で、再び千反田の部屋へと戻る。
奉太郎「これで良かったか?」
える「あ、はい。 大丈夫です」
何だ、少し慌てている? とは違うな。 何だろうか。
そんな時、ふとある事に気付いてしまった。
奉太郎「それはそうと、一つ聞いてもいいか?」
える「はい、どうしました?」
奉太郎「俺が前にあげた、ぬいぐるみはどうしたんだ?」
それは本当に、ただ気になって聞いただけだった。
いつも「部屋に大事に置いてある」と言っていたから、ある物だと思っていたが……
それが無いのだ。
思えば、今は洗っているのかもしれないし、別の場所に移したのかもしれない。
える「あ、え、ぬいぐるみ、ですか」
しかし、千反田のうろたえっぷりは、普通では無かった。
奉太郎「ああ、別に問い詰めるつもりは無いさ」
える「い、いえ。 今はちょっと洗っていまして」
545: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:11:09.06 ID:ZXQeME8o0
まるで、今考えた言い訳の様な言い方に、少しだけ俺も困惑する。
俺自身、記憶力はあまり良い方では無いと自分でも思っている。
けど、最初に部屋に入った時は確かに……あった筈の物が無いのだ。
だが、俺の思い違いって線もあるだろう。
……考えれば考える程、訳が分からん。
える「あの、折木さん?」
奉太郎「ん、ああ」
また余計な事を考えていたか。
全く、今日の目的は違うだろうが俺。
546: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:11:34.15 ID:ZXQeME8o0
奉太郎「それはそうと、そろそろ帰っても大丈夫か?」
時計を見れば、既に夕方近くとなっている。
える「そうですね、そろそろ親も帰ってくるので」
おい、それは少し早く言って欲しかったぞ。
病気の娘の所に、よく分からない男が居たら心配するだろうが。
奉太郎「じゃ、俺は帰るとするか」
そう言い、立ち上がる。
える「あの、玄関まで……」
奉太郎「やめてくれ、病人にそこまでして貰えないぞ。 流石に」
える「……そうですか」
だから、何でそこでまた残念そうな顔をするんだ。
547: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:12:21.28 ID:ZXQeME8o0
……駄目だ、今日は何か俺も調子が悪い気がしてきた。
まさか、風邪が移ったって事もあるまいし……
とにかく、帰って風呂にでも入ろう。
奉太郎「それじゃ、月曜日に」
える「ええ、今日はありがとうございました」
そうして、俺は千反田の家から出た。
何だか、今日は本当に変な気分だ。
……こんなの、いくら考えても埒が明かないだろうに。
気になる事は確かにあったが、多分俺の思い違いだろう。
千反田の動揺っぷりはおかしいと言えばおかしいが、風邪のせいもある筈。
何より、俺は一体何を考えているんだ。
千反田を疑う? 何故?
548: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:12:50.47 ID:ZXQeME8o0
そしてある事に気付く。
何だ、これは。
ただ「千反田の部屋にぬいぐるみが無くて」それを「千反田が明らかに動揺していた」だけでは無いか。
本当に、たったそれだけの事じゃないか。
今大事なのは何だ?
……千反田の体調が元に戻る事。 だろうが。
それを考えれば、前に挙げた二つの事なんて本当にどうでもいいじゃないか。
信じている、あいつの事は。
何より俺が一番、好きな人だから。
……何か笑えてきたな。
やはり今日の俺は、少し変だ。
そんな考えを巡らせていると、いつの間にか自分の家が見えてくる。
549: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:13:25.00 ID:ZXQeME8o0
~折木家~
奉太郎「ただいま」
供恵「お、どこ行ってたの?」
閉口一番、姉貴がそんな事を口にする。
奉太郎「別に、友達の所だ」
彼女の所、とは口が裂けても言えない。
何を言われるか分かった物じゃないしな。
供恵「ふうん」
550: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:13:52.25 ID:ZXQeME8o0
そんな言葉を無視し、一度自分の部屋へと向かおうとした時に姉貴がふと声を漏らす。
俺はそれを聞き、やはり今日は妙な一日だったな。 と思う。
姉貴はこう言ったのだ。
「そう言えば、あんたが出て行ったちょっと後に友達来てたわよ」
「ええっと、千反田さんって言ったっけ? 奉太郎さんは居ますか?って」
おわり
551: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:16:08.90 ID:ZXQeME8o0
以上で短編三話、終わりとなります。
そして古典部の日常も、終わりとなります。
スレ自体は一週間ほど残して、HTML化をお願いしようかと思っています。
もし、何か質問等あればお願いします。
552: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:18:20.62 ID:ZXQeME8o0
次のSSですが、本筋は大体完成しています。
タイトルは
奉太郎「遠い記憶」
で行こうかと。
内容は多分ですが、シリアス?なのかな……
少しだけ忙しいのもあり、いつの投下になる等は全くの未定です。すいません。
553: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 15:20:52.73 ID:ZXQeME8o0
長い間お付き合い頂きありがとうございました。
支援してくださったレスも、指摘して頂いたレスも、批判して頂いたレスも全て感謝の気持ちでいっぱいです。
ありがとうございました。
お疲れ様です。
また、近いうち(期間が空くかもしれませんが)に次のSSを投下致します。
それでは、失礼します。
554: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/15(火) 16:19:39.34 ID:B04Jei2i0
乙です。なんかせかしてしまったみたいで、すみませんでした。
最後の短編も良かったです。えるちゃんかわいいです。
僕もリハビリは終わったので、続きを書こうかと。主さんも無理をせずにゆっくりやっていきましょう。
楽しい時間をありがとうございした。
555: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/15(火) 17:00:58.16 ID:tnfprNcj0
最後の短編の伏線?は何でしょうか
私、気になります!
556: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 17:28:57.07 ID:ZXQeME8o0
>>554
いえいえ。投下するだけと言って、かなり時間掛かってしまいましたし……
SS、楽しみにしています!
>>555
伏線、と言うほどの物でもありません。
もしかしたらとしか言えません。ごめんなさい。
明確に「古典部の日常」と関係があるか無いか、と聞かれると無いの方になると思います。
現時点では、気にしない方向でお願いします。
557: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/15(火) 17:36:29.01 ID:LfI0fEp1o
おつ
あらーバトル期待きてたのにww
次も待ってます
558: ◆Oe72InN3/k 2013/01/15(火) 18:06:55.49 ID:ZXQeME8o0
>>557
スイマセンスイマセン。
原作からずれると、やっぱり書き辛いんですよねぇ。
でも書き辛いだけであって、書きたく無いって訳では無いです。
むしろ書きたい気持ちはあるので……
なのでいつかは絶対書くと思います。
いつになるかは分からないですが、楽しみにして頂けたら幸いです。
560: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/15(火) 20:54:04.78 ID:wsY2C99G0
乙
楽しかったよー
561: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/15(火) 21:29:17.80 ID:lScIlX4AO
乙!
ここまでの大作を創った>>1に敬礼!
しかし最後の短編めっちゃ気になるんだがここで止めますかww
ご冗談をww
次回は「奉太郎」検索で良い訳ですね。応援してますよ!
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- 2013/01/19(土) 22:14:57|
- 氷菓
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