1: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:16:43.20 ID:ve2PMm6W0
関連作品
・奉太郎「古典部の日常」・える「古典部の日常」引用元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1358734603/
2: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:17:54.01 ID:ve2PMm6W0
神山高校を卒業してから、随分と時間が経った。
最初の四年は大学で過ごし。
次の六年は仕事をして過ごした。
大雑把すぎるだろ、俺。
まあ、そんな事はどうでもいい。
今は昔と比べ……本当につまらない日々を送っていると思う。
仕事を始めてすぐの頃は、叱られる事もあった。
だが慣れてからは、要領を掴み、上手い事やっていけていると思う。
3: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:18:19.69 ID:ve2PMm6W0
しかし、何だろう。 この満たされない感じは。
あの日、あの時をもう一度やり直せるなら。
そんな考えがふと頭に浮かび、すぐに消す。
んな事、俺だって分かっている。 分かっているのだ。
……高校時代が、一番楽しかったと。
駄目だ、これを考え出すと本当に一日やる気が出ない。
ま、別に毎日やる気があるって訳でも無いし、別にいいか。
4: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:18:46.61 ID:ve2PMm6W0
一日の仕事を終え、帰路に着く。
そんな時、見覚えがある姿が見えた。
奉太郎「ん……おい! 里志か?」
俺が声を掛けると、その影はこちらを振り返り、にんまりと笑う。
里志「おお、久しぶりだなぁ! 懐かしいよ」
奉太郎「こんな所で何を……って、ああ。 お前も帰り道はこっちだったか」
里志「はは、そうだよ」
奉太郎「にしても懐かしいって、つい先週も会った気がするんだが」
事実、先週の休み前に里志とは飲みに行っている。
5: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:19:41.33 ID:ve2PMm6W0
里志「いやいや、だってさ」
里志「何だか、久しぶりの再会! って感じの方が感動しない?」
しない。
奉太郎「またくだらん事を」
里志「はは、それでどうするんだい?」
どうする、と言うのはつまりあれだろう。 飲みに行かないかって事か。
朝からテンションは限りなく低かったし、あまり乗り気では無いが……
まあ、明日は休みだし別にいいか。 気分を変えたいと言うのもあるし。
奉太郎「そうだな、行くか」
俺の声を聞き、里志はいつもの笑顔より更に笑顔になる。
6: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:20:51.49 ID:ve2PMm6W0
奉太郎「お前、いつも笑顔なのはいいがな」
里志「ん、どうしたんだい?」
奉太郎「正直あれだ、あれ」
少しだけ、里志が困惑している様子だ。
奉太郎「気持ち悪い」
里志「え! いきなりそれは酷いなぁ」
奉太郎「考えても見ろ、三十近い男が二人で歩いていて、片方がニヤニヤずっとしていたら気持ち悪いだろ」
里志「うーん、僕はそう見られてもいいんだけど」
おいおい、こいつ本気で言っているのか? 長らく友人をしていたがそんな気があるとは思わなかったぞ。
7: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:21:23.48 ID:ve2PMm6W0
奉太郎「……おい、里志」
里志「ちょ、ちょっと何でマジな顔してるのさ。 冗談だよ」
奉太郎「そ、そうか。 流石に少し焦った」
里志「はは、何より僕には大切な人が居るしねー」
奉太郎「それもそうだったな」
こうして里志と二人で、くだらない話をしながら歩いていると少しだけ懐かしい感じがする。
あの日々はもう、俺には来ない。
絶対に口には出さなかったが、本当に毎日が楽しかった。
里志と、伊原と……
あれ、おかしいな。
後、もう一人。
ああ、そうだ。 千反田だ。
8: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:21:49.56 ID:ve2PMm6W0
……何で、俺は今アイツの事を忘れていたんだ?
もしかすると、何かの病気にでも掛かってしまったか。 アルツハイマーとか。
うう、怖い怖い。
里志「ホータロー、何一人で難しい顔してるのさ」
里志「見ている分には面白いけどさ、もう着いたよ?」
そう言い、里志は目の前にある居酒屋の看板を指差す。
奉太郎「ああ、すまん。 ちょっと考え事をしていた」
俺がそう言うと、里志は目を丸くし、驚いている素振りを見せる。
里志「はは、なんか高校時代に戻った様な気分だよ」
奉太郎「何で、また」
里志「いやいや、だってさ」
里志「あの時のホータローって、いつも何か考えている感じがしてたからさ」
9: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:22:27.09 ID:ve2PMm6W0
里志と別れ、俺は歩きながら家を目指す。
実家にはしばらく帰っていない。 姉貴はたまに帰っているらしいが。
別に今の独り暮らしのアパートが、実家と離れていると言う訳でも無い。
……あまり、あの地には行きたくなかった。
それにしても。
奉太郎「いつも何か考えている、か」
そう、だったかもとは思う。
……いや、今日もか?
今日も多分、考え事をしている時間はかなり長い。
いつもはただ、無為に時間を消費している。
10: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:22:57.44 ID:ve2PMm6W0
朝起きて、会社に行って、夜まで仕事をして、帰って、テレビを見て、寝る。
そのサイクル。
それを何年も、何年も続けてきた。
次第に俺は、それにも慣れた。
今が心底嫌って訳では無い、これでも自分の人生だから。
ほとんどの人が、そう思っているんじゃないだろうか?
何も変わらないサイクル。 それが自分の人生だと。
変わって欲しいとも思わない。 それが自分の人生だから。
自ら変えようとも思わない。 それが自分の人生だから。
しかし、俺には変わってしまう「きっかけ」が訪れた。
本当に唐突に、突然に。
11: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:23:23.58 ID:ve2PMm6W0
視界の隅に、ちらりと見える人影。
あれは……
始めに感じたのは、懐かしい空気だった。
まるで、高校時代に戻った様な。
次に感じたのは、嬉しさだった。
そして、最後に感じたのは--------
奉太郎「……お前、どうして」
12: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:23:51.44 ID:ve2PMm6W0
俺はその人影に声を掛ける。
いつからそこに居たのか、何故今更なのか。 聞きたい事は山ほどある。
しかし俺は、そう声を出すだけで精一杯だった。
そして、そいつはゆっくりと振り返り、口を開く。
える「お久しぶりです。 折木さん」
これが、俺と千反田の……十年振りの出会いだった。
13: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:26:35.77 ID:ve2PMm6W0
千反田は、高校の時と殆ど変わらない容姿だった。
髪型はあの時と同じ、黒髪で肩辺りまで伸びている。
目は大きく、あの時と同じ輝きをしていた。
奉太郎「お、おう」
情けなく返事をする。
それもそうだ。 何せ十年ぶりだぞ?
慌てない訳が無いし、事前に連絡が無かったから衝撃はかなりある。
それでも何とか返事をしたのだ、それで十分だろう。
14: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:27:02.44 ID:ve2PMm6W0
える「お変わり無さそうですね」
いや、おかしいだろう。
もっと他に、何か無いのだろうか。
だが、千反田自身から言ってくるのもおかしい、のか。
ならそうだ、俺が聞いてやればいい。
奉太郎「……ええと」
奉太郎「ううむ、何から聞くべきか」
える「ふふ、やはり昔と一緒ですね」
さっきまで、頭の中では「よし、言ってやろう」とか思っていたが……いざ口を開くとうまく行かない。
15: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:27:30.02 ID:ve2PMm6W0
える「場所を変えましょうか、立ち話もなんですし」
奉太郎「ああ、そうだな。 そうしよう」
結局、ペースは千反田が握る事となってしまった。
そのまま俺は、近くにある寂れた公園へと足を向ける。
千反田は、黙って付いて来ている様子だった。
何か話しかけようか迷っていたら、いつの間にか公園が視界へと入ってくる。
俺は結局、黙って小さなベンチに腰を掛けた。
千反田もそれを見て、隣に腰を掛ける。
16: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:28:08.06 ID:ve2PMm6W0
奉太郎「にしても、本当に懐かしいな」
える「そうですね、高校の時以来ですし」
奉太郎「……だな」
自然と、笑みが零れる。
える「ふふ、折木さんもそうやって笑うんですね」
何て失礼な奴だろうか。 俺でも笑う時は笑うのだ。
奉太郎「と言うか、それよりだ」
俺が話を切ると、千反田は顔に疑問符が出てきそうな顔で俺を見てくる。
える「何でしょう?」
奉太郎「聞きたい事は山ほどあるが、一つずつ聞くか」
自分に言い聞かせる様に、言う。
17: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:28:36.61 ID:ve2PMm6W0
奉太郎「まず、どうしてここに?」
える「ええっと、それは中々難しい質問ですね」
える「……そうですね。 今私には時間が出来て、それで来ていると言った感じですね」
なんとも曖昧な返事である。
奉太郎「ま、いいか」
奉太郎「次に二つ目だが」
える「ちょっと待ってください」
そう言いかけた所で、千反田が声を被せて来た。
あまりそんな事をしない奴だから、思わず俺は押し黙ってしまう。
18: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:29:21.00 ID:ve2PMm6W0
える「順番ですよ、次は私の番なんです」
奉太郎「何だそれは……」
える「今、決めたんです。 良いですか?」
人の話をぶった切って、そのまま喋ればいい物を……最後には確認を取る所が千反田らしいと言うか何と言うか。
奉太郎「駄目って言っても、どうせ聞かないだろお前は」
える「そんな、無理矢理に意見を通す人みたいに言わないでくださいよ」
奉太郎「……違ったか?」
える「違います!」
奉太郎「はは、悪かったよ」
奉太郎「で、質問とは?」
19: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:29:54.16 ID:ve2PMm6W0
こんなくだらない話をこいつとしているだけで、本当に高校時代に戻った気がした。
あの頃に、あの時に。
える「折木さん」
える「昔の事を、思い出したいですか?」
何を言っているんだ、こいつは。
奉太郎「昔の、事?」
える「はい、高校の時の事をです」
奉太郎「高校の……時」
いやいや、おかしいだろ。
思い出すにしても、どうやって?
ただ思い出を振り返ったって限度はあるし、全部が全部思い出せる訳も無い。
それにあれだ、思い出すのは少しだけ……切ない気もする。
何故、と聞かれると困るが……その切なさの原因になる高校の時でさえ、鮮明には覚えていないのだから。
20: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:30:52.65 ID:ve2PMm6W0
だが、俺の口は勝手に動き出す。
奉太郎「思い出せるなら、思い出したい……な」
いつの間にか、そう言っていた。
本能で? 自分の意思で?
今の俺には、分からない。
える「そうですか、分かりました」
いつに無く真面目な顔をし、千反田はそう言う。
いやいや、冗談にも程があるだろう。
と言うか、今日何度目の「いやいや」だろうか。 どうでもいいか。
21: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:31:26.95 ID:ve2PMm6W0
それより、だ。
分かりましたと言われたが、俺は何て返せばいいんだ。
そうですか。 これはちょっと違う。
お願いします。 これも違うな。 何をお願いすると言うのだ。
心を覗かれたら「こいつ何を考えているんだ」と言われてもおかしく無い事を考えてしまう。
そんな事を考えまた、馬鹿な考えだと頭の隅に追いやる。
あれ、そう言えば千反田はどうした。 返事を待っている……のか?
その時、ふと頬に冷たい感触がした。
これは、千反田の手?
22: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:31:56.40 ID:ve2PMm6W0
奉太郎「お、おい。 千反田?」
える「行きましょう。 折木さん」
奉太郎「行くって、何が? どこに?」
える「それでは……」
俺の問いを無視し、千反田は目を閉じる。
瞬間、目の前が光で埋まった。
~1話~
終わり
23: ◆Oe72InN3/k 2013/01/21(月) 11:32:47.35 ID:ve2PMm6W0
以上で1話終わりです。
次回は土曜日か日曜日辺りとなります。
24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/21(月) 12:31:13.47 ID:e7Hdy+hIO
来たか
相変わらず中々いい出だし
26: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/22(火) 19:18:10.43 ID:i2MEl0gD0
乙です。
こうきましたか。奉太郎ならありそうな日常ですね。面白そうです。
ゆっくりお待ちしています。
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